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韓国の潮汐発電事例: 始華湖 (シファホ Sihwa) 潮力発電所

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画像1&2は、韓国ソウルから南西40㎞ほどの地に建設され、現在稼動中の「始華湖(シファホSihwa)潮力発電所」と防潮堤 (コーズウェイ)を、発電所に隣接する展望塔から見下ろしたものである。

画像 1 では、小さな入り江を堰き止める防潮堤が北方面 (地下鉄「烏耳島(おいど)」駅方面) に伸びている。左側の水面が外海、 右側のそれが人工湖の始華湖である。中央部に見える突起状施設は、海水を通す水中トンネル内に10基のタービンが設置される 発電施設である。その上方にある施設は、外海の干き潮時に湖水を外海へ排出させるための水門である。

画像 2 は、画像1とは逆方向に伸びる防潮堤である。人工湖の両岸を結ぶ防潮堤の中ほどに人工島が造成され、発電所・展望塔・広報館などが設置され、また 市民が憩える臨海公園も併設されている。広報館では潮力発電の仕組みや自然再生可能エネルギーの開発利用に関する 展示がなされている。


1.始華湖(シファホ Sihwa)潮力発電所の建設の系譜など
「韓国水資源公社」は当初、西海(黄海)沿いの入り江を総延長12.7kmに渡り防潮堤で閉め切り、4,380ヘクタールの人工湖・始華湖 を造り、干拓地の造成と用水確保のための淡水化を進めようとした。だがしかし、入り江を締め切った2年後に人工湖の水質が急激に 悪化したため、淡水化を断念し、海水循環を図る方針へと転換した。

かくして、「韓国海洋研究院(KORDI)」は水資源公社に協力して、潮力発電所を建設することとし、基本設計などを実施した。 黄海側の西海では一般に干満の差が激しく、8~12メートル位の水位差がある。また、遠浅の入り江や島嶼が多く存在し、締め切り 堤防を築造する上での立地条件としては良好である。

発電所建設は2004年12月に着工され、7年後の2011年8月に部分的発電が開始された。 発電設備能力としては、出力25.4MWの発電タービンが10基、その出力合計は254MW(25万4000kW)ある。1日当たり8~9時間稼動したとして、 年間552.7GWhの発電量が見込まれた。韓国国土海洋部によれば、この潮力発電量は年間86万バレルほどの原油輸入代替となると算出された。 因みに、フランスの「ランス潮力発電所」の出力合計は24万kW、年間の発電量は544GWhであるとされ、始華湖潮力発電所はそれを わずかながら上回る。

なお、韓国の西海沿岸にはその他いくつかの潮力発電所の候補がある。ただし、環境、漁業、経済財政上の諸問題などのために建設 計画は進んでいないようである。
・ 仁川(いんちょん Incheon)市江華(かんふぁ)郡華道(ふぁど)面一帯の近海(江華)。
・ 忠清(ちゅんちょん)南道唐津(たんじん)郡と京畿(きよんぎ)道平澤(ぴょんてく)市の近海(牙山(あさん)湾)。
・ 浅水湾。
・ 江華島南端と永宗島(よんじょん)ど北端(仁川湾)江華(Ganghwa)島。
・ 忠清(ちゅんちょん)南道泰安(てあん)郡と瑞山(そさん)市一帯の近海(加露林(Garolin・かろりむ)湾)。

[参考]

    * 「World Watching 136 韓国の海洋エネルギー事情 本格稼働間近の始華潮力発電所」、「港湾」、2011・9、平山克也・廉慶善。
    * 「世界最大・始華湖潮力発電所が発電開始」、 東洋経済日報、2011年8月5日。
    http://toyo-keizai.co.jp/news/general/2011/post_4515.php
[画像撮影: 2017.10.31 始華湖潮力発電所 (Sihwa Tidal Power Plant) にて][拡大画像: x27959.jpg][拡大画像: x27960.jpg]
発電所へのアクセス: 地下鉄ソウル駅から4号線に乗車し、「烏耳島(おいど)」駅(京畿(きよんぎ)道・始興(しふん)市) で下車。路線バスもあるが、同駅からタクシーで行くのが最も効率的である。


    用語について[参考]
    * 発電の設備容量: 発電設備における単位時間当たりの最大仕事量のこと。単位はワット (W) またはキロワット (kW)。 定格出力、設備出力、あるいは単に出力と表現されることがある。
      1 kW=1,000W
      1 MW(メガワット)=1,000,000 W=1,000kW
      1 GW(ギガワット)=1,000 MW

    * 発電電力量 (electric energy): 発電設備が、ある経過時間において供給した電力の総量。電力 (electric power) と時間の積に 等しい。ワット時(Wh)またはキロワット時 (kWh)。
    * 年間発電電力量 (kWh/年)=発電の設備容量 (kW) × 年間時間数 (24時間×365日) × 設備利用率 (%)。

    [事例]
    * 定格出力 (設備容量、出力) 50万kWの水力発電所を1年間 (8,760時間) フルに連続運転した場合の年間発電電力量 (kWh) は、43億 8,000万kWhで、年間設備利用率は100%となる。

    始華湖潮力発電所の場合
    * 出力25.4MW×10基×(8時間×365日)=741,680MWh (741.68GWh) (A)
    フルに連続運転できたと仮定した場合の年間発電電力量は、出力25.4MW×10基×(24時間×365日)=2,225,040MWh  (B)
    設備利用率は、(A)÷(B)×100%=33% 




2.始華湖(シファホ Sihwa)潮力発電所/発電の仕組みと模式図

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画像 1 は始華湖潮力発電所の鳥瞰図である。発電所に隣接する 人工島には、展望塔の他に広報館が設置され、潮力発電の仕組みや自然再生可能エネルギーに関する展示がなされている。 また、人工島は一般市民が憩える臨海公園となっている。

西海(黄海)沿岸の入り江が総延長12.7kmの堰堤によって閉め切られている。画像 1 の左上の水面が外海である。右側は4,380ヘクタールの 広さをもつ人工湖・始華湖である。画像 1 では、満潮時になって、10基のタービン発電設備をもつ水中トンネルへ外海から海水が 流入し、発電後の海水が人工湖側へと流入し白波をたてて排水される様子を描いている。その施設の上方には、引き潮時に人工湖 から外海へ排水するための水門施設がある。

発電は外海が満ち潮になる頃合いにのみ可能となる「漲潮式(ぼうちょうしき)」発電方式である。満ち潮によって外海の海水が 漲潮すると、その外海の水位と湖のそれと間に高低差が生じる。その水位差を利用して外海から人工湖側へ海水を水中タービン 経由で流入させ、タービンを駆動させる。満ち潮の頃合いにおける海水の一方向の流れにおいてのみ発電する「単流式」(一方向発電;  "Single-Effect Flood Generation"と呼ばれる)である(引き潮時においては発電されず、発電のポテンシャルを高めるために 湖水が外海へ排水される)。

発電タービン1基当たりの出力は25.4MW。発電設備能力として、タービン10基の出力合計は254MW(25万4000kW)である。1日当たり 8~9時間稼動したとして、年間552.7GWhの発電量があるとされる。

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画像3&4は、発電施設構造や発電の仕組みを示す模式図である。画像4のように、引き潮時には水門が開かれ、湖水が外海へ排水される。 そして、引き潮時に人工湖の湖面水位が3メートル下がった状態の時に水門が閉じられる。 その後やがて満ち潮が始まり、それによって外海の海水が漲潮し水位が上昇してくれば、湖水面との間で水位差が生じることになる。 かくして、外海の海面水位と人工湖の湖面水位との潮位差が約2メートルになった時に、水中発電タービンの扉が開かれる。タービン を通過した海水は画像5のように人工湖へと流れ込む。タービンに流れ込む海水は直径7.5メートル、重さ53トンのプロペラを回転 させて起電する。

[画像撮影: 2017.10.31 始華湖潮力発電所 (Sihwa Tidal Power Plant) にて][拡大画像: x27961.jpg][拡大画像: x27962.jpg] [拡大画像: x27963.jpg][拡大画像: x27964.jpg]

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画像5&6: 満潮時に海水が外海側から発電用タービンへ流入し、発電を終えた海水が人工湖に向かって勢いよく吐き出されて渦を巻いている (画像5)。小魚がまとまって吐き出され、それに寄りつくのであろうか、海鳥が舞う。 [拡大画像: x27966.jpg][拡大画像: x27967.jpg]

画像7: 総延長12.7kmにわたる堰堤 (コーズウェイ) の中間辺りに位置する小さな人工島に発電所があり、また一般市民に開放された臨海 公園がある。幾つかのアート作品も設置され市民の憩いの場となっている。 [拡大画像: x27965.jpg]

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