FishTech - Photographs of Fishing Techniques
漁業技術の画像集・FishTech


著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Compiled by Emeritus Prof. Hiroshi Maeda, Fisheries College, Shimonoseki, Japan

協力者/水産大学校助教授 深田耕一
in collaboration with Asst. Prof. Koichi Fukada, Fisheries College, Shimonoseki, Japan


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    第 5 部
    18 カナダ大西洋岸の漁船と漁法 + [解説編]



     北アメリカ大陸大西洋岸北部は世界三大漁場の一つのNewfoundland 漁場に近いばかりでなく、北ヨーロッパに近い。 同じ高緯度のよく似た自然条件で、同じような魚種を対象として漁業をする。北欧型の漁船が北アメリカ大陸の 大西洋岸の社会経済的な影響を受け、それに適応したのがこの地方の漁船である。従って、日本の漁船とかなり違った 型のものが見られる。同じ国でも大西洋岸と太平洋岸では、北ヨーロッパの影響と漁業の歴史や社会経済的背景が 異なる。そのために漁業と漁船に大きな違いが生じる。

     人口が少なく、日本に比べると高緯度にある。従って、少人数で行える漁業が多く、漁船の細部の構造は気温と 水温が低い地域に適したようになっている。

     この写真集は、これらの特徴を示すとともに、日本の漁船や太平洋岸の漁船との比較に重点を置き、1988年11月末に Newfoundland のSt. John’sと Nova Scotia のHalifaxで撮影した約80枚の漁船と漁具に関する写真から編集した ものである。

     熱帯地方以外の沿岸漁業では、季節とともに対象魚種と漁法が移り変わる。この傾向は高緯度地域では特に著しい。 この写真を撮影したのは、厳しい気候の冬を迎える直前である。従って、撮影期間は特徴的である冬期の漁業を知る ためには適しているが、この地域の漁業の全体像を把握するためには、必ずしも最適であったと考えられない。漁業は 最も働きやすい夏期に最も活発になるので、その期間に撮影すればもっと多くの情報を得られただろう。

    トロール漁業
    小型トロール船

     No.1からNo.6までは、いずれもSt. John’sにおいて撮影した写真である。漁船は高緯度で厳しい海況の海域に おいて少人数で操業できるような基本構造になっている。すなわち、船体は低く幅が広い。漁場が近いので航走性能 に重点を置く必要はなく、曳網性能に重点が置かれ、船体は短い。冬期にかなり着氷すると考えられるが、索具と 手すりが多いことが気がかりである。

    No.1
    [No.1: ft_image_5_18/image001.jpg]
    No.1 小型トロール船の船首方向から見た全景(1)

    No.2
    [No.2: ft_image_5_18/image003.jpg]
    No.2 小型トロール船の船尾方向から見た全景(1)

    No.3
    [No.3: ft_image_5_18/image005.jpg]
    No.3 小型トロール船の船首方向から見た全景(2)

    No.4
    [No.4: ft_image_5_18/image007.jpg]
    No.4 小型トロール船の船尾方向から見た全景(2)

    No.5
    [No.5: ft_image_5_18/image009.jpg]
    No.5 小型トロール船の船尾構造

    No.6
    [No.6: ft_image_5_18/image011.jpg]
    No.6 小型トロール船が使用するオッターボード

     船橋部だけが高く、その下が居住区になっている。居住区の後方には広い作業用のスペースをとってあり、ここでも 操船できる。投揚網作業に必要な船尾付近以外は遮蔽されている。しかし、作業スペースの両舷には大きな窓か引き 戸があり、海が穏やかなときには開けられる。

     船橋部後縁の舷側近くには1対の長いブームがある(No.1、No.2及びNo.4ではブームは白いので分かりにくいが、 No.3とNo.5では濃紺なので分かりやすい)。航海中はこれを水平に倒す。水平に倒したこのブームは次の2つの ために使われる:その1つは、フロリダ式エビトロールで見られるように、この先端からワープを取る。もう1つは、 スタビライザーを水中に降ろして支える。スタビライザーとはネットレコーダーの曳航式の受波器と大きさ・型とも によく似た鉄板製のもので、これを水面下に降ろしておくと、船はほとんどローリングをしなくなる。

     オッターボードは木製鉄枠の横長か鉄製の楕円型(短軸方向のスリットがある)で、船尾付近の両舷側に納められる。 太平洋岸で普通に見られる開いたL字型のオッターボードはここでは見られない。(鉄製楕円型のオッターボードは 日本や北アメリカ太平洋岸のトロール船ではほとんど見られない。)網の大部分はドラムに巻込まれる。網の末端と コッドエンドは船尾にある高くて頑丈なガントリーによって引き上げられ、ドラムの前に降ろされる。No.2とNo.4 に見られるガントリーは起倒式である。漁獲物が入ったコッドエンドがドラムを越えるので、ドラムは鉄枠で保護 されている(No.2及びNo.4)。しかし、ガントリーがない船(No.5及びNo.6)では、コッドエンドを吊上げる ためにはデリックしかない。漁獲物が入ったコッドエンドはギャロースを結ぶ枠の上を水平に近い方向に引かれ、 ドラムの前に取込まれる。船尾はドラムの幅だけがわずかに下がっているが、スタンランプに相当する構造はみら れない。

    大型トロール船

     No.7とNo.8はHalifaxで撮影した標準型の大型トロール船の写真である。舷側は高いように見えるが、甲板は 舷側の中程に見られる線の高さで、それより上は風除けの側壁になっている。

    No.7
    [No.7: ft_image_5_18/image013.jpg]
    No.7 大型トロール船(1)

    No.8
    [No.8: ft_image_5_18/image015.jpg]
    No.8 大型トロール船(2)

     No.7と同型と考えられる船とその漁具の詳細をNo.9からNo.19までに示す。これらはSt. John’sで撮影した。

    No.9
    [No.9: ft_image_5_18/image017.jpg]
    No.9 船首方向から見た大型トロール船

     すぐ後に停泊する船が背景となるので、船尾付近の構造は分かりにくい。荒天下で操業するために、船橋以外の 部分には窓がほとんどない。

    No.10
    [No.10: ft_image_5_18/image019.jpg]
    No.10 船尾方向から見た大型トロール船

     これは船尾方向から撮った写真である。日本のトロール船に比べてアンテナが著しく少ない。鉄製の横長の楕円型 オッターボードを使用する。スタンガントリーは左右に分かれている。その上にはオッターボード操作用のダビット (黄色)がある。このような構造は日本や北アメリカ平洋岸のトロール船には見られないが、ヨーロッパ系の トロール船には見られる。ハンドレール等の構造物が―特に後部の鳥居型マストの周りやその上端に―多い。この ような構造物には着氷する危険があるが、水温が特に低い海域で操業するためには、乗組員の安全を図らなければ ならない。トップローラに似た大きなプーリがスタンガントリーの外側に見られる。これはNo.17の左前景でも見ら れる。これは予備のオッターボードを吊るためであり、大きな負荷に耐えられる構造になっている。しかし、この船 と船尾の型がよく似た東欧のトロール船では、予備のオッターボードはこの船でも船尾に見られる黄色のダビットに 吊られているのを見受ける。

    No.11
    [No.11: ft_image_5_18/image021.jpg]
    No.11 大型トロール船の船橋にある操船用コンソル

    No.12
    [No.12: ft_image_5_18/image023.jpg]
    No.12 大型トロール船の船橋にある漁労機器用コンソル

    No.13
    [No.13: ft_image_5_18/image025.jpg]
    No.13 大型トロール船の船橋にある 通信機器用コンソル

     No.11からNo.13までは、船橋にある計器類と通信機器類を示す。No.11は船首に向かって左側にある操船用のコンソル、 No.12は右側の漁労機器用コンソル、No.13は左舷側で通信関係の機器を集めたコンソルの写真である。通信は電話に よって航海士が行うので、これらの機器は船橋にある。日本のトロール船では、操船用のコンソル以外ではそれぞれの 計器類は独立して取付けられているが、この船ではいくつかのコンソルに組込まれている。海外の魚群探知機は ほとんどが乾式の記録紙を使うが、この船では湿式の記録紙を使っているのが珍しい。

    No.14
    [No.14: ft_image_5_18/image027.jpg]
    No.14 大型トロール船の船橋後面にあるに制御パネル

     これは船橋の船尾側にあるコントロールパネルで、投揚網中には操船とトロールウインチの操作をここで行う。 日本のトロール船では、この他に船橋とトロールウインチの間にウインチコントロールルームがあるが、この船では それは見られない。

    No.15
    [No.15: ft_image_5_18/image029.jpg]
    No.15 大型トロール船の船橋より船尾方向を見る

     これは船橋から船尾に向かって撮った写真である。船外からでも見られる特徴はすでに記した。最も大きな特徴は、 舷側に高さ約4mの狭い倉庫が船尾まで続き、投揚網作業はこの間の遮蔽された甲板で行うような構造になっている ことである。北洋で操業していた日本のトロール船では乗組員は直接風を受けながら甲板上の作業を行っていた。 船型に見られるこのような基本的な違いの間には一長一短がある。日本船では横風を受けながら曳網するときの風圧 の影響は少ないが、この船型では圧流の影響は避けられない。次に大きな特徴はトロールウインチが船橋のすぐ後の 高い位置(日本船におけるウインチコントロールルームに相当する位置)に置かれ、日本船におけるトロール ウインチが置かれている位置には大きなドラムがあり、それに網が巻込まれることである。このような配置はヨー ロッパ系のトロール船では珍しくない。No.16は船橋・トロールウインチ及び網巻込みドラムの配置を示す。

    No.16
    [No.16: ft_image_5_18/image031.jpg]
    No.16 大型トロール船の網巻込みドラムとトロールウインチ

    No.17
    [No.17: ft_image_5_18/image033.jpg]
    No.17 大型トロール船の中間ローラ

     スタンガントリーからトロールウインチまでの間の側壁の内側には、この写真に示すような2つのローラが狭い 間隔で並ぶ。ワープはトップローラから船尾寄りのローラの下を経て、前のローラの上を通り、トロールウインチに 巻込まれる。前の方のローラは油圧によって回転する。このような構造になっているので、ワープは高い位置を走り、 曳網中とワープ巻込み中でも甲板で作業できる長所がある。しかし、このような配置ではワープを巻込んだ重い ドラムが高い位置にあるという短所がある。

    No.18
    [No.18: ft_image_5_18/image035.jpg]
    No.18 ドラムに巻込まれた網

     この写真はドラムに巻込まれた網(No.16で見られたドラムに巻込まれた網の右半分)を示す。軽合金製の浮子 を使う。日本では軽合金製の浮子はほとんど見られない。この浮子が取付けられている白いロープはブレードである。 網の一部(オレンジ色の網と右下に見られる水色の部分)はブレードで編まれている。

    No.19
    [No.19: ft_image_5_18/image037.jpg]
    No.19 2組のinner bulwarksとグランドロープを示す

     これは甲板最前部(No.16の左下の部分)の写真である。網巻込みドラムの両側の側壁の部分には倉庫がなく、 作業をする場所が広くなっている。グランドロープはあまり太くない。Inner bulwarks は2列ずつ(水色と オレンジ色)ある。外側のものは回廊の下に沿って網巻き込みドラムの横から船尾まで続く。その最前部は枠 だけになっており、ここに網を縛りつける。内側のものはドラムの幅に近い位置にあり、網巻込みドラムの付近から No.17に示した中間ローラまで伸びる。甲板は鉄板のままである。

    No.20
    [No.20: ft_image_5_18/image039.jpg]
    No.20 各種オッターボードの模型(左)

    No.21
    [No.21: ft_image_5_18/image041.jpg]
    No.21 各種オッターボードの模型(右)

     No.20とNo.21は、各国のメーカが発売しているオッターボードの模型である。横楕円オッターボード・鉄製の 開いたL型オッターボード、あるいは以前に使われていた木製横長平板オッターボード等種々のものが見られる。 それらの中には、海外では使われているが、日本国内では見られないものが多い。

    No.22
    [No.22: ft_image_5_18/image043.jpg]
    No.22 各種オッターボードの模型(3)

     これは横楕円オッターボードの模型が水中で作動している写真である。

    底延縄漁業

     No.23以後はHalifax市外にある小型船の船溜りで撮影した写真である。ここで見られる主な漁法は、底延縄と ロブスターポットである。種々の型の漁船が見られるが、No.23はそれらの中で標準的とみなされる型の比較的新 しい漁船の写真である。

    No.23
    [No.23: ft_image_5_18/image045.jpg]
    No.23 代表的な底延縄漁船

     高緯度で操業するので、側面と後面は遮蔽されている。長い標識や多量でも軽い籠を搭載するために天井は あいている。しかし、船橋と居住区(写真では左舷側の窓が3つ並ぶ部分)とラインホーラがある部分は上面まで 遮蔽されている。小さい鉄船で、乾舷は高いが、船橋部を含めても船自体はそれほど高くなく、長さに比べて幅が 広い。ここに停泊していたすべての漁船はレーダ・無線電話及びレーダーリフレクタを備えている。



     No.24とNo.25に見られるように籠や延縄の標識にはレーダーリフレクタを付けるので、霧中操業のためにレーダ は必需品である。レーダーリフレクタは高い位置に必要であり、限られた作業甲板を有効に使うためにマストは 舷側に取り付けられる(No.23では右舷側、No.24とNo.33では左舷側)船尾の右側に底延縄用のシュータが見られる (この船のシュータは黒く、背景のロブスターポットと重なるために分かりにくい)。右側の建物は作業小屋で、 その内部はNo.41とNo.42に示す。

      No.24
    [No.24: ft_image_5_18/image047.jpg]
    No.24 船尾から見た底延縄漁船

     これは底延縄船を船尾方向から撮った写真である。舷側は高く、側面と船尾は板で囲われる。船橋は低い。 船尾のスパンカの右側には底延縄用のシュータが見られる。延縄はこの付近の甲板に置かれ、縄は航走を利用して、 この上を越えて繰出される。先に記したように標識としてレーダーリフレクタが用いられる。ラインホーラは船橋 後方の遮蔽部右舷側(薄茶色の扉の前、桟橋の3本の柱の横に見られる窓の前端近く)の低い位置にある。揚縄 作業をする部分の舷側は他と同じ高さである(No.27に示した船ではロ−ラの高さだけ下がっているが、それ以外の 船では下がっていない。日本の延縄専業船では舷側の一部があき、航海中はさし板を入れるようになっている)。

    No.25
    [No.25: ft_image_5_18/image049.jpg]
    No.25 底延縄漁船の作業甲板

     これは底延縄漁船の作業甲板の写真である。標識に使うレーダーリフレクタが見られる。シュータ(左端に見 られる灰色の構造物)の手前の錨(左隅に見られる)は縄の両端に付ける大錨、左舷側(マストの付け根の右前) に見られる錨は途中に付けるものである。餌と漁獲物の容器はプラスティック製である(漁具は後で示す)。 マストと帆桁は太い木製、その支索にはブレーデッドロープが最も普通に使われる。この船ではマストは左舷側に 立っている。

    No.26
    [No.26: ft_image_5_18/image051.jpg]
    No.26 標識縄用のドラムが付いた底延縄用のラインホーラ

    No.27
    [No.27: ft_image_5_18/image053.jpg]
    No.27 底延縄用のラインホーラ(荒天時揚縄用の窓が付く)

    No.28
    [No.28: ft_image_5_18/image055.jpg]
    No.28 底延縄用のラインホーラ(縦ローラは右舷側に付いているが本体は左舷側に付く)

     これらはラインホーラの写真である。ラインホーラの構造とその周辺における作業の詳細は変化が大きい。 No.26とNo.27に示したラインホーラは右舷側中央付近にあり、そのディスクは下からの軸で支えられ、水平面を 回転する。太平洋岸で使用されるラインホーラでも、ディスクは水平面を回転するが、上から下がった軸で支え られるので、魚がかかった枝縄は垂下がる。しかし、これらでは枝縄は下がらない。いずれも舷側に重い水平の ローラがあり、幹縄は舷側に擦れないようになっている。

     No.26では桟橋に着けるためにこのローラは船内に倒してある。前後方向は鉄の棒だけで、ローラになっていない。 No.26のラインホーラでは、ディスクの上に標識縄を上げるための小さなディスクが付いている。しかし、No.27に 示したラインホーラにはこのようなものは付いていない。

     No.26の船では縄を揚げながら操船をするための舵輪と機関コントロールが居住区と作業場の境の壁に付いている。 その上の窓を通して居住区から作業場を見渡せる。

     No.27の船ではラインホーラ用の開口部には引き戸があり、この引き戸には覗き窓があるので、荒天のときには ここから縄を揚げられる。No.26に示した船ではこのような構造は見られない。ラインホーラを通過した縄は、 そばに置かれた樽(No.29に示す)に落とされ、漁獲物はNo.26の船では写真の中央、No.27の船では後方にある台 に揚げられる。

     No.28に示したラインホーラはこれらと異なり、右舷側にある2本の縦ローラの間を通った幹縄は、左舷側に あるラインホーラを経て船尾方向に送られる。このラインホーラのディスクは逆U字型の金具で上から支えられ、 水平面を回転する。この写真では、縦ローラとラインホーラの間に椅子やカッパがあり、しかもラインホーラの 部分はやや暗くて分かりにくいが、この船は新しくしかも他の船と大幅に異なる揚縄方式をとっているので付け 加えた。

    No.29
    [No.29: ft_image_5_18/image057.jpg]
    No.29 木製の樽に入れられた底延縄

    No.30
    [No.30: ft_image_5_18/image059.jpg]
    No.30 底延縄(幹縄・枝縄・釣針を示す)

     これらの写真は揚縄後の漁具(No.29は概型、No.30は拡大)を示す。深い木製の樽に収納されている(一人で 動かすには重過ぎる)。底延縄操業において最も手間がかかる作業は、これの整理である。この作業は陸上で 行われるので、縄は絡まったままである。幹縄はNo.30に示すように日本のマグロ延縄に近い太さである。写真では やや分かりにくいが、枝縄はそれよりもはるかに細い。釣針はフトコロが深いcircle hookである(写真では、 釣針と幹縄はよく似た色に見えるので分かりにくいが、樽の内右端近く等に見られる)。

    No.31
    [No.31: ft_image_5_18/image061.jpg]
    No.31 底延縄用の自動餌付け機の全景

    No.32
    [No.32: ft_image_5_18/image063.jpg]
    No.32 底延縄用の自動餌付け機(餌投入部の拡大)

     これらは延縄の自動餌付け機の写真(No.31は船尾部の全景、No.32は餌付け機の後部の拡大)である。ほとんどの 底延縄漁船では船尾は遮蔽されており、その中にあるシュータを越えて延縄が投入される構造になっている。しかし、 この装置を装備している船では、船尾部分の遮蔽とシュータがなく、簡単な木製の手すりがあり、自動餌付け機が 甲板の高さに据付けられる。餌として輪切りにしたニシンをNo.32に見られる開口部に入れておく。小型の延縄漁船 でも自動化されている点は大いに参考にしなければならない。

    ロブスターポット

     Halifaxの小型漁船の船溜りで最も目立つ漁法はロブスターポットである。整備された種々の型のポットが船上 ばかりでなく、陸上と桟橋の各所に見られた。ロブスターポットは気象条件が最も厳しい冬期に小型漁船で行う 漁法である。この写真を撮った11月末は漁期の直前で当たる。No.33、No.35及びNo.38に見られるように一部の ポットでは餌を取付ける作業が行われていた。

    No.33
    [No.33: ft_image_5_18/image065.jpg]
    No.33 ロブスターポット漁船

     これはポットを登載中の漁船の写真である。この型の漁船の特徴はすでに記した。船尾に底延縄のシュータが 見られるので、底延縄と兼業していることが分かる。

    No.34
    [No.34: ft_image_5_18/image067.jpg]
    No.34 ロブスターポット用ウインチ

     ロブスターポットの浮標綱を引上げるためのラインホーラの写真である。底延縄用のものと同じ位置に据え付け られる。ディスクはあまり大きくなく、垂直面を回転する(同じ地方でも、底延縄用のラインホラのディスクは 水平面を回転する)。ロブスターポットは大きい(重い)ので、ディスクの回転面はこの方向でなければ揚げ られないだろう。回転面が船首尾方向になっているのは、桟橋に着けるためで、漁場では正横方向に向けられる。 この位置まで上がってきたポットを、上から吊った滑車で引上げなければポットを取込みにくく、餌はNo.38に示す ような取付け方になっているので、餌を付替えにくいと考えられるが、そのような滑車を付けた船は見られなかった。

    No.35
    [No.35: ft_image_5_18/image069.jpg]
    No.35 ロブスターポットの準備

     これはロブスターポットの積込み作業の光景である。ポットの大きさは、人物と比べると分かりやすい。

    No.36
    [No.36: ft_image_5_18/image071.jpg]
    No.36 ロブスターポット用の餌

     ポットの餌には、塩漬けのサバが用いられる。餌の塩サバは小さくないが、切らずに用いられる。

     ロブスターポットには種々の型がある。それらをNo.37からNo.40に示した。これらの写真はすべてHalifaxの同じ 船溜りにおいて同じ日に撮影したものである。1つの船溜りにおいて、同じ漁具の間にこのような大きな変化が あることは興味深い。

    No.37
    [No.37: ft_image_5_18/image073.jpg]
    No.37 木製カマボコ型のロブスターポット

     これは教科書や図鑑等に示されているような、木製の頑丈なカマボコ型のポットの写真である。ポットは左右2室に 分かれ、ロブスターは右の入り口から入り、ジョウゴを通って左に移る。枠も木製である。底面には錘として平らな コンクリート板が入れられる(これはNo.36かNo.38の方が分かりやすい)。入り口のある区画の壁面は太めの網糸か 針金製で、左の室の外壁は細い板を渡して作られる。中央に見られる灰色の柱は、No.38に示すように餌を刺して おくためである。

    No.38
    [No.38: ft_image_5_13/image075.jpg]
    No.38  ロブスターポットにおける入り口付近と餌の付け方

     これはNo.33とNo.35に示した漁船に搭載されているポットの拡大である。先の写真と異なり、入り口のない区画 の壁は太い金網で作ってある。画面で右側の区画に見られる入り口は前後両面にある。餌はこの区画の隣の区画との 境目に着けられる。2尾の塩サバが入っていることが分かる。底に置かれるか容器に入れられたような型で付け られた餌は見られなかった。従って、1籠ずつ餌を取り付けるためにかなり手間がかかると考えられる。

     両方の区画の間の隔壁にあるジョウゴの詳細がこの写真から分かる。左側の区画の壁面と両区画の上面は、 コーティングをした金網で作ってある(他のポットでも、金網が使われる場合は、針金が縦横方向に走るように 作られる)。木製の部分は、このポットでは枠と底面だけである。転倒しないように(赤い)浮球が入っている (これはNo.33とNo.35でも見られる)。入り口のある区画の外枠は被覆されている。この枠に浮標綱が取付けられる。

    No.39
    [No.39: ft_image_5_13/image077.jpg]
    No.39 金網製の3室カマボコ型のロブスターポット

    No.40
    [No.40: ft_image_5_13/image079.jpg]
    No.40 金網製の3室角型のロブスターポット

     これらは、従来からある2室方式に1室を加え、入り口を中央にした3室式のポッ トである。いずれも底面までが金網製である。No.39に示すポットはカマボコ型で枠は太い針金製(ただし、底の 長辺は木製)、No.40に示すポットは角型で、枠の一部は木製である。この写真には、正面と側面から見たポット が写っているので、ジョウゴの型が分かりやすい。錘はレンガか鉛になっている。

     角型で上下2段に別れたロブスターポットの図を見受けるが、そのようか構造のポットはここでは見られなかった。

     ポットでは、ゴーストフィッシングが各地で問題になっている。どのような対策が取られているかを知るために、 各部の材料に注意して記載した。

    No.41
    [No.41: ft_image_5_13/image081.jpg]
    No.41 ロブスターポット用の浮標

     作業小屋で造られたロブスターポットの浮標である。長い浮子を半分に切って鮮やかな色に着色する。

    No.42
    [No.42: ft_image_5_13/image083.jpg]
    No.42 ロブスターポット漁師の作業小屋の内部

     作業小屋の内部の写真である。手前には刺網用の網地の原反が見られる。漁具は原反を仕入れて、出漁できない ときに仕立てるのだろう。鉛のインゴットを溶かして鋳型に流込んで錘を作っていた。

     以前には、日本でも漁業者自身がこのような作業を行っていたが、次第に既製品を使う傾向に変わった。

    その他

     その他、手造りの装置の中に珍しいものを見かけたので、参考として最後に加えた。

    No.43
    [No.43: ft_image_5_13/image085.jpg]
    No.43 中古タイヤをそのまま利用したネットホーラ

     刺網(モノフィラメント)用のネットホーラである。ドラムは中古のタイヤで、水平面を回転する。中古の タイヤをそのまま使うことと、水平面を回転することが珍しいので取上げた。

    No.44
    [No.44: ft_image_5_13/image087.jpg]
    No.44 突ん棒用の張出し

    No.45
    [No.45: ft_image_5_13/image089.jpg]
    No.45 突ん棒用の見張り台

     シシリー島におけるカジキ漁に使われるのとよく似た手造りの装置があった。

     以上は写真に見られる主な事項に関する記載である。これらの写真をさらに詳細に検討すると、もっとたくさんの 情報を引出せる。しかし、それぞれの写真の主なテーマと異なる情報まで記載すると、主なテーマの説明の流れを 把握しにくくなるので、省略した。

     また、現地で聞き漏らしたり、写真を調べて後から気がついた疑問が残っている。


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