漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Back to: Top Page |
FishTech 目次 | ご覧のページ
|
第 5 部 19 バンクーバーの漁船 + [解説編] 日本の漁船は進歩していると一般に考えられている。しかし、それは日本の特殊な社会経済的・自然科学的・ 技術的諸条件と法的規制のもとで生まれ、適応した型であり、それらのいずれかが異なる地方では全く異なる型の ものが生まれるはずである。そのような例として、1988年11月に Vancouver において撮影した約40枚の写真から 特徴のあるものを抜出し、それらを紹介する。漁期を考えると11月が漁船の写真を撮るために適当であったか どうか疑問であり、しかも滞在期間が限られていた。このファイルに収録した他にも Vancouverには参考になる 漁船があると考えられる。 Vancouver 空港の南に隣接する Steveston漁港には、カナダ太平洋岸における最大の水産加工業者の B.C. Packer があり、この地域における漁業は日系人によってほとんど独占的に行われていた。しかし、世代が変わるに 従って日系人でも漁業に従事する人が減ってきた。この漁港は沿岸漁船の根拠地で、曳縄船・延縄船・ドラム式 流網船・巻き網船等が見られる。また、Burrard Inlet の Second Narrows付近にはこの地域としては大型の漁船が 停泊している。No.15からNo.18までは Second Narrows で、それら以外は Steveston で撮影した。
No.1 Vancouver の南を流れるFraser 河には多量のサケマスが遡上する。従って、Steveston にはサケマスを対象 とした曳縄漁船と流網漁船が多い。しかし、その漁期は春から初夏までであり、撮影した11月は漁期外であった ために、多くの船は整備中か装備をはずしていた。
No.2 No.2の手前は曳縄船である。北米太平洋岸ではサケマス(一部ビンナガ)を対象とする曳縄漁船が多数みられる。 奥は曳縄・ドラム式流網兼業船である。主な漁法はドラム式の流網である。漁場との往復あるいは条件によって曳縄 を用いる。米国ではレジャーボートもこれらの漁法を用いるので、このような船を見かけても必ずしも漁船とみな せない。しかし、この地区では漁船である。 曳 縄 No.2において、操舵室の後端の両舷側に見られる垂直に立てられた長いポールは曳縄用の張出し竿である。 No.1で多数の竿がみられたのはこれである。 操業中はこれをほぼ水平に倒し、先端からラインをとる。それに各舷数本ずつの枝を付けて、その各々に曳縄を 連結する。各枝と曳縄の連結点から分枝をとり、分枝は船尾付近の両舷側に見られる逆L型の支柱に取付けられた スプリング付きの滑車を通しそれぞれ独立した小型のリールにつながる。リールは各舷に1本ずつあるシャフトに よって動かされる。曳縄に魚がかかるとその縄に付けられた分枝につながるリールのクラッチを入れて巻込み魚を 引き寄せる。小型リールはNo.2では分かりやすい。スプリング付き滑車とリールのクラッチはNo.3の方が分かり やすい。各曳縄が曳かれる水深はリールの外側に見られる大きな鉛の球(No.3)の大きさを変えることによって 調節される。
No.3 ドラム式流網 1人で操業するために網は船尾付近にあるドラムに巻込まれている。網はドラムに巻込みやすい構造になっている。 浮子綱は1本のブレードで、それに浮子を通す。沈子綱は鉛芯ブレード(短く切った細い鉛の線が入ったビニール チューブを芯としたブレード)である。従って、沈子は外にでていないので、網をドラムに巻いても沈子が網地に 絡むことはない。浮子綱は網地の上縁に付けられるが、特に流藻が多い地域では網地の上縁を水面から少し沈める ために棚綱を付けることがある。網地には、モノフィラメントの使用が禁止されているので、ストランドを樹脂で 固めたものが用いられる。Fraser 河のために漁場の透明度は低く、水色は日ごとに変わる。それに合わせるように 種々の色合いの網地が用意される。
No.4 船の前進に従ってドラムを空転させながら投網する。 船尾にあるペダルを踏込むとドラムに網が巻込まれ、ペダルから足を離すとドラムが止まる。これによって船尾 から後方に向かって揚網する。船尾には頑丈な水平と垂直のローラが見られる。人は揚網中には後方を向いて左舷 船尾に立って、網をドラムに巻込みながら漁獲物を外し、操船するので、舵輪・クラッチ・アクセルを組込んだ コンソルがNo.4ではドラムの左に見られる。木船・FRP船・アルミニューム船等種々の材料で作られた船が見られる。 アルミニユーム船の多いことが北米太平洋岸の漁船の特徴で、流網船に限らず巻き網船のようなやや大型の船まで に見られる。 いずれもドラムは軽合金の鋳物である。しかし、木製・FRP製・鉄製等のドラムも見られる。 オヒョウ底延縄
No.5 No.5は在来型のオヒョウ延縄漁船の全景である。北米太平洋岸の漁船の特徴として操舵室と居住区は著しく 前方にある。漁具の構造はタラ底延縄を基本とした日本で以前から使われていたものと全く異なり、幹縄と枝縄の 感じ―太さとその関係・枝縄の本数と間隔・コイルされたときの幹縄と枝縄の関係―は日本の在来型のマグロ延縄 に近い。 船尾にはキャンパス張りの風よけがある(両舷に沿った壁と天井のあるものも見かけるが、壁と天井は左舷側 半分のことが多い)。在来型の底延縄では、引揚げた幹縄には枝縄が絡まっているので、次に投縄するまでに整備 するために多大の手作業が必要である。この作業は船尾の風よけの下で行われる。 ラインホーラ(power gurdy と呼ばれる)は居住区のやや後の右舷側にある。軸は垂直(逆U字型)で上から 支えられたドラムは水平に回転する。従って、魚がかかっている枝縄はドラムから下がって回る。これが日本の ものと全く異なる点である。ラインホーラの付近には舵輪・クラッチ・アクセル等が装備されており、縄を揚げ ながら操船できる。
No.6 先に記したように、この漁法で最も手間がかかるのは揚げた漁具の整備である。この作業を軽減するために クリップによって取外しできる太いモノフィラメントの枝縄を用いるようになった。幹縄はドラムに巻込まれる。 従って、ラインホーラを付ける必要はない。しかし、この写真では、ドラムに巻かれているのは幹縄でなく、 サケマス流網である。 ヤグラの上端には曳縄用のスプリング付きのリールが見られる。サケマス流網漁業は春から初夏にかけて行われ、 オヒョウ底延縄漁業は秋に行われる。この写真は11月に撮られたので、オヒョウ底延縄の漁期は終わり、漁具を サケマス流網に入替える途中であると考えられる。 No.7は枝縄の拡大である。釣針を上にして下げられている。枝縄は太く短いモノフィラメントである。クリップは 日本のマグロ用と似ている。釣針はふところが深く(いわゆる circle hook)、シビリ(釣針を縄に結ぶ部分)は アイになっている。
No.7 カニ籠 北米太平洋岸では、タラバガニを対象とした大型船によるカニ籠漁業と、Dungeness crab を対象とした沿岸漁船 による小型の籠漁業が見られる。No.8は後者である。直径約1m、太い針金の枠はチューブで巻いてある。籠は漂砂 に埋まり易いので、1籠ごとに浮標を付けて投入される(延縄方式では漂砂のために揚がらなくなる)。漂砂に 埋まったときは浮標綱に沿わせてホースを入れ、水流によって漂砂を吹飛ばしながら揚げなければならないことが 起こる。
|
![]() [No.8: ft_image_5_19/image015.jpg] No.8 Dungeness crab の籠 巻き網 北米太平洋岸の巻き網漁船は Turn table を用いたもの(あるいはその痕のあるもの)から、網をドラムに 巻込むドラム式とパワーブロックを用いて揚網する方式に発展した。しかし、Stevestonにはこれらとまっく異なる 揚網方式が普通に取られている。No.9はその漁船の全景である。概型は北米太平洋岸の漁船の特徴を備え、操舵室 と居住区は著しく前方に寄っている。その後方に頑丈なデリックシステムがある。ここの巻き網船の特徴は船尾の 構造にある。No.9では白色の船体の後端が延びて、更にその後方に灰色に見える張出しがある。これはNo.11と No.12に示すような構造である。
No.9
No.10
No.11
No.12 網は魚群を巻いた後、魚捕り部を残して船尾にある大きなドラムに巻込まれる。ここまでの作業は従来から あるドラム式と同じである。次に船尾の張出しを下げ、船尾のタンクに注水すると、張出しは水中に沈む。その上 に魚捕り部を引込み、船尾の張出しをデッキの線まで戻し、船尾タンクを排水すると、漁獲物が入ったままで、 魚捕り部は船尾の張出しに乗って水面上に現れる。従って、巻き網において最も人手がかかる魚の取込み作業が 省力化される。漁獲物は着岸後に網からポンプ等によって揚げればよい。 No.10のマスト上端に見られる四角の構造は作業用の灯火である。No.10の右側の船 (Silver Dawn号) ではマスト の上端には探魚のためと考えられる見張り台が見られるが、ほとんどの船にはそのような構造は見られない。 Steveston にはアルミニューム船が多く、No.10とNo.11はその例である。 トロール船 北米太平洋岸の小型トロール船は船尾に大きなドラムを備えて、網をそれに巻込み、網の後半とコッドエンドの 部分をデリックで吊上げて漁獲物を取込む。この場合、やや大型の船では1つのドラムが仕切られ、2統の網を 巻込んであり、底質に応じて網を使い分ける。 No.13はその概型、No.14はドラムの部分を示す。この大きさの船ではドラムを分けて2統の網を巻込むことが できるが、この写真では網は1統だけである。オッターボードはNo.14に示すように(右側の水色の船で半分隠れる) 木製・横長の平板か、金属製横長の開いたL型である。オッターボードは船尾にある簡単な柱に吊下げられる。 (No.13ではこの柱が見られない)。
No.13
No.14 船尾に3つの独立したドラムを備え、それぞれに網を1ヵ統ずつ巻込んである船を見かけたのでNo.15とNo.16 に示した。網を巻いた大きなドラムが高い位置にあるので、安全性が気がかりである。No.17は北米における小型 トロールで普通に使われる鉄製横長の開いたL字型オッターボードの写真である。これらは雨天の日没後に撮った ので色調は崩れている。しかし、珍しいドラム配置なので、あえて参考として示した。
No.15
No.16
No.17 ピンクの浮球は防舷物として使われており、オッターボードと関係はない。 その他 各漁業と直接関係がないが、日本ではあまり見かけないものを参考として加えた。 No.18はフィッシポンプと魚選別機を搭載したバージの写真である。バージ自体が魚の受入れプラントになって いる。夏期には漁場付近の入江か島影に曳航されて、そこで使われる。
No.18 No.19は braided rope の見本である。Vancouver では巾着網とトロール網にはBraidが多く使われている。魚捕り とコッドエンドの網地・網地を縫合わせる糸はブレードで作られており、環綱・ヘッドロープ等にはbraided ropeが 用いられる。小型船の動索はbraided ropeのことが多い。このような例の写真を撮ったが、それらがbraidである ことを見分けにくいので、その代わりとしてこの写真を揚げた。
No.19 No.20は桟橋に繋いだままの船を利用した魚屋である。このような船には住居を兼ねて、東洋系の家族が住んで いるものがあった。
No.20 なお、この撮影に当たり Steveston にあるE.A. Towns Fishing Supplies Ltd.の松崎氏の協力を仰いだ。 ここに感謝の意を表する。
|