漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 1 部 13 延 縄 13 マグロ延縄操業 これは、1975年から76年にかけて、紀伊勝浦を根拠とするマグロ延縄船に依頼して撮影した写真を整理したもの である。 現在では、マグロ延縄船の投揚縄作業はほとんど完全に機械化されている。しかし、当時、マグロ延縄船は一部で 機械化が試みられていたが、小型のマグロ延縄船では、以前から揚縄作業にラインホーラーを導入したままの状態 であった。 当時に比べると投揚縄とも機械化と省人化が進んだ。しかし、近年では十分な乗組員の確保が困難になり、 更に合理化が望まれている。 省人化を含む合理化を計るに当たり、実際に乗組員がどのような作業をしていたか、そのうちでどうしても 機械化をできない部分は何か等が問題になる。しかし、その基礎とする映像はほとんど残っていない。そのために、 マグロ延縄船における当時の状況を記録に残すことを目的とし、この写真集として整理しなおした。 このCDでは、写真を2通りに分けた。その1つは限られた時間でこの漁業の概要を把握することを目標に 選択した写真で、これはファイル「写真(1)」に集めた。もう1つは、特定の目的で、ある作業の詳細を知る 必要性を考え、ほとんどの映像を収録し、ファイル「写真(2)」とした。したがって、「写真(1)」は「写真(2)」 に含まる。ほとんど同じように見える写真が何組か見られる。しかし、よく見ると細部が異なる。航海が長期 にわたり、毎日12時間以上同じような作業を繰返していると、同じような写真が重なる。 写真に関する説明について、重複を避けるために、「写真(1)」に示した写真は、その番号の後にカッコ に入れ「写真(2)」における番号を示した。 乗組員は漁労作業の他に、船上で漁獲物の処理に当たる。経営の合理化のためには、漁獲量の多少の他に、 この作業の良否が問題になる。したがって、船上における漁獲物の処理に関する写真を加えた。この作業は もっとも自動化をしにくい。
1. 操業写真 No.1―No.5(No.1―No.9) 漁場に到着するまでの間、乗組員は漁具を仕立てる。 漁場に到着するまでの間、乗組員にとって、航海当直以外、特に作業はない。この間に自船で使う漁具を 乗組員が仕立てるかどうかは、時代と船によって異なる。マグロ延縄漁業の景気が良かった時代には、漁具は 漁具会社に発注していた。しかし、経費を節減するために、漁具は往航中に自船で仕立てるように変わってきた。
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No.2
No.3
No.4
No.5
これは原料ロープのコイル(画面左側)から、それを作る作業を示す。 No.2(No.2) これが1鉢の幹縄である。 No.3(No.4) 枝縄 この当時でもカナヤマ(枝縄の先端近くの釣針を付けるワーヤー部分)のループは 軽合金で締め付けるように変わっていた。枝縄の各部分―セキマキ等―は既製の部品を積み込み、それを 組立てていた。 No.4(No.6) 仕立あがった枝縄は船尾から流して余分な縒りを除く。 No.5(No.8) 幹縄の鉢と鉢の境目には浮子縄を付け、その上端にABS樹脂製の浮球を付けて投入される。 (昔はガラス球であった)そのカバーを手編みで作る。 投縄作業 No.6―No.10(No.10―No.21) この作業は船尾で行われる。白い波はスクリューカレントである。 したがって、その方向から針路に対するカメラを向けた方向が分かる。それを注意すると人員配置が分かり易い。
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No.7
No.8
No.9
No.10
揚縄作業 No.11―No.24(No.23―No.55) この作業は右舷操舵室の前で行われる。操舵する人は操舵室の右端で操船する。 現在の船は、可変ピッチプロペラを備えているので、それを使うが、当時はマグロ船には固定ピッチ プロペラしか付いていなかった。揚縄速度は遅い。幹縄に大きな張力をかけないために、縄(浮子の列) に沿って数秒間船を前進させ、停止し、幹縄のたるんだ部分を巻上げる。この動作を繰り返しながら縄を揚げて行く。
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No.12
No.13
No.14
No.15
No.16
No.17
No.18
No.19
No.20
No.21
No.22
No.23
No.24
揚縄開始は正午頃なので、太陽を背から受けて浮子の列(すなわち、縄が伸びている方向)は見えやすい。 No.12(No.24) 元ボンデンを鈎竿で引っ掛け、手で引き寄せる。普通、縄は南から北に向けて揚げる (太陽を左舷から受ける)ので、日中の揚縄の写真では影の方向を見れば時間の経過と船の方向を知る 目安となる。更に波の船に対する相対方向を見れば、作業中の風向が分かる。これらに注意しながら 写真を見ることを薦める。(上の記載は北緯漁場に関するものである。太陽を左舷から受け、右舷から縄を 揚げることは変わりないが、南緯漁場では、縄は北から南に向けてあげことになり、南北回帰線の間では 季節によって異なる。) No.13―No.14(No.34―No.35) 画面中央(白い帽子の人の前)にあるものが、ラインホーラー、 舷側右端にあるのが枝縄巻き取り機 縄にかかっている張力、縄がくる方向(上下・左右)、近くの釣針に魚がかかっているかどうかは、 ラインホーラーのハンドルを握っている人(右上の人)が、揚がってくる幹縄をときどきたたいて調べる。 作業のペース(揚縄中の船位の調節)は、この人から操船者に送るサインによって決まる。これは各チームで 最も経験を積んだ人が当たる。 マグロ延縄の揚縄作業は長時間に及ぶので、所定の鉢数ごとに作業分担が入れ替わる。これがマグロ延縄 独特の作業パターンである。 服装は1人ずつ違うので、それを目安にすると、持ち場の入れ替わりが分かる。 ほぼ直線に伸びる縄(浮子の列)に沿って船を少し進め、幹縄のたるんだ部分をラインホーラーで巻き取って 縄を揚げる。縄が揚がってくる方向と俯角は舷側についた3方向プーリーの方向によって分かる。これも揚縄中の 写真を見るときに注意した方がよい。 縄は当時は1鉢ごとに分かれていたので、ラインホーラーの下の台(または箱)に溜まっている幹縄の量で、 各鉢のどの部分が揚がっているかが分かる。それぞれの乗組員が向いている方向と動きに注意すれば、 何が起ころうとしているかが分かる。 No.15―No.16(No.36―No.37) ラインホーラー・3方向プーリー・枝縄巻き取り機・魚を取り込むための 舷門の位置を示す。かなり時化ているので、舷門にはさし板が1枚入っている No.17(No.38) 3方向プーリーを通っている縄の本数に注意すること 1本だけしか見えないとのきは 幹縄だけ、2本見えるときは幹縄と枝縄、3本見えるときは幹縄、枝縄、浮子縄である。(複数本に見えるときは、 影か縄かを区別し、縄の1本か2本の縄が写っているときは問題が少ないが、浮子縄が十分に長い仕立の 漁具でなければ、3本写ることはない。) 各枝縄の幹縄との連結点がプーリーを通過すると、縄は2本通ることになる。クリップを握って枝縄をはずし、 画面下端中央に見える枝縄巻き取り機で巻く。この写真では2本であり、幹縄と枝縄が揚がっている。 ブルワークトップは縄とすれて傷まないように補強してある。 No.18(No.39) 左にサメが揚がっている。(ヒレは乾かして売り、乗組員の収入になる。)右から2人目は、 枝縄を幹縄に取りつけるクリップを握って、枝縄を外しかけている。 No.19(No.42) マグロを引揚げる。肉の部分を傷めないように、手鈎は鰓孔等に引っ掛ける。 No.20(No.47) 揚縄作業は夜間に及ぶ。これからNo.24までは夜間の揚縄の写真である。 右の人は揚がりつつある幹縄をたたいて、張力を調べている。左の人は枝縄を外しかけている。 3方向プーリーは横を向いており、幹縄は横から上がっている。すなわち、船はしばらく前から停止しており、 まだ前進するまで少し時間がある。(すなわち、行き足はない。)枝縄が揚がってくる方向は斜め後ろから であるので、この枝縄に魚がかかっていることが分かる。左の人はその枝縄の先に注意している。 No.21(No.48) 枝縄の巻取り 枝縄の巻き取りは始まったばかりである。3方向プーリーは前の方を 向いているので、あとしばらくすると船は数十秒間前進する。 No.22(No.49) 枝縄と枝縄の間ごとに幹縄はコイルされている。その間に枝縄巻取り機でコイルした枝縄を挟む。 No.23(No.50) ラインホーラーの後にある短い縄は、使えなくなった縄を切って作ったもので、 モッコと呼ばれ、幹縄と枝縄を1鉢ごとにまとめて縛るためである。 No.24(No.51) 揚縄作業が終わり後片付け 漁獲物処理 漁獲物処理の写真を見るにあたり、甲板の板は前後方向なので、それに着目すると、カメラを向けた方向が分かる。
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No.26
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No.26(No.57) 鰓と内臓を切取り、尾柄末端で血管を切って、血抜きをする。(血液が残っていると、 解凍後の肉に黒い線が残る)。 No.27―No.29(No.58、No.59、No.64) 体表面を十分に洗う。 No.30(No.67) カジキ等大型の魚や一部が傷んだ魚は、3枚におろされる。マグロ船の乗組員はこの 作業に熟練しており、両側の肉はほとんど傷めず、背骨にはほとんど肉を残さない。 左上は揚がった縄を船尾に運ぶコンベヤー その下にある短い縄の束は使えなくなった縄を切って作った もので、放血・冷蔵庫内への移動・荷役等のために、マグロの尾柄にかけて吊るすためである。 No.31(No.69) 尾で吊られた魚の血液は脊椎の下にある静脈の前端の切口に固まるので、その部分を切取り、 尾柄を切り取る。 No.32(No.71) 予冷室で冷却し、冷凍倉に積み重ねる前に、グレーズをかけられる。十部に冷えた魚を 真水が入った水槽に入れると、魚の表面は氷で被われ、魚は保護される。これをグレーズをかけるという。 帰港
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No.34
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No.37
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No.39
(これまでに写真を撮った船では漁獲物は凍結されているので、みかけは紡錘型の白いかたまりに過ぎないが、 この船では漁獲物は氷蔵されているので、魚の色をしており、尾柄はつけたままである) 操舵室の下の口は予冷室の入口 尾柄にかけた縄の輪をデリックのフックにかけて引揚げられる。魚に見られる緑のものはパーチメント ペーパーで、魚を氷蔵するときに魚が氷に直接触れて、氷が溶けた真水によって魚が変色しないよう、 ほとんどの氷蔵船(トロール船や底曳網船を含む)で使われていた。 No.34(No.81) 氷蔵した魚は壊れ易いので、冷凍庫から魚は1尾ずつ手で運び出される。 右手前のカバーがかかっているのは枝縄巻取り機、その上のカバーはラインホーラー この船ではライン ホーラーによって揚げられた幹縄はスローコンベヤー(ラインホーラーの前にある白い台)で運ばれる。 古い型のマグロ延縄船では、操舵室と船首楼甲板の間の舷側には低いブルワークしかなかった。この船は その後に建造された船で、右舷側のブルワークは低いままであるが、左舷側のブルワークは操舵室の高さで 船首楼まで続いている。(その後、このような改造がなされたが、そのような船では、その跡が分かる。) No.35―No.39(No.84―No.91) 勝浦の魚市場 市場に揚げられた魚は、そこで汚れやパーチメントペーパーの残り等を丹念に洗い落し、競りの準備をされる。 2.写真(2)に関する追加説明 「写真(1)」に示した写真には、専門家外を対象としたレベルの説明を加えた。「写真(2)」にはそれらの 写真が含まれる。それらに関する説明は、重複を避けるために、先の説明の番号のあとにカッコをつけて 「写真(2)」の番号を付記して代用した。ここでは、それら以外について記す。
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No.21 No.22 画像なし
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No.5 枝縄 釣針は自由に動くようにアイを通してカナヤマ(枝縄の釣針に近いワイヤーでできた部分)の 末端につけられる。カナヤマの末端部は小さなループにして軽合金で締めて止められる。 No.12、No.15 枝縄を幹縄に止めるクリップが見られる。 No.25―No.33 昼間における揚縄作用の写真を撮る場合、太陽は真上近くにあり、船の方向と被写体の方向の 関係で、海面の反射をさけられない。これらはそのために「写真(1)」から削除したが、揚縄中の人員配置や 作業分担の移動を知るために付け加えた。 No.40―No.41 揚縄中は船速が遅いので、舷門で手鈎をかけそこなって落とした魚でも後部で鈎竿によって 拾揚げられることがある。 No.44―No.45 釣針にかかって揚がってくる魚を、水面直下でイルカやシャチが食べてしまうことがある。 また、イルカやシャチが多い海域では魚はあまりかからない。この現象を「イルカ回し」あるいは 「シャチ回し」という。 No.52―No.53 大きなマグロでも1人で引揚げる。 No.55 サメに食われて残った頭が写っている。 No.74 グレーズをかけた魚を魚倉に入れる。グレーズをかけた魚の体表面は白っぽくなっており、 尾柄は切落とされている。
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