漁業技術の画像集・FishTech
著作者/水産大学校名誉教授・理学博士 前田弘
Back to: Top Page |
FishTech 目次 | ご覧のページ
|
第 6 部 25-03 Mar del Plataの漁船が使っている漁具 Mar del Plataの漁船船溜りには多くの沿岸漁船が見られる。1984年に関する統計によれば、アルゼンティン では沿岸漁船329隻(平均船齢29.5年)と伝統的沖合漁船140隻(平均船齢19年)がある。これらはMar del Plata 以外にはほとんどいないので350隻近くがここを根拠とすることになる。 沿岸漁船による漁獲物は鮮魚として消費しなければ、沿岸漁船は大型船と競合できないと考えられるにも かかわらず、アルゼンティンでは一般に魚はあまり食べない。統計によれば1984年には28.5万トンの魚を漁獲したが、 うち19.5万トンまでは輸出し、一人当たりの年間消費は3.6kgであった。 沿岸漁船が使う漁法はトロールと巻き網を主体とし、他にはタイカゴ・ランパラネット・底延縄がわずかに 見られた。 漁船の写真は別の2つのファイルで示し、ここでは漁具を示す。 まず沿岸漁業で最も多く使われるトロールを示す。 日本の沿岸漁業で使われる漁法の中には、板曳きがある。これはオッタートロールとやや異なるが、アルゼン ティンの沿岸漁船が使うトロールはサイドトロールそのものである。 No.1はトロールの網を使う沿岸漁船のトロールウインチと網の写真である。沿岸漁船は’84年には平均船齢が 30年 に近く、’60年代の初めに建造されたとすれば、当時の沿岸漁船としては最新式の設計で、当時の日本の 沿岸漁船では見られなかったような大型だったのだろう。 甲板上には木製平板オッターボードが置かれている。 日本船ではブレードはほとんど使われないが、アルゼンティンでは漁具に大幅に取入れられ、沿岸漁船の動索 にはほとんどワイヤーロープの代わりにブレードが使われる。これは写真を拡大すると撚りがないので分かり やすい。インフレがひどく、漁業はあまり儲からないので、網に回せるだけの利潤がなく、有り合わせの材料で 修理していた。 1つの網の中でも部分によって要求される性能が異なるので、日本の底曳船が使う網は部分によって異なる 目合いや網糸の太さが異なる網地で仕立られている。しかし、ここではコッドエンド以外は同じ網地で作られ、 しかも網地は染めてない。漁師に聞いても白い網を使う理由は見つからなかった。網糸は太いが、傷みが激しく、 毛羽立っている。これは、そのような材料を特に好んで使っているわけでない。
No.1 No.2からNo.4までは沿岸漁船が使う網を示す。コッドエンドには太い網地のカバーがかけられ、自動車の チューブを利用したカウハイド(スレ、コッドエンドの被い)が見られる。これはNo.3とNo.4で分かり易い。
No.2
No.3
No.4 沿岸トロールが使うオッターボードの写真である。スケールとして150mm望遠レンズのケースを置いてあるので 大きさが分かる。オッターボードは木製横長平板である。ブラケットの部分の構造が分かり易い。
No.5 小さいながら全くサイドトロール船と同じ構造の船が見られる。No.8はその例である。No.2とNo.3に写っている 船はサイドトロールの型をしている。ギャロースやトロールウインチは小さいながらサイドトロール船における 型をしている。 アルゼンティンで次に重要な漁法は巻き網である。これはカタクチイワシ漁獲する。その漁獲物は塩水に漬けて 醗酵させて缶詰にされる。これはSardina argentina(アルゼンティン風のイワシ)と呼ばれサラダやピザの上に 載せて食べられる。 巻き網というと、われわれは100トン以上の重装備の船団が多量の魚を漁獲すると想像するが、ここではNo.1の 上に写っている漁船で巻き網を行う。もちろん、単船操業である。探魚の設備がなく、最もどまどうのは、網に 環締め装置と漁船には環締めウインチのないことである。昼間操業なので集魚灯はない。小型のランパラネット と考えればよいだろう。1隻1回の漁獲量は「Mar del Plataの国立水産物集荷市場と付近のレストラン」のNo.7 とNo.8に示したように少ない。漁期は9月から12月までであり、Mar del Plataを訪れたのは主に3月と8月で、 8月(アルゼンティンでは冬)は準備期間に当たる。この漁船は「Mar del Plataにおける漁船1と2」に示した。 No.1の上に写っている船に見られる背が低い2つのドラムはネットホーラである。左上隅のドラム缶は、巻き網の 漁期外に他の漁法でエビを漁獲したときに、漁獲物を船上で茹でるためである。甲板上で裸火を使うことは、防災 上好ましくないが、この型のほとんどの船にはドラム缶が見られる。 No.6からNo.9までは、沿岸漁船が使う巻き網を示す。浮子綱は細く浮子は少ない。 ランパラネットと似ているので、網裾の構造は巾着網と全く異なる。沈子にはチェーンが使われる。 沿岸漁船だから、1隻にはこの作業に当たっている3人か4人だけしか乗っていない。 地面に座ってする作業をきらい、どの写真を見てもほとんどの人は、網を地面に置いて立ったまま修理をして いる。これは以後にでてくるすべての写真に見られる。
No.6
No.7
No.8
No.9 これも沿岸漁船が使う巻き網である。これまでに示した網と同じ年(1984年)に同じ漁港で撮影した。 魚捕を除く網の各部は同じ網地で作ってある。この点は他の写真に写っている網と同じである。しかし、網地は 比較的新しく、網糸は他の船が使う網に比べて細い。 この乗組員達は、網を地面に置いて、立ったまま作業をしている。 何枚かの写真では拡大すると船名を読み取れる。これは船に対して船主がどのように考えているかを知る 手掛かりとなる。他のファイルでも漁船が写っている写真では、拡大して船名を読取ると面白い。
No.10 No.11とNo.12は全長25m以上の伝統的沖合漁船クラスが使うトロール網の写真である。沿岸漁船が使う網と異なり、 ヘッドロープには浮子が多い。浮子は、日本ではほとんど使われていない軽合金製である。 グランドロープは目立たない。しかし、これは使っている網を陸に揚げて修理しているのか、古い網から使える 部分を集めて仕立なおしているのか疑問である。この写真を撮ったころは、No.14とNo.29に示すように、漁業は 有り合わせの網地で網を修理しなければならないほど深刻な経済危機の影響を受けていた。 No.12の遠景には荷役用の簡単な移動式クレーンが多数写っている。日本では漁獲物の荷役は主に船のウインチ を使うので、このようなクレーンは見られない。日本では荷役が終わるまでは乗組員の仕事になっているが、 沿岸漁船を除くアルゼンティンの漁船では、入港すると乗組員はすぐに下船し、漁獲物を降ろし、補給品を積み込む のは他のチームの仕事になっている。このような仕事の分担の違いがここに反映していると考えられる。
No.11
No.12 中型のトロール船の写真である。古いサイドトロール船を活用し、船尾で曳網し右舷から投揚網する操業法である。 操業法が変わったので、サイドトロール船(写真ではマストの横の右舷側近くにあるはずである)にあった ギャロースはみられない。左端にトロールウインチが見られる。これは、投揚網法が変わってもサイドトロール船 時代のままであった。
No.13 トロールの網の部分写真である。コッドエンドを閉める綱を通すループはブレードで作られている。浮子は日本 ではほとんど使われたことがない軽合金製である。 種々の網地で補修されている。’83年以後軍政から民政に移った数年間はインフレがひどく、外貨を稼ぐ漁業 には税制的に種々の優遇処置を取られたが、このような網を使わなければならないまでに漁業は追込まれていた。
No.14
No.15 左の2つの山は沿岸漁船が使う巾着網である。環綱にはブレードが使われている。右はトロールである。
No.16 台車に乗せられているのは、ランパラネットの魚捕、その左横に積まれているのは、その身網と袖網である。 ランパラネットはNo.34からNo.47に示すように広げると大きいが、大きな袖網は網が大きくても細い糸で作られて いるので、積重ねると、この程度の大きさになる。
No.17 中型トロールは楕円型オッターボードを使う。 これは沿岸漁船の船溜りの外側にある中型船専用の岸壁の一番奥の写真である。この船溜りには、かなり古い トロール船が繋留されている。初めて行った’83年には、このようなひどい船が稼動中なのか疑問に思ったが、 ここにいる大部分の船は最後に行った’92年まで、ほとんど動かなかった。この型の船は’84年にはすでに平均 船齢が19年だったという統計がある。したがって、動いている船が故障すると修理をする部品がなく、このような 廃船から外して使わなければならないとのことであった。 遠景の白い船は冷凍魚運搬船で、左端には冷凍魚を運んできたトラックが見られる。
No.18 サイドトロール船の甲板の写真である。船尾で網を曳く。したがって、甲板上のワープの走り方はサイド トロールの時代と異なる。
No.19 網を船尾で曳くために、サイドトローラの船尾に取付けたスタンガントリーの写真である。オッタボードは 船尾で揚げ、網は右舷から揚げられる。 スタントローラでは、オッターボドは船尾に揚げられ、ワープはスタンガントリの内側を走るが、この曳網法 ではオッターボードはスタンガントリの外側に揚げられ、ワープも外側を走る。
No.20 No.21とNo.22はスリット付きの楕円オッターボードの写真である。
No.21
No.22 船尾で網を曳くサイドトローラの右側のスタンガントリーの写真である。スタントローラでは、機関室の上も 閉鎖し漁獲物処理甲板として使われるが、サイドトローラの時代では、機関点検のために、機関室の上には 構造物はなかった。右端に写っている窓はその名残で、スカイライトキーパと呼ばれる。
No.23 楕円オッターボードと、船尾で網を曳くように改造したサイドトローラにおいて、船尾に付けられた ギャロースである。 船体は古く傷んでいても、ワイヤーロープのループは軽合金で止める新しい型である。
No.24
No.25
|
No.26 レンズ型オッターボードが見られる。これは本で見たことはあるが、実物は始めてみた。
No.27 巾着網漁船の写真である。 日本の巾着網漁船は積める限り大きな網を積むが、アルゼンティンでは、船の大きさと網の大きさとの関係 に関して考え方の基本が異なる。操舵室と機関室が中央よりやや後方にある普通の型の漁船である。したがって、 巾着網には全く適しない。その船を使って巾着網をしなければならない理由は分からない。 その船尾に網を積んでいる。右舷船尾付近のパワーブロックで網を揚げる。船体を赤く塗ってあるので、 全長25m以上の中型船である。
No.28 巾着網の一部の写真である。1つの網でも部分によって異なる網地を使っているのは、技術的でなく経済的な 理由による。目合い・色や網糸の太さが違う網地ばかりでなく、ラッセル編の網地まで組込まれている。
No.29 巾着網では網を巻く前に魚を集める。これには多くの国では灯火を用いるが、アルゼンティンでは、魚を 腐らせてほとんど骨と鱗になったものを撒餌に使って魚を集める。 この写真には2隻の船の船尾が写っている。いずれも船首は左である。手前の船の箱の中にはその撒餌が 見られる。上の船には網がみられる。
No.30 この撒餌は沿岸漁船の船溜りのこのような大きなタンクで作られる。余った魚を上から入れておき、 下の口から取出す。
No.31
No.32 このタンクの上の口から撮った写真である。
No.33 ランパラネットの写真である。この網はINIDEPの研究者が文献を読んで試作し、実用化したものとのこと であった。 ランパラネットは本ではよく見られるが、実物は日本では見られないので、写真を多目に示す。 影の方向・車・背景と人物の配置を注意して見ると、それぞれの写真を撮った位置と方向が分かる。 No.34は大きさを示すため全体を写した。
No.34 上の写真の左に集っている人達の写真である。大きな網の部分的であるにしても、立ったままで修理をしている。
No.35 これはそのやや前方から左に向かって撮った写真である。袖網の部分が写っている。袖網が大きいことを示す。
No.36 身網の部分を横から取った写真である。
No.37 身網と魚捕の部分を示す。
No.38 No.39からNo.37もランパラネットの写真である。網の構造はこちらの写真の方が分かりやすい。 網の大きさを示す。 この写真の左側が造船所、右側が沿岸漁船の船溜りであることを記憶し、赤い乗用車と遠景に見える冷凍 トラックの位置を参考にすると、以後の各写真を撮った位置と方向を考えるのに参考となる。
No.39 No.40は、No.39と同じ方向で、更に前進して撮った写真である。袖網の概要を示す。袖網は長い。網糸は 細く、一様な網地で作られている。浮子は袖網の一部と魚捕付近にしかない。
No.40 これは同じ方向に向かってさらに前進して撮った写真である。袖網の先には長い曳索が付いている。
No.41 長い袖網はこのような大きな目合いで組み立てられ、沈子は少ししか付いていない。
No.42
No.43 これまでの写真と反対の方向に撮った写真である。遠くに魚捕の部分が見える。
No.44 魚捕を示す。この部分だけが網糸は太い。
No.45
No.46 この写真では、珍しく座って作業をしていた。
No.47 底延縄に餌を付けている。この漁業には、ツバがある独特の型の大きなカゴを使う。アルゼンティンでは 底延縄はほとんど使われていないので、このカゴは地中海岸からの移民がこの漁法といっしょに持ってきた ものだろう。 枝縄は太く、多い。カゴの内側に沿って輪があり、それに釣針をかけてある。釣針にはアイが付いている。 餌をつけた釣針はツバの部分に載せられるが、餌はツバからはみ出さない。餌は頭掛けにする。小さなイワシ は1尾のまま使われるが、大きなイワシは半部に切って使われる。尾部は針から落ちやすいがそれでも使っている。 漁師は集って餌を付けている。予備の鉢が近くに見当たらない。釣針が多いが2人の組が1回に1鉢しか 使わないかどうか疑問である。しかし、基本構造は日本の沿岸や遠洋で使われる底延縄と異なり、大型の底魚類 を対象とするなら、1回に1鉢ということも考えられる。
No.48
No.49
No.50
No.51
No.52 タイカゴの写真である。これはMar del Plataの名物とも言える漁法である。 釣鐘型で高さは1m以上ある。このままでは沿岸漁船に積みにくいが、折りたためない。餌として巾着網の 撒餌に使ったような腐った魚が使われる。 観光客が多いので、小型のものを土産として売っていた。
No.53
No.54 トロール船に砕氷を積込む装置 これはNo.19の中央に見られたハッチに被せられている装置につなげる。 遠景はNo.11とNo.12の中型船用のトロール網が見られた広場である。
No.55 荷役用の移動クレーン この装置についてはNo.12においてすでに説明した。
No.56 漁港の近くの漁具販売店 ここでは、原反は作っていないが、注文に応じて網を仕立て販売する。また、 工場独自に仕立てた網も売っている。 アルゼンティンの漁師は日本におけるほど網の設計にはこだわりを示さない。 大手の漁業会社では専門の網師と網職人を雇っており、会社に所属する船が使う網はその人達が仕立てたり、 修理したりする。 沿岸漁業は、No.14とNo.29に示したようにインフレのために経済的にあまり余裕がないので、仕立てあがった 網まで仕入れて使うのか疑問である。
No.57
|