漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 1 部 14 刺 網 11 刺 網 11−12 整 理 底魚(磯魚)の中には、岩礁地帯に棲む種類が多い。当然そこでは底曳網は使えないので、網漁業を行う とすれば、底刺網が主な漁法となる。 底刺網の中には、市街地周辺では、兼業漁師や引退した漁師が使う小規模なものがある。しかし、都市から 離れた漁村では、漁協員のほとんど全員が専業として行うものもある。特に、大きな半島には大規模の 底刺網漁業が見られる。このように底刺網は変化に富むが、それにしても、この漁法は海上の労働に比べて、 それを上回る陸上か漁港内における労働が必要である。 揚げられた網には、岩礁地帯の藻類や無脊椎動物がからみ、使った網はそれらを除かなければ次の操業に 使えない。岩礁にかかったり、漁獲物をはずすために網は破れる。イセエビやカニのように突起が多い動物や 高級な磯魚は網糸を切って網からはずされる。部分的に破れた網は次の投網までに補修しなければならない。 また、揚網中に簡単にはずせる漁獲物は揚網中にはずされるが、網を漁獲物がかかったまま港まで持って帰り、 港内ではずす習慣がある地方もある。これらの作業は、機械化できないので、多くの人手がかかる。 兼業的な場合は、その作業を本人自身が行うが、専業の場合は、その作業は家族ぐるみで行う。その作業の パターンは地方によって異なるので、ここでは2つの地方における例を示す。
No.2 No.3 No.4 No.5
これらの写真は晩春に撮影した。 網を整理する場所は広く、この漁協の船だけでも多量の網が使われることが分かる。フォールダ「網」に 示す網に比べると網丈は高い。沿岸漁船における普通の投網法では、甲板の右舷がわに立って、左手に網を持ち、 下の岩礁の様子を見ながら、航走に従って右手で網を繰出す。底刺網は、海底の礁の間に投入されるので、 岩礁地帯ではこのような投網法が取られる。海底の起伏が乏しい漁場では直進する船から投入される。 しかし、この地方ではそれは考えられない。写っている漁船には特殊な投網装置は見られない。 網丈の高い三重網であるが、これらの写真に写っている船のネットホーラは小さく、ドラムの上を網が通る 普通の型である。 主婦と老人がこの作業に当たっていることが分かる。広げた網を点検しながらずらせている。 小修理をしている。かかっているものや修理のために切り取った糸屑を入れるカンも見られる。
No.7 No.8
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底刺網、特に三重刺網は、一旦整理しても網自身や触れたものとからみやすく、移動させるときに注意 しなければならない。そのために、いろいろの方法が使われる。陸上と船上で網を運ぶための手製のモッコ の例を示す。
No.10 No.11 No.12 No.13 No.14 No.15
No.9からNo.11まででは、ネットホーラの大きさと断面の型が分かる。ネットホーラから揚がってきた網は、 漁獲物が刺さったままで、網が揚がるに従って船首尾方向に積まれる。港では岸壁に立てた簡単なスタンド の上を越して揚げられる。この作業は人力で行われる。漁獲物はここで外される。これまでの作業は夜間 でも行われるが、その網を整理し、次の投網に備える作業は、出漁前に行われる。 No.12からNo.15までは隣接する漁協で撮影した。No.12とNo.13に示す船では、この地方における底刺網 漁船に珍しく、ネットホーラは左舷船首に付いている。 漁獲物を外した後で、機関室の前に積まれた網は、機関室の上にある油圧プーリによって船尾に送られ、 横に渡された竹の上で広げられ、船尾に広げて積まれ、投網の準備をされる。網積み場の大きさから多量の 網が使われると考えられる。 この作業は家族が助ける。 No.14に示した船における作業の概要は、先の船におけると同じである。 ネットホーラは他の底刺網船と同様に右舷船首にある。その他に、無動力プーリがおかれ、網を後方に 送って次の投網の準備をするために使われる油圧プーリが、操舵室の後の上端にある。これは揚網中には 使われず、港内で網を整理するためだけに使われる。 No.15に示す船では、網を船尾に送るシステムが先に示した2隻の船におけるそれらと異なる。 漁獲物をはずされた網は機関室の前に積まれる。機関室の前縁に沿った塩ビパイプの上を越して、樋を通り、 その後端にある油圧プーリで後に引かれ、横に渡した竹を越して、船尾に積まれ、投網に備えられる。 この作業は家族の補助で行われる。 このように、網を整理するためのシステムが追加された。これが底刺網漁船に見られる近年に起こった変化である。
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