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北極海を巡って/北極海の海氷融解と航路の未来を見る

北極海航路と南回り航路のルート比較図 [拡大画像]
[画像撮影: 2016.9.15/韓国・釜山の国立海洋博物館にて][拡大画像: x27424.jpg]


1. 画像は、韓国・釜山の「国立海洋博物館」に展示される「北極海航路」と「南回り航路」のルート比較図である。 図絵によれば、北極海航路(欧州ロッテルダム~北極海ロシア沿い北東航路~ベーリング海峡経由~アジア・釜山)の航海距離は 12,700kmであり、南回り航路(欧州ロッテルダム~スエズ運河・シンガポール経由~アジア・釜山)のそれは21,000kmであると 示される。当然の帰結として、前者での航海日数は大幅に短縮され、また燃料コストも大幅に低減されることになる。

2. 地球温暖化の影響で北極海の海氷も溶解しつつある。その海氷面積は縮小化の傾向をたどり、その最小傾向をさらに更新し続けている。 「国連気候変動に関する政府間パネル」(IPCC) や世界のさまざまな研究機関などがそれを報告し、警告を発出し続けてきた。
* ドイツなどの研究者が「CO2の排出量が現在の水準で続くと、北極海での夏の海氷は今世紀半ばに消滅する」との論文を、 まとめ、米国科学誌サイエンスに2016年4月4日付で発表した (朝日新聞・朝刊2016年11月4日)。 北極海での通年航行が、海氷の全面的消滅よりもっと早い段階で確実に可能になると予測される。

3. 北極海の海氷、南極大陸の氷床、グリーンランドなどの陸地氷河などは地球の気温を調節する機能を担っている。地球規模 での氷の融解は、大気や海洋での循環に影響をもたらす。世界全体の平均気温の上昇が産業革命前に比べて2度を超えると、河川洪水や 大干ばつ、沿岸部の高潮・高波による浸水などの自然災害の発生、農作物への被害、病害虫の発生拡大、 海洋生態系や漁業生産への影響など計り知れない。いろいろな悪影響が予想されるなか、今後ますます顕在化する可能性がある。 人類は未来のある時点において不可逆的な深刻な環境インパクトを被るかもしれない。

4. 北極海の海氷の完全融解は地球的規模で負の甚大な環境的影響をもたらす一方、世界の海運は50年100年前には予想だにしなかった 副次的インパクトを皮肉にも眼の当たりにし、その経済的効果を享受し、内心では全面融解に対して「前向きの評価」を下す かもしれない。即ち、北極圏での通年通航の実現化である。航路の大幅短縮でいかに経済的実利や 恩恵を受けるとしても、真に喜び褒められるべき地球の姿なのか。産業革命前の地球の自然環境こそが守られるべきものではないのかと 人類は自問自答を続けることになろう。

5. 最近、地球温暖化の影響で北極海の海氷の溶融による面積縮小化にまつわる象徴的出来事があった。即ち、2016年の夏、大型客船 が史上初めて北極海を航行した。米国クリスタル・クルーズ社所有の「クリスタル・セレニティ号」(68,870トン) が、同年8月、太平洋沿岸の港町アラスカ州シュワードを出港し、北米大陸北岸に沿って北極海(北西航路)を航行し、北大西洋へ抜け ニューヨクにいたった。







2. 国際海事機関(IMO)による北極海航路での国際通航ルールの設定

画像は、「国際海事機関(IMO)」が北極海航路における国際通航ルールの設定に積極的であることを報じる、 2014年(平成26年)11月4日付けの読売新聞記事である。 [画像: 2014年11月4日読売新聞][拡大画像: x27206.jpg]


1. 北極海では、その海氷の融解により、その面積がますます縮減傾向にあることが明白になりつつある。 国際社会の温暖化効果ガス削減対策が不十分な場合には、いかなるインパクトをもたらすのか。 21世紀半ばまでに、夏時の多年海氷の事実上の完全消滅となる可能性が高いと指摘されている。

2. 他方、北極海航路 (ロシア沿岸沿いの北東航路; ベーリング海峡~ロシア北部沿岸を経て欧州のロッテルダムなどへいたる)  の利用、北極海周辺域におけるエネルギー資源開発への関心は高まる趨勢にある。
・ 2010年には4隻、2013年には71隻が北極海を通過したと報じられる。

今後、融解の面的拡張につれ、北極海航路の利用の増大、船舶の年間の実通航期間や通航量のさらなる拡大が進展するであろう。現在は 7月から4か月間の利用のみであるが、海氷融解の進展によって、通年通航が可能になるのは時間の 問題となるかもしれない。
[参考]北極海航路は、マラッカ海峡・スエズ運河を経る「南回り航路」に比較して、航海日数は40%短縮、燃費・人件費は大幅に 削減されるという。

3. スエズ運河経由の南廻り航路では、現在年間15,000隻であり、北極海航路の30~40隻程度とは全く比較にならない。 だが、安全にして通年通航が可能となり、船舶通航量の大幅増となって行けば、21世紀中に世界の海運・海上物流に大きな変革を もたらすことになる。

4. ロシアが独自の「国内通航ルール」を各国に適用している現状がある。現在は「北東航路」の大半がロシア国土沿いであり、 事故防止名目にてロシアの原子力砕氷船の先導による砕氷サービスを義務付けるなど、独自ルールがある。サービスに対する 課金を徴収している。沿岸諸国のさまざまなルールの強制的適用、通航に先だつ事前通告の義務など、国内規制の内容・適用は どこまで許されるのか、重要な課題である。

5. 翻って、「国際海事機関・IMO」は、北極海航路の国際ルール作りを積極的に進めようとしている、と報じられる。 IMOは、国際基準を満たした船舶は自由に航行できる「国際航路」にする考えである。 関連条約の改正によって強制力のある安全・環境基準の作成準備を進める。さらにまた、船員資格に関し極地航行の新資格を設定 する方針でもあるという。油・油分の排出禁止、船体安全基準の強化に向けた新たな環境基準も策定されよう。 関係諸国で調整された通航に関するルールづくり、国際規準化を図ることが国際共益に適う。国際協調・協力が期待される ところである。

6. 地球温暖化の結果、全く意図しなかった、「棚からぼた餅」のような「副産物」が浮上しつつある。世界はこれを「好機」 としてとらえ、北極海航路での輸送上のより高い安全性、世界的規模での物流効率化や経済効率性などを追い求め続けることに なるのであろう。新たな世界的物流ルートの開拓への挑戦は既に始まっており、その開拓を求める圧力はますます高まるものと 予想される。

7. ロシア、カナダ、米国、中国、EU、日本などは航路開拓や規制につき如何なる方向性や戦略をもつのか。近未来において、 中国は北極海航路に定期的に一般商船を通航させたり、時に軍艦を行き来させ示威行動を取るのであろうか。諸国の動向や戦略に つき注視していきたい。


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