漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 3 部 19 巻き網 11 巻き網 11-11 巻き網 旋網には、縫切網等種々の型があり、伝統的に種々の名前で呼ばれていた。しかし、伝統的なものはなくなり、 名前だけを残している。一般に巾着網と呼ばれることが多いが、巾着網とは、網裾に環締め装置を備え、上下の 縁網と魚捕部を除き、網の大部分は均一の網地で作られている網を指す。日本において使われている旋網は、 いずれも環締め装置を備える。しかし、網は部分によって網地が異なるので、厳密にはリングネットと呼ばなければ ならない。ここでは混乱を避けるために一般に使われている巾着網という語を避けて、巻き網と呼ぶこととする。 巻き網漁業は底曳網漁業とともに、漁業の2大柱であり、高度の機械化が進み、多量の魚を漁獲する。 底曳網漁業の漁獲物は主に鮮魚・冷凍魚・加工食品の原料として消費される。それらの重要性は時代とともに 変化するにしても、漁獲物は人類の直接食糧として消費される点には変わりない。しかし、巻き網漁業による 漁獲物の消費は時代と地域によって異なり、ミールあるいは養魚の餌として人類の間接食糧としての消費は 無視できない。外国では、地元における鮮魚消費が全く考えられないような場合でも、魚があれば陸上における 消費と無関係にミール生産を目的とした巨大な漁業が生じる。一時、世界一の漁獲量を誇ったペルーにおける 巻き網漁業は、この例である。巻き網は、その反面、世界の伝統的に漁業が盛んであった地域では、人間の直接 消費を目的とした保存食糧を確保する方法の一つになっている。 日本では、人類の直接食糧に向けられる比率は大きかったが、それでも発生当初より農業用肥料に向けられる 量は無視できなかった。これは限られた季節だけに多量漁獲される表層魚を対象とした漁業の宿命だろう。 日本では煮干の消費が減少したが、養魚が盛んになったので、ミールに加工される比率は外国におけるほど 高くない。しかし、養魚用の飼料のような間接的食糧としての消費が多い。 この漁業は、沿岸から遠洋までで広く行われ、最も変化に富む漁業である。この点においても巻き網と底曳網は 共通している。 遠洋における漁獲物は、すべて人類の直接食糧として消費されるが、沿岸における漁獲物の大部分は間接食糧 として消費される。 このファイルに収録した写真は、旧来の伝統である必要最低限の機械化しか行われず、多量の人力によって 行われていた方法が終わり、現在に近い程度まで機械化が進み、一段落した段階を示す。 巻き網漁船は、1そう巻き網漁船と2そう巻網漁船に大きく分けられる。両者の間に作業の細部と装備の基本は ほとんど変わらない。2そう巻きは、漁村において多量の労働力を確保しやすかった時代の名残であり、現在では ほとんどが1そう巻き網漁船になった。 2そう巻き網では、作業全般の動きを知るには、相手方の船の動きを見ればよく、各作業の詳細を知るためには 自船の状況を見ればよいという利点があり、限られた日数で巻き網操業の実態を知るには2そう巻きの方が適 している。したがって、学生の実習の際に撮影したその作業状況は「2そう巻き巾着網の操業」として別の ファイルに示した。 新しい型として、いわゆる米式巾着網がある。その本来の型と日本の情勢に合わせた変型がある。それらを、 それぞれファイル「アメリカ式マグロ巾着網漁船」と「日本におけるアメリカ式マグロ巾着網漁船」として別の ファイルに示した。なお、海外における巾着網漁船は、ファイル「Vancouverの漁船」・「Seattleの漁船と漁法」 ・「Mexicoの漁業」・「Peruの漁業」の一部にも記した。いずれも昼間操業である。 巻き網(漁船)は、各地において主に漁協が運営し限られた季節しか操業しない特殊な型のものと、漁協 あるいは地元の網元が経営しほぼ周年操業する小型のものがある。これらの船型と漁労装備は年代と地方による 変化が乏しい。その他に、魚群を追って根拠地を変えながら周年操業する型がある。この型には、東シナ海において 夜間に操業する型、東北地方で昼間に操業する型等によって船型が異なる。全体像の概要を知る手掛かりとなる いくつかの例を示した。
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No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
No.1とNo.2は、ある意味ではこの型の典型的な漁船である。80年代の初めに福岡市と糸島郡の境で撮影した。 煮干の原料にするカタクチイワシを漁獲するための2そう巻き網の網船の写真である。冬の乾燥した時期に、 稲刈りが終わって空いている田を利用して煮干を作る。最大でも田に干せる量の漁獲を揚げれば十分である。 したがって、漁獲性能あるいは効率はあまり問題でない。 年間に数週間しか操業しないので、あまり経費をかけられない。大型の木造和船をそのまま利用したので、 操舵室はない。 漁労装備としては、船尾に小型のネットホーラと舷側にサイドホーラがある。サイドホーラは、漁労装置として 遅く開発され、導入後の歴史は短いが、この船には装備されている。これは極端に老齢化した組合員が従事する ためであると考えられる。漁獲物を汲上げるためにフイッシポンプの日本における使用の歴史は短い。しかし、 それを備えている。これは漁獲物が小型であり加工原料なので、多少の傷みは許容されためと、漁労作業を軽減 するためである。すなわち、船体は古いが、漁労装置は、新たに追加されている。 No.3とNo.4は、同じ年に隣りの漁協において撮影した写真である。2そう巻きで、操業期間、背景、漁獲物の 消費法は、先の漁協におけると同じである。中古の和船型の巻き網船を購入して利用している。操舵室と機関室は 見られる。 漁労設備としては、船尾にネットホーラ、舷側にサイドホーラがあり、操舵室の前にパースダビットとパース ウインチが見られる。(これらは巾着網船には当然なければならないが、写真からでは先に示した船にはみられ なかった)。フイッシポンプを備える。 No.5は'70年代中頃に兵庫県の室津において撮影した。典型的な古い木造の和船に近い型である。西日本に おける当時の木造和船の特徴として、船首に船主のマークと唐草模様が見られる。 この漁港には多数の船曳網漁船が見られた。同じ漁港において、同じくカタクチイワシを漁獲する同じような 古さの船の中に、夜間操業をする巾着網漁船と昼間操業をする船曳網漁船が共存している。このことは、日本の 古い漁港では、用いる漁法を選択するのに、経済効率以外の要素が含まれることを示唆する。 2そう巻きの網船であり、船尾にネットホーラ、舷側にサイドホーラ、船橋の前にはパースウインチとパース ダビットが見られる。網捌き機を除きサイドホーラとフイッシポンプを含むすべての漁労装備は、この当時でも すでに見られた。しかし、1晩中集魚灯を点灯して集魚してから網で巻くので、探魚と網の動きを知る音響機器は 装備されていなかった。当時はこれらの機器は未発達で、しかもこの地域では法規によってその使用を禁止されていた。 元来この漁業は漁獲物を煮干に加工するために始まったが、化学調味料の普及と養魚業の発達のために、 '70年代中頃には漁獲物は養魚の餌に向けられるようになった。 No.6からNo.9までは、岸和田における2そう巻きの網船である。昼間操業で、カタクチイワシを漁獲する。 船首付近にパースダビットがあり、船尾にネットホーラがある。フイッシポンプを備える。これらの点では、 他の地方における巻き網船の装備と同じである。機関室の後方全体にわたってガントリシステムがあり、数組の ボールホーラがついていて、ネットホーラによって揚げられた網をそれらによって広げながら積あげる。 この船における漁労装置は、この点において他の地方におけるそれと全く異なる。 漁獲物の大部分は、凍結して養魚の餌として消費される。しかし、一部はカツオ竿釣の餌として珍重される。 すなわち、汚れた大阪湾において漁獲されたカタクチイワシは汚染に対して抵抗力がすぐれている。このことが 着目され静岡方面から買付けにくるとのことであった。 ここの巻き網漁船に見られるもう1つの特徴は乗組員の構成である。以前から大阪湾沿岸には、瀬戸内海の島から 男女が集団で季節的に出稼ぎにきていた。男子は巻き網やかっては地曳網で漁労に当たり、女子は漁獲物を煮干に 加工したり、練製品の加工に従事した。それぞれの網元(=加工場主)と特定の島との間に契約が交わされ、 毎年同じ島から同じところに出稼ぎにきていた。しかし、この習慣は崩れつつあった。写真の背景から分かるように、 この船溜りは街工場群の中にある。地元の人は漁業に従事しない。従って、先に記した習慣の延長と考えられる 出稼ぎ漁民によって行われる。
![]() [No.10: ft_image_19_11_11/image019.jpg]
No.11
No.12
No.10からNo.12までは、集魚中の灯船の写真である。No.10はそのまま撮影した。少し離れると、灯船はこの ようにしか見えない。緑色の光は水中灯で、写真中央上端に近い黄色の小さい光点は檣灯である。この写真では 船が分からないので、強力ストロボを点けて撮影したのがNo.11とNo.12である。 各地方には周年地元を根拠とする中型・小型の巻き網漁船が見られる。それらは各漁協に1組か2組しかない。 網船・灯船・運搬船で1組を構成する。いずれも地元の漁協を代表する大きさと装備の船である。 それらのいくつかを次に示す。
![]() [No.13: ft_image_19_11_11/image021.jpg]
No.14
No.13について 日本の巻き網は右舷から揚網する操業型が多い。船首付近にはパースダビットが見られる。 (パースウインチは船橋の影になって写真では見られない。)船橋の横のブルワークトップに沿ってサイドホーラ が見られる。ここでは硬化ゴムの刻み目は舷側に沿っているが、その刻み目の型は変化に富む。その後端近く 機関室にかかる錆びた棒は、環締めが終わった環の束を通すためのピンである。 No.14について 画面右端中央にそのピンが見られる。船尾には車型のネットホーラが見られる。これは 船尾に沿ったロッド(揚げ蓋で被ってある)によって動かされ、網が揚がってくる方向に応じて、方向を変え、 船尾の左右を端から端まで移動しながら揚網する。従って、船の幅が広く船尾は角型になる。これが巻き網船の 特徴の1つである。 揚網中にはこのネットホーラの上に乗組員が立ち、足で踏む力を加減して網のスリップを調整する。ネット ホーラから立ちあがっている逆L字型のロッドは、その乗組員がつかまるためである。機関室の中央上端から 後方にブームが伸びる。その付根付近に網捌き機が見られる。網捌き機は揚網が進むに従って、このブーム上を 移動する。 これらの装置は標準型と考えられので、以後の記載では省略し、変わった型のものが見られる場合に限り記す。 No.15からNo.44までは70年代後半から2000年までに、西日本の各地において撮影した巻き網船の写真である。 少数の例外を除き、地域と年代が分からないほど船型は似ている。 以下No.43までの写真に見られる主な変化は、車型のネットホーラの代わりにVホーラの使用が多く、幅が狭く 小型であった網捌き機が、幅が広い型から大型の巻き網船で使われるものとほとんど同じになったことである。
![]() [No.15: ft_image_19_11_11/image029.jpg]
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![]() [No.17: ft_image_19_11_11/image033.jpg]
No.18
No.19
![]() [No.20: ft_image_19_11_11/image039.jpg]
![]() [No.21: ft_image_19_11_11/image041.jpg]
No.20とNo.21では、網から外された環の束が見られる。普通は、環は網と結ばれずに、網から下がった枝か環を 下げる枝の一方が輪になって十分に捻ってあり、他方の端に結び目を作って挟込み、引っ張ることによって 留めてある。したがって網だけを簡単に外せる。修理や漁期外に、網を陸上に揚げても環は外して網船に 残されることが多い。
![]() [No.22: ft_image_19_11_11/image043.jpg]
![]() [No.23: ft_image_19_11_11/image045.jpg]
操舵室の前にある環綱を巻くドラムが分かりやすい。 巻き網の浮子は、この写真に見られるように多数ついている。 マストから後方にかけて集魚灯をつけた索が伸びる。網捌き機を吊るすブームにも灯火が多数見られる。 操舵室の後には網の中の魚の動きをコントロールする集魚灯を下げる竿が見られる。
![]() [No.24: ft_image_19_11_11/image047.jpg]
![]() [No.25: ft_image_19_11_11/image049.jpg]
![]() [No.26: ft_image_19_11_11/image051.jpg]
No.27
No.28
![]() [No.29: ft_image_19_11_11/image057.jpg]
No.30
沖に多数のシイラ漬けが設置されている地方で見られた。シイラ巻き網船と考えられる。
![]() [No.31: ft_image_19_11_11/image061.jpg]
No.32
No.33
No.34
No.34では、サイドホーラが付いている舷から分かるように、大共丸は網の左半分、第6大共丸は右半分を扱う。 両方の船で大きさと装備はほとんど変わらない。
![]() [No.35: ft_image_19_11_11/image069.jpg]
No.36
![]() [No.37: ft_image_19_11_11/image073.png]
No.38
山口県山陰側の巻き網漁船としては、ネットホーラ・パースダビット・環綱巻き取りドラムを含め、標準型 とみなせる。
![]() [No.39: ft_image_19_11_11/image077.jpg]
No.40
No.41
No.42
網裾の構造が分かる。
![]() [No.43: ft_image_19_11_11/image083.jpg]
![]() [No.44: ft_image_19_11_11/image085.jpg]
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