一枚の特選フォト「海 & 船」
大洋航海での壊血病を予防した「ライム (lime)」
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名古屋海洋博物館には「大航海時代」と題する展示セクションがあって、その当時の長期航海におけるいろいろな苦難が紹介されている。
例えば、暴風雨や大時化との遭遇、海図がなく航海の先が見えないこと、海賊の出没や海賊へと早変わりされること、深刻な水・食糧の欠乏、
壊血病などの病魔との闘いなどである。
ヨーロッパ列強諸国が競って何はともあれスパイスを求め、インド・東南アジアを目指した。15世紀から17世紀は「大航海時代」、あるいは 「地理的発見の時代」とも呼ばれる。徐々に新しい航路が開拓され、世界の海と陸の実状が明らかにされて行った。帆船は大型化し、その帆装は 複雑化され、帆は季節風を効率的に利用できるよう横帆が主流となった。また、大洋での長期航海に備えて、船上で鶏、豚、牛などを飼育 する船も多くあったという。海上での暴風雨や大時化(その逆の無風状態)もさることながら、食糧などの欠乏と当時得体の知れなかった 壊血病との闘いが時に生死の大きな分かれ目となった。 博物館の「壊血病」と題する展示パネルによれば、大洋航海の歴史において壊血病ほど猛威を振るった怖ろしい病気はなかった。壊血病では、 歯茎が腫れ、全身にむくみができて身体がだるくなる。食欲も無くなり、やがて死に至る。大航海時代から時を少し先送りするが、1740年に なされたジョージ・アンソンの4年間に及ぶ航海では、出帆時1,995名であった乗組員のうち、帰還できたのはわずか145名であった。そのうち 戦闘で死亡したのはわずか4名であり、壊血病をはじめとする病気により死亡したのが1,000名以上であった。当時は予防法も分からず、唯一の 治療法は血を抜くことぐらいしかなく、それが原因で命を落とすこともあった、と記される。 また、経験的に新鮮な食べ物を食すると回復するということが知られるようになり、1768年に英国のジェームズ・クックは、徹底した食事療法でもって 英国から出帆してタヒチ島に着くまでの8か月間一人も壊血病に罹患しないという成績をあげた。1918年にビタミンCが発見され、壊血病は 、乾パンと塩漬けの肉を主体とし、野菜・果物類を欠くという偏った食事がそもそもの原因であると明らかにされた、と記される。 博物館では、その当時の航海で食された乾パン、オートミール、塩漬け肉・魚、水・ワイン樽、チーズ、レモンなどの展示品(イミテーション)と 共に、ライム(lime)が展示される(画像の右下方)。キャプションによれば、ライムジュースは壊血病を予防する効果があった。だが、 強い酒を好んだ船乗りたちの中には、それを「ライミー」と嘲笑して、飲むのを拒む者もいた。そのため帆船時代末期の頃には、拒んだ者に対して 罰金が課せられるようになったほどである、と記される。
[参考] |
2 3 画像2の帆船模型は、17世紀初頭の東インド会社の商船。船首や船尾に大きな船楼がなく、荷物を多く積載できるように平甲板となっている。 帆船製作: 縮尺約1/35、竹田和夫氏。
[撮影年月日:2020.9.23/撮影場所: 名古屋海洋博物館] |