FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


Back to: Top Page | FishTech 目次 | ご覧のページ

注: 各画像の下に記載・リンクされている拡大画像(下三桁が奇数のもの)は 非公開にてアクセスすることはできません。ご覧になりたい方は、トップページに記載のメールアドレスまで ご連絡ください。



    第 5 部
    11 東ヨーロッパ系のトロール船



        これは、第 1 部(旧)東ドイツのトロール船、第2部ソ連のトロール船及び第3部ブルガリアのトロール船の 3部よりなる。

     東ヨーロッパ系諸国のトロール船団は、 以前には北洋でも見られ、世界各地の港でもよく遭遇した。しかし、それらを近くから眺めたり、船内を見学 できる機会はほとんどなかった。

     近年はそれら諸国では社会情勢が烈しく変動し、それが漁業にも反映した。また、これらの諸国を含め世界の 遠洋漁業国は、沿岸諸国の200浬漁業専管水域設定の影響を受ける。これらのために、各国の漁獲量とその世界 における順位は年ごとに大きく変動し把握しにくい。しかし、その目安を示すと次の通りである:1983年には 旧ソ連が世界第2位の1,000万トン、ポーランドが第21位の72.7万トン、旧東ドイツが第31位の30万トンであり、 1990年にはソ連が第2位の1,039万トン、ポーランドが第33位の47万トンであった。そのうちで遠洋トロール船団 による漁獲量が占める割合は国によって異なるが、かなりの部分を占めていることには疑問の余地がない。

     トロール船は各国とも基本構造がよく似た漁具を使うにもかかわらず、国ごとに船型が異なる。そして、 東側諸国のトロール船は西側諸国のそれらとかなり外形が異なることは分かっていても、その詳細に関する 情報―特に細部まで判読できるような写真―が少ない。幸いにも1988年3月にアルゼンティンのPuerto Deseadoに 停泊していた東トイツのトロール船の船内と、1989年3月に同じくアルゼンティンのBuenos Aires港に着岸して いたソ連とブルガリアのトロール船について外から撮影する機会を得られた。船内を見学できず説明を得られ なかった上に、後[NEC-PCuse1]で写真を見て気がついた点が多い。そのために十分な説明を加えられない。 しかし、東側のトロール船に関する情報には特に深い関心が持たれているので、ここに資料としてそれらの 写真を揚げる。


    第 1 部 (旧)東ドイツのトロール船

    No.1
    [No.1: ft_image_5_11/image001.jpg]
    No.1 東ドイツのトロール船の全景

     これはアルゼンティンのPuerto Deseado に着岸していた(当時は)東ドイツの大型トロール船Marscwitza号 の全景である。岸壁には荷役用のクレーンがあり、全型を示すのに適した写真を撮れなかった。また、クレーン より船尾の方では岸壁が狭いので船尾の写真を撮影できなかった。この写真では一部の構造を判読しにくい。

     北洋で見かけたソ連の大型トロール船は、船橋が前方にあり、船尾付近まで舷側が高く、船尾付近にトロール ウインチのある型が多かった。しかし、この船はそれらと全く構造が異なり、船首から約1/3のところに船橋と 居住区があり、その後は作業甲板になっている。

     作業甲板は北欧系のトロール船と同様に両舷側に連なる倉庫が側壁となって、その内側で作業をする人は風波 から保護される。日本の大型トロール船と同様に、2基の鳥居型マストがある。しかし、船橋と袖網巻込み用の ドラムの間にある前方のマストは、この写真では分かりにくい。各部分について逐次説明する。

    No.2
    [No.2: ft_image_5_11/image003.jpg]
    No.2 操船用のコンソル
    (正面から右舷にかけて)

     船橋は十分に余裕を持った広さで、ワープ張力計を含むほとんどの漁労用の計器類は船橋内の右舷寄りに まとめられ、船長(あるいは航海士)の椅子から見え易い角度に傾けて系統的に配置されている。

    No.3
    [No.3: ft_image_5_11/image005.jpg]
    No.3 甲板中央より前方を望む

     これは甲板の中央やや前寄りから前方に向けて撮った写真である。

     グランドロープ(中層トロールではフットロープ)やワープ等の重い金属製の部品が甲板上を走るので、 近年では甲板は、鉄板のまま、またはセメント張り、あるいは操業中に木製の仮設甲板を張るような船が増えた。 しかし、この船では従来から見られるような木甲板である。

     船橋の後面は全面が窓になっており、甲板上を見渡せる。日本のトロール船では船橋の下にウインチ類の 集中コントロールルームがあるが、この船ではそれに相当するものは見られない。従って、それぞれのウインチ類は、 その近くで別々に操作される。鳥居型マストの柱は角型である。

     最も特徴的な構造は、袖網巻込み用のドラムとその周辺である。このドラムは左右1基ずつあり、その大きさは 通路の高さから推測できる。両方のドラムは1つの動力システムで動かされる。このドラムは、日本のトロール船 ではトロールウインチが置かれる位置にある。しかし、トロールウインチは船尾にある。このドラムのそれぞれには、 左右の袖網だけが別々に巻込まれる。それからハッチ1つを挟んだ後方の中心線上に、倉庫を兼ねた高い隔壁がある。 この写真では、甲板前端の中央にある白い構造として写っている。この隔壁の線上から撮影したので、この写真 からはその構造と詳細は分かりにくい。この隔壁の上部は幅が広く、基部は狭い。上は覆いがかかっている。 この隔壁はNo.5からNo.8まででも見られ、それらを総合すると構造が分かる。両舷側に沿った倉庫(側壁)― 特に救命艇を置いてある部分―の庇は幅が広く、上は通路になり、下の作業甲板を風波から保護する。

     次の大きな特徴は、大きな密閉式の救命艇が搭載されていることである。

     その他にも、この写真では袖網巻込み用ドラム外側の甲板上にある頑丈なワイヤ−ロープ巻き込み用のリール・ 角型のフロントウエイト・縦長の曲面オッターボード・甲板上約70cmの高さで側壁の内側に沿った手すり・甲板 から約30cmの高さにある環の列が見られる。それらは逐次説明する。

    No.4
    [No.4: ft_image_5_11/image007.jpg]
    No.4 袖網巻き込み用のドラム

     これは右舷の側壁から袖網巻込み用のドラムを見下ろした写真である。中央に動力系が見られる。同様なものが この写真ではその右上にも見られる。これからも動力系についていくらかの情報を引出せるだろう。

     ドラムは幅が狭く直径が大きい。これは中央にハッチの幅をあけ、この写真では見られないがドラムの外側に フロントウエイトのワイヤーロープを巻込むリールを付ける幅をとらなければならないためである。

       欧米の漁具では各所にブレードが使われているが、この船が使う網の本体に関する限りでは、ブレードが使われて いる形跡は見られなかった。

     2つのドラムの間にある動力系の上に、網で覆われた大きな球形のブイ(オレンジ色)が見られる。この船は 中層トロールを行うので、それに使われる可能性が考えられる。

     袖網巻込み用ドラムの奥の1段上には1対のリールシステムがある。このリールは、前部鳥居型マストの大きな ブロックにかけられたワイヤーロープを巻込んで網を引寄せるためである。日本のトロール船では袖網巻込み用の ドラムの位置にトロールウインチがあり、そのセンタードラムが前部鳥居型マストのブロックからのワイヤー ロープを巻き込む。しかし、この船ではトロールウインチは船尾にあり、袖網巻込み用ドラムにセンタードラムを 付ける代わりに、同じ作業を行うために別のシステムが付けられる。甲板の中央にある隔壁を兼ねた倉庫は、 手前に見られるハッチの後方から始まる。

    No.5
    [No.5: ft_image_5_11/image009.jpg]
    No.5 右側の袖網巻き込み用のドラムとその周辺

     この写真はNo.4の少し後方の甲板上から右側の袖網巻込み用のドラムとその周辺を写した写真である。 ドラム・ハッチ・甲板の中央にある隔壁を兼ねた倉庫(写真では,左端の白い構造)の位置の関係と、側壁の構造 の一端が分かる。袖網巻込み用のドラムの外側やや後方(手前)に、ワイヤーロープを巻き込んだ頑丈な構造の リールが見られる。これからのワイヤーロープは、角型のフロントウエイトに続くので、それを引き込むための 専用のものであることが分かる。

    No.6
    [No.6: ft_image_5_11/image011.jpg]
    No.6 船橋より船尾を望む

     これは船橋後面の窓から船尾に向かって撮った写真である。スタンガントリー付近に関しては、No.10において 説明する。手前の部分に関してはすでに記した。

     前から後に向かって(画面では下から上に向かって)説明する。手前の中央(画面では左端)が、袖網巻込み用 ドラムのすぐ後にある隔壁を兼ねた倉庫である。その上には、中層ロープトロールの網口付近の巨大網目を作る ロープが積上げられている。この倉庫の後方には、船尾方向に枠(写真では白い直線に見える)だけが伸びる。 これはNo.15の右端にも写っている。その左舷寄りに見られるオッターボードはNo.15とNo.16で説明する。 No.3で触れた密閉式救命艇の上から見た型が分かる。煙突の後方の両側にはロープトロール用の資材が積み上げ られている。スタンガントリー付近は日本のトロール船における構造とかなり異なることが伺えるが、その詳細は 後で説明する。

    No.7
    [No.7: ft_image_5_11/image013.jpg]
    No.7 後方の概要

     これは船橋の右舷がわのウイングから船尾に向かって撮った写真である。この写真から得られるほとんどの 情報は、すでに記した。しかし、後部の鳥居型マストの上にあるアンテナは、この写真以外では見られない。 No.8からNo.15までは主に左舷に向かって撮ったものが多い。それらの対象がある位置を知るためにこの写真は 役立つ。甲板の中央にある隔壁を兼ねた倉庫(右下の隅)の大きさは、この写真から分かりやすい。

        手前のデリックの先から左舷に下りる2本のワイヤーロープのうちで外側のものには錘が等間隔に付いている。 これはNo.9とNo.23にも見られる(後者ではよく分かる)。この意味は後に記す。

    No.8
    [No.8: ft_image_5_11/image015.jpg]
    No.8 甲板中央にある隔壁を兼ねた倉庫

     これは袖網巻込み用のドラムの後方の中心線上にある隔壁を兼ねた倉庫の写真である。このような構造は他の 国のトロール船では見られない。その上に中層トロールの網口用のロープが積上げられていることは、すでに記した。 この写真では更にその詳細が分かる。先に記したように、網本体にはブレードは使われていないが、網口には ブレーデッドロープが用いられる。

    No.9
    [No.9: ft_image_5_11/image017.jpg]
    No.9 左舷後部に積まれているロープ

     左側の煙突より後方の写真である。倉庫を兼ねた側壁の内側に沿った通路と庇は、煙突の前で終わる。甲板から 約30cmの高さに等間隔に並ぶ環の列は、側壁の末端まで続く。これは、フットロープやフロントウエイトを仮に 縛っておくために使われる。側壁の後端からスタンランプまでの間だけにinner bulwarks がある。この側壁の 上からinner bulwarks の外側までに網口拡大用のロープを主とした網の資材が積み上げられている。この側壁 の船尾側にワーピングエンドがある。そして、スタンランプ上端やや前方のinner bulwarksの外側に各舷に1基 ずつのトロールウインチがある。トロールウインチのドラムは、幅が異なる2つの部分に仕切られる。内側の部分 には繋船索が巻込まれる。外側の部分にはワープが巻込まれる。トロールウインチが船尾付近にあるために、 ワープはそれよりも前を走らない。従って、甲板付近や側壁の内壁の上端にワープのガイドローラーは必要でなく、 曳網中やワープ巻込み・繰出し中でも、甲板上で作業をしやすい。このようなトロールウインチが船尾付近に設置 されている構造は、最近のアメリカ太平洋岸を根拠とする大型のトロール船にも見られる。後部の鳥居型マストには 甲板から約2mの高さのところに、ワイヤーロープを巻込むリールとその操作台が見られる。後部の鳥居型マスト から多数のワイヤーロープが下がっている。それらのうちの画面右から2本目と3本目にはほぼ等間隔で錘が付け られてある。4本目にはブロックがある。それから多数の分岐が見られる。これらは写真11に示す安全フック用 であり、錘が付いたワイヤーロープは、安全フックに連なるワイヤーロープがたるまないようにするための カウンターウエイトである。

     スタンガントリー付近の構造の説明は、次の写真にゆずる。

    No.10
    [No.10: ft_image_5_11/image019.jpg]
    No.10 船尾付近

     甲板中央付近から船尾に向けて撮った写真である。舷側に連なる側壁の船尾寄りにワーピングエンドの見られる ことは、すでに記した。これには操作者を保護するための簡単な枠が付いている。後部鳥居型マストにワイヤー リールと操作盤が見られることはすでに記したが、その付近の構造はこの写真が最も分かりやすい。高緯度海域 で操業することが基本構造の基礎になっており、そのような海域では着氷の可能性を最小限にすることが大切で あるが、それにもかかわらずこのリールと操作盤の周りには手すりが付いている。

     トロールウインチ周辺の構造もこの写真の方が分かりやすい。ドラムには、直径が3mを越えるツバが付いている。 左舷のドラムのツバは背景から識別しにくいが、右舷のそれは分かりやすい。トロールウインチの前には太い枠 があり、それには縦横に走る太い鉄のロッドの網を張ってある。このように細部において安全対策が行き届いている。 スタンゲートは枠だけの構造になっている。これが鉄板で造られている船や十分に太い金網を張ってある船が多いが、 船尾から打込んだ波の水はけ等との関係があり、その長短は慎重に考えなければならない。

     スタンガントリーは続いている。その上にはオッターボードを吊下げる櫓が見られる。それには白く塗られた 受け板が付けられており、オッターボードの動揺を防ぐ。櫓のすぐ内側には1対の(白い)リールが見られるが、 その役割は聞き漏らした。櫓の下にトップローラーがあり、ガントリーの中央の下にコッドエンド引出し用の ブロックが見られる。

    No.11
    [No.11: ft_image_5_11/image021.jpg]
    No.11 安全フック

     これは安全フックの写真である。各所に安全索が講じられていることが基本理念として伺えることはすでに記した。 その中で最も参考にしなければならないのは、この安全フックだろう。No.10において多数の細いワイヤーロープが 降りているのが見られた。甲板上で作業する人は、べルトにこのフックをかける。これはブロックを通してカウンター ウエイトが付けられているので、人が移動してもこのフックにつながるワイヤーロープはたるまないから邪魔に ならない。作業中に誤って海に転落した際には、素早くこのワイヤーロープを巻いて人を救い揚げる。このフック は写真に見られるように外れにくいが、簡単に着脱できるような構造である。大いに参考にしなければならない。

    No.12
    [No.12: ft_image_5_11/image023.jpg]
    No.12 フロントウエイト

     これはフロントウエイトの写真である。いくつかのブロックに分かれ、各ブロックは更にいくつかの片より 構成される。その片の数を変えることによって、重量とバランスを調整できる。最も参考になるのは、これが 角型のことである。そのために、甲板に置いても転がらない。

    No.13
    [No.13: ft_image_5_11/image025.jpg]
    No.13 フットロープ

    No.14
    [No.14: ft_image_5_11/image027.jpg]
    No.14 フットロープ(2)

     これらは、フットロープの構造と、側壁の内壁の低い位置に一定の間隔で付けられている環の使い方の例を示す。 このようにフットロープ等を引寄せて結んでおくと作業の邪魔にならないし、船がローリングをしても球形の ボビンを連ねたフットロープは甲板上を滑ったり転がったりしない。No.13ではフットロープの構成が分かり にくいので、No.14を付け加えた。



    No.15
    [No.15: ft_image_5_11/image029.jpg]
    No.15 オッターボード

    No.16
    [No.16: ft_image_5_11/image031.jpg]
    No.16 オッターボードのブラケット

     これらはオッターボードの写真である。鉄製の縦型曲面オッターボードを使用する。画面では左側に見える オッターボードの下に当たる部分だけが白く塗ってある。画面右端中央から左に出て下に降りる鉄柱は、 No.3からNo.8までに記した甲板前方中央にある隔壁の船尾に伸びる枠の末端である。

     No.16は先の写真において画面の左側に見られたオッターボードの写真である。ブラケットの構造を示す。 下端が白く塗られていることについて、角の部分に錆が浮いているので塗装中でない。また、魚の行動と関係が あるとは考えられない。左右を識別するため以外は考えられないが、その必要性は疑問である。

    No.17
    [No.17: ft_image_5_11/image033.jpg]
    No.17 魚洗い機

    No.18
    [No.18: ft_image_5_11/image035.jpg]
    No.18 金網製コンベヤー

    No.19
    [No.19: ft_image_5_11/image037.jpg]
    No.19 魚処理機の一例

     これらは、漁獲物処理甲板の写真である。作業はほとんどすべて機械化されている。これらは参考のために 付加えた。また、船尾の船底付近には小型のフィッシミールプラントを備えている。(処理機械は説明を省略 したが、ほぼ見た順に並べてある。)


    第 2 部 (旧)ソ連のトロール船

     Buenos Aires港に繋留されている4隻の大型トロール船を外から観察する機会を得た。 先に東ドイツのトロール船の構造を示したが、ソ連のトロール船はそれとかなり異なることが分かった。なお、 船内を見学することも、乗組員に質問する機会も得られなかったので、ここでは写真を示し、簡単な説明を加える にとどめる。

     外から観察できたのは、4隻であるが、それぞれ詳細は異なる。2隻ずつ繋留してあったので、それらを前の 内側・前の外側・後の内側・後の外側と表現する。

    No.20
    [No.20: ft_image_5_11/image039.jpg]
    No.20 トロール船の前部

     これは全景で、前の内外と後の内の3隻が見られる。前の内側の船は船橋の幅が狭く、居住区らしい構造は 前方に限られる。その前の右舷寄りには、黄色に塗られた細いマストがあり、その上端にアンテナが見られる。 そのアンテナだけのために1本のマストを立てると考えにくいので、このマストの機能は分からない。舷窓は少ない。

    No.21
    [No.21: ft_image_5_11/image041.jpg]
    No.21 船橋の前にあるドラム

     前内側の船の船橋の前にある大型の2軸ウインチの写真である。軸は船首尾方向である。トロール操業において このウインチの使い方は思い当たらない。巻き網で使用されるパースウインチの可能性が最も高い。アメリカの 遠洋巻き網船では、これと似たパースウインチが、居住区の後の甲板にある。2本の軸の方向と位置は、それと よく似ている。

     このような乾舷の高い船で巻き網を行うことは日本の漁船だけを見ていれば考えにくいが、ノルウエーでは このような乾舷の高い船で巻き網を行う。また、そのように考えると、No.22に示す搭載艇は、救命艇と考える よりも、巻き網のスキフと見られる。このことは、次で触れる。

     前外側の船の船橋の上には種々の構造物のあることが分かる。船橋の上に見られる見張りあるいは操舵に当たる 囲いらしいものは、前方と側方だけが透明になっており、操業中にはここで操船する可能性が考えられる。 このような装置は他の船には見られない。船橋の上には短い四角の柱(白塗り)があり、それに大きなブロック が付けられ、ワイヤ−ロープが前方に伸びる。No.20とNo.21ではこの部分が欠けている。この装置の目的は分からない。

    No.22
    [No.22: ft_image_5_11/image043.jpg]
    No.22 搭載艇とその周辺

     色と概型はNo.6とNo.7等に見られた東ドイツのトロール船の救命艇と似ているが、それらとは、細部と ダビットの構造が異なる。キールはスキッドになり、プロペラには被い(コルトノズルの型をしている)が付いて いる点では、アメリカ式の巾着網漁業におけるスキフの特徴を備える。No.21に見られたウインチとこの艇の構造 から考えると、この船は旋網を併用する可能性が考えられる。No.24ではこの船の船尾にオッターボードが見られる。

     外側の船に搭載されている救命艇は、先に示した東ドイツのトロール船が搭載しているものと色と型が同じである。

    No.23
    [No.23: ft_image_5_11/image045.jpg]
    No.23 甲板の中部

     甲板中部の写真である。画面中央を斜めに降りるワイヤーロープには、等間隔に錘を付けてあり、仮に舷側の 環を通して振れまわらないようにしてある。これは、No.11に示した安全フック用のワイヤーロープとカウンター ウエイトである。従って、同じような安全フックがソ連の船でも使用されていることが分かる。多数の甲板機械 が据え付けられていることは分かるが、2隻が並んでおり、背景と区別しにくいので、それらの詳細は説明できない。

    No.24
    [No.24: ft_image_5_11/image047.jpg]
    No.24 船尾の概景

     前に繋留してある2隻を船尾から撮った写真である。内側の船は縦長曲面オッターボードを使い、それは先に 示した東ドイツの船と同じようにスタンガントリーの高い位置に収納されている。船尾の甲板と同じ高さに水平な ローラーが外から見られる。これはオッターボードを滑らせるためである。外側の船では、オッターボードを このような位置に収納する設備はない。また、船尾にはオッターボードが見られない。

    No.25 スタンガントリーと楕円オッターボード

    No.25
    [No.25: ft_image_5_11/image049.jpg]
    No.25 スタンガントリーと楕円オッターボード

     内側の船をスタンガントリーのやや前から撮った写真である。スタンガントリーの櫓には縦長の曲面オッター ボードが見られるが、船尾付近の舷側の近くには横長の楕円オッターボードが見られる。スタンガントリーの 構造は、先に示した東ドイツ船のものとほとんど同じである。No.24と合わせると構造が分かりやすい。

    No.26
    [No.26: ft_image_5_11/image051.jpg]
    No.26 前方より

     後に繋留してあった2隻を前方から撮った写真である。外側の船は前内側の船と同型である。内側の船には 船橋の前に何か設備があるが、その詳細は撮影できなかった。アンテナは独特な構造である。船橋の上の黒い 構造物は次に説明する。

    No.27
    [No.27: ft_image_5_11/image053.jpg]
    No.27 斜め後方より

     船尾付近から前方に向けて撮った写真である。内側の船について、前の白い部分では甲板より上に2層、 その後の灰色の部分では1層の部屋があるように見られる。舷窓の少ないことが高緯度操業を基本としたトロール 船の特徴であり、他の船はそのようになっている。しかし、この船は異なり、船尾の甲板の下にも舷窓が見られる。 角型の煙突は左右に分かれて船橋の上にでていることから、機関室はかなり前の方にあると考えられる。

     煙突の前面には、短い鳥居型マストの上部と似た構造物がある。船は大きいが、鳥居型マストは船尾付近の 1基だけである。オレンジ色の搭載艇は、巻き網のスキフの特徴を備えていないので、この船は巻き網を兼用 しないと考えられる。その船型とダビットは、先に示した東ドイツ船におけるそれらとほとんど同じである。 鳥居型マスト付近に縦長曲面オッターボードが見られる。しかし、船尾には横楕円オッターボードが見られる (No.29)ので、前内側の船と同様に、両方のオッターボードを必要に応じて使い分けていると考えられる。 トロールウインチは、先に示した東ドイツ船と同様で、船尾付近にある。

    No.28
    [No.28: ft_image_5_11/image055.jpg]
    No.28 前方の鳥居型マストを兼ねたと考えられる煙突

     船橋の上にある角型の煙突周辺の構造は、鳥居型マストの機能を果たすと考えられる。煙突の後面には大きな ブロックがある。このような、壁面に大きなブロックを付けて、スタンランプからデッキ上に網を引寄せる構造 は日本の漁船でも見られる。

    No.29
    [No.29: ft_image_5_11/image057.jpg]
    No.29 船尾付近

     船尾付近の詳細を示す。前から順に、縦長曲面オッターボード・鳥居型マスト・トロールウインチ・スタン ガントリー・横長楕円オッターボード・コッドエンド吊りだし用ブロックの支柱が見られる。船尾には甲板と 同じ高さに、外から見えるローラーがある。これはオッターボードを投入するときに、滑らせるためである。 外側の船では縦長曲面オッターボードを高い位置に吊っている。この船は前の内側の船と同型である。

    No.30
    [No.30: ft_image_5_11/image059.jpg]
    No.30 スタンガントリーと予備資材

     やや前方から船尾を撮った写真であるNo.29では鳥居型マストの影になって見分けにくかったが、楕円オッター ボードがあるのがよく分かる。内側から見たので、No.29と合わせると、このオッターボードの構造がよく分かる。

     以上記したように、同じ船団でも船によって細部が異なり、またオッターボード1つを取り上げても、型や 吊り方に変化が多い。


    第 3 部  ブルガリアのトロール船

     同じ突堤の反対側に2隻のブルガリアのトロール船が繋留してあった。それらは、これまでに記した東ドイツ やソ連のトロール船と構造がかなり異なる。

    No.31
    [No.31: ft_image_5_11/image061.jpg]
    No.31 全景

     前方から見た全景である。外側の船は船首に白く塗った部分がないので、船型が多少異なるような印象を受 けるが、全く同型である。船橋より前が長く、ハッチが1つある。煙突は角型で左右にあり、その上端を結ぶ 太い桁が前方の鳥居型マストの代わりをなし、鳥居型マストはスタンランプの上端付近の1基だけである。

    No.32
    [No.32: ft_image_5_11/image063.jpg]
    No.32 前方より

     船首付近の写真である。船橋は他のトロール船におけるほどは長くないが、船の幅一杯にウイングを張出している。

    No.33
    [No.33: ft_image_5_11/image065.jpg]
    No.33 右舷より

     中央部側面の写真である。甲板の2層上の居住区は長く、甲板とその下の層には多数の舷窓が並ぶ。船橋は 甲板上3層目である。その上のマストの構造はよく分かる。2本の煙突とそれを結ぶ桁が普通のトロール船に おける前方の鳥居型マストの機能を果たしていることが分かる。煙突が前方の鳥居型マストの代わりの構造になって いるのは、ソ連のトロール船でも見られた。この船ではそれと全く構造が異なる。

     東欧系の船は全密閉式の救命艇を搭載するが、この船の救命艇は普通の型である。

    No.34
    [No.34: ft_image_5_11/image067.jpg]
    No.34 右舷後方より

     船尾方向から撮った全景に近い写真である。スタンガントリーは左右に分かれており、幅は広い。それぞれの 上に回転アーム式のクレーンが1基ずつあり、オッターボードを扱うために用いられる。スタンランプの幅だけ 切れている。左舷のスタンガントリーにはコッドエンド吊りだし用のブロックを吊るブームがある。 スタンランプの横に横長楕円オッターボードが見られる。

    No.35
    [No.35: ft_image_5_11/image069.jpg]
    No.35 船尾より

     煙突の後部の作業甲板を示す。トロールウインチは煙突のすぐ後(船体のほほ中央)にあり、ドラムの幅は 広く、直径は小さい。画面のほぼ中央を斜めに降りるワイヤーロープは、安全フック用である。

    No.36
    [No.36: ft_image_5_11/image071.jpg]
    No.36 スタンガントリー付近

     船尾の大写しである。この写真から得られる情報はすでにNo.33とNo.34の部分で記した。しかし、それぞれ を写した方向が異なるので、この写真の方が分かりやすい部分があるので、補足として加えた。


Back to: Top Page | FishTech目次 | ご覧のページ