FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 4 部
    80 地域別
    13 琵琶湖北岸における漁法




        われわれには、海面漁業はなじみが深いけれども、淡水漁業には接する機会が少ない。淡水漁業の一面を知る ために1970年代の中頃に琵琶湖の北岸を訪れた。

     琵琶湖には独特の漁法が多い。しかし、漁期・操業場所・操業時間等が限られている。

            ここに収録した写真は、秋の朝に操業する漁法を主体とし、漁期外でも漁具を見られるものを含み、次の順に記す:
    (1) ウハ(鵜羽)を使ったサデ網
    (2) 刺網
    (3) ヤナ
    (4) エリ
    (5) かけまわし
    (6) エビカゴ
    (7) その他のカゴ

    (1) ウハ(鵜羽)を使ったサデ網

     2人が組になって行う漁法である。No.1に示すように、1人が川に入ってサデ網を広げて魚を待ちうけ、もう1人が 竿の先につけた鵜の羽で上流から水面を叩いて川魚(主にアユ)を網に向かって追込む。

    No.1
    [No.1: ft_image_80_13/image001.jpg]

     No.2はそれに使うサデ網を示す。網は水中よりも空中における方が見え易いが、この網は細くて丈夫な糸で編ま れているので、空中でもほとんど見えない。

    No.2
    [No.2: ft_image_80_13/image003.jpg]

    No.3とNo.4は、使い方に関する陸上におけるデモンストレーションの写真である。

    No.3
    [No.3: ft_image_80_13/image005.jpg]

    No.4
    [No.4: ft_image_80_13/image007.jpg]

     No.5はこの漁法に使う鵜の羽で、漁家の軒先に干してある。

    No.5
    [No.5: ft_image_80_13/image009.jpg]

    (2) 刺 網

     細目小糸網等、種々の名前で呼ばれる。

     海に比べると湖水では流れがなく、大型の魚が少ない。したがって、網地は細い糸で編まれ、網丈は高く、浮子と 沈子を小さくして網地に力がかからない構造 ―すなわち海面漁業で使われる網よりは理想に近い型―にできる。 また、No.9とNo.10に示すような丈が低い網は浅い所で使われる。このような場所は水草が茂り、魚はそれを押分けて 泳ぐので網を見えにくくしなくてもよいが、写真に示すように見えにくい。

     網糸が細く、以下の写真では色が分からないので、ここに示した。すなわち、網は水色か透明である。

    No.6
    [No.6: ft_image_80_13/image011.jpg]

    No.7
    [No.7: ft_image_80_13/image013.jpg]

     No.8からNo.10までは、琵琶湖で使われる刺網の例である。

     No.8は3枚網である。

     1延の網はあまり長くできないし、揚網機で揚げることは考えられない。したがって、使用中と揚網中には大きな 力がかかると考えられないので、浮子綱は細い。浮子は(桐の)板切で、細くて長く、数が多い。No.9に示す網では、 網丈が低く浮子の間隔が特に広い。浮子綱付近と沈子綱付近の縁網の部分は太い糸で編まれ目合いは大きい。 沈子綱はシュロの繊維等で作られ、細い。沈子は鉛球か素焼であり、湖底に密着させるように小さくて数が多い。

    No.8
    [No.8: ft_image_80_13/image015.jpg]

    No.9
    [No.9: ft_image_80_13/image017.jpg]

    No.10
    [No.10: ft_image_80_13/image019.jpg]

     No.11は浮子綱付近、No.12とNo.13は沈子綱付近の構造を示す。

    No.11
    [No.11: ft_image_80_13/image021.jpg]

    No.12
    [No.12: ft_image_80_13/image023.jpg]

    No.13
    [No.13: ft_image_80_13/image025.jpg]

    (3)  ヤナ

     琵琶湖には多くの河川が流入し、季節的にそれらには種々の構造のヤナが設けられる。しかし、それらを直接 観察する機会がなかったので、水産試験場に展示されていた模型の写真を示す。

    No.14
    [No.14: ft_image_80_13/image027.jpg]

    No.15
    [No.15: ft_image_80_13/image029.jpg]

    No.16
    [No.16: ft_image_80_13/image031.jpg]

     No.17は湖水で使われるヤナである。次に示すエリに比べると構造は簡単で、海面漁業における小型定置網と よく似ている。

    No.17
    [No.17: ft_image_80_13/image033.jpg]

    (4) エリ

     琵琶湖では最も目につき易い独特の漁法である。基本的には、2列に立てた竹杭の間に、竹で作った簾(ス)を 挟んで組立てた複雑な定置網である。

     写真は低い角度からしか撮れないので概形が分かりにくい。それを補うために、No.18としてその模型、No.19 としてその写真を示した。

    No.18
    [No.18: ft_image_80_13/image035.jpg]

    No.19
    [No.19: ft_image_80_13/image037.jpg]

     No.20は湖岸から見たエリの写真である。中央の黒っぽい部分は岸から沖に向かって伸びる垣網に相当する部分 である。その先端の両側(左右)迷路がある。

     岸にはエリの材料にする竹が積まれている。

    No.20
    [No.20: ft_image_80_13/image039.jpg]

     沖から写したエリの写真である。No.18の模型に示したように、迷路の部分はこの写真では岸の近くと手前の 2段になっている。その間では垣網を作っているので、竹の杭が高く伸び、作業中の船が写っている。

    No.21
    [No.21: ft_image_80_13/image041.jpg]

     湖岸とエリの中間から、エリに向けて撮った写真である。

     左は垣網の部分で、作りかけている。右が迷路の部分である。

    No.22
    [No.22: ft_image_80_13/image043.jpg]

     No.18から分かるように、左右の両端は迷路が方向を変える溜りの部分になる。迷路は幾重にもなっている。 左上は、垣網に当たった魚が入ってくる最初の部分である。迷路は次第に細くなり、各迷路の末端は半円型の溜り になる。次の部分がその沖側にほぼ平行に続く。最初の迷路からの入口である左の入口と、次の迷路の末端である 右の入口(最も奥の部分)を比べると、迷路と入口は次第に狭くなることが分かる。

    No.23
    [No.23: ft_image_80_13/image045.jpg]

    No.24
    [No.24: ft_image_80_13/image047.jpg]

     何回か折曲がって最後の溜りになる。これは最後の溜りの外側から見た写真で、その前の迷路の部分が上に 写っている。

     最後の溜りの入口は少し大きな魚では押し分けなければ入れないように狭い。  壁の部分は、本来は竹で作った簾であったが、その形を残したプラスティック製の基本パネルを組みたてる ように変わっていた。それを竹に結ぶ縄は、本来は藁縄であったが、それに似た荒い化繊を撚合わせた縄になって いた。この方が長持ちするが、藁縄は付け変える際に切ってすてれば腐ってしまうが化繊では腐らないので問題 がある。

     最後の溜りの外側には台がある。この溜りにはウナギのような捕まえにくい魚を取り上げるために、予め筒や カゴを入れてある。

     その台に乗って、中の魚を取上げる。右下の角にはその台が写っている。台の部分の竹杭を切って魚を掬い やすくしてある。

    No.25
    [No.25: ft_image_80_13/image049.jpg]

    No.26
    [No.26: ft_image_80_13/image051.jpg]

    No.27
    [No.27: ft_image_80_13/image053.jpg]

    No.28
    [No.28: ft_image_80_13/image055.jpg]

     入っている魚を掬上げるのには、溜りの型に合わせたタモ網が使われる。この網はツボ掻きと呼ばれる。

    No.29
    [No.29: ft_image_80_13/image057.jpg]

    No.30
    [No.30: ft_image_80_13/image059.jpg]

    No.31
    [No.31: ft_image_80_13/image061.jpg]

    No.32
    [No.32: ft_image_80_13/image063.jpg]

     No.33からNo.37までは、エリを設置する作業の写真である。

     エリは2列に並んだ竹杭の間に竹(プラスティック)製の簾を挟込んで作られる。したがって、1統のエリを 作るためには多数の竹竿を湖底に立てなければならない。

     No.33はその際に竹の上端に被せて叩く道具である。叩きながらNo.34に示したポンプからのホースを杭に沿わせて 降ろし、水流で底の砂や泥を吹き飛ばしながら杭を立てる。

    No.33
    [No.33: ft_image_80_13/image065.jpg]

    No.34
    [No.34: ft_image_80_13/image067.jpg]

    No.35からNo.37までは、竹杭の列の間に竹(プラスティック)製の簾を挟込む作業の写真である。

     魚を取上げるためには1人でよいが、エリを作るには、この写真に示すように4人程度の共同作業が必要である。

    No.35
    [No.35: ft_image_80_13/image069.jpg]

    No.36
    [No.36: ft_image_80_13/image071.jpg]

    No.37
    [No.37: ft_image_80_13/image073.jpg]



     竹杭で支えるエリは、設置作業に手間がかかるし、深い漁場には設置できないので、海面漁業におけると同様に、 竹杭と竹(プラスティック)製の簾の代わりに、ブイと網で作ったエリも見られる。

    No.38
    [No.38: ft_image_80_13/image075.jpg]

    (5) かけまわし

     琵琶湖は大きいので、湖水では珍しい漁船によるエビや底魚類を対象とした「かけまわし」が見られる。 No.41からNo.43までは、この漁業に使われる漁船を示す。肩幅が狭く、乾舷が高くなく、主機関は船尾に据付け られているのが、琵琶湖における漁船の特徴である。その他に、この漁業に従事する漁船の特徴を船首から順に記す。 大きなイカリが見られる。これは網の反対側に打って、曳索を捲込む際に船が網に引寄せられないようにする ためである。No.41に見られるイカリは鉄製であるが、No.42に見られるイカリの本体は木製で鍬の刃の型をしている。 両端に狭いドラムがあり船の長さのほぼ半分にわたるシャフトが舷側に沿って見られる。このドラムに1本ずつ 曳索をかけて巻上げる。

     No.65からNo.67に示す船では船尾に長いスタビライザーが付き、入港中は折曲げてある。漁場は近いが、 操業時間が申合わせ等によって決まっているときには船速が要求される。肩幅の狭い船は網を曳くのには適さない。 しかし、「かけまわし」では網を漕がないので、この船型でよい。

     No.43に示す左の船では、シャフトは主機関からベルトで動かされることが分かる。

        右の船では曳索と網が見られる。これらは船に比べると大きい。海面漁業ではこのような船に比べて大きな網を 搭載することは考えられない。

    No.41
    [No.41: ft_image_80_13/image077.jpg]

    No.42
    [No.42: ft_image_80_13/image079.jpg]

    No.43
    [No.43: ft_image_80_13/image081.jpg]

     No.44は曳索を示す。海面漁業における「かけまわし」と同様に、曳索は網の近くでは太いが、次第に細くなっている。

    No.44
    [No.44: ft_image_80_13/image083.jpg]

     No.45は天井網の前端部 ―すなわち、ヘッドロープ付近の構造― を示す。網地は細い網糸で小さい網目に編 まれている。これは、釣用の餌か佃煮の原料とする小さなエビを主な対象とするためである。

     浮子は少なく、海面漁業における刺網用のものが使われる。

    No.45
    [No.45: ft_image_80_13/image085.jpg]

     No.46とNo.47はグランドロープとその付近を示す。本体と縁網の網目と網糸を比べられる。また、グランド ロープの構造とそれに網を懸ける部分を示す。グランドロープには、ボビン・チェーン・沈子等は付いていない。

    No.46
    [No.46: ft_image_80_13/image087.jpg]

    No.47
    [No.47: ft_image_80_13/image089.jpg]

     上記の記載を参考にして網全体の構造をもう一度みなおすために、No.48を示した。この写真には、下と上で2隻 の船の中央部が写っている。船尾は画面の右である。

     上の船の写真では、機関室前面下端のハンドルによってシャフトの動きが制御され、シャフトはチェーンドライブ であることが分かる。No.43に示した船ではベルト駆動であった。ベルト駆動では、大きな力がかかるとスリップ するが、チェーンドライブではスリップしないので、両者の得失は十分考えなければならない。

    No.48
    [No.48: ft_image_80_13/image091.jpg]

     以下は操業中の写真である。早朝の操業である。したがって、太陽は東の低い位置にある。このことに注意し ながら見ると船の方向が分かる。

     普通は男子2人で操業する。左旋回をする船から、網を背に見ると左側の曳索の端にブイを付けて投入し、 次いで網、右側の曳索の順に左舷中央から投入する。

    No.49
    [No.49: ft_image_80_13/image093.jpg]

    No.50
    [No.50: ft_image_80_13/image095.jpg]

    No.51
    [No.51: ft_image_80_13/image097.jpg]

     網を投入し終わると、右舷からイカリ(No.41とNo.42に示した)を投入する。

     曳索は左舷から、船を横切って右舷にある狭いドラムでゆっくりと巻上げられる。船の右舷に見える黒いブイは、 このイカリの位置を示す。網は遠いので、曳索は水平に近い方向に伸びている。

    No.52
    [No.52: ft_image_80_13/image099.jpg]

    No.53
    [No.53: ft_image_80_13/image101.jpg]

    No.54
    [No.54: ft_image_80_13/image103.jpg]

    No.55
    [No.55: ft_image_80_13/image105.jpg]

    No.56
    [No.56: ft_image_80_13/image107.jpg]

    No.57
    [No.57: ft_image_80_13/image109.jpg]

     曳索の巻上げがすすむに従って、曳索の揚がってくる角度が急になる。

    No.58
    [No.58: ft_image_80_13/image111.jpg]

     手木が揚がる。

    No.59
    [No.59: ft_image_80_13/image113.png]

     網が揚がってくる。

    No.60
    [No.60: ft_image_80_13/image115.jpg]

    No.61
    [No.61: ft_image_80_13/image117.jpg]

     袋網を引揚げ、漁獲物を取出す。

    No.62
    [No.62: ft_image_80_13/image119.jpg]

    No.63
    [No.63: ft_image_80_13/image121.jpg]

     普通は男子2人が乗組み、左右の曳索を別々のドラムで巻上げるが、このように2本の曳索を1つのドラムで 巻上げることによって、1人で操業できるようにした船が、少数ながら見られた。

    No.64
    [No.64: ft_image_80_13/image123.jpg]

    No.65
    [No.65: ft_image_80_13/image125.jpg]

    (6)エビカゴ

     No.41とNo.42に示した船溜りにはエビカゴを搭載した船が混ざっている。これらは、「かけまわし」とほぼ同じ 漁場で同じエビを対象に操業する。こちらの方が漁獲量は少ないと考えられる。しかし、先に記したように漁獲物 は釣の餌と佃煮に向けられる。このような目的では、漁獲物の傷みが問題になるので、「かけまわし」よりも漁獲を 傷めないカゴによる漁獲物の方が単価は高い。これが両漁法の共存している原因だろう。

     No.66からNo.68はエビカゴを搭載している漁船の写真である。これらの写真から分かるように、舷側に沿った シャフトがない以外、「かけまわし」用の漁船と区別しにくい。

    No.66
    [No.66: ft_image_80_13/image127.jpg]

    No.67
    [No.67: ft_image_80_13/image129.jpg]

    No.68
    [No.68: ft_image_80_13/image131.jpg]

     この漁業に使われるカゴを示す。当時は円筒形の壁とジョウゴは割竹製で、底は表面をコーティングしたボール 紙製であった。延縄方式で設置する。

    No.69
    [No.69: ft_image_80_13/image133.jpg]

     操業中の写真である。これらも、早朝に撮影したので、太陽は東の低い角度にある。夫婦2人で操業する。 右舷中央付近で揚げ、漁獲物は水を張った樽に直ちにあけられる。

    No.70
    [No.70: ft_image_80_13/image135.png]

    No.71
    [No.71: ft_image_80_13/image137.jpg]

    No.72
    [No.72: ft_image_80_13/image139.jpg]

     遠景に白い点として写っているのは、操業中の「かけまわし」漁船である。

    No.73
    [No.73: ft_image_80_13/image141.jpg]

    (7)その他のカゴ

     陸上で見られたカゴの写真を示す。

     これらは、普通は単独で使われる。しかし、この地方では、漁獲物を取上げやすくするため、主にエリの最後の 溜りに予め設置するような特殊な使い方がある。

    No.74
    [No.74: ft_image_80_13/image143.jpg]

    No.75
    [No.75: ft_image_80_13/image145.jpg]

    No.76
    [No.76: ft_image_80_13/image147.jpg]

     タツベと呼ばれるカゴで、(特に魚の動きが少ない冬期に)水草の中に設置される。手前が入口である。 その壁は内側に向かって棘になっており、末端は魚が押分けなければ入れないくらい狭い。水草の中では魚は 押分けて泳ぐので、入口の末端はこのように狭くても魚は入る。

    No.77
    [No.77: ft_image_80_13/image149.png]

     これらの他にも多くの独特の漁法はあるだろうが観察できなかった。同じ漁法でも、その後詳細が変わったもの があるだろうし、あるいは消滅した漁法があるだろう。


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