FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 4 部
    80 地域別
    12 長良川河口域の漁船と漁法




          この写真集は、1991年8月に長良川の下流で撮影した写真から抜粋し、説明を加えたものである。

     長良川河口堰について、環境問題がしきりに取り上げられているが、現在のところでは、主に遡上する サツキマスとアユ等の淡水魚とそれを対象とした漁業以外はあまり取上げられていない。しかし、長良川とその 河口域における漁業がどのような影響を受けているかは、ほとんど取上げられていない。漁業の状況を知る背景 として、下流域で目にとまる種々の漁船に関する知見は備えておかなければならない。その参考としてこのファイル を作った。

     周辺の人達を不用意に刺激することを避けるために、各船溜りでは短時間しか観察しなかったし、漁業者と直接 接触することを避けたので、装備の詳細と操業法・漁場等の一部には疑問が残ったままである。また、必ずしも 理想的な角度から撮影できなかった。

    左岸(大島水門付近)の漁船

     No.1には2隻の漁船が写っている。船体は同じ型であるが、装備は異なる。向かって左の船から説明する。

    No.1
    [No.1: ft_image_80_12/image001.jpg]

     左舷寄りの中央に刺網が見られる。刺網とは矩形の長い網地の上縁に小さくて長い浮子(アバ)の列を、下縁に 小さな錘(沈子、イワという)の列を付けて、網地を垂直に保たせ、魚が遊泳する道筋をさえぎるように置き、 魚を網目に突き刺させるか絡ませて漁獲する漁具である。

     赤茶色の小さいものが浮子である。浮子が多く、網丈は高い。上半分はくすんだ緑色、下半分は赤い。上半分 よりも下半分の方が水中では見え易い色であると考えられている。(濁った水の中では実際にこの色の差が有効か どうかは疑問である)。下半分に出会った魚は上に避けて上半分に刺さることを期待して作った構造である。

     浮子の浮力と沈子の沈降力のバランスは、表層の魚を狙うか中底層の魚を狙うか、あるいは設置する場所の流れ の強さによって異なる。設置する長さは船の能力と漁場の広さによって異なる。

     この漁法では、網糸に力がかかていないようにしなければ、魚がかかりにくい。従って、流れの弱いところが 適している。浅いところでは、両端と中間に錨を付けて固定する。深いところの表層では流れのままに流す。 網丈が高いと(縦に長いことをこのようにいう)上下の流れの差の影響を受けやすいので、一般に網丈はあまり 高くない。

     普通は、長時間(例えば1晩)設置しておく。しかし、流されることを利用して底を浚う源式網、支点を中心とし 網を半径とする円内の魚を追いかけて漁獲する漕刺網、魚群を囲み驚かせて網に刺させる囲刺網のような使い方もある。

     この地域の様子を考えると、最も普通に考えられるのは、ボラの囲刺網である。ボラ囲刺網とは、ボラの魚群 を見つけると、その周りを全速力で網によって取囲み、水面を叩いて魚を驚かして網に突っ込ませて漁獲する 漁法である。1回の操業時間が短く、1日に数回投揚網される。

     左舷前端付近の空色のカバーがかかっているのは、ネットホーラ(揚網機、網を揚げるための動力ローラ)である。 その外側に滑車が見られる。これとほぼ対称的な位置に(茶色で)縦に2つ重なり水平に回るローラがある。 網はこの滑車からネットホーラを通り、ローラを経て、積上げられている位置まで引上げられる。

     機関室の上にある黒い円筒は酸素ボンベである。これは漁獲物を活魚として持って帰るためである。最近では沿岸 漁業ばかりでなく、沖合漁業でもできる限り漁獲物を活魚として持ちかえる傾向にある。

     向かって右の船には網とネットホーラ等の設備が全く見られない。また、整備中の様子もない。従って、最も 考えやすいのは、主な作業は左側の船が行い、右側の船は探魚と投網作業の補助に当たる可能性である。

     この船溜り内の対岸にはノリ養殖作業船とレジャーボートが見られる。

     ここと付近の船溜りにはノリ養殖用の作業船が多数みられた。赤須賀地区のシジミ漁船の中に見られる小舟 (No.5、No.11及びNo.15に見られる)もこの作業船である。

    No.2
    [No.2: ft_image_80_12/image003.jpg]

    左....漁具とネットホーラー等の補助装置がないので、従事する漁業の業種を特定できない。船内機を装備 しているが、これから動力を取出すような装置が見られないので、大きな力で物を動かさなければならないような 作業に従事していないことは明らかである。機関室の外側の右舷には活魚用の酸素ボンベが見られる。

     右舷側中央のステンレス製の枠(棚)はこの地方独特の構造で、ほとんどの船に見られる。

    中央.....No.1で見られた船と同様に囲刺網漁業に従事している可能性が高い。しかし、ネットホーラ等の 揚網装置がない。動力は船外機であるが、操船用のコンソルがある。網等は左舷側で扱われるので、舷側の一部を 補強している(オレンジ色の舷側上面に灰色のカバーがある)。

     コンソルの前の黒く丸いものは、垂直に立ててある活魚用の酸素ボンベの頭部である。

    右.....No.1に示した漁船である。機関室から2本のホースが出ている。これは漁具やデッキを洗うためである。

    No.3
    [No.3: ft_image_80_12/image005.jpg]

    清栄丸.....漁船には必ず船名と登録番号を記さなければならない。しかし、この地方では、これら両者が はっきりと見られたのは、この船だけである。船首より順に説明する。船名の上の緑色のカバーをかけられたものは、 ネット(ライン)ホーラ、機関室の上の右舷にある黒く長い円筒は活魚用の酸素ボンベである。船尾左舷寄りには 数個の浮標がある。これは発砲スチロールのブロックに軸を通し、その先に水密懐中電灯を付けた手作りのものである。 これは夜間に設置したままにしておく刺網・延縄・カゴ(延縄方式に連結したもの)等の両端や中間につけて、 それらが水中にあることを示すために用いられる。船尾右舷にある袋詰のものは、この写真では特定できない。 船尾にある水色の櫓は、この地方のほんどの漁船に見られ、舵やスクリューを引き上げるためで、ときには漁具 (シジミ桁網等)を引上げるためにも用いられる。その中央の緑色の棒は舵のシャフトを引上げたところで、 舵はかなり深いことが分かる。船の後半の両舷にある枠は、漁具や索具を掛けるためである。

     写真の左下隅に見られるものは、白く荒い材料で編まれた目合い15cm程度の網で、ノリの胞子を付けて水平に 広げて水中に設置するノリ養殖用の網(ノリ網と呼ばれる)である。なお、付近の人家の中に見られる家内工場的な 建物はノリの加工場である。ノリ養殖漁家は、庭先にノリ網の支柱用の竹の束とノリ網が積み上げてあるので、 分かりやすい。背景の人家の中で明らかにノリの加工場であるとみなせる建物は見当たらない。

     No.1からNo.3までに示したすべての漁船は活魚用酸素ボンベを搭載している。従って、漁獲物は可能な限り 活魚として出荷されるので、漁獲量の割に出荷金額は高いと推定される。

    赤須賀地区のシジミ漁船

     No.4とNo.5は赤須賀地区(揖斐長良大橋から上流に見える)に泊まっているシジミ漁船団の全景である。 この川では、このように多くのシジミ漁船が操業している。しかし、出漁日・操業時間と毎日の漁獲量等は自主 規制をしている。

    No.4
    [No.4: ft_image_80_12/image007.jpg]

    No.5
    [No.5: ft_image_80_12/image009.jpg]

     No.5に見られる小型の舟、特に船首を切ったような型のものは、ノリ養殖の作業用である(この写真では、 シジミ漁船との往復や雑作業に使われている)。

    No.6
    [No.6: ft_image_80_12/image011.jpg]

    No.7
    [No.7: ft_image_80_12/image013.jpg]

    No.8
    [No.8: ft_image_80_12/image015.jpg]

    No.9
    [No.9: ft_image_80_12/image017.jpg]



     同じところに繋留してある同じ業種に従事している船でも、よく見ると種々の構造のものがある。

    No.6.....中央の2隻は操舵室のある型である。甲板上の設備の詳細はNo.7とNo.8で説明する。

    No.7.....漁具はNo.10に示すような桁網である。船尾の櫓(緑色)は舵(船尾中央の長い棒は引き上げられた 舵の軸である。No.8では舵柄が見られる)とこの桁を引上げておくために使われる。他の写真では、桁は船尾の 櫓に引上げられているが、この写真の2隻では左舷中央に引上げてある。船首付近には桁網を引上げるための頑丈な デリックがある。普通の漁船では機関室(緑色のカバーがかかっている)の両側にワーピングエンド(機関室の 側壁にあるドラム―普通は真鍮製―で、これを回転させ、ロープをかけてそれに連結された漁具等を引き寄せる ために使われる)があり、それにロープを掛けてデリックによって網等を動かす。しかし、この船ではワーピング エンドがない。普通の漁船ではデリック等の固定索はワイヤーロープであるが、この船では鉄ロッドが使われている。 デリックの後ろの右舷側に、シジミと礫をふるい分けるための動力篩がある。これは船体の割に大きい。この篩の 構造は右舷側から撮影したNo.6とNo.8における方が分かりやすい。

    No.8.....船尾の櫓に舵と網の桁が引き上げられている。右舷側から撮影したので、動力篩の構造は分かり やすい。デリックの支持索の一部にチェーンが使われている。デリック用の動力を取るためのワーピングエンドが 機関紙室の上部に見られる。一番右の船では、櫓の構造が分かり易い。

    No.9.....左側の船について説明する。桁網には、左舷に見られるように長くて頑丈な鉄ロッドの柄が付け られる。これをデリックで引込む。そのために柄の付根にはロープが付いている。

     袋網は、中にシジミと礫を入れたままで礫底を擦るので、網目に組まれたロープのカバーで被われている。 (トロールや底曳網では普通に見られる構造で、スレあるいはカウハイドと呼ばれる)。

     これだけ固定設備の多い船では、他の漁法との兼業は考えられない。

    No.10
    [No.10: ft_image_80_12/image019.jpg]

     これは、赤須賀地区のシジミ漁船が用いる桁網の写真である。向かって右の方に曳かれる。写真では上下が反対 になっている。枠の下辺(写真では上)に付いているソリは狭くて長い。注意をすれば爪が分かる。 袋網は枠の後面(写真では左端の垂直面)を入り口として付けられ、この写真では、袋網は前に回して底の枠から 前に垂れている。

     袋網はかなり長く、連続した操業では、重い枠を引寄せて水中に残したまま、袋網だけを引上げ、漁獲物を直接 篩に落とし、次の曳網に移るような作業法であると考えられる。1日の作業が終わり航走するときに桁を船尾の櫓 に引上げる。

    No.11
    [No.11: ft_image_80_12/image021.jpg]

     これまでに示したような動力を用いなければ動かせないような大型の桁網の他に、人力で扱えるシジミカキが 用いられる。柄は長いが、竹だからあまり力はかけられない。その他の小舟はノリ養殖に使われる。

    船頭平閘門付近で見られたシジミ漁船

    No.12
    [No.12: ft_image_80_12/image023.jpg]

     これまでに示したシジミ漁船は、動力として船内に据え付けられた機関を用いる。 船内機は、推進の他にも作業用の動力源として使えるので、桁網の投揚網と漁獲物選別用の動力源にも用いられる。 しかし、ここに示す漁船は動力として船外機を用いる。船外機は航走に適しているが、直径の小さいプロペラを 高速で回転させるので、曳航力が弱い。またこれを作業用の動力源とするためには、特別の装置が必要である。

     赤須賀地区で見られた漁船と異なり、デリックと動力篩・舵と桁を揚げておくための船尾の櫓がない。

    No.13
    [No.13: ft_image_80_12/image025.jpg]

     これは、No.12に示した船の船尾部分の写真である。左側の袋に詰められたものは、 選別されたシジミである。左舷船尾付近(右手前)には頑丈なシジミカキが見られる。これはNo.11に示した型 である。60馬力程度の船外機では、この程度の漁具でも底を曳くことは困難である(底曳網では数百メートル とうい単位の距離を曳くので、船外機ではできないが、シジミの漁具では数メートルから数十メートル曳けば よいので、効率は悪いが不可能でない)。

     この船の特徴は、船外機を作業用の動力源にできる左舷側の船尾付近にある装置である。船外機をニュートラルで 回転して発電機を回すか、陸上電源で蓄電池を充電する。それによって写真では緑色の円柱に見えるモーターを回し、 その前にある錆色のドラムにワイヤーロープを巻きこむことによって重いシジミカキを引上げる。しかし、動力源が 限られているので、漁獲物の選別装置には使えない。

     このような動力系を利用すれば、予め投錨しておき、ドラムに巻いてあるワイヤーロープをほどきながら後進をし、 桁網を投入して、前進しながらワイヤーロープを巻き込めば、大きな桁網でも曳ける。しかし、船首からドラムまで 伸びるワイヤーロープは見られないし、ドラムの方向も適当でない。このドラムに巻き込んであるワイヤーロープは、 それには短すぎるので、この方法は行われていないと考えられる。

    No.14
    [No.14: ft_image_80_12/image027.jpg]

     No.12とNo.13に示した船が見られた付近で、この船を見かけた。木船で、船内機関である。漁具はNo.13で見られた ものと同様に簡単である。画面一杯に横切るような長い鉄製の柄が付いている。柄の付根にロープが結ばれているので、 これによって漁具を引上げると考えられるが、それに用いられる動力系は見当たらない。(漁具を舷側に固定して 曳いた後で後進をさせながら、人力で引上げる可能性が考えられる。)選別用の動力篩は装備されている。

    ウナギ筒

     赤須賀地区で見られた。黒色の長い塩ビの筒を3本ずつ束ねている。海ではこれに似たものを長い幹縄に数メートル 間隔で数十個(延縄方式で)繋ぎ、アナゴを漁獲するために用いる。延縄方式の場合はラインホーラーで揚げられる。 しかし、ここでは、そのようなことは考えられない。

     この舟は副業的にウナギ筒を扱うのか、筒が一時的にここに置かれているのか不明である。

    No.15
    [No.15: ft_image_80_12/image029.jpg]

    伊勢大橋から見た桝網

    No.16
    [No.16: ft_image_80_12/image031.jpg]

    No.17
    [No.17: ft_image_80_12/image033.jpg]

    No.18
    [No.18: ft_image_80_12/image035.jpg]

    No.19
    [No.19: ft_image_80_12/image037.jpg]

    No.20
    [No.20: ft_image_80_12/image039.jpg]

     伊勢大橋のすぐ上流の芦原の中の水路に桝網が見られる。水路の下流側の岸から上流に向かって(写真では手前から 中央に向かって)垣網が伸びる。すなわち、この網は本流から直交方向に伸びる葦原内の水路の下流側の岸に沿って 動く魚を狙って設置されている。魚は垣網に誘導されて、その先にある囲い網に入り、最後には囲い網の隅の底から 外側に伸びている袋網に入る。袋網はNo.16では左端に、No.20では先の網の左端(画面のほぼ中央)に続く水面の点 として見られる。No.19では、囲い網の左右に並ぶ杭の間の川底にある。網に近い方の杭には、この袋網の口付近から の綱が結びつけられている。この綱を手繰って袋網の口を引上げると、魚は袋網の奥に追い込まれ、袋網とともに 取り上げられる。河川では流れがあると、No.20に示すようにゴミがかかり易いので、あまり流れのない葦原の水路 以外では使用できない。

     その他にも、小川が本流に落込むところ等に小型のヤナが見られた。


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