FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 2 部
    17 トロール
    17 エビトロール
    17-11 メキシコエビトロール



     1968年2月から69年8月まで、Instituto Tecnologico y Estudios Superiores de Monterrey の客員教授として、 MexicoのSonora州Guaymasにある海洋学部に派遣された。この間に撮影した写真を整理したものである。

     1つの国でも、太平洋岸と大西洋岸では漁業は全く異なり、北部の砂漠地帯から南部の熱帯降雨林まで、 気候の変化に富む。北部では魚類はほとんど食べないが、南部では塩乾品まで見られ、魚食の習慣は地方に よって異なる。それとともに、漁業の地域経済に占める役割が異なる。

     この国の漁業の概要を示すには十分な資料がないので、(1) GuaymasにおけるFlorida型エビトロール、 (2) Veracruzにおける定置網および(3) その他の3部に分けて示す。

     第1部のFlorida型のエビトロールは、一時は外地における日本の合弁事業の花形であり、その管理に当たる 卒業生が多かった。しかし、その割りには情報が少なかったので教材として整理したものである。第2部の Veracruzにおける定置網は、定置網そのものを示すよりも、日本と異なる社会制度と考え方の土地における 国際協力の際に起こりうる問題点を記すことを目的とする。第3部は断片的な写真を集めたもので、 系統的な意味はない。

    第1部 Florida型shrimp double rigger

    この漁業は、普通に行われている漁業とすべての点で異なる。(1)持って帰る漁獲はエビに限り、それ以外は 原則として投棄する。(2)漁獲されたエビは、船上または帰港後、国際規格に従って分け、凍結される。 地元の住民による消費は対象とせず、専ら輸出に向けられる。すなわち、地先にエビの資源さえあれば、 地元と無関係に行われる漁業である。(3)船に関する基本的な考え方はすべての点で異なる。これはそれぞれの 部分で詳細に説明する。

    No.1
    [No.1: ft_image_17_17_1/image001.jpg]

    No.2
    [No.2: ft_image_17_17_1/image003.jpg]

    No.3
    [No.3: ft_image_17_17_1/image005.jpg]

    No.4
    [No.4: ft_image_17_17_1/image007.jpg]

    No.5
    [No.5: ft_image_17_17_1/image009.jpg]

    No.6
    [No.6: ft_image_17_17_1/image011.jpg]

    No.7
    [No.7: ft_image_17_17_1/image013.jpg]

     Guaymas港はメキシコ太平洋岸にあるFlorida型のエビトロール船の最大の根拠地である。そこに係船して あった船団の写真である。

     アメリカとの国境から600km南のカリフォルニア湾に面した砂漠の町である。ここにいくつかのエビ冷凍 プラントがある。

     エビトロール船(Florida type shrimp trawlerあるいはFlorida type double riggerと呼ばれる)は、 実質的には冷凍プラントが所有する。

     生物研究所の調査結果によって解禁日と終了日が決まる。解禁が近づくと、船主はまず船長を探す。船長は 月極めで船主から船を借り、賃貸料とエビの買取り価格を決める。乗組員は船長との契約である。それぞれの船 の運営は船長にまかされ、したがって、乗組員は会社との雇用関係にない。

     Guaymasは綿の積出し港であるが、エビトロール以外には、小型の巾着網でイワシを漁獲し、フィシミールに 加工する小さなプラントがあるだけである。また町では魚を食べる習慣はほとんどない。

     エビ冷凍プラントの従業員は期間雇用である。したがって、エビの漁期間は漁況によって町全体の活気が 左右され、漁期外では町全体が沈滞してしまう。すなわち、monocultureの欠点がそのまま現れる。この間、 この船を使える代替漁業はなく、すべて係船される。

     普通、漁船はオーダーメイドで、1隻ずつ細部の構造が異なる。しかし、double riggerでは、船に対する 考え方は全く異なる。すなわち、造船所が何通りかの船を予め作っておき、それを船主が買う。また船長は 漁期ごとに雇われる。したがって、細部の構造に、船主と船長の好みが入込む余地はほとんどない。同様な ことが網についても当てはまる。

    No.8
    [No.8: ft_image_17_17_1/image015.jpg]

     No.8は典型的なFlorida型double riggerの写真である。

     漁期外の係船中にはドックで保守と修理が行われるが、これは船主が行い、船長は後から決まるので、 細部まで保守が行き届いているとみなせない。

     船長は自分の儲けの中から乗組員を雇う。普通は船長・機関長・コック他1名の4名が乗り組む。これでは、 漁獲が多いときには、労働が烈しいが、その方が給料が多くなるので、乗組員は人数を増やすことを好まない。 最も熟練しているのは、当然船長と機関長であり、この両名がは漁獲物の処理や網修理の主力となり、あとの 2名はその補助に過ぎない。

     船体は長さの割りに幅が広い。これは漁場が近いので、船速には重点を置かず、曳網力に重点が置かれて いるためである。

     甲板は1層で、写真に示すように大きく反っている。船室は1層で、著しく前方に偏り、その前端に操舵室がある。 その幅は、左右に辛うじて人が通れる幅を両舷に沿ってあけ、ほぼ船体一杯にとってある。

     操舵室の前後方向は、舵輪の後ろに船長が座り、その後ろは辛うじて人が通れる程度空いている。 (前に向いた4つの窓の後ろの縦の引き戸までが操舵室である。)

     操舵室には、計器として磁気コンパスと乾式記録紙を使う魚探しかない。機関は高速ディゼルで、 その発停は操舵室で機関長が行う。操業中の機関室は無人で、変速・発停は操舵室で船長が自分自身で行う。

     操舵室の後は食堂で、乗組員はそこで休息する。季節によって昼間だけか夜間だけ操業をする。ベッドは 甲板の下の船首付近にある。漁場が岸に近いときは、船を岸近くに泊め、船番だけを残して、出迎えのトラックに 乗って自宅から通勤するので、ベッドを使うことは少ない。

     食堂のすぐ後にマストと、それよりやや長い2本のアウトリガー(=リグ)があり、その各々から1統ずつの 網を曳く。入港中はリグを立てる(No.1―No.7)。したがってマストを含めこれら3本が目立つ。

     アウトリガーを立てたままだと、船の安定が著しく悪いので、離岸次第直ちに水平に倒される。この漁法は アメリカのメキシコ湾岸の油田地帯に起源があり、リグには油井のドリルな廃材が使われた。そのためと、 太くすると重いので、上下と前後あるいは前後方向だけ細い鉄のロッドで補強する。この補強の様子はNo.10から No.18に見られる。

     アウトリガーの先端にはトップローラがついている。これはトラックの車輪を利用することが多い。

     マストの後にトロールウインチがある。普通のトロール船ではウインチは1軸で左右方向であるが、Florida型 では船首尾方向の3軸(下段は2軸で左右の網のワープを捲き込み、上段は1軸でトライネットのワープを捲く)で、 この漁法の特徴の1つである。マスト付近とウインチはNo.7の桟橋につながれた船の中央部が分かり易い。

     操舵室と食堂との境と食堂の後は窓になっていて、操舵室の舵輪の位置からデッキの作業を見通せるように なっている。

     トロールウインチより後方、すなわち船の後の約1/2は作業甲板になり、その後端には小さなダビットがある。 これからトライネットが曳かれる。

     トライネットとは、小さなエビ網で、材質はエビ網と同じであるが、大型のプランクトンネット程度の大きさで、 そのオッターボード(No.9)は学校の机の蓋よりやや大きい。

     この漁法は、砂泥質の海底に分散するエビを対象とする。これは魚探では探知できないので、操業中はこの 小さい網を一定の時間間隔で引き上げ、入ったエビを数えて漁場選択の指針とする。 マストの付け根と船尾中央を支点とする逆V字型のハシゴがある。

     No.8では、中央から右に向かってマスト・逆V字型のハシゴ・左舷がわのアウトリガーが見られる。右舷がわの リグは先端部だけが、操舵室の前端からわずかながらでているのが見られる。



     多数の索具が見られる。動索はワイヤーであるが、支索は細い鉄のロッドを1mか2mに切り、両端を小さな輪 にして繋ぎ合わせたものである。

     なお、第2部では主な作業船として、double riggerを使ったので、構造の詳細は第2部を参照して欲しい。

    No.9
    [No.9: ft_image_17_17_1/image017.jpg]

     トライネットのダビットとオッターボードの写真である。

     漁場に到着すると、デッキに置いてあった網を吊りだす。

    No.10
    [No.10: ft_image_17_17_1/image019.jpg]

    No.11
    [No.11: ft_image_17_17_1/image021.jpg]

     1本のワープが、オッターボードの約10から20m手前で2股に分かれ、それぞれにオッターボードが付く。

     船首は左。右舷がわのオッターボードで、ワープがオッターボードの手前で2股になっていることが分かる。

     オッターボードは木製の平板横長で、スリットがある。otter pendantはオッターボードの上端と下端から付き、 下のotter pendantはチェインである。

     No.12
    [No.12: ft_image_17_17_1/image023.jpg]

    右舷がわの網のオッターボードで、ブラケットとotter pendantの様子が分かる。(船首は左)

    No.13
    [No.13: ft_image_17_17_1/image025.jpg]

    網を吊りだし、オッターボードをトップローラまで引き揚げて、網が正常に開いているがどうかを確かめる。 次にオッターボードを海面で止め、オッターボードの作動を確かめ、ワープを所定の長さまで伸ばし、曳網する。

     曳網中、一定の時間間隔でトライネットを揚げて、網に入ったエビを数える。

    No.14
    [No.14: ft_image_17_17_1/image027.jpg]

    No.15
    [No.15: ft_image_17_17_1/image029.jpg]

    袖網の先端の写真である。ヘッドロープとグランドロープはほとんど目立たない。袖網の先端には筋綱がない。 これがFlorida型のエビ網の特徴である。

     グランドロープの前にチェーンがあり、チクラーチェーンと呼ばれる。砂に潜っているエビにこれが当たると エビは砂から飛び出し、そのすぐ後からくる網に入る。

    No.16
    [No.16: ft_image_17_17_1/image031.jpg]

    No.17
    [No.17: ft_image_17_17_1/image033.jpg]

    No.18
    [No.18: ft_image_17_17_1/image035.jpg]

     網にはサイドトロールの網と同様、ポークラインがある。これに鈎竿を引っ掛けて、袋網を引寄せる。

    No.19
    [No.19: ft_image_17_17_1/image037.jpg]

     マストの先端にある滑車によってコッドエンドを吊り上げ、漁獲物をデッキにあける。

     吊り上げられたコッドエンドの左にトライネット用のダビットが見られる。

     左上にはベレーが写っている。グランドロープは細いことが分かる。左下のタンクは漁獲の中から選別した エビを洗うためである。

    No.20
    [No.20: ft_image_17_17_1/image039.jpg]

     コッドエンドに入った魚を食べるためにサメがコッドエンドを破る。それを防ぐために、コッドエンドには サメよけの房がついている。

     この写真から分かるように、2統の網は2人だけで揚げられる。

    No.21
    [No.21: ft_image_17_17_1/image041.jpg]

     ヘッドロープは目立たない。一番下がグランドロープで、ボビンはほとんど付いていない。2本のチクラー チェーンが目立つ。

    No.22
    [No.22: ft_image_17_17_1/image043.jpg]

    No.23
    [No.23: ft_image_17_17_1/image045.jpg]

    漁獲の中からエビを選別し、残りは捨てられる。それを狙って鳥が集まる。

    No.24
    [No.24: ft_image_17_17_1/image047.jpg]

    漁獲の中からエビだけを取り出して冷凍し、残りは捨てられる。


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