海洋総合辞典Japanese-English-Spanish-French Comprehensive Ocean Dictionary, オーシャン・アフェアーズ・ ジャパンOcean Affairs Japan, ニカラグア運河と日本、運河ルート/太平洋側ブリット~ニカラグア湖~トゥーレ川~カリブ海側プンタ・ゴルダ

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ニカラグア運河について
最終の運河ルートについて: 太平洋側ブリット~ニカラグア湖~トゥーレ川~カリブ海側プンタ・ゴルダを結ぶ




1. 中米ニカラグア運河のルート選定 (2014年7月7日)/ルートNo.4
(太平洋側ブリット~ニカラグア湖~トゥーレ川~カリブ海側プンタ・ゴルダ)

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ニカラグア政府は、2006年8月に、⌈ニカラグア大運河計画概要書⌋ (略称:GCIN) なるものを発表した。 同概要書は、ニカラグア政府によって組織された委員会が行なったニカラグア運河建設に関するいわばプレ・フィージビリティ調査 (実現可能性に関する事前調査、プレF/S調査、pre-feasibility study) の結果を取り纏めたものである。 建設に関する技術・工学、法律、環境、財務的分析などを扱っている。
「ニカラグア大運河計画概要書」 (略称:GCIN)/スペイン語公式サイト
同上の概要書/部分的和訳

同報告書では、最大25万重量トン級船舶の通航が想定され、6つの運河ルートが比較検討された。そして、最有望候補ルートとして、 いわゆるルート3、即ち太平洋側のリーバス地峡(太平洋に注ぐブリット川→ ニカラグア湖に注ぐラス・ラハス川)→ ニカラグア湖→  同湖東岸に注ぐオヤテ川→ エル・ラマ川上流部→ カリブ海に注ぐククラ川を結ぶ、総延長距離 286km (パナマ運河の3倍以上。 ニカラグア湖を通過する区間を含む) を推奨してきた。

その後、ニカラグア政府ダニエル・オルテガ大統領は、2013年6月14日に、香港系企業の「香港ニカラグア運河開発投資会社」 (HK Nicaragua Canal Development Investment Co. Limited; 略称HKND Group) の Chairman Wang Jing 会長との間で、運河建設プロジェクトおよびその他のサブプロジェクト (「ニカラグア運河&開発プロジェクト」と称される) に関する計画立案・設計・資金調達・建設・オペレーション・維持管理などの事業権 (コンセッション) を取り決めた排他的商業協定 を締結した。 事業権の付与期間は50年間であり、その後50年間延長も可能とされ、最大100年間である。ニカラグア議会は、調印の前日(2013年6月13日)に、 同協定の締結について承認したという。




2014年7月7日、HKNDワークショップが首都マナグアで開催され、「ニカラグア大運河総合開発プロジェクト に関する設計計画報告書」(西語: Informe de Plan de Diseño, Proyecto de Desarrollo Integral del Gran Canal de Nicaragua」、「ニカラグア大運河、2014年7月、HKND & ERM」 ( 西語: Gran Canal de Nicaragua, Julio de 2014, HKND Group/ERM) などが公表された。以下は、同報告書の運河構想部分のうちの 重要ポイントである。
* ERM: Environmental Resources Management.

    先の概要書(GCIN)において6つの候補ルートが選定されていたが、今回HKNDはそのうちのルート4を選定した。その選定理由は、 ルート3については水資源の観点や投資額が少なくて済むことなどの観点からルート4よりも優位ではあるが、環境・社会的インパクト への配慮からルート4としたもの。
    ルート4は、太平洋側のリーバス地峡→ ニカラグア湖→ 同湖東岸テューレ川→ カリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川である。 総延長距離は278km(ニカラグア湖を通過する区間の105kmを含む)。

    運河の計画幅員は230~520m(船舶待避用の側湾部は幅員520m)、計画水深は27.6m~30mである。25,000TEU積載コンテナ船、 40万トンのばら積み船、32万トンの石油タンカーの通航を可能とする。年間通航可能量は、5,100隻を計画する。船舶の運河通過の 所要時間は、30時間を予定する。

    運河には2つの閘門が建設される計画である。太平洋側では、ブリット閘門(la esclusa Brito)(リーバス県内の村落リオ・ グランデ近くに建設される)。カリブ海側では、カルニロ閘門(la esclusa Carnilo)(カーニョ・エロイサ(Caño Eloisa) およびリオ・プンタ・ゴルダの合流地点近くに建設予定)。

    閘門は一つのレーンからなり、船は3つの連続した閘室(3 escaleras continuas)、即ち3つの連続した水の階段を昇ることになる。 閘門での水消費量 (閘門操作に伴う排水量) を減じるため、各閘室につき3つの節水槽(3 estanques de ahorro de agua para cada escalera) が設けられる。

    カリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川を堰き止めて、パナマ運河のガトゥン湖と同じような人工湖(湖水面積は395平方km。約20×20㎞の広さ。 アトランタ湖と称される)を造り、運河のオペレーションにその水を利用する。その水量はオペレーションに十分である。 人工湖の水位はニカラグア湖とそれと同じに維持される。運河のオペレーションによってニカラグア湖の水位に実質的な変位をもたらす ことはない。また、ニカラグア湖流域の住民らの生産活動、家庭への水供給においても影響をもたらさすことはない。




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2=両洋間運河ルート図、アトランタ人工貯水湖、その他空港、港湾、自由貿易区、観光コンプレックスなどの主要サブプロジェクトを示す。
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3=閘門(水の階段)は、3つの連続した閘室(チャンバー)、および閘門での水消費量 (閘門操作に伴う排水量) を減じるため、 各閘室につき3つの節水槽からなる。
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4=従来からの6つの候補ルートと自然保護区などとの位置関係を示す。
* 画像の出典:1=下記参考資料の(1)の⌈ラ・プレンサ⌋ネット記事。2~4=(2)の付属資料



[参考資料]
(1) ニカラグアの新聞社「La Prensa」のネット記事、 「HKND presenta ruta del Gran Canal de Nicaragua」, 7 julio, 2014.
執筆者 Leonor Álvarez.
http://www.laprensa.com.ni/2014/07/07/ambito/202195-hknd-presenta-ruta-gran

(2) 「Confidencial」社のネット記事、 「Aunque aún no tienen estudios de viabilidad técnica, económica o ambiental Gobierno da OK a ruta del Canal」, 7/7/2014.
執筆者 Wilfredo Miranda Aburto、
http://www.confidencial.com.ni/articula/18340/hknd-le-da-ok-a-ruta-del-canal

[2014.8.1 初記]







2. 中米ニカラグア運河ルートNo.4(カリブ海側プンタ・ゴルダ~ニカラグア湖の区間)、閘門、人工湖を思い描く ための3枚の地図

(1)  太平洋と大西洋(カリブ海)とをつなぐ中米ニカラグア運河ルートに関し、2006年8月ニカラグア政府は6つのルート案を公表した。 うち、ルートNo.4とは、カリブ海沿岸の集落プンタ・ゴルダ~ニカラグア湖東岸トゥーレ川~ニカラグア湖~リーバス地峡~ 太平洋を結ぶものである。その後、運河建設のコンセッション契約をニカラグア政府との間で締結した⌈香港ニカラグア運河 開発投資会社 (略称 HKND Group)⌋ は、2014年7月に、運河ルートの選定を含む計画の概要(因みに運河のルート・計画規模・ 環境影響配慮など)を、 ① 「ニカラグア大運河総合開発プロジェクト に関する設計計画報告書」、および ②「ニカラグア大運河、 2014年7月、HKND & ERM」 をもって公表した。

(2)  ニカラグア政府・HKNDが選定したのはルートNo.4であった。2006年時に最も有望視されたルートNo.3(ブルーフィールズ湾・ ククラ川~エル・ラマ川上流~オヤテ川~ニカラグア湖~リバス地峡~太平洋) は退けられた。その最大の理由は、カリブ海沿岸 都市ブルーフィールズ及び周辺住民とそのコミュニティー、同市近傍の島ラマ・キー (Rama Cay) などに居住するラマ族先住民への 大きな社会的影響と、ラムサール条約登録湿地帯のもつ生物多様性などの自然環境への影響配慮であった。

(3)  2006年時の推奨ルートNo.4から若干修正された上で2014年に選定されたそのルートNo.4は、下記のルート4概略図に示される 通りである。ルートはカリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川(Río Punta Gorda)本流に沿って遡る。同河川とカーニョ・エロイサ (Caño Eloisa)という川との合流点 (confluencia) 近くにカルニーロ閘門(la esclusa Carnilo)が建設されるという。 その上流部には、パナマ運河のガトゥン湖のような人工湖が造られることになっている(最下図5参照)。 同湖はアトランタ湖 (Lago Atlanta) と称され、湖水面積は 395平方km (縦20km×横20㎞ほどの大きさ) である。 そして、アトランタ(Atlanta)という集落は浸水するものと思料される。 アトランタ湖の水位はニカラグア湖のそれと同じ標高に維持される(閘門システムによって32mほど水位が上げられる)。 運河は主に人工湖に堰き止められる水資源が利用され、その水量は運河のオペレーションには十分である、と報告書は述べる。

(4)  また、同報告書によれば、カルニーロ閘門は1レーン式で、3段連続式の閘室(3 escaleras continuas)をもつ。 即ち、3段連続する水の階段によって標高差32mを昇降する。閘門操作による水の消費量 (閘門操作に伴う排水量) を節減するために、 各閘室には3つの節水槽(3 estanques de ahorro de agua para cada escalera)が付設される (現在パナマ運河では第3の3段 連続式閘門を建設中であるが、その新設閘門の各閘室 (チャンバー) にはそれぞれ3つの節水槽が付設される。カルニーロ閘門も それと同じ構造と見受けられる)。

(5)  ルート4は、人工湖を経て、さらにプンタ・ゴルダ川本流沿いにほぼ西方へとたどり、最奥の源流にいたる。図A・B・Cは、ニカラグア 南部のニカラグア湖東側セクションの3枚の地図である。それらの地図では、ルート4の何の道筋も大まかにしろ敢えて描かれていない。 最下部に掲載するルート図1~5(出典: 同報告書①・②)を参考に、地形を与件なく見つめながら、自由な発想で、3枚の"ルート の白地図"をベースにルートをたどることを暫しお楽しみいただきたい。5万分の1の地図であれば、想像力を最高に発揮して いただけるのであろうが、、、。

地図1~4は、2014年7月にHKNDが公表した図である。直線的な粗いルート図のように見えれるが、運河ルートがどのような河川筋 と谷筋を通り、開削労力を最小限にしつつ、最短距離・最低高度の分水嶺を通り、また人工湖をもってどのように水資源を確保 しようとしているか、大まかにしろ運河建設構想を理解することができよう。 [2014.9.5 初記/To be continued and revised]

 拡大画像 アトランタ人工湖を含む運河ルートNo.4の概略図 [出典:上記HKNDの報告書①]

地図A 拡大画像 拡大画像

地図Aは、ニカラグア首都マナグア近郊のマサヤ火山国立公園ビジターセンターで展示されている、ニカラグア南部域の立体的地形図である (撮影:2009.6.7)。 図の最下部(白地部分)は隣国のコスタリカであり、サン・フアン川(図上の9)の南側の岸が国境となっている(上流部では一部例外がある。 即ち、ニカラグア領土が対岸から少し食い込んでいる)。縮尺5万分の1の地図をベースにする立体図であれば、 ルートを克明にたどることができる。翻ってこの立体図は非常に粗いものであるが、最下部のルート図1~4を参照にしながらた どっていただきたい。

図のピンク色のゾーン1はインディオ・マイス自然保護区、ゾーン8はロス・グアツソス自然保護区、ゾーン12は通称エル・ カスティーリョ(El Castillo)と呼ばれる要塞がある歴史的地区である。図の右上方において東西方向に深い谷筋を流れる川 (青色の線)がプンタ・ゴルダ川である。西方へ向かい、二股に分岐する支流の上方側をたどり、相対的に海抜が低い 分水嶺を越えてさらに西に進むと、すぐにトゥーレ川の源流・上流部に取りつくことになる。 ルートを思い描くことは、この図では全く容易ではないが、その探索を暫し楽しんでいただきたい。

    * 二股に分岐する支流の下方側を進み、サン・フアン川に注ぐロス・サバロス (Los Sabalos) 川の源流にとりつくというルート No.5も候補に挙げられてきた。だが、コスタリカとの国境をなすサン・フアン川が間接的にもせよ絡むこともあってか、早々と 退けられている。
    * 地図A(ニカラグア保護区図 Nicaragua's Protected Areas) [拡大画像: x26158.jpg][拡大画像: x26159.jpg]








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地図Bはニカラグア国土地理院(Instituto Nicaraguense de Estudios Territoriales)発行の縮尺100万分の1の地図である。 下図Bの右上にカリブ海沿岸の集落プンタ・ゴルダ(Punta Gorda)がある。そこからプンタ・ゴルダ川に沿って西方へ遡ると、 本流は大きく曲がり北西方向に向かう。図上では本流とカーニョ・エロイサ(Caño Eloisa)という川との合流点がいずれに存するか判明しない。 本流が北西から再び西方へ大きく曲がるが、それら2つの大曲がりの間のいずれかにある(図1では、カミーノ閘門 Camino Lockと 記されている辺りであろう)。

そこに報告書のいうカルニーロ閘門(esclusa Carnilo)が造作され、そこから北方および西方に大きな人工湖(アトランタ湖) が広がることになる(図5参照)。同閘門から少し上流に集落アトランタがあり(第2の大曲がり辺りである)、その人工湖によって 浸水することになろう。

地図では標高のゾーニングがなされており、かなり道筋を理解しやすい。地図では、最初の薄緑色のゾーンは海抜0~100mであり、 次の濃緑色ゾーンが海抜100~200mの標高ゾーンである。 次の茶色 (右図) またはピンク色 (左図) ゾーンは200~600mの標高ゾーンである。 プンタ・ゴルダ川沿いに西方に最奥まで進むと、地図Aと同じく、上方と下方へ分岐する。下方をたどって源流にいたり200~600mゾーン の分水嶺を越えると、すぐにニカラグア湖に注ぐトゥーレ川支流の源流がある(同川の支流として5、6本描かれているが、この地図で 見る限りでは、両河川の支流が最も接近しているところが、いわば最短距離の分水嶺越えに見える)。

しかし、地図1~5を参照すると、ルートは、上方・下方に二股に分岐する辺りから二等分する方向へと向かい、 細長い谷筋を経て、最もくびれた高度200~600m分水嶺を越え、図上記載文字の「RIO SAN JUAN」の最後の文字「AN」辺りを右上から 斜めに横切り、そのままトゥーレ川の本流に直行するように見受けられる。

図Bにおいては、標高が100mから200mあり、幅数十kmの山地を開削し、かつ法面を維持管理していくのは相当のコスト、労力が不可欠で あると見受けられる。だが、ルート図2ではその分水嶺越えが最短距離のルートと見なしているようである。

[拡大画像: x26160.jpg][拡大画像: x26161.jpg][拡大画像: x26162.jpg][拡大画像: x26163.jpg: 地図凡例など]

地図-B (下の地図)












地図-B (下の地図)








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地図Cはニカラグアの国土地理院(Instituto Nicaraguense de Estudios Territoriales)の発行の縮尺52.5万分の1の地図である。 図右上のカリブ海沿岸にプンタ・ゴルダがある。ルートはそこからプンタ・ゴルダ川本流沿いに西方へ遡り、分岐点で大きく曲がり北西方向へ 集落アトランタに向けて遡る。 図上では本流とカーニョ・エロイサ(Caño Eloisa)という川との合流点がいずれかに存するのか判明しないが、最初の大曲がりと、 本流が北西から西方へ再び大きく曲がる地点との間のいずれかにある。そこにアトランタ閘門が造作され、アトランタ周辺において 人工湖が大きく広がることになろう。湖岸線はリアス式海岸のように多くの大小湾入が造作されるように見て取れる。

プンタ・ゴルダ川本流沿いに更に西方に細長い谷筋に沿って最奥の源流へとたどる。図1~4で示されるルートはからすれば、その最奥源流辺り から一気に標高100~200mの分水嶺を越えてトゥーレ川の本流の中流部をめがけて突き進むことになっている。しかし、地図Cでは そのルートをたどるのは極めて困難である。 総じて標高100mから200m、時にそれ以上の標高があり、幅数十kmに及びそうな山地を開削することになることが理解されよう。

また、特に図B・Cではゴルダ川最奥辺りで上下方に分岐する支流のいずれの源流をたどるかによって、トゥーレ川源流への取り方や道筋 がかなり異なって来よう。また、標高100-200m以上の分水嶺における開削距離はかなり異なろう。機会があれば、現地踏査を行ない、 少なくとも5万分の1地図でルートをたどり、また人工湖の建設がどのように可能なのか描いてみたい。
[拡大画像: x26164.jpg][拡大画像: x26165.jpg][拡大画像: x26166.jpg][拡大画像: x26167.jpg:地図凡例]

地図C (下の地図)























HKNDが2014年7月にマナグアでの意見交換会で公表したルート図1~5

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● ルート図1: カリブ海側の入り口/本図上にはカミーノ閘門(Camino Lock)とエル・ナランホ閘門(El Naranjo Lock)が記 されている。報告書本文に記載されたエル・カルニーロ閘門との関係は不明である。ここでは本文で言及される閘門を公式の計画とした。  [拡大画像: x26152.jpg]












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● ルート図2・3: アトランタ~トゥーレ/ゴルダ川本流が分水嶺に向けて西方へ遡る途中で流れが途切れるように表示されているが、 3本線のうちの中央線(運河ルートを示す)をたどると、ルートは谷筋を最奥部へと進み、最短距離の分水嶺を通過するようだ。 ルートはそのまま直進し、トゥーレ川の本流の中流部へと取りつく計画である。
[拡大画像: x26154.jpg][拡大画像: x26153.jpg]


● ルート図4: ニカラグア湖/淡水湖に浮かぶ島としては世界最大といわれるオメテペ島の南側を横断し、リーバス地峡へと繋がる。  [拡大画像: x26155.jpg]


ルート図5: [拡大画像: x26127.jpg]/出典: ルート図1~5はいずれも報告書②による。







3. 中米ニカラグア運河、2014年12月着工/ニカラグアにとって歴史的出来事の始まりを伝える報道記事




米のニカラグア政府(ダニエル・オルテガ大統領政権)は、自国領土内にて東西方向に横断し、 大西洋(カリブ海)と太平洋とをつなぐ総延長290kmほどの中米地峡運河の建設を今年 (2014年) 12月から開始する旨、2014年9月9日に 発表したという。画像はそれを報じる2014年9月11日付けの朝日新聞の記事である。

2014年後半から建設が始められると従前より報じられてきたことも含め、記事内容の殆どはこれまでも 報道されてきたことである。では、記事内容の何がビッグなニュースなのか? 最もビッグでホットなニュースは、ニカラグア政府が 正式に「(9月)9日、… (中略) …運河の建設を12月から始めると発表した」ということである。

く一般的には、「運河の本格的な開削工事がいよいよ始まる」、と受け取られるに違いない。 実際に開削が始まるとすれば、この記事は運河開削の着工を報じる「記念碑的な」、あるいは「記念紙的な」ものといえる。

港系の運河開発投資有限公司(HKND社)が2013年に締結した運河建設プロジェクトのコンセッション 契約の中には、運河建設だけでなく、港湾、空港、観光複合施設などの関連サブプロジェクトが含まれている。その他コンクリート 製造や電力供給などの下準備的な付帯施設の建設も計画されている。 従って、記事が言及する運河建設といっても、具体的に運河建設プロジェクトのいずれのコンポーネントがいかなる手順で着工されるのか、 この記事では明らかではない。

2014年7月の運河計画概要を公表する段階では、事前環境評価作業は完了しておらず、終了するまで 運河建設の着工はないと発表されていた(但し、評価書の承認手続きなどの詳細は不明である)。 また、2014年7月に、定規で直線的に大まかに引かれた運河ルート(所謂、修正No.4ルート)が公表されたが、HKND社による、或いはニカラグア の現政権自身による運河計画の本格的なフィージビリティ調査(=F/S調査、実現可能性調査)、あるいはそれ以上の詳細設計調査 (Detailed Design調査、D/D調査)の報告書が作成・公表された形跡は見られない。

    [注] 2006年8月に、当時のニカラグア政府は、運河計画のプレ・フィージビリティ調査報告書なるものを作成・公表していた。 それ以降、本格的なF/S調査やD/D調査の報告書が作成・公表された形跡は見られない。

河は将来世界の地政学的構造に大きなインパクトをもたらす可能性は大である。運河の本格的な 開削工事がこの12月から始まるとすれば、それは一つの歴史的出来事の始まり、或いは起点である。この小さな記事はまさに 「記念碑的」なものといえよう。同記事によれば、運河は2019年に完成予定とされている。 運河建設が歴史的事実となるかは今後の進捗の結果による。深い関心をもって注視していきたい。
    [注] 本格的な開削工事が着工される場合、先ずはリーバス地峡(太平洋とニカラグア湖との間の数10kmの地峡)の太平洋沿岸、 即ちブリット川河口域での開削ということになろう。 更に進めば河口から7,8km内陸部に建設予定のブリット閘門に向けてのアプローチ水路とその沿岸寄りでの港湾水域のための開削、 および関連港湾施設の建設ということになろう。 それと平行して観光複合施設(運河建設関係者や一般国民のための商業・娯楽関連施設など)の建設ということになろう。その理由としては、 港湾と周辺関連付帯施設の建設は、運河そのものの建設に何年かかろうと、また中断されようと、単独で経済的採算性をとりうる可能性を秘める 数少ないコンポーネントである。
[2014.9.16. 初記 KN][拡大画像なし]





辞典内関連サイト: ニカラグア運河(目次)

  • 中米ニカラグア運河のルート選定 (2014年7月7日) /ルート4(太平洋側ブリット~ニカラグア湖~トゥーレ川~カリブ海側プンタ・ゴルダ)[ニカラグア・マナグア]
  • 中米地峡での運河建設をパナマ・ルートに決定 づけた(?)、ニカラグアの火山の郵便切手 [ニカラグア]
  • 中米ニカラグア運河のリーバス地峡横断ルート (太平洋沿岸ブリット~ニカラグア湖) における閘門と人工湖を考える [ニカラグア/5万分の1地図]
  • 中米ニカラグア運河ルートNo.4 (カリブ海側プンタ・ ゴルダ~ニカラグア湖の区間)、閘門、人工湖を思い描くための3枚の地図 [ニカラグア]






    7. 中米ニカラグア運河建設、2014年12月22日に着工へ [ニカラグア/日本]

    画像は、「中国主導運河が着工へ」と題して、中米ニカラグア運河建設工事の着工を報じる、2014年11月23日付けの読売新聞 記事である。 記事によれば、中国系 (香港系) 企業「香港ニカラグア運河開発投資有限公司(HKND社)」とニカラグア当局は、 この11月20日 (2014年) に、ニカラグア運河計画の着工を来月12月22日に行うことを決定したと発表した。計画着工日を報じた邦字紙は、 恐らくはこれが最初であろう。

    運河工事着工といっても具体的に何に着手するのか、具体的に報じられていない。インターネットなどで最新情報とキーワードを探ってみた。 要点は概ね以下のとおりである。




    ニカラグア政府との間で、2013年に、運河建設コンセッション契約を結んだHKND社の最高技術顧問ビル・ウィルド(Bill Wild, el asesor jefe de ingenería de HKND)が、この11月20日 (2014年) に明らかにしたところによれば、運河建設メガプロジェクトは いよいよ来月12月22日に着工されることになった。

    運河建設メガプロジェクトの構成要素としては、運河建設自体の他に、太平洋および大西洋側沿岸での港湾建設、そこでの 商業フリーゾーンの建設、太平洋側のリーバス地域での⌈サン・ロレンソ(San Lorenzo)⌋という観光複合施設の建設、 国際空港や両洋を結ぶ道路および石油パイプラインの建設などである。

    開始されるのは、太平洋と大西洋の両岸において建設が予定されている2港(太平洋側のブリット港、カリブ海側のプンタ・ゴルダ港)の サイトへ向けたアクセス道路建設工事である。
    [注] 太平洋側のリーバス地域でのアクセス道路の道のりはわずかな距離であるが、大西洋側では合計百数10kmにも及ぶ原野を新規 に切り開いていくことになる。

    国際的レベルの高い技術を要するのは、高低差32メートルの水の階段である閘門の建設、ニカラグア湖水の保全、およびその水位の 維持管理そのものである。ブリットおよびカミロ(Camilo)の2基の閘門は、長さ525m、幅員80m、水深25mの規模をもち、 また節水槽が併設されることになる。

    2014年10月中旬の人口センサスによれば、運河ルート上にある1,500平方㎞上の土地に7,000家族、おおよそ29,000人の居住が確認された。 それらの土地は、法律で収用(買い上げ)されるのであろうが、ニカラグア政府当局は、収用の影響を受ける国民に対して 正当な価格での補償(賠償)を約束することになる。

    メガプロジェクトに要する資金は、5.9兆円(50 mil millones de dolares、50,000 millones de dolares×118円(2014年12月現在) にのぼると見積もられている。現在までのところ、事業関係者のいずれも、その資金調達の源や方法などを示すレポートを提示 していない。

    また、経済的な実現可能性(F/S, estudios de factibilidad)調査のレポートも提示されていない。 さらに、メガプロジェクトの環境的観点からの実現可能性調査はまだ完了していない。それらのレポートが提示されないままに、 12月22日に着工なされることになりそうである。

    ニカラグア政府および事業者のHKND社が運河建設計画の経済・技術・財政的な実現可能性評価および環境影響評価の結果を公に 示さないまま、既成事実を積み重ねて行くことになるのではと強く懸念されている。
    [2014.12.14 KN記][拡大画像: x26527.jpg]



    [関連事項]
    * 2012年7月3日、ニカラグア議会は両洋間運河建設の法律(la ley de construccion del canal interoceanico, Ley 800)を承認。
    * 2013年6月14日、ニカラグア政府ダニエル・オルテガ大統領は、香港ニカラグア運河開発投資会社 (HK Nicaragua Canal Development Investment Co. Limited; 略称 HKND Group ) の Chairman Wang Jing 会長との間で、 運河建設プロジェクトおよびその他のサブプロジェクト (⌈ ニカラグア運河&開発プロジェクト⌋ と称される)に関する計画立案・設計・資金調達・建設・オペレーション・維持管理などの 事業権 (コンセッション) を取り決めた排他的商業協定を締結した。

    * 辞典内関連サイト: 「ニカラグア運河」目次

    このページのトップに戻る /Back to the Pagetop [2017.02.26 記]