漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 2 部 15 底曳網 28 沖合底曳網漁船 沖合底曳網漁業は、地域によって異なる。ここに示すのは、秋から春にかけて日本海西部において行われる 2艘曳底曳網漁業の写真である。以西底曳網漁船を小型にしたような船を使い、はじめて見る人はそれの 小型と間違いやすいが、その詳細は以西底曳網漁船と異なる。操業法は船尾式の以西底曳網とほぼ同じなので、 その記載は省略する。 航海は短く、漁期は気温が低い季節であるために、下関魚市における荷役に関する写真に示すように、 漁獲物は鮮度は高く、鮮魚として消費される。 ほぼ同じ年代に行われていた以西底曳網漁業と「かけまわし」漁業に関する写真では、計器類について 示さなかったが、近年、100トン級以下の底曳漁船にまで、機器の普及が著しいので、ここでは主にそれら について記す。
![]() [No.1: ft_image_15_28/image004.jpg]
No.2
No.3
No.4
No.5&6
No.1は、ドックから出たばかりの船の写真である。’70年代の中頃に撮影した。船尾式の以西底曳網漁船 と似ているが、詳細は異なる。 鳥居型のマストは1基で、著しく船尾に片寄る。冬期の日本海で操業するためと一般乗組員の居住区と 食堂を船首部分とるために、この部分は大きい。船橋は船の前端に近いが、以西底曳網漁船における程には 前方に片寄っていない。船橋の幅は広い。船首楼以外の部分の乾舷は低い。これらの特徴のいくつかは、 背景として写っているドック中の船にも見られる。 No.2は下関漁港の岸壁に係船したあった船の写真である。上記の特徴を備える。詳細に見ると、以西底曳網 漁船に比べて種々の点で建造費を節減していることが目につく。その例は、マストや手摺が細いことである。 左側が従船、右側が主船である。計器類は主船の方に多いことがアンテナの数から分かる。スタンランプが 急なことはこの写真からは読み取れない。 No.3は’85年頃、下関漁港に停泊していた船の写真であるが、船型は異なる。船首の立ち上りはあまり 目立たない。船橋は左に片寄り、船首との間に余裕がある。船首楼の下にワープの一部を巻き取るドラム が見られる。 No.4は下関漁港において同じ頃に撮影した写真である。船首の立上がりは目立ち、船首楼は長い。船橋は 前にあり、大きく長くなっている。これは計器類が増えたことを意味する。その窓は円形である。円形の窓は、 北転船の船橋にも見られる。しかし、それ以外の船ではほとんど見られない。 No.5は2,000年に、後方から船橋を写した写真である。船橋に立ているアンテナの数を示す。左は主船、 右は従船である。両者の間でアンテナの本数が異なる。No.3に示した船ではアンテナは少なく、それまでは この種類の漁船には計器はあまり多くなかった。 No.6は主船の船橋の拡大写真である。漁労長が乗っている主船は、従船よりも多くの情報を扱うことを 意味する。 船橋の上には軽い資材が置いてある。No.3に示す時代には、トロ箱(=魚箱)は木製であったが、2,000年 との間に発泡スティロール製に変わった。 以下は、主に主船の船橋内の写真である。’85年から’90年にかけて、下関漁港に入港している船を見学 する機会のあるごとに撮影した。それぞれよく似た写真があるが、数隻の異なる船の写真を示す。同じような 位置に同じような計器が並んでいるが、詳細は異なる。荷役の様子はフォールダ「地方の魚市場」に示した。
![]() [No.7: ft_image_15_28/image011.jpg]
No.8
No.9
No.7は左舷がわの写真である。左下隅に写っている低い隔壁の後は海図台で、その下は漁労長のベッドである。 隔壁の前が操舵室で、幅は広いが、前後方向は外から見るほどには広くない。左端は、機関の遠隔操作台である。 その右はマグネットオートパイロットを組み込んだ操舵スタンドである。舵輪は細い。 No.8はNo.7に続く右舷がわの写真である。操舵スタンドの右にはレーダスタンドがある。その後にはテレグラフ があるが、この位置では使えないだろうだろう。しかし、機関は遠隔操作されるので実際上の問題はない。 右の壁にはダブル幅の湿式記録器がある。画面にでている映像だけでは、魚探用かネットレコーダ用か区別 できない。 No.9は操舵室の後にある海図室の右舷がわの写真で、画面左が前である。左舷がわは海図台であるが、 右舷がわには、位置決定用の電子機器と通信機器が並んでいる。主な計器は2基ずつある。その下が船長の ベッドである。
![]() [No.10: ft_image_15_28/image017.png]
No.11
この配置が標準型とみなせる。No.10ではカラー表示が分かるが、色調が悪いのでNo.11を追加した。
![]() [No.12: ft_image_15_28/image021.jpg]
No.13
No.13は、この船の左舷がわの写真である。カーテンより右が操舵室、左が海図台である。操舵室には乾式 記録紙を用いたダブル幅の魚探が見られる。記録の上半分は全深度、下半は海底付近の拡大で、平坦な海底を 曳いていたことが分かる。海図台には通信機器が多い。
![]() [No.14: ft_image_15_28/image027.jpg]
![]() [No.15: ft_image_15_28/image029.jpg]
No.16
No.17
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主機遠隔操作台の上にあるのは、舵角指示器である。 No.16とNo.17は、この船の海図台を示す。多数の通信器が装備されている。すなわち、通信器の普及によって、 組みになって働く2隻の間で意思の疎通が円滑になった他に、他に他船との間で情報交換が活発化してきたことが、 電子機器がもたらした大きな影響の一つである。
![]() [No.18: ft_image_15_28/image033.jpg*]
No.19
![]() [No.20: ft_image_15_28/image036.jpg]
No.21
No.22
No.23
No.24
No.25
No.18では、このクラスの船でも大きな網を扱うことを示す。ボビンの列は構成が同じでもいくつかに分 かれている。同じような日本海で操業する「かけまわし」漁船では、高く上がった船首から波を受けながら ワープを揚げることによって、荒天における波の打込みを回避した。しかし、この船では、船尾からワープを 巻くことが、船尾にある縦ローラから分かる。網は船尾から揚げられる。一応スランランプらしい構造が 見られるが、傾斜は急であり、とてもスタンランプとはみなせない。揚網中には、海中にある網がシーアンカー のように作用し、船は船尾から風を受けるように自動的に回頭する。したがって、船尾からの波を跳ね返す ように船尾は外に向かって反っている。 No.20はボビンに用いられている古いタイヤを示す。 No.21ではグランドロープと腹網の間に泥抜きが見られることを示す。 No.22はボビンとして使われる古いタイヤを切った円板で、グランドロープの一部に使われる。 No.23はヘッドロープを示す。これには、画面の中央に見られるようにネットレコーダの発信機がついている。 No.24とNo.25は、船橋から船尾に向かって撮影した写真である。作業甲板を示す。インナーブルワークは トロール船におけるよりも高い。インナーブルワークとしての機能以外に、甲板で作業をする乗組員を横からの 風波から保護する機能が考えられる。曳網中にはその外側にコンビネーションロープのワープがあり、 投揚網作業中にはそれが動く。船の幅が狭い上に、両側にはワープが走り、その下は資材でふさがっている。 両舷の船尾には、ワープを巻くドラムがある。インナーブルワークの内側は船の幅の半分位になり、 そこは網で一杯になる。その様子はこれらの写真から推察できるだろう。 ヨーロッパとその伝統を直接受継いだ国のトロールでは、袖網の先端に大きな中空の鉄球を付ける。 これをダンレノボビンと呼ぶ。日本のトロール船・北転船や以西底曳網漁船では、ダンレノボビンは使わない。 沖合底曳網漁船の荒場用の網の先端には、手木の代わりに、2個の円錐の底面を合わせたようなダンレノを使う。 それが、No.24のインナーブルワークの内側で画面に見られる右端の3個のブイの間に写っている。 船首楼の少し後ろでインナーブルーワークがなくなる。そこの作業場が広くなった部分には、活魚槽が置いて あるがこれらの写真には写っていない。船によっては、甲板上で、袖網が左右に分かれる部分に低い活魚槽を 設けてある。以前には漁獲物はすべて氷蔵にして持って帰った。市場において活魚指向が強く、収益を上げる ためにできるだけ活魚として持って帰るようになった。網を曳いて漁獲されるので魚の傷みを避けられないが、 航海が短く、漁期は低温なので、一部の底魚類は活魚として持って帰られる。 活魚を持って帰る傾向は、それが困難と考えられるこの漁業にまで広がった。
![]() [No.26: ft_image_15_28/image048.jpg]
付 録
![]() [No.27: ft_image_15_28/image054.jpg]
No.28
No.29
No.30
No.31
No.32
この船は左舷から網を揚げる底曳網漁業とイカ釣漁業の兼業船である。その船橋には、イカ釣に使わず、 底曳網漁業に使われる計器類が見られるので、このフォールダに含める。 No.27は船首部の写真で、イカ釣の際にパラアンカーを通して引揚げる輪が見られる。向かって左の船では右、 右の船では左にある。 No.29 この船の船橋における計器類の配置は、沖合底曳網漁船におけるそれと似ている。自動操舵スタンド がある。その右上にはジャイロコンパスのリピータが見られる。船体は下関を根拠とする沖合底曳網漁船より小さい。 自動操舵スタンドは下関付近の沖合底曳網漁船のそれと似ているが、自動操舵装置はジャイロオートパイロットだろう。 船橋だけで3台、他を含めると6台のカラー多目的ディスプレーがある。右端には湿式記録紙を使う魚探がある。 普通幅の記録紙を上下に使分け、上半(画面では左半)は全深度の像、下半(画面では右半)は海底付近の像を 拡大表示している。回航中に魚探をこのように使うとは考えられない。回航直前までは、底曳網漁業に従事して いたのだろう。 No.30は海図室の写真である。左には通信機が多数見られる。船橋内には3台のカラー多目的ディスプレーは 見られたが、ここではさらに2台が海図台の上に見られる。画面中央の機器の表示部の上には、Faxで受信した 新聞が下がっているので、この機器の機能は分からない。 No.31は、No.30の右端に見られるカラー多目的ディスプレーの拡大写真である。下関漁港に入港するときの レーダ像が写っている。カーラ多目的ディスプレーの使用例として示した。 No.32はこの船に設置されている計器類の内で、唯一イカ釣漁業の専用とみなせるものだろう。 右端は船速ヴェクトルを示し、左3面にはそれぞれ所定の深度における流速ヴェクトルを示す。イカ釣漁業では 多数の釣糸を広い深度に渡って上下させるので、それらをもつれさせないように上下させる深度を調節するために 必要な計器である。 ここにも、さらにもう1台のカラー多目的ディスプレーが設置されている。
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