FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 2 部
    15 底曳網
    16 日生(岡山県)における底曳網漁船




     日生は岡山県の東端にあり、桝網の発祥の地として知られている。この漁法は瀬戸内海の各地で行われている。 しかし、それを行っている漁家は、3代から4代遡るとここの出身である。

     ここでは、桝網ばかりでなく、サワラの流し網や各種の底曳網漁業が行われている。それぞれの漁業は他で扱い、 ここでは底曳漁業を示す。

     ここは、明石の西約60km、尾道から東約100kmしか離れていないが、ここの底曳漁業は、それらと共通点が乏しい。

     1978年・85年・95年の3回、海外の研修生を連れてここを見学した。No.1からNo.18までは、1978年に撮影し、 No.19からNo.29までは85年、No.30とNo.31は95年に撮影した写真である。これらから分かるように、 78年から85年の間に、基幹である桁網漁業(手繰第3種漁業)には大きな変化が起こった。しかし、 その後はほとんど変わらなかった。この変化の前後の比較をここに示す。

    No.1
    [No.1: ft_image_15_16/image001.jpg]

    No.2
    [No.2: ft_image_15_16/image003.jpg]

    No.3
    [No.3: ft_image_15_16/image005.jpg]

    No.4
    [No.4: ft_image_15_16/image007.jpg]

    No.5
    [No.5: ft_image_15_16/image009.jpg]

    No.6
    [No.6: ft_image_15_16/image011.jpg]

     これらの写真に見られるように、ここの底曳漁船の大部分は桁網を用いるが、No.2(手前から3隻目の白い やや小型の船)とNo.3に見られるように手繰第2種漁業(エビ漕ぎ)とNo.4に見られる大型船の左から2隻目と 右から2隻目のように板曳網が混ざっている。しかし、板曳漁船は桁網漁船と概型がほとんど変わらない。 また、エビ漕ぎ網漁船も、船尾で網を扱い、甲板上の装備も似ているので、他の地方で見られる同業種よりは、 ここの桁網と似た方法で網を扱う。

     日本各地では、当時でもFRP漁船は普及していたが、ここではほとんどは木造船であった。

     乾舷は低く、甲板はあまり反っていない。甲板が船体よりも左右の外側に張り出し、肩幅の広いことが 瀬戸内海における漁船の特徴であるが、その傾向は見られない。

     機関室の両側にリールがあり、それに曳索を捲きこむ。船尾に木製のマストがあり、入港中の船では それに桁と袋網を巻き上げてある。手繰第二種の漁船は網をマストに引き揚げていないが、それ以外の点は、 3種類の底曳船に共通している。

    No.7
    [No.7: ft_image_15_16/image013.jpg]

    No.8
    [No.8: ft_image_15_16/image015.jpg]

     桁の写真である。

     桁網の桁には、ソリがありその後ろに爪が並んだビームが付く型と、下辺に爪が並んだ平らな四角い枠の 2通りの基本型がある。ここでは前者の型である。

     写真の右側を下にし、上が前になる。桁の下面後縁には爪が並ぶ。爪は前に向かって伸び、磨耗すると 付け変えられる。

    No.9
    [No.9: ft_image_15_16/image017.jpg]

     写真の左側に向かって曳かれる。袋網が枠の後(写真では右)に付けられる。袋網は、樹脂で固めた ブレードでできた網(写真では黒い)で被われる。

    No.10
    [No.10: ft_image_15_16/image019.jpg]

     日本の漁具では、ブレードはほとんど使われないが、袋網の被いと筋縄の一部はブレードで作られる。 このブレードは海外の巾着網の魚捕部で使われるものと同じ材質で、近くの製網工場で作っている。

    No.11
    [No.11: ft_image_15_16/image021.jpg]

     板曳きに使う開口板 縦約50cm、横約1m

     ここで使われる網は次の3点が特徴的である:(1)ヘッドロープの前に庇(ひさし)状の網がある。 (2)袋網は2股に分かれる。(3)グランドロープは細く、ボビンとチェーンのような金属製の錘は見られない。

     網地は細い網糸で編まれているので、写真では分かりにくいが、網の各部分をNo.12からNo.18までに示す。

    No.12
    [No.12: ft_image_15_16/image023.jpg]

     ヘッドロープの前にある庇網の前から袋網に向かって写す。画面中央を凸字状に走る浮子が付いた縄が ヘッドロープである。この浮子は普通の底曳網のヘッドロープに付けられる球形の浮子と異なり、刺網に 付けられる浮子のような型をしている。

     曳網中には、このヘッドロープが最も高い位置になる。その前にもう一本のロープがある(写真では上に 向かって大きく開いた放物線状)。これが網の最も前にある庇網の前縁である。下にグランドロープが 見られるが、細くボビンや錘はほとんど付いていない。

    No.13
    [No.13: ft_image_15_16/image025.jpg]

     前面から見た網 これからNo.16までの写真は網の前から後に向かって写す。

     ヘッドロープの前には庇網があるが、写真でははっきりと写っていない。

     グランドロープと泥抜きの部分を示す。

    No.14
    [No.14: ft_image_15_16/image027.jpg]

     左上の浮子がついていない綱が庇網の前縁、浮子が付いているのがヘッドロープである。

    No.15
    [No.15: ft_image_15_16/image029.jpg]

     これまでの写真に示すように、グランドロープ付近の泥抜きの部分を除き、腹網は天井網とほとんど 同じような細い材料で編まれる。

    No.16
    [No.16: ft_image_15_16/image031.jpg]



       グランドロープと泥抜きの部分を示す。グランドロープにはボビンは全く付いていない。縁綱に相当する 綱に少数の焼き物の沈子が付く。(この漁協は備前焼の産地に近い)

     縁網に相当する部分は、細いロープを組み合わせただけで、結節はない。したがって一ヵ所に力が かかっても分散しやすい構造に作られている。

    No.17
    [No.17: ft_image_15_16/image033.jpg]

     これと次の写真は、網の後方から網に向かって写した。

     コッドエンドは、このように両縁に沿った2股に分かれる。コッドエンドだけが太い糸で編まれる。

    No.18
    [No.18: ft_image_15_16/image035.jpg]

       袋網とその筋縄を示す。

     以下No.29までは、1985年に撮影した写真である。この間に桁網船団には大きな変化が起こった。

    No.19
    [No.19: ft_image_15_16/image037.jpg]

     船体の基本型は、1978年の頃と変わらないが、FRP化した。船尾で桁と袋網を揚げるという作業の基本は 変わらない。しかし、以前とくらべものにならないような船に変わった:主な変化は、(1)船尾にあった 木製のマストはパイプ製に変わり、高くなった。この高さは袋網の長さと関係がある。(2)曳索は機関室の 両側にあったリールに巻き取られていたが、操舵室の後に直径約1mのドラムを備え、それに巻き込む。

     その他、通信機器と油圧機器の普及の程度も変わったはずだが、確認できなかった。

     瀬戸内海の漁船の特徴として甲板をテントで被う。

     この船は、船尾を見れば分かるように板曳きを行う(拡網板は水平に倒して水面を曳かれている。

    No.20
    [No.20: ft_image_15_16/image039.jpg]

     先に記した特徴を備える。この船は桁網を使う。櫓(ヤクラ)は、桁を上まで巻き上げると、袋網が海面から 離れる高さである。

     出港から入港までの時間を自主規制しているので、その結果として、重い桁とそれに続く袋網を高い位置に 吊ったまま全速で漁場との間を往復することになる。

    No.21
    [No.21: ft_image_15_16/image041.jpg]

     網を吊っていないので、船本体の構造は分かり易い。桁は低い位置にあり、網を載せていないので、 回航中と考えられる。

    No.22
    [No.22: ft_image_15_16/image043.jpg]

     手前は板曳、次は桁網の漁船である。No.4では、両者が使っている網の違いは分かりにくかったが、 この写真では網糸の太さが違うことが分かる。

     手前の船は、船尾が張出し、スタビライザ(船尾水線に付けた張出しで、航走中に船尾が沈まないようにする) が付いている。定められた時刻に出港し、定められた時刻に帰港しなければならないので、漁場との往復航海中の 航走性能の向上を図るためである。

    No.23
    [No.23: ft_image_15_16/image045.jpg]

     中央に示す(白い)船のように、機関室の横に曳索を捲き込むリールを持ち、船尾に木製のマストを備える 船が残っていた。しかし、この船はマストの中央にリールを備え袋網の一部を巻く。

    No.24
    [No.24: ft_image_15_16/image047.jpg]

     No.23に示した船の木製のマストと袋網捲き込みリールを示す。この構造では、桁をあまり高くまで上げなくても、 袋網の末端を船まで引き揚げられる長所がある。

    No.25
    [No.25: ft_image_15_16/image049.jpg]

     船の構造と設備は桁網漁船と同じであるが、板曳網を用いる。入港中の船では、板曳網も船尾の櫓で揚げてある。 拡網板が船尾にあり、ヘッドロープの浮子が見られるので、板曳網を使っていることが分かる。拡網板には、 倒れないように上端に浮子がついている。しかし、桁網との違いは分かりにくい。

    No.26
    [No.26: ft_image_15_16/image051.jpg]

     桁網と板曳網の両者を使う船である。櫓から吊っているのは桁網である。しかし、船尾には拡網板があり、 船尾のブルワークトップのローラのような板曳きや手繰第二種用の固定設備が見られる。

    No.27
    [No.27: ft_image_15_16/image053.jpg]

    No.28
    [No.28: ft_image_15_16/image055.jpg]

    No.29
    [No.29: ft_image_15_16/image057.jpg]

     桁網船の入港 櫓の上まで桁を巻き上げるが、袋網は船に取り込んで帰港し、網は着岸後高圧ポンプで洗う。 他の漁港では、袋網を曳航して洗いながら帰ってくる船を見かけるが、それでは速度が落ちるので、できるだけ 長く漁場にいて、所定の時間に入港するためには、この方法になると考えられる。しかし、入港後に港内で網を 洗うと港内の汚染の問題が起こる可能性があるが、それは聞いていない。

     桁網の袋網は大部分の船では1統であるが、2股に分かれているものもある。

     以下のNo.30とNo.31は1995年に撮影した。85年以後あまり変化が見られなかったので、これら2枚だけを示す。

    No.30
    [No.30: ft_image_15_16/image059.jpg]

     桁網の袋網の末端を開閉するのに、工業用ファスナーが導入された。

    No.31
    [No.31: ft_image_15_16/image061.jpg]

     2隻目の船は、かなり長いバルバスバウである。これも先に記したように漁場との間の航走性能を向上させる ためと考えられる。

     その次の船の袋網は2股に分かれる。2股の袋網はかなり以前から見られたので、1本か2股のどちらかが 有利であるとすれば、どちらかだけになっていると考えられる。しかし、長期にわたって共存している。


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