FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 2 部
    15 底曳網
    26 かけまわし
    26-12 かけまわし(2)



     かけまわし漁法に関する主な写真は、ファイル「かけまわし」に示した。しかし、そのファイルに含めなかった 写真の中には、あった方がこの漁法の理解を助けるのに役立つものがある。それらをNo.1からNo.10までに示す。

     また、ファイル「かけまわし」には、網をネットホーラで揚げる型までを示した。日本全体としては一般的 でないかも知れないが、能登半島地方では網をドラムに巻込む方式がある。これは漁具の取扱いが最も進んだ型 であると考えられる。その例を追加することが、このファイルの主な目的である。No.12以後にそれらを示す。 中にはカラーバランスの崩れた写真が含まれが、それらがある方がこのシステムの船の構造を理解しやすいので含めた。

    No.1
    [No.1: ft_image_15_26_12/image001.jpg]

     山口県の瀬戸内海側において揚網中のかけまわし漁船の写真である。この船は、吾智網ウインチがついて いないので、エビ漕網と間違いやすいが、次の点に注意すれば、かけまわし漁法(吾智網)であることが分かる。

     写真を拡大するとワープには錘か魚を脅すようなものが付いている。この地方のエビ漕網漁船の船尾には、 網を揚げる櫓か網を巻くドラムがあるが、この船にはない。観察をつづけていると吾智網が揚がってきた。

     エビ漕網漁船は普通は一人で操業するが、この船では3人乗っている。この写真では、そのうちの一人は 女性である。

     山口県の瀬戸内海側では、女性が漁船上で働いているのを見かける(女性だけが働く刺網漁船を宇部沖で 見かけた)。この傾向は近年各地方で見られる。

     ワープは機関室の横にあるリールに捲込まれる。リールは小さいので、捲込まれるワープは多くない。 したがって、ワープの一部は甲板上にコイルして置かれる。

     船尾に唐草模様が画かれているのは、この地方を含む瀬戸内海全域における古い木造和船に見られる特徴である。 このような模様が画かれている船は、’80年代当初までは西日本の各地では珍しくなかったが、現在では ほとんど見られなくなった。

     ここにこの写真を加える意味は、瀬戸内海では、掃寄せ作業中のワープは船尾から揚げられ、網も船尾から 揚げられることを示すためである。日本海におけるかけまわし漁法では、掃寄せ中にワープは船首から揚げられ、 網は左舷から揚げられる。

     基本的には同じ漁法を用いても、操作法が地方によって異なると甲板機械の配置が異なる。

    No.2
    [No.2: ft_image_15_26_12/image003.jpg]

    下関の彦島漁協に所属するほとんどの底曳網漁船は、エビ漕網を使う。しかし、彦島の船溜りに泊まっている 船の中には、ワープに黄色の房をつけた漁船がある。

     ある面積をワープで囲み、それを引寄せることによって、ワープで囲まれた中の魚を追集めて漁獲するのが、 かけまわし漁法である。この黄色の房は、ワープの駆集効果を高めるためである。この房は、エビ漕網漁船の 中に混ざっているかけまわし漁船を見つけ出す手掛かりとなる。揚網装置は当然エビ漕漁船と異なるが、 これを見落とすと、装備が劣った船と間違うおそれがある。

    No.3
    [No.3: ft_image_15_26_12/image005.jpg]

     山口県の東部で撮影した吾智網漁船の写真である。吾智網漁船の特徴である吾智網ウインチが機関室の前に 見られる。この程度のウインチは地元で作られたらしい。注意をすると、ワープの太さが、部分によって異なる ことが分かる。網は大きい。作業をする船尾にはテントを張ってある。これは瀬戸内海における漁船の特徴である。

     操舵室の横にハサミドラムがあるので、掃寄せ中のワープは船尾からきて前甲板に積まれることが分かる。 網は船尾から揚げるので、船尾には広い作業場が必要である。しかし、この船の後甲板はあまり広くない。

    No.4
    [No.4: ft_image_15_26_12/image007.jpg]

    枕崎を根拠とし、九州西岸沖の深みで操業する吾智網漁船の写真である。操舵室の周辺における吾智網 ウインチ・ハサミドラム等のワープ処理システムの配置が分かりやすい。最初に投入するブイ、ワープの長さ、 網の大きさが示される。近代化されていないように見誤るおそれがあるが、この船で200m以深で操業できる。 これが「かけまわし」漁法の特徴である。

     ’80年代の後半に撮影した写真であるが、この船は小さく、ワープドラムと網ドラムは装備されていなかった。

    No.5
    [No.5: ft_image_15_26_12/image009.jpg]

    No.6
    [No.6: ft_image_15_26_12/image011.jpg]

     No.5は博多湾において撮影した1艘吾智網漁船の写真である。この吾智網ウインチによって両側のワープを 1隻で同時に揚げられる。博多湾関係では、2艘吾智網漁船の写真しか示せなかったので、追加した。 比較のために2艘吾智網ウインチをNo.6として再録する。

     同じ地域で稼動している漁船でも、1艘吾智網船と2艘吾智網船が混ざっており、漁具の操作法が異なることは 興味深い。

    No.7
    [No.7: ft_image_15_26_12/image013.png]

    かけまわし漁船には、片側のワープは大きなドラムに巻込み、反対側のワープはレールに吊られて前後に動く 動力プーリを経てコイルする方式が多い。これと似た写真は「かけまわし」に示した。しかし、この写真の方が 後甲板における装置の配列が分かりやすいので、追加した。普通、右側のワープをドラムに巻く船が多い。

    No.8
    [No.8: ft_image_15_26_12/image015.jpg]

    ワープを巻上げるために後甲板にあるレールから下がって前後に移動する動力プーリの写真である。これと 似た写真は「かけまわし」にすでに示した。しかし、ワープをドラムに巻取らないシステムの船における 後甲板に様子は、この写真に方が分かりやすいので追加した。

     船尾の後にフックがあるのはワープが着底した後で、ワープを巻込む前にワープを前に引くためである。

     なお、No.7からNo.10までの写真は山口県仙崎において撮影した。すなわち、掃寄せ中のワープは船首から、 網は前甲板の左舷から揚げられる。

     No.7では、船首は画面左、No.8からNo.10では画面右である。

    No.9
    [No.9: ft_image_15_26_12/image017.jpg]

    No.10
    [No.10: ft_image_15_26_12/image019.jpg]

    No.11
    [No.11: ft_image_15_26_12/image021.jpg]

     No.9からNo.11までは、種々の型のハサミドラムの写真である。

     No.9ではワーピングエンドの後にハサミドラムを増設している。ハサミドラムの型が分かりやすい。ワープの かけ方を細いロープで示しているこの写真を追加した。

     当時の船では主機関の修理等のために機関室の上には構造物はなく、通風と明り取りのために開閉式の窓があった。 この部分の天井は、取り外せる。このような船は現在では見られなくなったので、それを示すことを兼ねて、 その写真をここに揚げる。

     No.10では、ハサミドラムはなく、レールに下がって移動できる動力プーリがある。その型を示した。 この大きさの船に油圧装置が取り入れられた初期の頃の写真である。

     No.11に示す船は、左が前である。かけまわし漁船は、操舵室が船のほぼ中央、機関室はその後につづき、 機関室の外側にワーピングエンドとハサミドラムがある。ワープは、これらから後の動力プーリによってあげられる。 ワープドラムのある船では、ワープはハサミドラムからそれに捲込まれる。



     この船(No.21に示す)では、機関室が操舵室の前にあり、機関室の上縁にワーピングエンドとハサミドラムがある。 これらの配置が他の船のそれらと異なるので示した。

     ワープを画面右から積み(揚げ)はじめ左が下になるように積む方法と、このように左から積み右が上になる ように積む方法がある。しかし、ワープのコイルは最初に投入される部分が上になるような位置から積みはじめ 傾けられることに注意しなければならない。これが投入方向を判断する基礎となる。

    No.12
    [No.12: ft_image_15_26_12/image023.jpg]

    No.13
    [No.13: ft_image_15_26_12/image025.jpg]

    No.14
    [No.14: ft_image_15_26_12/image029.png]

    No.15
    [No.15: ft_image_15_26_12/image031.jpg]

    No.16
    [No.16: ft_image_15_26_12/image033.jpg]

    No.17
    [No.17: ft_image_15_26_12/image035.jpg]

    No.18
    [No.18: ft_image_15_26_12/image027.jpg]

    No.19
    [No.19: ft_image_15_26_12/image037.jpg]

    No.20
    [No.20: ft_image_15_26_12/image039.jpg]

    No.21
    [No.21: ft_image_15_26_12/image041.jpg]

    No.22
    [No.22: ft_image_15_26_12/image043.jpg]

    No.23
    [No.23: ft_image_15_26_12/image045.jpg]

    No.24
    [No.24: ft_image_15_26_12/image047.jpg]

     このファイルの目的は、網をドラムに捲込む型のかけまわし漁船の写真を示すことにある。それらの写真は No.12からNo.24に示した。

    瀬戸内海における操業写真では、ワープは船尾から上がり、網は船尾から揚げられることが示される。 すなわち、吾智網ウインチより前には動索はない。

     これらの船では、掃寄せ中、ワープは船首にある立てローラから上がってくる。したがって、最初に投入した ブイに戻ってきたとき、風をどの方向から受けていても、船は風に流され、風を船首から受ける方向を向く。 これらの船が見られた地方では、掃寄せ中には、ワープは船首にある立てローラから上部構造に沿って船尾 にあるワープドラムまで、ほぼ船の全長にわたって両舷側の内側を走る。網は前甲板の左舷から揚げられる。

     この違いを記憶しておくと船型と各装置の一般配置を理解しやすい。

     掃寄せ作業中には乗組員は後甲板において作業をするので、風波から守られる。掃寄せ作業が進むに従って わずかであるが船首が上がるので、前甲板において網を揚げるときにはわずかながら波の打込みは少なくなる。

     No.12に示すように、この船型の船は左舷がわから見ると特徴が分かりやすい。

     船首からワープを揚げるので、日本海型の特徴として、船首は操舵室とほぼ同じ高さまで上がる。左舷から網を 揚げるが、両側をワープが走るので、網を捲込むドラム前は甲板のほぼ中心線上にある。

     網を左舷から揚げるのは、和船の作業傾向が強く残る地方における特徴である。

     網が上がってくる部分の左のブルワークトップには頑丈なローラがある。

     操舵室の前にはコッドエンドを吊上げるデリックがある。

     No.13は船首のやや左から撮影した。網ドラムを装備したほとんどの船では、中心線に沿って、操舵室の窓の 下か上の高さに棒を渡してある。デリックによってコッドエンドを吊上げるとき、この棒によってコッド エンドが振れ回るのを防ぐためでる。

     船首は波がきても乗り切るように朝顔型に開く。

     No.14からNo.16までに示した各船では、網ドラムとワープドラム、ワープを後甲板に送る動力プーリ等の配置が 分かりやすい。ワープは長く、船に近い部分にはワイヤが使われている。すなわち、着底する部分のワープは ロープ、海底と海面の間の部分はワーヤである。

     No.17に示した船では、ワープのワイヤ部がドラムに巻かれ、ロープ部は上部構造と舷側の間に置かれている。 No.14において見られたように、舷側のローラの代わりに、網を舷側から少し上げてドラムに捲込む構造の ものがつけられている。

     ドラムに捲込まれている網は太い材料で作られている。(普通、かけまわし漁法に使われる網は、海底を 曳かないので、その材料は細い。網糸が細いと重量と抵抗が少ないので、その分だけ網を大きくできる。)

     No.18では、網ドラム・ワープドラム・ワープが長いこと・船首の立てローラからドラムまでワープを送る装置 が分かりやすい。左舷のローラは舷側に直接つけられずに、やや上がっている。

     No.19は、ワープドラムがついていない船を、右舷から見た写真である。前甲板に網ドラムを付けているが、 後甲板にはワープドラムがないので作業用のスペースは広い。

     No.20は、網ドラムとワープドラムを装備した船を、左後方から写した写真である。右のワープは全部ドラムに 捲込まれるが、左のワープはワーヤ部だけがドラムに巻き込まれ、ロープ部は上部構造と舷側の間にコイルして 置かれる。積まれたコイルの傾きは、ワープが揚げられた順序を示し、その逆の順に投入されることを示す。

     アンテナが斜めになっているのは、この船が入っている船溜の入口にある橋の下を通るためである。

     No.21も後部から撮影した。各装置の配置が分かりやすい。ワーピングエンドとハサミドラムは高い位置にある。 前甲板に網ドラムがあり、No.11に示したように機関室は操舵室の前にある。

     操舵室の後面にはフックがある。掃寄せの前に、海底に横たわるワープを前方に曳いて左右に引寄せ、 中心線付近に魚を集めるためである。

     No.22は網ドラムを示す。左舷のブルワークトップにあるローラは動かないらしい。

     No.23は網ドラムと網を示す。画面左端にワープを後に送るプーリが見られる。

     網には確実に着底するようにチェーンがつけられている。

     漁獲物は前甲板の下に蓄えられるらしい。

     遠景に写っている船は、いずれも船首は操舵室とほぼ同じ高さまで上がっている。これは日本海で操業する船の 特徴である。

     No.24は左のワープの処理が分かりやすい。普通は、かけまわし漁法に使われる網は、あまり太い材料で 作られない。しかし、この地方では丈夫な材料で作られている。

     以上記したように、網ドラムを装備した船でも、ワープドラムを装備しないものから1基装備するものと 2基装備するものまでがあり、1基装備するものでも左舷ワープ用と右舷ワープ用がある。左舷ブルワーク トップにあるローラの型も船によって異なる。このように限られた地域内でも、構造の詳細は船によって異なる。


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