漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 5 部 11 東ヨーロッパ系のトロール船 これは、第 1 部(旧)東ドイツのトロール船、第2部ソ連のトロール船及び第3部ブルガリアのトロール船の 3部よりなる。 東ヨーロッパ系諸国のトロール船団は、 以前には北洋でも見られ、世界各地の港でもよく遭遇した。しかし、それらを近くから眺めたり、船内を見学 できる機会はほとんどなかった。 近年はそれら諸国では社会情勢が烈しく変動し、それが漁業にも反映した。また、これらの諸国を含め世界の 遠洋漁業国は、沿岸諸国の200浬漁業専管水域設定の影響を受ける。これらのために、各国の漁獲量とその世界 における順位は年ごとに大きく変動し把握しにくい。しかし、その目安を示すと次の通りである:1983年には 旧ソ連が世界第2位の1,000万トン、ポーランドが第21位の72.7万トン、旧東ドイツが第31位の30万トンであり、 1990年にはソ連が第2位の1,039万トン、ポーランドが第33位の47万トンであった。そのうちで遠洋トロール船団 による漁獲量が占める割合は国によって異なるが、かなりの部分を占めていることには疑問の余地がない。
トロール船は各国とも基本構造がよく似た漁具を使うにもかかわらず、国ごとに船型が異なる。そして、
東側諸国のトロール船は西側諸国のそれらとかなり外形が異なることは分かっていても、その詳細に関する
情報―特に細部まで判読できるような写真―が少ない。幸いにも1988年3月にアルゼンティンのPuerto Deseadoに
停泊していた東トイツのトロール船の船内と、1989年3月に同じくアルゼンティンのBuenos Aires港に着岸して
いたソ連とブルガリアのトロール船について外から撮影する機会を得られた。船内を見学できず説明を得られ
なかった上に、後[NEC-PCuse1]で写真を見て気がついた点が多い。そのために十分な説明を加えられない。
しかし、東側のトロール船に関する情報には特に深い関心が持たれているので、ここに資料としてそれらの
写真を揚げる。
[No.1: ft_image_5_11/image001.jpg] No.1 東ドイツのトロール船の全景
北洋で見かけたソ連の大型トロール船は、船橋が前方にあり、船尾付近まで舷側が高く、船尾付近にトロール ウインチのある型が多かった。しかし、この船はそれらと全く構造が異なり、船首から約1/3のところに船橋と 居住区があり、その後は作業甲板になっている。 作業甲板は北欧系のトロール船と同様に両舷側に連なる倉庫が側壁となって、その内側で作業をする人は風波 から保護される。日本の大型トロール船と同様に、2基の鳥居型マストがある。しかし、船橋と袖網巻込み用の ドラムの間にある前方のマストは、この写真では分かりにくい。各部分について逐次説明する。
[No.2: ft_image_5_11/image003.jpg] No.2 操船用のコンソル (正面から右舷にかけて)
[No.3: ft_image_5_11/image005.jpg] No.3 甲板中央より前方を望む
グランドロープ(中層トロールではフットロープ)やワープ等の重い金属製の部品が甲板上を走るので、 近年では甲板は、鉄板のまま、またはセメント張り、あるいは操業中に木製の仮設甲板を張るような船が増えた。 しかし、この船では従来から見られるような木甲板である。 船橋の後面は全面が窓になっており、甲板上を見渡せる。日本のトロール船では船橋の下にウインチ類の 集中コントロールルームがあるが、この船ではそれに相当するものは見られない。従って、それぞれのウインチ類は、 その近くで別々に操作される。鳥居型マストの柱は角型である。 最も特徴的な構造は、袖網巻込み用のドラムとその周辺である。このドラムは左右1基ずつあり、その大きさは 通路の高さから推測できる。両方のドラムは1つの動力システムで動かされる。このドラムは、日本のトロール船 ではトロールウインチが置かれる位置にある。しかし、トロールウインチは船尾にある。このドラムのそれぞれには、 左右の袖網だけが別々に巻込まれる。それからハッチ1つを挟んだ後方の中心線上に、倉庫を兼ねた高い隔壁がある。 この写真では、甲板前端の中央にある白い構造として写っている。この隔壁の線上から撮影したので、この写真 からはその構造と詳細は分かりにくい。この隔壁の上部は幅が広く、基部は狭い。上は覆いがかかっている。 この隔壁はNo.5からNo.8まででも見られ、それらを総合すると構造が分かる。両舷側に沿った倉庫(側壁)― 特に救命艇を置いてある部分―の庇は幅が広く、上は通路になり、下の作業甲板を風波から保護する。 次の大きな特徴は、大きな密閉式の救命艇が搭載されていることである。 その他にも、この写真では袖網巻込み用ドラム外側の甲板上にある頑丈なワイヤ−ロープ巻き込み用のリール・ 角型のフロントウエイト・縦長の曲面オッターボード・甲板上約70cmの高さで側壁の内側に沿った手すり・甲板 から約30cmの高さにある環の列が見られる。それらは逐次説明する。
[No.4: ft_image_5_11/image007.jpg] No.4 袖網巻き込み用のドラム
ドラムは幅が狭く直径が大きい。これは中央にハッチの幅をあけ、この写真では見られないがドラムの外側に フロントウエイトのワイヤーロープを巻込むリールを付ける幅をとらなければならないためである。 欧米の漁具では各所にブレードが使われているが、この船が使う網の本体に関する限りでは、ブレードが使われて いる形跡は見られなかった。 2つのドラムの間にある動力系の上に、網で覆われた大きな球形のブイ(オレンジ色)が見られる。この船は 中層トロールを行うので、それに使われる可能性が考えられる。 袖網巻込み用ドラムの奥の1段上には1対のリールシステムがある。このリールは、前部鳥居型マストの大きな ブロックにかけられたワイヤーロープを巻込んで網を引寄せるためである。日本のトロール船では袖網巻込み用の ドラムの位置にトロールウインチがあり、そのセンタードラムが前部鳥居型マストのブロックからのワイヤー ロープを巻き込む。しかし、この船ではトロールウインチは船尾にあり、袖網巻込み用ドラムにセンタードラムを 付ける代わりに、同じ作業を行うために別のシステムが付けられる。甲板の中央にある隔壁を兼ねた倉庫は、 手前に見られるハッチの後方から始まる。
[No.5: ft_image_5_11/image009.jpg] No.5 右側の袖網巻き込み用のドラムとその周辺
[No.6: ft_image_5_11/image011.jpg] No.6 船橋より船尾を望む
前から後に向かって(画面では下から上に向かって)説明する。手前の中央(画面では左端)が、袖網巻込み用 ドラムのすぐ後にある隔壁を兼ねた倉庫である。その上には、中層ロープトロールの網口付近の巨大網目を作る ロープが積上げられている。この倉庫の後方には、船尾方向に枠(写真では白い直線に見える)だけが伸びる。 これはNo.15の右端にも写っている。その左舷寄りに見られるオッターボードはNo.15とNo.16で説明する。 No.3で触れた密閉式救命艇の上から見た型が分かる。煙突の後方の両側にはロープトロール用の資材が積み上げ られている。スタンガントリー付近は日本のトロール船における構造とかなり異なることが伺えるが、その詳細は 後で説明する。
[No.7: ft_image_5_11/image013.jpg] No.7 後方の概要
手前のデリックの先から左舷に下りる2本のワイヤーロープのうちで外側のものには錘が等間隔に付いている。 これはNo.9とNo.23にも見られる(後者ではよく分かる)。この意味は後に記す。
[No.8: ft_image_5_11/image015.jpg] No.8 甲板中央にある隔壁を兼ねた倉庫
[No.9: ft_image_5_11/image017.jpg] No.9 左舷後部に積まれているロープ
スタンガントリー付近の構造の説明は、次の写真にゆずる。
[No.10: ft_image_5_11/image019.jpg] No.10 船尾付近
トロールウインチ周辺の構造もこの写真の方が分かりやすい。ドラムには、直径が3mを越えるツバが付いている。 左舷のドラムのツバは背景から識別しにくいが、右舷のそれは分かりやすい。トロールウインチの前には太い枠 があり、それには縦横に走る太い鉄のロッドの網を張ってある。このように細部において安全対策が行き届いている。 スタンゲートは枠だけの構造になっている。これが鉄板で造られている船や十分に太い金網を張ってある船が多いが、 船尾から打込んだ波の水はけ等との関係があり、その長短は慎重に考えなければならない。 スタンガントリーは続いている。その上にはオッターボードを吊下げる櫓が見られる。それには白く塗られた 受け板が付けられており、オッターボードの動揺を防ぐ。櫓のすぐ内側には1対の(白い)リールが見られるが、 その役割は聞き漏らした。櫓の下にトップローラーがあり、ガントリーの中央の下にコッドエンド引出し用の ブロックが見られる。
[No.11: ft_image_5_11/image021.jpg] No.11 安全フック
[No.12: ft_image_5_11/image023.jpg] No.12 フロントウエイト
[No.13: ft_image_5_11/image025.jpg] No.13 フットロープ
[No.14: ft_image_5_11/image027.jpg] No.14 フットロープ(2)
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[No.15: ft_image_5_11/image029.jpg] No.15 オッターボード
No.16
No.16は先の写真において画面の左側に見られたオッターボードの写真である。ブラケットの構造を示す。 下端が白く塗られていることについて、角の部分に錆が浮いているので塗装中でない。また、魚の行動と関係が あるとは考えられない。左右を識別するため以外は考えられないが、その必要性は疑問である。
[No.17: ft_image_5_11/image033.jpg] No.17 魚洗い機
[No.18: ft_image_5_11/image035.jpg] No.18 金網製コンベヤー
[No.19: ft_image_5_11/image037.jpg] No.19 魚処理機の一例
Buenos Aires港に繋留されている4隻の大型トロール船を外から観察する機会を得た。 先に東ドイツのトロール船の構造を示したが、ソ連のトロール船はそれとかなり異なることが分かった。なお、 船内を見学することも、乗組員に質問する機会も得られなかったので、ここでは写真を示し、簡単な説明を加える にとどめる。 外から観察できたのは、4隻であるが、それぞれ詳細は異なる。2隻ずつ繋留してあったので、それらを前の 内側・前の外側・後の内側・後の外側と表現する。
[No.20: ft_image_5_11/image039.jpg] No.20 トロール船の前部
[No.21: ft_image_5_11/image041.jpg] No.21 船橋の前にあるドラム
このような乾舷の高い船で巻き網を行うことは日本の漁船だけを見ていれば考えにくいが、ノルウエーでは このような乾舷の高い船で巻き網を行う。また、そのように考えると、No.22に示す搭載艇は、救命艇と考える よりも、巻き網のスキフと見られる。このことは、次で触れる。 前外側の船の船橋の上には種々の構造物のあることが分かる。船橋の上に見られる見張りあるいは操舵に当たる 囲いらしいものは、前方と側方だけが透明になっており、操業中にはここで操船する可能性が考えられる。 このような装置は他の船には見られない。船橋の上には短い四角の柱(白塗り)があり、それに大きなブロック が付けられ、ワイヤ−ロープが前方に伸びる。No.20とNo.21ではこの部分が欠けている。この装置の目的は分からない。
[No.22: ft_image_5_11/image043.jpg] No.22 搭載艇とその周辺
外側の船に搭載されている救命艇は、先に示した東ドイツのトロール船が搭載しているものと色と型が同じである。
[No.23: ft_image_5_11/image045.jpg] No.23 甲板の中部
[No.24: ft_image_5_11/image047.jpg] No.24 船尾の概景
No.25 スタンガントリーと楕円オッターボード
[No.25: ft_image_5_11/image049.jpg] No.25 スタンガントリーと楕円オッターボード
[No.26: ft_image_5_11/image051.jpg] No.26 前方より
[No.27: ft_image_5_11/image053.jpg] No.27 斜め後方より
煙突の前面には、短い鳥居型マストの上部と似た構造物がある。船は大きいが、鳥居型マストは船尾付近の 1基だけである。オレンジ色の搭載艇は、巻き網のスキフの特徴を備えていないので、この船は巻き網を兼用 しないと考えられる。その船型とダビットは、先に示した東ドイツ船におけるそれらとほとんど同じである。 鳥居型マスト付近に縦長曲面オッターボードが見られる。しかし、船尾には横楕円オッターボードが見られる (No.29)ので、前内側の船と同様に、両方のオッターボードを必要に応じて使い分けていると考えられる。 トロールウインチは、先に示した東ドイツ船と同様で、船尾付近にある。
[No.28: ft_image_5_11/image055.jpg] No.28 前方の鳥居型マストを兼ねたと考えられる煙突
[No.29: ft_image_5_11/image057.jpg] No.29 船尾付近
[No.30: ft_image_5_11/image059.jpg] No.30 スタンガントリーと予備資材
以上記したように、同じ船団でも船によって細部が異なり、またオッターボード1つを取り上げても、型や
吊り方に変化が多い。 同じ突堤の反対側に2隻のブルガリアのトロール船が繋留してあった。それらは、これまでに記した東ドイツ やソ連のトロール船と構造がかなり異なる。
[No.31: ft_image_5_11/image061.jpg] No.31 全景
[No.32: ft_image_5_11/image063.jpg] No.32 前方より
[No.33: ft_image_5_11/image065.jpg] No.33 右舷より
東欧系の船は全密閉式の救命艇を搭載するが、この船の救命艇は普通の型である。
[No.34: ft_image_5_11/image067.jpg] No.34 右舷後方より
[No.35: ft_image_5_11/image069.jpg] No.35 船尾より
[No.36: ft_image_5_11/image071.jpg] No.36 スタンガントリー付近
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