FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第1部
    14 刺 網
    12 刺 網(2)




     不知火海において帆打瀬網を行う漁協の同じ船溜りで、刺網が見られた。この刺網は、ネットホーラの型・網を 懸ける棚とそれに網をかける方向、あるいはされにどちらの舷で作業をするか等まで考えると、 いくつかの点において特徴的である。伝統的と考えられる帆打瀬網漁船が残っているこの漁協において 使われる刺網は、近代化しているが、その操作の中には和船時代の伝統が残っていると考えなければ 説明できない。この網と船に関する写真をこのフォールダに示す。

    No.1
    [No.1: ft_image_14_12/image001.jpg]

    No.2
    [No.2: ft_image_14_12/image003.jpg]

    No.3
    [No.3: ft_image_14_12/image005.jpg]

     No.1からNo.3までの写真を見ると、先に記した点において特徴的であることが分かる。

     フォールダ「刺網」において、各地で見られるネットホーラの写真を示した。そのほとんどの場合、 網は漁獲物が刺さったままネットホーラのドラムの上を通過する。すなわち、漁獲物は網糸で傷つけられる 可能性を含む。しかし、ここで見られた網は浮子方をボールホーラで揚げられる。網はそれから下がったままで、 ドラムの上を通らない。底近くにすむ魚類や甲殻類は沈子方に多くかかるとすれば、漁獲物を傷めずに 網を揚げられる。この型のネットホーラを使うことが、ここの刺網における特徴の1つである。

     揚げられた網はハシゴを半分に切ったような棚に懸けられる。網を懸ける棒の数は、使用した網の反数 に応じて調節できるらしい。

     網を棚にかけて帰港し、時間と労力をかけて網から漁獲物をはずす方式は、各地で見られた。 ことにエビのような壊れ易く、壊れると商品価値が下がる生物を主な対象とする場合に多く見られる。

     次の特徴は、底刺網であるにもかかわらず、左舷から投入し揚げられる可能性である。これは特筆するに価する。  No.1・No.2・No.4に見られる位置でネットホーラを使うとすれば、次のようになる:前甲板右舷がわから 揚がってきた網を棚に懸けるためには、棚をかわして左から懸けなければならない。このまま投網するとすれば 左舷から投網しなければならない。刺網は一般に右舷から投げられることが多く、右旋りのスクリューがある 船ではその方が合理的である。しかし、ここの船ではこれら2点において不便な作業パターンを 取らなければならない方向に棚が向いている。

     ネットホーラは逆L字型の支柱から下がっているので、揚網中には回転させて左舷がわで使用すること



    が考えられる。日本では、流網は左舷から揚げられるが、底刺網は一般に右舷から揚げられ、右舷から投入される。 ネットホーラをこの方向で使うとすれば、棚の方向は説明できる。写真に写っているどの船でも左舷に 沿って孟宗竹が付けられている─網が船体に食込まないようにするめ、竹を沿わせる習慣は日本では 普通に見られる─ので、左舷で網を扱う可能性は支持される。

     左舷において網を扱うという和船における作業パターンが相当強く残っていると考えれば説明できなくはない。

     これらのことを考えると、ネットホーラは左舷から網を揚げるように回転させて使うと考える方が 合理的である。この扱い方が他と異なる特徴の1つである。


    No.4
    [No.4: ft_image_14_12/image007.jpg]

     これらの写真に示すように、網は棚に懸けられる。往復航のときの見通しを考えると、操舵室の前に棚を 設けると、高さは限られる。網はそれにかけられるので、網丈はおのずと限られる。あるいは網丈が低いので このような懸け方ができる。どちらが原因でどちらが結果かは判別できない。

     この写真では棚に懸けられている反数は少なく、ネットホーラは写っていない。

     耐水懐中電灯をつけたブイが見られるので、この網は夜間に設置されたままになることが分かる。

    No.5
    [No.5: ft_image_14_12/image009.jpg]

     この船のネットホーラはこれまでに示したものと異なる。

    No.6
    [No.6: ft_image_14_12/image011.jpg]

     使用している網の反数は少ないが、マルチフィラメントの網とモノフィラメントの網を使用している可能性がある。

     先の写真にも見られたように、他の地方で見られた底刺網に比べて沈子は多い。このように、 沈子の多いことは、この刺網に見られるもう1つの特徴である。

     浮子縄をループにして棚に懸ける。浮子の間隔と大きさは、そのループの大きさによって左右される。 一般に、間隔は広く、1つずつは小さい。

     浮子縄をループにすることは、棚にかけなくても、運んだり、左手に持って投網するときにも見られ、 底刺網では広く見られる。

     陸上には網を揚げて漁獲物をはずし、網を修理するような、網をかける設備が見られなかったので、 これらの作業は帰港後に船上でされるのだろう。


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