漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 2 部 17 トロール 15 スリミ工船における漁労作業 南氷洋捕鯨に用いた船団の裏作を模索しているうちに、その対策の一つとして始められた母船式北洋底魚 漁業は、1960年代当初に採算が採れるような魚種と漁場が発見され、その後母船式が単船トロール船による 漁業に変わった。そして、3,000トン級の船尾式トロール船がメヌケ等を冷凍品の原料として漁獲するよう になった。コガネガレイを原料としたフィッシミール船団の一部は、この魚種が減少したので一時は原料を スケトウダラに変えた。他方、スケトウダラを原料とする冷凍スリミの加工技術が開発された。その結果、 5,000トン級の工船式スリミトロール船が建造され、関係各国によって200浬漁業専管水域の体制が確立される までの間は、漁獲技術・加工技術ともに時代の先端を走るものとして、大手水産会社では最も有力な部門と なっていた。 工船式スリミトロール船によるスケトウダラの漁期は周年に渡り、稼ぎのよい漁業は常に設備に改良が 加えられるという原則に従って、入港するごとに計器類を含む漁労設備やスリミプラントに改良が加えられていた。 したがって、その船を見学することはあまり好まれず、写真を撮ることは到底考えられなかった。 このファイルに示す写真は、関係国によって200浬漁業専管水域の体制が確立され、大きな船がその漁業技術を 発揮せずに、買魚を原料としてスリミプラントだけを活用するか、あるいはよく似た魚の多い全く異なる海域 における合弁事業等にその活路を模索しはじめる直前に撮られたものである。 ファイル「スリミ工船の試験操業」の写真は、約30年前、すなわちスリミ工船が建造されはじめた頃に、 会社のイメージアップを兼ねて行われた試験操業の際にとられたものである。それらとこのファイルの写真 を比べると、30年間の進歩と、同じ業種に従事する船でも、所属する会社によって考え方が異なり、細部の 構造が異なることが分かる。
![]() [No.1: ft_image_17_15/image001.jpg]
外型は船尾式鮮魚トロール船とほとんど変わりない。2層甲板で、下の甲板はスリミプラントになるため、 乾舷が高い。長い網をできるだけ簡単な操作で揚げるために、甲板上の構造が少なく、前に寄っている。 これは日本の船尾式トロール船の特徴である。
![]() [No.2: ft_image_17_15/image003.jpg]
甲板で作業をしている人と比べると、ウインチ類等の大きさが分かる。投揚網作業中は、この窓から後方 (この写真に写っている方向)を向いて作業の進行を見ながら操船する。下端の中央灰色の部分はウインチの 集中コントロール室の天井である。
![]() [No.3: ft_image_17_15/image005.jpg]
次の層に重なって中央にウインチの集中コントロール室が写っている。船尾式トロール船では、投揚網作業の すべての段階が、甲板上の各所にある専用のウインチによって行われる。透明の壁を通して甲板全体の作業を 見ながら、一人の熟練した乗組員によって、すべてのウインチがここで扱われる。 最下層の手前にはトロールウインチが見られる。ドラムの直径は、ほぼ1階の高さであり、大きさ、 すなわち、巻かれているワープの量が、想像できる。左右のドラムの間にセンタードラムがあるのが、日本の トロール船におけるウインチの特徴で、最後にコッドエンドを吊上げるのに使われる。
![]() [No.4: ft_image_17_15/image007.jpg]
画面右端に近い回転窓は後向きに並ぶ窓の中央のものである。 船尾式トロール船の船橋にある操船用の計器類は、通常航海と曳網中に前を向いて使う組と、投揚網中に後を 向いて使う組の、2組がある。また、漁労用の機器類は、長期にわたる操業中に連続して使用し、故障も考え同じ 機能のものが2組ある。 左端近くに見られるレーダは通常航海用である。その後に航跡プロッタがあり、後面の窓に沿って魚探と ネットレコーダの記録器が見られる。これらは、船橋後面を見ながら、画面を見られるようになっている。 この写真に見られる窓と機器の配置を参考にすれば、No.6からNo.16までの計器類の配置を理解しやすい。 北転船の船橋は、はるかに狭く、機器で埋まっていたが、工船式スリミトロール船は、約10倍のトン数であり、 船橋は広く、北転船よりも多くの機器(両者とも必要な機器の種類はほぼ同じである)が、少しは余裕をもって 配置されている。それでも狭いのと、多くの機器からの情報を同時に見るためには画面の数があまり多くない ことが望ましいので、カラー画像表示器はいくつかの機能を兼ね、切替えて表示をできる。曳網中の連続する 情報を参考にするためには記録紙が使われるが、短時間しか使われない情報や、例えば魚探からの情報でも、 擬餌カラー表示によって強弱まで考えに入れるためには、カラー画像表示器が使われる。あるいは記録紙と 併用される。
![]() [No.5: ft_image_17_15/image009.jpg]
トロールウインチのブレーキのレリースも見られる。曳網中に魚探を見ていると、熟練した人は網が海底 障害物にかかりそうなときを予測できる。魚探映像は船の直下の情報であり、網ははるか後方にあるので、 ゆっくりと変針すれば障害物を回避できる。 ネットレコーダの記録を見ていると、網が海底にかかったのがすぐに分かる。すぐに停船してトロールウインチ のブレーキを緩めワープを繰出すと網を破れない。底魚類は複雑な海底地形のところに多く、高級鮮魚をねらう トロール船では、減価償却の済んだ網を、注意しながらあえて障害物の近くを曳くことさえあった。また、 複雑な海底地形の漁場で曳網するためには、海底地形の変化に応じてワープの長さを調整することも稀でない。 中層トロールでは、魚探によって探知した魚の遊泳深度に応じて、曳網中にワープの長さを変える。したがって、 このような装置が船橋内になければならない。 No.6からNo.16までは、船橋に装備されている機器類の写真である。1枚の写真に計器が1つだけ写っている ことは稀で、多くの機器が並んで写っている。
![]() [No.6: ft_image_17_15/image011.jpg]
![]() [No.7: ft_image_17_15/image013.jpg]
![]() [No.8: ft_image_17_15/image015.jpg]
![]() [No.9: ft_image_17_15/image017.jpg]
No.10
![]() [No.11: ft_image_17_15/image021.jpg]
![]() [No.12: ft_image_17_15/image023.jpg]
![]() [No.13: ft_image_17_15/image025.jpg]
航跡プロッタには、曳網中の航跡だけでなく、海底地形、過去に発見した海底障害物、水深情報、漁獲の 記録等が表示される。それに今回の曳網コースが画かれる。また多目的画像表示器にも同様な情報が表示され、 次の曳網に備えてカセットテープに記録される。 今回の航跡をプロットするだけでなく、過去の多くの情報も標示するので、他の機器に比べると広い面積を 占めている。 右下には2台の魚探の記録器が並んで写っている。2台は使い分けられている。たとえば、左は海底付近の拡大、 右は全深度の魚探像を記録する。No.4から分かるように航跡プロッタは船橋のほぼ中央にあり、電子機器でないが、 位置と大きさが示すように、過去の情報を含め必要な情報のほとんどが集中し、曳網位置とコースを決め、 曳網の指針を得るための最も大切な表示となる。 曳網中、あるいは探魚中(海底地形の探索を含む)に湿式記録紙(ときにはダブル幅を含む)を使う音響機器 をふんだんに(ときには早い紙送り速度で)使うのが、日本のトロール船における特徴だろう。 しかし、1度使用した記録紙は、スチームアイロンで映像を消されたり、反対方向に巻きなおして繰返して使う ような節約を図られる。
![]() [No.14: ft_image_17_15/image027.jpg]
記録紙中央の直線は発振線で、ヘッドロープに取付けられた送受波器の位置を示し、記録紙上のこの位置は動かない。 この送受波器は上下に発振する(No.17とNo.18を参照)。発振線の左が上方向のエコー像である。すなわち、 ヘッドロープの上を越えて逃げた魚に関する像である。中層トロールの導入により、上下2方向に発振する ネットレコーダが普通に使われるようになった。 この記録紙は、上から下に送られるので、記録紙における時間は下から上に向かうことになる。発振線の右に 記録されるのは、ヘッドロープから下に向けた情報である。これは着底トロール中の記録で、逆Jの線が海底からの 反響である。送受波器(すなわち網)が沈んでゆくのは、海底からの反響が発振線に近づくように示される。 この幅が網丈である。グランドロープ(フットロープ)が着底し網丈が安定する情況が逆Jの線として表される。
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発振線からこの線までに反応があれば、それは反射体が発振器と海底の間にあってことを意味する。それに よって網に入ったであろう魚の量の見当がつく。 ネットレコーダの記録からリアルタイムで種々のことが分かる。網が海底障害物にかかると、網丈は低下し始める。 このときには網はまだ切断していないので、停船しワープを伸ばせば切断を免れる。グランドロープが切断すると 網丈が高くなる。網成が正常でなければ、いつもと網丈が異なるので異常が分かる。
![]() [No.15: ft_image_17_15/image029.jpg]
![]() [No.16: ft_image_17_15/image031.jpg]
![]() [No.17: ft_image_17_15/image033.jpg]
No.18
No.19以後は揚網中の写真である。投網作業は短時間で終わり、No.19からNo.35までを逆の順と考えれば 大差ないので、ここでは揚網の場合について説明する。
![]() [No.19: ft_image_17_15/image037.jpg]
No.20
No.20には、スタンランプの上端が写っている。ここには、自由に回転する大きな重いローラがある。 その前に溝があり、予め数本のストロープが入れられる。それは揚網が進むに従って使われる。
![]() [No.21: ft_image_17_15/image041.jpg]
網が大きくなると付属具が大きくなり、人力で動かせなくなった。したがって、ウインチ類で動かす 方式になったが、この方式は北転船を含む小型の船にも広がった。
![]() [No.22: ft_image_17_15/image043.jpg]
No.21とNo.22から分かるように、サイドトロール船では投揚網には甲板全体の幅が使われていたが、 船尾式トロール船では甲板はインナーブルワークで区切られ、その間だけで網が動き、その両側の外には 付属具や代わりの網が置かれる。
![]() [No.23: ft_image_17_15/image045.jpg]
袖網が揚がってくる様子が分かる。
![]() [No.24: ft_image_17_15/image047.jpg]
![]() [No.25: ft_image_17_15/image049.jpg]
![]() [No.26: ft_image_17_15/image051.jpg]
No.27
No.28
No.29
No.30
No.31
![]() [No.32: ft_image_17_15/image063.jpg]
No.33
![]() [No.34: ft_image_17_15/image067.jpg]
No.35
No.36
No.37
これまでの写真から、働いている人に比べてこのような大きな網を揚げるために、2人から4人が短時間 ずつ働けばよいことがわかる。これが大型船尾式トロール船における作業の特徴である。
![]() [No.38: ft_image_17_15/image075.jpg]
![]() [No.37: ft_image_17_15/image077.png]
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