漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
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第 5 部 20 アメリカ太平洋岸の漁船と漁法 1960年代から70年代にかけて、北洋では日本の各種漁船団が活躍していた。その当時、ソ連や韓国の漁船と出会う ことが多かったが、アメリカとカナダの漁船にはほとんど出会わなかった。また、アメリカの文献には、いろいろの 新しい試みの漁船が写真付きで出ていても、それらの実像は把握しにくかった。ところが、閑漁期である1968年の2月 と盛漁期である1969年の7月から8月にかけてSeattleの漁港を見学し、Los Angeles・San Francisco・Eureka・ Newport及びJuneauの漁港を訪れる機会に恵まれた。ここに示す写真はその際に撮影したものである。その後1988年末 にSeattleで撮影した写真は先に示した。それと比較することを目的として、1968年と69年に撮影した写真をここに 収録した。 同じ漁法でもこの30年間にほとんど変わらなかった漁法と、新たに起こった漁法のあることが分かる。30年間保存 している間に傷んだ写真もあるが、68年当時と比較するために収録した。 このCDには次のファイルが入っている:
解説 「解説」には、これらの写真を見るためだけの手引き的な解説だけを記した。日本の漁業に取り入れると良いと考え られる事項や、日本では見られず、しかも理由の考えられない事物と日本におけると異なる発想から作られたものを 見かける。これらに対して十分に考えることが大切である。それらの中で気がついたことをメモとして付け加えた。 Los Angeles(34°00’N、118°15’W、 California州) 巾着網船(Purse seiner)
No.1 ここの代表的な漁法は巾着網である。これは缶詰工場に原料を供給するために、ここ(San Pedro)で考え出された 漁法である。日本の巻き網は、網船の他に数隻の灯船と運搬船よりなる船団で操業するが、アメリカの巾着網は単船 操業である。日本では1船団の操業には数十人が必要であるのに対してアメリカでは小型船では4・5人、大型船でも 20人以下で操業できる。網の仕立を含め多くの点で異なる。 No.1 San Pedro には、この写真に示すように、大きく分けると2種類の巻き船がある。その1つは、左に見ら れるような小型船で、日帰り航海によって、イワシを漁獲する。網はpower blockで揚げられるが、中にはturn table 式の船を改造した跡が残っている船も見かける。対岸にはやや大型の巾着網船が見られる。
No.2 No.2 これは典型的な大型巾着網船で、船首が上がった1層甲板。水線上構造は前に片寄り、一般にあまり高くなく、 2階が船橋、その下が居住区、後部は食堂になり、乗組員の日常生活はすべて甲板より上で行えるような構造に なっている。Skiffは大きい。網には浮子が多く、大きな力で環綱を締めても浮子綱は沈まないようになっている ことに注意。昼間操業で、魚群はマストの頂上近くにあるcrow’s nestから探す。
No.3
No.4
No.5
No.6 No.3 マグロ缶詰で有名なStar Kist社の工場である。No.4からNo.6に示す専用の荷受桟橋が、写真の右端から 手前に伸びる。ここから原料を受け入れ、この写真の左端のあたりから製品を出荷する。当時の日本の加工場に 比べて、アメリカの加工場が最も進んでいた点の1つは、それらが専用の荷役桟橋を持つか、直接岸壁に面し、 あるいは桟橋上にあり、あまり人手をわずらわさずに原料を受け入れられることであった。これはその後30年を 経た現在でも当てはまるだろう。 No.4 マグロ受け入れ用の桟橋 3隻同時に荷役できる。 No.5 原料を持ってきたマグロ巾着網船は、先端近くに左舷付けにする。手前のgantryの下にあるコントロール室 で1人の人が同時に2本のderrickで1つずつの大きなカン(2つのgantryの間に見られる)を扱い、船倉から (ここでは他の人がバラ凍結されたマグロをカンに入れる)吊上げて、コンベヤーの上に魚をあける。 No.6 荷役システムの操作室
No.7 No.7 Pan-Pacific Fisheries, Inc.(缶詰工場)専用の荷役桟橋とそれに着岸している巾着網船(バラ凍結した カツオを荷役している) カツオ竿釣船(Tuna clipper)
No.8
No.9
No.10
No.11
No.12 No.8 San Pedro で見られるもう1つの漁法は、カツオ竿釣である。この船はTuna clipperと呼ばれる。両舷に 立ててある長い竿は曳縄用。曳縄は漁場との往復の間に用いられる。右舷船尾には、曳縄を操作するリールが 見られる。日本のカツオ竿釣船等も曳縄を用いる。しかし、日本では曳縄の専業船があるが、それら以外では 乗組員の遊びと探魚の簡単な補助としてであり、それによって漁獲を揚げることを目的としていない。ここでは、 竿釣と併用して漁獲を揚げることを目的とし、片舷数本ずつの縄を曳く。 船尾の甲板上には活餌タンクがあり、釣台は船尾だけにあり、起倒式になっている。船型が漁船らしくないのは、 海軍等から払い下げられた雑種船に、最低の装備だけを付けて使っているためである。乗組員は数名である。 No.9−No.11 拡大すると、それぞれの船には曳縄の設備と活餌タンクが見られる。カツオ竿釣を行う。漁船の 船溜りに泊まっているので、漁船として扱われているが、専業漁師が扱っているかどうか疑問であり、さらに、 レジャーボートの可能性もある。 No.12 外から見ると曳縄の設備がある古ぼけた木船に見える。しかし、細部を見れば気がつくように、アメリカ らしい嗜好をこらした船で、内部はサロン風である。したがって、レジャーボート(ヨット)である。 ヨットハーバー
No.13
No.14
No.15
No.16 No.13−No.16 現在では、日本でもレジャーボートが増えた。しかし、当時でもすでにアメリカではボートは 大きなレジャーの1つであり、Los Angelesだけでもここに示すような設備が10ヵ所以上見られた。その1つに 繋留してあるボートの多いことを示す。レジャーボートの特徴として1隻ずつ凝った作りになっている。 San Francisco(37°45’N、122°27’W、California州)
No.1 No.1 観光地の1つであるFishermen’s wharfには多数の魚レストランがあり、メニューは当然海鮮料理だけ である。歩道にも出店が並んでカニ等を茹でて売っている。その前の駐車場にはCalifornia州ばかりでなく、 Arizona・Utah・Nevada等近くの内陸州の車が多く、更に遠くからの車も珍しくない。
No.2
No.3
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No.7
No.8
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No.12 No.2−No.12 魚レストランの裏の船溜りの写真である。ここでは、内陸から海岸に来た人に対する1つの サービスの型が見られる。No.2とNo.3に見られる船はSan Franciscoの町を海から眺める観光船である。これらの 船の両舷のブルワークトップには釣竿の受け台があり、観光をしながら曳縄をする。(日本ではこのような楽しみ 方は考えられない) No.3 左の船では観光用の曳縄がよく分かる。 No.4 手前の船でも観光用曳縄の設備が見られる。2隻目は漁船、3隻目は観光船 No.4−No.8 漁船 レジャーボートの立派さと観光地であることから全く考えられないような粗末な漁船が、 同じ船溜りで観光船に混じって見られる。1人乗り。漁場との往復航中に使う曳縄を装備している。底延縄を使う。 縄の構造はNo.6に見られるように、日本の沿岸で使われているものとほとんど同じである。どの船にもライン ホーラーが見られないが、その理由は考えられない。 No.9−No.12 魚レストランの裏から続くレジャー漁船の船溜りの写真である。 No.9 右上はロッカーの列で、このようなものが何列も並んでおり、レジャー漁船の多いことが伺える。専業の 漁船よりもレジャー漁船の方が費用をかけていることは納得できるが、それにしても、漁船との格差が大きい。 左上の緑の建物には水産会社の看板が見られる。日本と異なり、自社では漁業をしない。レジャーボートを含む 漁船から魚を買い取り、氷詰めにして送出す。背景にGolden Gate Bridgeが見られる。 No.10 曳縄によるサケの漁獲 San Franciscoは北緯38度近くであるが、寒流が流れているので、曳縄でサケ が漁獲される。乗っていたのはNo.11の遠景に見られる2人である。 No.11 水産会社の水揚げ場(No.9で見られた店) 桟橋の上にあり、漁船が直接横着される。漁獲物はカン に入れて、簡単な電動巻き上げ機で引き揚げられる。レジャーボートで漁獲されたサケを1尾ずつ体長と体重を 計測して買取っていた。末端においても資源管理の考え方が行き届いていることが分かる。 No.12 これもレジャーボートの漁獲で、乗っていたのは高校の数学の先生だった。
No.13
No.14 No.13、No.14 Fishermen's wharfの近くの桟橋に係船してあったトロール船 太平洋岸では普通の船型 である。この船型のトロール船は現在でも見られる。網は船尾のドラムに巻込まれる。ワープはその前にあるドラム に巻込む。このドラムは小さいので、ごく浅いところでしか操業できないだろう。網を巻きこむドラムには動力 がない。左の狭い部分にワイヤーを止め、投網の際に網が走り出すことを利用してワイヤーを巻きこむ。揚網の ときは、このワイヤーをウインチで引いてドラムを回転させる。オッターボードは粗末な木の平板である。廃船 でもなく、観光のために置いてあるのでもないとのことであった。 Eureka(40°49’N、124°10’W、California州)
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8 No.2 中央の2隻は大学の調査船 2隻のトロール船は稼動している。 No.3 沿岸カニカゴ船 No.4はその漁具 カゴは漂砂で埋まるので、1カゴずつブイを付けて設置する。 砂に埋まって揚がらなくなると、ブイラインを巻上げられるだけ引揚げ十分に張り、それに沿わせてホースを入れ、 ポンプで砂を吹飛ばして揚げる。延縄方式にできないのは、そのためである。 No.5−No.7 沿岸トロール船 船尾の網巻き込みドラムの構造は、先に記したものと同じである。オッター ボードは鉄製の開いたL型で、これは北米の小型トロールでは最も普通のもので、現在でも広く使われている。 No.6とNo.7に示すウインチシステムによって、2人で操業できる。ワープには日本ではワーヤーにグリスを塗り こんで使うが、ここではホースに通してある。その欠点はいろいろ考えられるが、このような方式にしてあるには、 それ相応の理由があるのだろう。 No.8 曳縄のダビットとウインチ 片舷数本ずつの縄を曳くので、曳索ごとに付ける鉛の球の大きさを変えて 曳航深度を変える。ダビットの下にはそのソケットが見られる。 No.9 ここの湾内では、カキを地蒔きで養殖する。それを収穫するためのドレッジャー 水温が低く産卵 しないので、種カキは毎年日本から輸入するとのことであった。 Newport(44°39’N、124°04’W、Oregon州)
No.1
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No.10 No.1 ここではビンナガの曳縄がある。曳縄の装置はサケ用とほとんど同じであるが、漁獲は油圧の小さな滑車 で揚げ、斜めの台に落とされる。 No.2 曳縄の装置 No.3 擬餌 日本製 擬餌だけでなく、ここまで作ったのを売っている。擬餌に対するこだわりの違いと、 簡便さを好むレジャー漁業の影響等の表れだろう。 No.4 魚がかかったときの衝撃を緩和するためのウレタンゴム紐 これも日本製である。 No.5 加工場への水揚げには人手をかけないようになっているのが、アメリカの加工場の特徴の1つであることは、 先に指摘した。ここでは加工場は桟橋の上にあり、漁船はそれに着けられ、このような簡単な装置で2メートル 以上も引揚げられる。 No.6 漁獲物は直ちに桟橋上にある魚洗い機で洗われる。フィレーにして出荷されるので、このような処理法 になる。漁船は省力化のために漁獲物を仕分けせず、洗わずにバラ積にして持って帰る。洗った水による川の 汚染等にはあまり関心は払われていなかった。フィレーの残屑はすり潰して、そのまま耐水性の袋に詰めてミンク の養殖場に低温のまま出荷される。残屑のこのような利用法は日本でも考えなければならないだろう。 No.7 フローティングステーション これも、今後日本で取り入れたらよいと考えられるレジャー産業に 付帯するサービスのあり方の1つである。アメリカの沿岸には多量のレジャーボートがある。海岸から離れた ところに住んでレジャーボートを持っている人にとっての問題は、保守・点検・整備である。予め連絡しておくと、 係船場から船を引き出し整備し、燃料と餌・漁具を整えてここに係船して待ち、ここまで送迎する。したがって、 狭い船着場からの出し入れや保守管理技術から開放されて、船を走らせたり魚をとることだけを楽しめる。 (同じ国でも、Seattleでは船の保守整備もレジャーの一部と考えられている)漁獲物(主にサケ)はこの ステーションにある簡単なプラントで、客の希望によって燻製にしたり、缶詰に加工されて後日送られる。そのカン には漁獲した日付と人名が刻印される。日本では漁獲した魚の消費法が違うので、そのまま取入れられないだろうが、 漁村の活性化のためには、このようなことも考えに入れてもよいだろう。 No.8−No.10 レジャーボート群 ここでは、単に走るだけのものと、曳縄を行うもの(2本の長いポールを 備えたもの)が混ざっている。漁業(南では曳縄、北では曳縄と刺網)を行うレジャーボートの比率は北ほど多い。 Seattle(47°35’N、122°20’W、Washington州) Fishermen’s terminalの全景
No.1
No.2 No.1、No.2 SeattleのFishermen’s terminalには長い桟橋が並んだ漁港がある。遠景には多数の船が見られるが、 そのほとんどがレジャー漁船である。2本の長いポールは漁場までの往復中に使う曳縄用である。漁場に着くと 流し網を行う(drum gillnetter)。 No.2 桟橋の先端にはこのようなフローティングスタンドがいくつかあり、危険防止のために燃料補給はここで しかできない(同じFloating stationでも、Newportにおけるものと機能が異なる)。遠景には船がたくさん見ら れるが、ほとんどはレジャー漁船である。
No.3 No.3 薄茶色の建物は漁具資材専門のマーケットで、普通に考えられる漁具資材の他に、回転計・コンパス等から 台所やトイレの機材まで幅広く売られている。中の展示は、日本の漁具店にけると全く異なり、見ながら買うように 飾られている。休漁期には、ここで資材を買って自分の船に据付けるのも、レジャーの一部になっている。
No.4
No.5
No.6 No.4−No.6 休漁期 ほとんどの船はdrum gillnetterであるが、曳縄の装備を残し、ドラムは外して 整備中である。 小型トロール船
No.7
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No.14 No.7 船尾に大きなドラムがあり、普通は泥場用と荒場用の網の2カ統を巻き、漁場によって使い分ける。 ドラムは油圧駆動。 身網は長く、グランドロープは比較的細い。日本ではほとんど見られない軽合金の浮子を 使う。オッターボードは鉄製の開いたL字型の平板 漁獲物はコッドエンドから直接魚倉にあけられる。魚倉では、冷やした海水のシャワーを上からかけながら 保蔵する。加工場はここから離れたところ(旧商港の桟橋にもあった)にあり、そこに直接着岸して水揚げされる。 No.8 トロールにも巾着網にも使われるここでは最も普通の型の船である。これはトロールに使われている。 船橋は著しく前にある。その下が居住区、後が食堂である。1つのドラムに網が2カ統巻いてあるのが分かる。 No.9 スタビライザー トロール船ばかりでなく、巾着網船やdrum gillnetterでも使われる。曳縄のポール よりもやや太く短いブームが両舷にあるのは、スタビライザーを下げるためである。スタビライザーとはこの ようなもので、あまり大きくない(バケツ等から大きさの見当はつく)が、右に見られるチェーンでブームから 水面直下に下げると、船はほとんどローリングをしなくなる。 No.10 ドラムに巻かれた網 コッドエンドは平行なロープのところどころを太い撚糸で結んで網状にした カバーで被われる。船の索具として、動索にはワーヤーロープが使われている(最近ではブレードが使われるよう になった)が、支索には細い鉄ロッドとチェーンを組み合わせて使われるようになった。(制作費と保守の労力を 節約するためには、現在の日本ではこのような発想の転換が必要かも知れない) No.11 ドラム・オッターボード・トップローラーを示す。 No.12 L字型オッターボードの調整部、網を巻きこむドラムの内径等を示す。 No.13 トロール船の甲板 ロープを太い撚糸で結んで作ったコッドエンドの被い(スレ)が分かり易い。 No.14 網の一部 軽合金製の浮子・ヘッドロープが塩ビチューブで被われていること・ロープで作った スレ等を示す。 カニカゴ
No.15
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No.17
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No.20
No.21 No.15 当時のSeattleにあった漁船の中で最も大きかったのは、カニカゴ漁船であった。船橋・居住区・機関室 等は著しく前に片寄り、船体の大部分はイケスになっている。これは、活きたカニ以外は取引できないように 法律で規制されているためとのことであった。したがって、甲板は低い。カゴは写真に見られる横方向でも1.5m 以上もあり、タラバガニを漁獲する。4人乗りで、この大きなカゴはデリックシステムと右舷中央にある揚カゴ ウインチによって1人か2人で操作される。漁獲物は陸上で肉だけを取りだし、約15cm×20cm×1mにし、凍結して 持って帰る。このブロックをスライスしてサラダ等に使われる。 No.16−No.18 カニカゴウインチ (右舷外から)このウインチを吊っている頑丈なダビットは四角なソケット に入っている。ペダルを踏むとダビットは持ちあがり、容易に回転できる。90°回転してペダルを放すと固定される。 したがってダビットを固定するステイは張っていない。このウインチによってカゴを舷側まで揚げ、デリックで 吊り上げて引きこむ。その降ろされるところには、内側に傾いた太い鉄枠の棚がある。カゴをそこに降ろして蓋 をあけると、カニは直接イケスに転げ落ちる。餌を入れ替えて、この棚を油圧によって外に傾けると、カゴは 投下される。修理しなければならないようなカゴは、デリックで吊下げて後部に移す。このデリックとそのフック も1人で操作される。この船でも支索にはチェーンとロッドが使われている。 No.19 甲板に揚げたカゴを扱うデリックのコントロール部 当時では、各作業ごとにワイヤーを巻いた小型 の専用油圧ドラムを多数備え、それらを集中管理するシステムは日本の漁船ではまだ見られなかった。 No.20、No.21 カニカゴ 巾 着 網
No.22
No.23
No.24
No.25 No.22、No.23 巾着網漁船の全景 基本的な船型はトロール船とほぼ同じである。中央のブームの先端に 下がる黒く大きい滑車がpower block である。この船はturn table型を改装したもので、turn tableの跡が 船尾に見られる。船体に比べてskiffの大きいことと、skiffの構造が分かる。船橋の前縁の舷側から斜上方に 上がり、居住区の後端に降りる(白い)ブームは、スタビライザーを吊下げるためである。 No.24 調査船 トロールの装備をしているが、船尾にturn table式の巾着網の装備の跡が見られる。 No.25 power block サケのドラムセイナー(ドラム式巾着網船) Bellingham(48°45’N、122°29’W、Seattleの北)の波打ち際から数百メートルしか離れていない霧の中 で操業している船を見学した。網を岸に向かって開いたU字型に打ちまわし、袖網の両端を網船とskiffで岸に 向かって約20分間曳く。その際に浮子方が沈まないように多数の浮子が付いている。その後で、両袖を閉じて 網を揚げる。この作業を1日に10回近く繰返す。漁具は完全に巾着網であるが、操作法では船曳網に近い。 乗組員は船長を含め4人とskiffに乗る1人、計5人である。船長と機関長は専業漁師であるが、網船に乗るあとの 2人は臨時の漁師であり、したがって網や環綱のトラブルが起こっても、船長と機関長しか処理に当たれない。
No.26
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No.37 No.26 この船はpower blockを備え、それで網を揚げるために吊上げているが、ドラム式では、網は高い位置 まで吊上げない。 No.27 揚網(網をドラムに巻きこむ) 人と比べると、ドラムの大きさが分かる。Puget Sound内の静かな 海域で操業するので、このような方式をとれるのだろう。 No.28 環の束が見られる。環の型や環綱にはワイヤーロープでなく、ブレードを使っていることが分かる。 No.29 船橋後面からドラムを見下ろす。 網の部分によって浮子の型が違う。 No.30 サケ巾着網 これはpower block式の網船の船尾に積まれた網である。ドラム式でないが、網の概要 を示すために、ここに上げた。網を曳くので網目は大きい。 No.31 環の付け方とと網裾の構造を示す。 No.32 開閉できる環と沈子綱の構造 沈子綱にはブレードが使われる。 No.33 網裾の構造 No.34 浮子綱付近の構造 浮子綱にもブレードが使われる。 No.35 ロープ類が切断したとき等に使う金具 この他にも種々の金具がある。その中には日本に導入する 可能性を考えた方がよいものも多い。 No.36 Skiffを離す装置 No.37 網針に網糸を巻く装置 手作りで、動力にはミシンのモーターを使う。巾着網を修理するには、多量の 網糸を網針に巻かなければならない。日本では、現在でも、省力化のために、このような装置の積極的な導入を 検討しなければならない。 オヒョウ底延縄
No.38
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No.45 No.38 伝統的なhalibut schooner 後にはtender boat(No.63、No.64)が見られる。 No.39、No.40 Power gurdy (底延縄用のラインホーラ、日本ではラインホーラと呼ばれるが、ここではこの ように呼ばれる)ディスクは水平面を回り、枝縄は垂れ下がる。上のディスクは瀬縄を揚げるためである。水平に 回ると幹縄に下向きの力がかかったときに外れ易いと考えられるが、そのようなことはないとのことであった。 No.41 shooter この前に縄を置き、航走によって縄を繰出す。少し型が違うが、日本でもフグ延縄では使われて いる。 No.42 延縄船の後部 船橋や居住区は著しく前に片寄り、後部は広い作業甲板になっている。左舷に風除けが あり、枝縄をからめて揚がってきた縄はその蔭で繰りなおされる。左には底延縄用のブイが見られる。1畳くらいの 大きさのオヒョウも漁獲されるので、縄の構造は日本の底延縄と異なり、むしろマグロ延縄に近い。1人で揚げ ながら操船するようにpower gurdyの近くに舵輪がある。(Juneau、58°20’N、134°20’W、Alaska州の州都) No.43 底延縄船の全景(Vancouver) No.44 エスキモーがオヒョウ漁に使っていた複合針 2本の枝をこのように組み合わせ、内側にあるカエシ だけが鉄製である。これに肉をかけて投込む。この餌に食いつくと頭が挟込まれて、簡単には逃げられなくなる。 長い丈夫な縄の端には大きな板の浮きが結ばれていて、それを曳き回すうちに疲れたオヒョウを引き揚げる。この 釣針と板にはエスキモー独特の彫刻が施してある。(Juneau) No.45 Drum gillnetterのドラムを利用した底延縄用ドラム ドラムの上の枠の前側には、揚がってくる網に かけるシャワーのノズルがある。流し網の浮子綱だけのように見えるが、ドラムの向かって右外側に底延縄用の アンカーが見られる。(Juneau)オヒョウ延縄は水深500mまで投入されるが、このようなドラムでは極く浅い漁場で しか使えないと考えられる。 Drum gillnetter Seattleの漁港に最も多いのはこの船である。漁船のライセンスを持ち、乗っている人もFishermanのライセンス を持っているが、パイロット・銀行員等ホワイトカラーが多い。予備知識なしに見ると、このような船で漁業を して採算がとれるか疑問になるが、レジャーボートである。しかし、Vancouverではこのような船で漁業を行い、 Alaskaではこのような船を持ってサケの漁期の数ヶ月だけ出稼ぎに行く人がある。後者は学生や漁期外には他の 仕事を持った人たちであり、本当の意味でFishermanとみなせるか疑問である。 漁期外には種々の部品を買ってきて改装するのも、ここではレジャーの一部として受け入れられている。 1隻ずつ細部が異なるのが、レジャーボートの特徴である。漁獲対象はサケであり、その年の資源の状態によって、 出漁日数や1回に使える網の長さ、1漁期に漁獲できる尾数等が制限される。したがって、このような船を持って いる人にとってサケの資源は関心の深い事項である。これが日米加三国の漁業協定に対する「ものを言う漁師」 として世論の背景となっていた。
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No.54 No.46 典型的なdrum gillnetterである。ドラムは木製、スタビライザー用のブームは見られるが、曳縄の 設備がないのは珍しい。 何人かで組になって扱うと、休暇のやりくりが面倒なので、レジャーボートは1人乗りになる。普通はペダルを 踏んでいるときだけドラムが回り、足を離すとドラムが止まる(dead man control)ようになっているので、 1人乗りでも網から漁獲を外し易い。船尾の先端から網を引揚げるので、船は自動的に網の方に向けられる。 スクリューのすぐ後に網があるので、揚網中に網に近づけるか網に力をかけないなために、後進はかけない。 したがって浮子綱に力をかけて船を引き寄せることになる。短時間の前進微速と停止を繰返しながら、たるんだ 部分の網を取込むのが、普通の揚網法の基本であるが、ここでは基本的な考え方が違う。 No.47 ドラムは鉄板製 No.48 自動車のギアボックスをつけている。 No.49 網をドラムに巻込むために浮子は紡錘型で、一般の流し網に比べてその数は少ない。その代わりに、 浮子縄には浮力のあるブレードを使っている。 No.50 軽合金の鋳物のドラムと、その操作盤(主機の変速もできる) No.51 普通のdrum gillnetterでは、船尾にドラムがあり、前進しながら投網し、船尾から揚網するが、 この船では前にドラムがあり、後進しながら投網し、前進しながら揚網する。FRP製のドラム このように 種々の嗜好をこらすことがアメリカのレジャーボートの特徴の1つである。 左舷前寄りに見られる灰色の柱は陸上電源をとるためで、桟橋には数メートルごとに見られる。 No.52 当時としては最も進んだdrum gillnetterである。ドラムと船体はFRP製。ロッドはステンレス製、 小さいがレーダーを備えている。船内には台所があり、客間の感じである。普通の船では漁船に近い感じであるが、 この船では洋上サロンの感じである。 No.53 2月で整備中 No.54 自分で網を仕立てるのもレジャーの一部である。Monofilamentの網は禁止されているので、網地は軽い 縒りをかけて樹脂で固めた糸で作られている。 曳 縄
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No.59
No.60 No.55 曳縄はレジャー用のdrum gillnetterだけでなく、小型のトロール船や巻き網船も備えている。しかし、 一部のレジャーボートは曳縄だけしか装備していない。(Vancouver) No.56 曳縄用のウインチ 自動車のギアボックスが組込んである。 No.57 曳縄だけしか装備していないが、嗜好を凝らしている。中央に見える箱の中にはCRT表示方式の魚探があり、 その前には小さなコンパスがある。その前に座って変速できるようになっている。 No.58 曳縄用のウインチ No.59、No.60 レジャーボートは種々の税金の財源であり、漁船として、Seattleの桟橋の使用許可、乗っている 人のライセンス等のプレートが見られる。その税金の少なくとも一部は、サケマスの孵化場を作るための目的税で あり、孵化場にはそのことが書かれた看板がある。 Dragger
No.61
No.62 No.61 Scallop(ホタテガイ)が漁獲されるようになったので、ミシシッピ河口から回航されてきたdragger No.62 このような網を左右1統ずつ曳く。網は海底とすれるので、平行に走るロープのところどころを太い撚糸 で結んで網状にして背網とする。腹網は鉄の輪を組み合わせて作る。 Tender boat
No.63
No.64 No.63、No.64 Tender boat(魚買付け船) サケ巾着網の漁場では、缶詰工場や水産会社(買付けて出荷する) のこのような船が漁船の間を回って、沖で漁船から直接魚を買い取る。(日本でも一本釣の船の間を回って魚を 集める船がある。しかし、これは市場のセリ時間に鮮魚を間に合わせるだめであり、目的は異なる。) 工 船
No.65 No.65 全景は巾着網船、その後はhalibut schoonerである。その更に後には工船が見られる。数隻が重なり 合っているので識別しにくい。 夏季にはAlaskaが主漁場になる。そこでは、道路がなく、電気・水道や宿舎もない。ここで示すような船を漁場 の近くの入り江に繋留して、宿舎や荷受場とする。塩蔵・氷蔵程度の簡単な処理も行う。Factory shipまたは factory boat等種々の名前で呼ばれるが、われわれがfactory shipという語から浮かぶイメージとは全く異なる。
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