FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 2 部
    15 底曳網
    26 かけまわし
    26-11 かけまわし



     「かけまわし」は、底魚類を漁獲するための日本の伝統的な漁法の一つである。海底のある範囲をワープで囲み、 ワープを引寄せて、それで囲まれる範囲を狭め、その間に棲む魚をワープの間に集め、引揚げる網で漁獲する 漁法である。

     網を曳く漁法に比べて、「かけまわし」は原始的のように見えるが、北洋における母船式底魚漁業の独航船として、 100トン級以西底曳網漁船1組(2隻)では、同じ大きさの「かけまわし船」1隻と同程度の漁獲を揚げること さえできなかった。すなわち、トン数と主機関馬力数が半分の「かけまわし」漁船は、網を曳く以西底曳網漁船を 上回る成果を挙げていた。1隻当たりの漁獲量は、漁船としての総合能力と考えられるので、このことは 「かけまわし」漁船の長所をよく表している。

     網を曳く代わりに、このような方法を用いることによって、限られた力を有効に利用して、曳くよりも 大きな網を動かし、あるいは深い漁場に棲む魚まで漁獲できる。

     網を曳かないことによる他の長所もある。その一つは海底の障害物の近くに集る魚を漁獲できる。底魚の中には、 障害物の近くに集る習性の種類が多く、中でも商品価値が高い魚種にはこの傾向が強い。したがって、 この長所は大きい。次ぎに重要な長所は、同じ地点で反復して漁獲できることである。網を曳く漁法は一過性であり、 曳網中に魚探・ネットレコーダ等によって大きな魚群を発見しても、反転して同じ地点を再び曳くには、時間がかかる。

     甲殻類のような壊れやすい漁獲物や凹凸が烈しい漁獲物は、網を曳いて漁獲すると、壊れるか底泥が入って 商品価値が下がるかなくなるが、この漁法ではそれを避けられる。

     かけまわしは、網を曳かないので、海面漁業ばかりでなく、ファイル「琵琶湖北岸における漁法」に示したように、 淡水漁業でも用いられる。

     その操業法は、ファイル「伊予灘西部における吾智網漁業」と「人力による吾智網」に示したので、ここでは 省略する。

    No.1
    [No.1: ft_image_15_26_11/image001.jpg]

    No.2
    [No.2: ft_image_15_26_11/image003.jpg]

    No.3
    [No.3: ft_image_15_26_11/image005.jpg]

    No.4
    [No.4: ft_image_15_26_11/image007.jpg]

    No.5
    [No.5: ft_image_15_26_11/image009.jpg]

    No.6
    [No.6: ft_image_15_26_11/image011.jpg]

             No.1からNo.6までは、山口県の日本海側を根拠とする「かけまわし」漁船を示す。 

         No.1は、斜め後方から写した典型的な「かけまわし」漁船の全景の写真である。船首は高く、ほぼ船橋と同じ 高さである。これは、冬期の日本海において操業する漁船の特徴である。ワープ巻取り中に船は自動的に風に立つ。 この作業中に船に波が打ちこまないようにするために、船首からワープを巻上げる。その立てローラは突出ている。 (写真では、赤い灯台と重なっているので、分かりにくい。)

       揚網と漁獲物処理は、前甲板で行われる。船尾には、左舷がわにワープを巻込む大きなドラムがある。 右舷がわには、ワープをコイルしながら移動できる挟みローラがある。すなわち、普通は左右のワープは別々の 方法で処理される。船尾外側に見られるのは、最初に投入されるブイである。

     古い船では船尾は丸い(No.4)型があるが、ワープを巻込むドラムを設置する以前に角型になった(No.3)。

     1960年代の中頃までは、「かけまわし」漁船には、機関室の両側にあるワーピングエンド以外には、ワープと 網を扱う特別の装置はなかった。当時の船の様子は、ファイル「棒受網」のNo.31からNo.35に示す。ワープを 打ち終わり、その着底を待った後にワープの巻取りが始まる。ワープで囲まれた範囲にいる魚を、海底で動く ロープによって掃立てるとみなして、この作業は「掃立て」と呼ばれる。掃立て作業が始まると、乗組員は 両方の舷に分かれ、1列ずつに並び、引揚げられてくるワープを人手によってコイルにする。この作業のために、 一般に手繰り船と呼ばれた。(地方によっては、同じような作業をしていた以西底曳網船も、同じく手繰り 船と呼ばれた。)この作業は重労働であり、船の能率は、その回数によって決まる。

     当然のことながら、この作業の機械化が起こる。’70年代のはじめ頃には、ワーピングエンドに挟みドラム が加わる。No.2はこのシステムを示す。この船は船首からワープを巻く。ワープは操舵室の前縁にあるガイド ローラを通り、挟みドラムに巻かれる。これは通常のワーピングエンドの前にある内側ほど直径が小さくなる 2枚の円板で、その間にワープが挟まれる。2枚の円板が挟む力はスプリングによって調整され、力がかかると ワープは軸の近くに食い込み直径は小さくなり、力が緩むと縁の方に移り、巻く速度が速くなる。ワープは、 次ぎにワーピングエンドを通る。これらが一体になったものもある。

     後部の甲板には、No.3とNo.4に示すように、レールに沿って移動できる挟みローラが設けられる。ワーピング エンドからこのローラを通ったワープは、これから下がってくる。乗組員はこれをコイルすればよい。

     乗組員の労働の大半は屈みながらワープをコイルする作業であった。このシステムを導入する以前には、 低い位置からくるワープを持ち上げながらコイルしてたのが、持ち上げなくてよくなり、乗組員の労働は大幅に 軽減された。

     挟みドラムの導入前には、最も熟練した乗組員が、両側のワーピングエンドの近くに立ち、ワープにかかる力 に応じて巻込む速度を調整しながらワープを巻上げていた。この装置の導入によって最も熟練した乗組員を 他の作業にまわせるようになった。

     No.4とNo.14に示すように、ワープの太さは一定でなく、揚がりはじめの部分は細く、網に近づくに従って 太くなる。’80年代には、No.1等に示すように、一方のワープは船尾にある大きなドラムに巻き込まれ、 もう一方のワープは挟みローラから下りてくるのを乗組員の手によってコイルされるようになった。 この方式によって、乗組員の労働はほぼ半減したが、それは人員の削減と操業回数の増加につながった。

     海底で網を曳かないので、No.5に示すように網は細い材料で作られる。これは、網を大きくでき、小さな力で 揚げられることになる。

     次ぎに揚網も機械化され、No.6に示すような小型のネットホーラが船首付近と船尾付近につけられた。

     ヨーロッパの影響を受けたトロール船とその影響を受けた古い型の以西底曳網漁船と一部の沿岸漁船では 網を右舷で扱う。しかし、日本の伝統を残す「かけまわし」では、網を左舷から投入し左舷から揚げる。

    No.7
    [No.7: ft_image_15_26_11/image013.jpg]

    No.8
    [No.8: ft_image_15_26_11/image015.jpg]

     底魚類を漁獲する「かけまわし」漁船は計器類の進歩と無関係でない。その様子を示すために、 No.7とNo.8を挙げる。



       No.7は船橋に入る階段から内側を前に向かって撮影した写真である。計器類の配置は、他業種の漁船と異なり、 2段に並べられている。水中情報と位置情報に関する機器は多いが、通信機器は少ない。回転窓の下には マグネットオートパイロットがある。この船は新しいが、それは操舵スタンドと一体型になっていないので、 増設された可能性が考えられる。

     この機器は目にする機会が少ないので、その拡大をNo.8に示した。

    No.9
    [No.9: ft_image_15_26_11/image019.jpg]

    No.10
    [No.10: ft_image_15_26_11/image023.jpg]

    No.11
    [No.11: ft_image_15_26_11/image025.jpg]

    No.12
    [No.12: ft_image_15_26_11/image027.jpg]

    No.13
    [No.13: ft_image_15_26_11/image029.jpg]

    No.14
    [No.14: ft_image_15_26_11/image017.jpg]

    No.15
    [No.15: ft_image_15_26_11/image021.png]

           No.9からNo.15までは、’80年から’90年頃までに山口県の日本海側で撮影した写真である。先に記した ワープの処理法は、その後変化していない。それぞれの側のワープを別々のドラムに巻込むことは、技術的に 可能であると考えられるが、そのような船は見かけなかった。しかし、No.15に示すように、両側のワープとも 挟みドラムで処理する船もある。

    冬期の日本海は風波が強い。したがって、船を風に立てて、ワープは船首から揚げられる。波の打込みを 防ぐために、船首は高く、ほとんど船橋と同じ高さまで立ち上がっている。これが日本海側の漁船の特徴である。 この特徴は、ここに示した船でも見られる。

    No.16
    [No.16: ft_image_15_26_11/image031.jpg]

    No.17
    [No.17: ft_image_15_26_11/image033.jpg]

    No.18
    [No.18: ft_image_15_26_11/image035.jpg:
    拡大画像から小画像作成]

    No.19
    [No.19: ft_image_15_26_11/image036.jpg:
    拡大画像から作成される小画像]

                No.16からNo.19までは枕崎を根拠とし東シナ海の九州寄りの深みで操業する船の写真である。これらの船は 「かけまわし」漁船の特徴を備える。ここに示すような小型船で、機関室の前にある吾智網ウインチの他に 特別の装置を備えず、200mを越える水深の漁場で操業する。
    (No.16では、全景の船と市場の間に見られる船がこの漁法を行う。)

    No.20
    [No.20: ft_image_15_26_11/image038.jpg: 
    拡大画像から小画像作成]

    No.21
    [No.21: ft_image_15_26_11/image039.jpg]

    No.22
    [No.21: ft_image_15_26_11/image041.jpg]

    No.23
    [No.22: ft_image_15_26_11/image043.jpg]

    No.24
    [No.23: ft_image_15_26_11/image045.jpg]

     No.20からNo.24までは、博多湾における吾智網漁船の写真である。ワーピングエンドしか装備されていなかった 時代には6人乗りであったが、機関室より前に見られる吾智網ウインチの導入後には3人乗りになった。ここの 吾智網には1艘巻きと2艘巻きがあった。吾智網ウインチが1基ついた船が2艘巻き、2基ついた船が1艘巻きの 漁船である。瀬戸内海で操業する吾智網漁船は網を揚げるために、船尾にはブルワークがない。しかし、ここの 漁船は玄海灘において操業するために、船尾にもブルワークがある。No.20に示す船の船首外側にある唐草模様は 瀬戸内海から九州における漁船伝わる伝統である。各種の小型漁船に見られたが、次第に見られなくなった。

     このウインチの導入とタイの養殖業が盛んになったので、成魚を対象としていた漁業が、稚魚や幼魚も対象 とするように変わった。それらを対象とする操業では、数回揚網を繰返し、一旦漁獲を切上げて帰港し、活きた 稚魚をイケスに移した後、続けて出漁するような操業形態に変わった。すなわち、養殖業の進歩が漁業に対して 餌の補給以外にも影響を及ぼした例である。同様の変化のために起こった漁法はモジャコ漁業である。

     この地方のタイ吾智網は、予め多量の土管を投入して、いわゆる漁礁を築いておく。そこに集るタイを漁獲する。 No.20とNo.24の背景は、そのための土管を示す。

     霧の少ない地方で操業する小型船であるが、No.21に示すように、レーダを装備している。これは投入した 土管漁礁や天然礁の位置を正確に推定するためで、この目的では近海で操業する漁船には珍しく、位置測定用の 電子計器を備えている。


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