FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 2 部
    15 底曳網
    14 大阪湾南部における底曳網漁船




     大阪湾の南部には、紀淡海峡内側の底魚類を対象とした底曳網漁業がある。その根拠地は、埋め立てが進んだ 工業地帯の南のはずれで、住宅集団に隣接する。そこで、昔には帆打瀬網に使っていたと考えられるような和船を 改造した船を用いて、底曳網漁業が行われている。

     底曳網漁業―特に手繰第二種漁業(エビ漕網)―は各大都市で最後まで残っている漁業であり、その漁船はあまり 古くなく、漁具の操作は動力化されている。この傾向があるので、ここで底曳網が行われていることは納得できる。

     大阪湾東岸南部の漁船と瀬戸内海―特に広島県―の漁船が、同じような和船の基本型を残し、さらに八代海でも 見られたことも興味深い。大阪湾東岸南部の漁師が瀬戸内海を通って下関から五島列島までつながり、 その途中で定住したことは、語り継がれている。これらのことを合わせて考えると、ここで使かわれている 船の型は理解できる。

     ここに底曳網漁業があり、ここの漁船と瀬戸内海の漁船に関連のあることは分かっても、現在でもなお古い型の 船を使い、あまり省力化が進んでいない漁法が工業地帯のはずれに残っていることは、特に興味を引かれる。 そのために、その漁船について記す。これは1980年代の中頃に撮影した写真を整理したものである。

     よく似た型の船を使っているが、桁網・ビームを使って網口を広げた網を曳く漁法・板曳きの3漁法が 使われている。ここの漁港では、レジャーボートは見かけても、他の漁法を扱う漁船はほとんど見かけない。

    No.1
    [No.1: ft_image_15_14/image001.jpg]

     ここで桁網漁業に使われる代表的な型の船である。肩幅が広く、乾舷は狭い。船首材が立ち上がり、 甲板はあまり反っていない。ブルワークは低く、船尾は直線で、その中央には大きな舵板と長い舵柄よりなる 和船式の舵が引き揚げられている。機関室は機関を被うだけの大きさである。

     機関室の左右には2か統ずつの桁の曳索を捲くリールが見られる。普通は、このようなリールの軸は水平で 左右方向の方式であるが、ここでは軸は垂直で2か統の網の曳索を垂直に分けて捲くようになっている。

     機関室の後には頑丈な丸太で作ったマストがあり、桁網を曳くブーム(入港中は垂直に立てる)も丸太である。

     遠景には、ここを根拠とする同じような船が多数写っている。

    No.2
    [No.2: ft_image_15_14/image003.jpg]

     桁網漁船後部の写真である。作業をする部分にテントを張るのも瀬戸内海における漁船に広く見られる 習慣である。しかし、この習慣はここでは一部の船にしか残っていない。この習慣と漁法との関係は見られない。 片舷2か統ずつの桁を使う。普通は桁の両端の錘は花崗岩で作られるが、それと同じ型と大きさで同じ重さに 調整した鉄製の錘に変わっていた。

     動力化以後、漁船に舵輪が普及する前は、この写真に示すような船尾の構造が漁船では普通であった。

     ちょうど水線の位置に後から付けたと考えられる細い張出が見られる。この船は肩幅が広いので、 ローリングキラーを付ける必要性は考えられない。したがって、これはスクリューが空気を吸い込むのを妨げ、 速力と曳網力を増加させるためと考えられる。

    No.3
    [No.3: ft_image_15_14/image005.jpg]

     漁具を示す。桁は普通の構造と大きさである。袋網の部分は、ロープを組んだ網や古網で特に補強されていない。

     船体は古いが、甲板等はFRPで補強されている。

     丸太を使っていることと独特のリールの構造が分かる。

    No.4
    [No.4: ft_image_15_14/image007.jpg]

     船首材が立ち上がっている。

     上に網の袋を付けた普通に見られるプラスティックの箱を活け間に入れておき、曳網中に漁獲物を選別して、 それに入れる。入港後、競りが始まるまでの間は、競り場の近くの活魚槽で活かされる。

    No.6
    [No.5: ft_image_15_14/image009.jpg]

    桁網を示す。この写真では、桁の上下が反対になっている。2つの桁は網口を向き合わせて置いてある。 この網では、桁の両端の錘は鉄柱になっている。袋網の構造とその取り付け方が分かる。すなわち、 桁にゆとりを持たせたチェーンを付け、それに袋網が細いロープで付けられる。

    No.7
    [No.6: ft_image_15_14/image011.jpg]

     ビームで口を広げた網を曳く漁船の写真である。船首材の立ち上がりはなくなったが、肩幅は広く、 甲板上の設備は少ないという基本型は残っている。しかし、細部はかなり異なる。機関室の前に操舵用の囲いがあり、 この周辺は普通に見られる漁船の型になった。

     甲板はFRPで補強してある。No.1に示した船では、マストやブームは丸太で作ってあったが金属パイプに変わった。 漁法が異なるので丸太製の張出ブームがなくなり、左舷船首付近にキャプスタンのスタンド(左の船では草色、 中央の船では赤く塗ってある)と船尾付近に舵輪スタンドが見られる。

     網口をFRP製のビームで広げた網を、片舷2か統ずつ曳く。すなわち、幅約1mの桁2か統が、長さ3m以上の ビームに代わる。

     遠景の中央は漁協の競り場である。中小の工場が並ぶ工業地帯にこの漁協があることが分かる。

    No.8
    [No.7: ft_image_15_14/image013.jpg]

     No.7と同じくビームで網口を広げた網を曳く漁船であるが、No.7と詳細はかなり異なる。操舵囲い・ キャプスタン・舵輪はない。曳く網は片舷1か統ずつに減ったがビームはほぼ2倍の長さになった。曳索は 機関室の後にあるドラムに捲き込まれる。このドラムは他の地方の底曳網漁船に見られるように、軸は水平 左右方向である。



     張出ブームはなくなったが、マストは丸太を使ったままである。

    No.9
    [No.8: ft_image_15_14/image015.jpg]

    No.10
    [No.9: ft_image_15_14/image017.jpg]

     板曳き漁法を行う漁船である。No.10に示すように船首材が立ち上がっている。船尾の色が変わった部分を 継ぎ足し、さらに船尾を張り出している。

     操舵室はない。

     直径約1mのドラムを備える。しかし網は後部の甲板上に積まれており、それを扱うシステムは見られないので、 操作法は分からない。

     これらの写真に写っている人物を見ると、都市型の漁協であるにもかかわらず、特に老人だけが残されて 漁業を行っているとみなせない。

     No.9の背景は、No.7の背景と反対側であり、この漁港が公営集合住宅に隣接していることが分かる。

    No.11
    [No.10: ft_image_15_14/image019.jpg]

     これは他の板曳き漁船の船尾の写真である。木製平板オッターボードを使い、倒れないようにその上端には 浮子をつける。そのチェーンのシステムは、オッターボードのブラケットに近い。

     No.9とNo.10の写真では分からなかったが、この写真では板曳漁船でも、昔からある舵板と舵棒によりなる 大きな舵を使っていることが分かる。

     以下は、船団全体の様相を示すために、この漁港で撮影した残りの写真を示した。

    No.12
    [No.11: ft_image_15_14/image021.jpg]

    No.13
    [No.12: ft_image_15_14/image023.jpg]

    No.14
    [No.13: ft_image_15_14/image025.jpg]

     入港してくる桁網漁船である。船首材は立ち上がり、先に記したように和船を基本としたここの漁船の特徴を 備える。No.12とNo.13の船はいずれも2人乗りである。都市内にある漁協はもちろん、都市から離れた漁村でも 1人乗りの傾向が強い中で、完全に都市内にあるここの漁船が、2人乗りである理由は考えにくい。

    No.15
    [No.14: ft_image_15_14/image027.jpg]

     板曳き漁船である。ここを根拠とする板曳漁船の中ではかなり近代化が進み、ほかの漁協の船に近い。 しかし、右遠景に写っている3隻は伝統的な色彩が強い。

    No.16
    [No.15: ft_image_15_14/image029.jpg]

     桁網漁船で2人乗りである。伝統的な面影は薄い。

    No.17
    [No.16: ft_image_15_14/image031.jpg]

    No.18
    [No.17: ft_image_15_14/image033.jpg]

    No.19
    [No.18: ft_image_15_14/image035.jpg]

     ビームで広げた網曳く漁船である。No.16に写っている船では船首材が立ち上がっていない。操舵室がなく、 丸太のマストを備え、その他の点では船尾の構造を含め、伝統的である。 
    No.20
    [No.19: ft_image_15_14/image037.jpg]

    No.21
    [No.20: ft_image_15_14/image039.jpg]

    No.22
    [No.21: ft_image_15_14/image041.jpg]

     伝統的な基本構造の桁網漁船である。

    使用する漁法が異なっても、伝統的な和船の構造を基本とする船団が、工場群の中に残っていることは興味深い。


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