海洋総合辞典 Comprehensive Ocean Dictionary, 特選フォト・ギャラリーPhoto Gallery, 日本海の海岸風景coastscape of the Sea of Japan, 新潟県上越・直江津Naoetsu, Niigata

一枚の特選フォト⌈海 & 船⌋


One Selected Photo "Oceans & Ships"

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[随想記] 日本海、梅雨なお明けず曇天なり! [直江津]

野行き高速バスは、新宿副都心・超高層ビル街にある住友三角ビル裏手の駐車場から 定刻通り10:30に発車した。2012年7月6日、金曜日のことである。7月上旬ゆえ、まだ梅雨は明けない。 その日は小雨模様であった。バスは関越自動車道をひた走った。千曲川沿いの城下町上田を経てJR長野駅前に滑り込んだのは15:20、 予定時刻よりわずかに遅れていた。長野市内では雨は本降りで、善光寺へ少し足を延ばそうか、という気にもなれなかった。

スを降り立ってから20分後には、JR信越本線の15:16発直江津行き普通列車の旅人になっていた。 乗客はまばらであった。新宿からのバスの中では、勝川俊雄著の「日本の魚は大丈夫か、漁業は三陸から生まれ変わる」という本に 熱中していた。 2011年3月11日に発生した東日本大震災・福島第一原発事故後の日本の漁業を再生するための未来図を想い描くものであった。
直江津行きの車中では、一人掛けの座席に一人ゆったりと腰掛け、その続きを読んだ。 何の退屈もしない。新幹線ではなく、普通列車や長距離バスにおいてまとまった時間を読書で過ごす。 時に車窓からのどかな田園風景を見入って眼を休める。時間はゆったりと流れる。妙高高原の山々のほとんどは厚い雲に覆われ、その姿を 想像するほかなかった。そしてまた書に目をやる。想えば何と贅沢なことかと我ながら想う。

江津まではわずか1時間半くらいであった。直江津の少し手前の城下町高田駅で下車した。16:45であった。 駅前の大通りを歩いて1分ほどのところにある「ルワジール」という随分ハイカラな名前のビジネス・ホテルに直行した。 その翌日には、高田駅下車時に調べておいた午前8時過ぎの、ローカルの「通勤電車」に揺られて直江津へ。大勢の高校生たちで結構混雑していた。 10分くらいの乗車であったであろうか。直江津の空模様もよくなかった。小雨が続いていた。駅前から歩いて「上越水族館」をめざす。 駅前の立て看板の案内地図からして、徒歩15分ほどの距離と予想した。 旅先であっても、健康・体力維持のためできるだけ歩くことにしている。

からすぐのところで、雪国では何のめずらしくもない雁木のある商店街通りに入り込んだ。 その軒下をくぐりながら進んだ。道中の半分くらいは、その雁木のお陰で雨を避けながら進むことができた。開館時刻の9時まで にはまだ15分ほど間があった。

    * 雁木: 北陸、上越地方などの日本海側の雪国でも多く見られる家並みで、街の通りに居並ぶ家々の軒からひさしを張り出し、 その下を通路としているもの。

族館のすぐ前は海岸通りで、そのすぐ向こう側には日本海が広がる。その道路沿いに何軒かの 大衆食堂が並んでいた。そのうちの一軒の大衆食堂の隣は空き地になっていて、日本海全体を180度見渡すことができた。 遠目からでは分からなかったが、その空き地の海沿いの崖縁まで進んでみると、白いテーブルと椅子がテラスに並べられていた。 空全体にどんよりと重苦しく雨雲が垂れ込め、まるで冬景色のようだ。日曜日の午前9時過ぎとあって、誰一人歩く者認めず。

場の同僚と、かつてこの海岸沿いに車で通りがかったことがある。19年前の8月のことで、その日は 太陽が照りつける快晴の日であった。青々とした日本海を眺めながらの快適なドライブであったことを思い出す。 その頃はバブル経済がはじけた直後であった。日本全体がまだバブル経済の余韻に浮かれていた。 立ち寄ったこの近くの鮮魚販売市場も何もかもが活気に溢れ、光り輝き、眩しくもあった。 あの当時の同僚との充実したワークライフの記憶がよみがえる。今は「失われた20年」を経て、全てが対照的な異次元にいるようだ。 遥か遠くに過ぎ去りし日々のことには頓着しない。だが、バブル崩壊以降、産業の空洞化、少子高齢化、政治の劣化等々と相まって、 日本全体を覆う活気のなさは「歴史的衰退」の証左なのであろうか。まるで、眼前に広がる冬景色とシンクロナイズするかのようだ。

館時刻の9時をとっくに過ぎてしまった。急いで入館する。いつものことだが、水族館で遊ぶとたいてい 閉館時間ぎりぎりまでうろつき回ることになる。まるで子供に帰ったかのように、喜々として水槽の生き物たちを覗き込んでは、時に写真を 撮る。一日中うろついていても飽きることがない。いろんな発見に遭遇するのが楽しい。たいてい閉館時刻に追い出されるのであるが、 それが時にありがたく思えるくらいだ。

き物は動き回るのでなかなか納得のいく写真が撮れない。だが、デジタルカメラの時代になって本当に助かる。 ガラスの向こう側の別世界にいる生き物を追いかけ、気が済むまで何十枚も撮れる。気に入らなければ全部消し去り、 いつでも撮り直しができる。 これが従来の36枚撮りネガフィルムであったらと思うとぞっとする。フィルム現像後に見ることになる写真のほとんどはピンボケかと 想像すると、さらにぞっとする。ネガフィルムであれば恐ろしくてシャッターを押す手が震えるに違いない。

がまだ降る中、来た道を直江津駅まで歩く。ところどころの水溜りを避けながら、明日の旅の予定をあれ これ思い巡らす。駅に着いてすぐ時刻表をチェックした。大急ぎでロッカーから荷物を取り出す。そして、自動切符販売機で次駅までの 切符を買い込んだ。発車時刻まで後2、3分のところで、金沢行の普通列車に飛び乗った。めざすは富山県の魚津だ。 何時に着くのか気にもならない。そんな旅は実に気が楽でよい。知りたければ車掌に尋ねればすむこと、、、。 今日も早朝から充実した長い一日であった。座席に腰をどさっと投げ下ろした。すると直ぐに、今日一日の満足感が湧き上がって来た。 一息ついてから、改札直前にキオスクで買い込んだ朝刊紙を手に取った。そして、両手一杯に大きく広げて読み始めた。
[記・マドロスII: 随想記/上越水族館をめざす旅路にて/2012.07.07][拡大画像: x24685.jpg]


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