海洋総合辞典Japanese-English-Spanish-French Comprehensive Ocean Dictionary, オーシャン・アフェアーズ・ ジャパンOcean Affairs Japan「日本と海洋」, 沖ノ鳥島について(「島」か「岩」かの重要課題)

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沖ノ鳥島について(「島」か「岩」かの重要課題)

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1.沖ノ鳥島の地理的ファクトなど
  沖ノ鳥島は、我が国の領土総面積(約38万km2)を上回る、約40万km2もの排他的経済水域(EEZ) を擁するきわめて重要な島である。同島は「準卓礁」に分類されるサンゴ礁から成り、その広がりは東西4.5km、南北1.7kmである。 沖ノ鳥島の周囲の海は急に深くなっており、水深は4,000~7,000mに達する。

  そのサンゴ礁の周縁部において少し高みをもって縁取っている部分は「礁嶺」と称される(白く泡立っている島の周縁部の浅い場所) (画像1参照)。この礁嶺の内側にある水深3~5mの部分は「礁湖」と称される。さて、この礁嶺が、同礁湖内でわずかに海面上に 突き出ている2つの小岩を太平洋の激浪から自然保護して来た。 現在、これらの小岩は高潮時においても水没することはない。

  画像1の礁湖内の二つの小岩のうち、最左中央の岩が「北小島」、 そのすぐ上方にある岩(薄っすらと小さく写る)が「東小島」である。礁湖の中心部にあるのが観測施設(高床式)と観測所基盤(同施設のすぐ 右下)である。画像3では「北小島」は最左上に、「東小島」は最右上に、観測施設と観測所基盤は両島の中間下方に写る。 「北小島」の住所は、東京都小笠原村沖ノ鳥島1番地、「東小島」は同村沖ノ鳥島2番地となっている。

  画像4,5で見る通り、「北小島」、「東小島」ともに、それらの小岩が台風などの激浪によって倒壊しないように、それぞれに直径50mの円形状のコンクリート ブロックでもって、またその周囲に多量の消波ブロック(通称、テトラポッドという)が設営され人工的に強固に防護されている。 (画像2では、「北小島」は左上方の円形護岩壁内に、「東小島」は右上方のそれに存在する)。

  沖ノ鳥島は日本で唯一熱帯地方にある島。年間の気温が24~30oC、台風の発生する海域に近く、毎年多くの台風が 通過する。押し寄せる波の高さは、年平均で1.3m、台風通過時には最大は16mを越える波が発生するという。日本で最も厳しい海域の一つ といえる。


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4の拡大画像5の拡大画像 [画像出典: 2011.01/東京「船の科学館」での「沖ノ鳥島フォーラム2011」と題する展示にて]


2.周辺海域での社会経済活動に関する事例など
・ 沖ノ鳥島の海域における漁業資源はどの程度豊富であり、漁場として有望であるか。過去における活動の事例について触れる。 同島周辺海域での漁場の造成・開拓がなされた。 東京都では、漁業操業や漁業資源の維持増大に対する支援をはじめ、漁場の調査、沖ノ鳥島で獲れる魚の加工品の製造、漁獲物の 販路拡大などに取り組んできた。また、都立大島海洋国際高校が海洋観測を実施した。サンゴの増殖技術開発の実証実験なども 行なわれた。
・ 周辺の海域にはコバルトやマンガン(いずれも特殊鋼の材料等に使用される)など貴重な海洋鉱物が賦存すると理解されている。
・ 周辺の表層海水温度が年間を通じて摂氏28度ほどあり、深層の冷海水との温度差で発電する「海洋温度差発電」(OTEC)の適地 と考えられている。
・ 深層水の深海からの汲み上げによる島周辺海域での漁場の造成、開拓の可能性がある。 都では2007(平成19)年度から沖ノ鳥島周辺海域で、海洋深層水の汲み上げによる新たな漁場の造成に向けた研究に取り組んだ実例がある。 この研究では、「ストンメルの永久塩泉の原理」を応用して、海洋深層水を自然の力だけで汲み上げるための装置が検討された。 実用化が実現すれば他の海域での活用などが可能となり、水産業発展への貢献が期待される。
・ 浮魚礁の設置による「藻場(もば)」あるいは漁場の造成事例がある。例えば、都では、沖ノ鳥島周辺海域における漁業操業支援の一環 として、大型回遊魚などの漁場を造成することを目的に2006(平成18)年度に「大水深中層浮魚礁」を設置した。


3.国際海洋法上、岩が「島」とみなされる要件
  同島周辺での社会経済活動が活発化することは重要なことであるが、その活動が島における「人間の居住」にどう結びつくか、また島での 「独自の経済的生活の維持」にどう結びつくのか、それが最大の関心事である。活動とそれらの要件との繋がりを確かなものにすることで、同島の「島」としての 法的地位を強固にして行かねばならない。

  浮魚礁設置や深層水の汲み上げによる漁場の造成、マンガン団塊の採鉱などは、同島の陸上における活動ではなく、同島周辺 「海域」における活動であり、「自然に形成され満潮時でも水面上にある」自然の陸地上における「居住や独自の経済的生活の維持」とは 見なしうるものではない。

  居住や経済的生活を行なうにも、同島には岩2つしかないので、(1)人工の高床式による居住や経済的生活のための基盤を「礁湖」内に築造 する他ないかもしれない。あるいは、(2)礁湖を一部埋めたてて、地盤を確保するしかないかもしれない。(現在の直径50mの 護岩堤の拡大版の築造を意味する;しかし、台風による10~15メートルの高波にも耐える人工地盤や建築構造物である必要がある)。(1)・(2)の人工 構造物の建設維持は、将来的に「島」としての法的地位にいかなる影響を及ぼすことになるのか、慎重に吟味される必要がある。

・ 国連海洋法条約第121条は次のように定める。
  第1項 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ満潮時においても水面上にあるものをいう。
  第3項 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。



4.「人間の居住又は独自の経済的生活の維持」を直接的に強固にしうる具体的かつ実現可能な活動が今後も求められるが、それらは 如何なる活動であるか。そして、「島」としての法的地位を強固にする如何なる活動計画が実行されてきたのか、 あるいは策定されているのかが、重要な視座である。

(1)沖ノ鳥島の2岩が倒壊したりして、低潮時になおも海面上にあるとしても満潮時には海没してしまう場合、岩礁は 「低潮高地」とみなされる。その場合は、EEZや大陸棚を擁することはできない。そして、「低潮高地」の小岩をいくら埋め立て ても「島」にはならない。「低潮高地」上に人工的に形成された陸地であるとみなされ、人工陸地がいくら水に囲まれ満潮時 に海面上にあっても「島」とはみなされない。

(2)さすれば、2つの小岩が満潮時でも海面上にあって「島」とみなされているという現下において、小岩周辺にさらに強固な コンクリート護岩堤を築造し陸地を拡張するのか。かつ、その護岩堤周囲の礁湖を一定程度埋め立て陸地を拡張するという方策も 理論上はありうる。予見される将来大きな政治的決断が求められるかもしれない。


5.地球温暖化と海水面上昇によって起こりうる一つのシナリオについて

  低潮時さえも海没するような「岩」は「暗礁」であり、それを埋め立てて陸地を造成しても、領海、EEZ、大陸棚も有しない。 将来地球温暖化のさらなる進行のために、西太平洋の海水面が常時1メートル上昇するなら、これらの小岩はまずは「低潮高地」 になりかねない。海水面が2メートルも上昇すれば、「北・東小島」は「暗礁」になりかねない。「低潮高地」や「暗礁」を いくら埋め立てても、国際海洋法上の「島」にはならない。そのような人工的に形成された陸地は、いくら海水に囲まれ満潮時海面 上にあるとしても「島」とはみなされない。また、そのような埋立人工島で人間の居住または独自の経済的生活を維持した としても、EEZや大陸棚は認められることはない。温暖化と海水面上昇の進行に伴って、いずれは政治的選択に迫られる 時期がやってくるかもしれない。




[参考]
1.「ストンメルの永久塩泉の原理」
  上層が高温・高塩分濃度、下層が低温・低塩分濃度の海中において、パイプを鉛直に設置する。パイプ内の深層水は、パイプ外の 海水温に温められ、やがて内外の水温差がなくなる。パイプ内外の水温差がなくなると塩分濃度差による密度差 が発生し、パイプ内には浮力が生じ、上昇流が起こるというもの。

2. 浮魚礁とは
・ 魚類などの水産生物が、水中の物体に集まる習性があることを利用して、漁業の対象となる魚類を 特定の海域に誘導することにより、漁獲の効率化を図る目的で設置する人工の構造物。
・ 魚類などが水中の物体に集まる習性は古くから知られており、孟宗竹などを数本束ねて係留し魚を集める 漁法が営まれている。日本では江戸期に始まると言われる「シイラ漬け」、東南アジアや沖縄の「パヤオ」などがある。

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