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古代エジプトの帆を張る「船の模型」


Illustrated by Nagisa Nakauchi. [拡大画像: x24684.jpg]



大英博物館「古代エジプト展」が東京・六本木の森アーツギャラリーにて開かれている (開催期間: 2012.7.7~9.17)。

大の展示は、死者が冥界の旅において遭遇するいろいろな苦難や危険を克服し、 復活・再生するために必要な呪文集「死者の書」である。 具体的には、紀元前950~前930年頃の古代エジプトにおいて当時最高の地位にあったネシタネベトイシェルウ (紀元前10世紀テーベを 中心とする上エジプトを支配したアメン大司祭パネジェム2世の娘) の「死者の書」である。そこには100種類以上の呪文が記され、 彼女の冥界での旅を物語る。 パピルスにしたためられた、現存する世界最長(37m)の壮大な絵巻である。その書を1910年に大英博物館に寄贈した所有者の名 に因んで、「グリーンフィールド・パピルス」と称される。そこには古代エジプト人の死生観が宿っている。 その他、ミイラやそれを包む布、死者を護る呪文に蔽(おお)われた棺、護符、装身具、船の模型(上記画像)などが展示されている。
* 冥界=冥土=あの世、「死者の魂が行くというところ」。死出の旅=死んで冥土に行く旅。

代エジプトでは、このように死者が来世において復活するために必要な呪文集「死者の書」がつくられ、 そこには死者が冥界の旅で出会う神々、動物、風景などが挿絵と文字でつづられている。紀元前17世紀頃に出現したもので、 現在知られている呪文の数は200種類以上あるとされる。 その中からパピルスの巻物に、あるいは棺・副葬品などに随意に記されたものである。

界での死者の旅には多くの危険と苦難が待ち受ける。「オシリス神」の最後の審判を受けるまでの 旅において出会うそれらの危険などを克服するために呪文を唱えることが必要とされた。例えば、凶暴な動物に遭遇した時には、 死者が呪文を唱え、その難を逃れるという。旅では特別な力を持つ門、洞窟、丘などを通過する。その場所の特徴、番をする神々の 名前などを知る必要があり、呪文をもってそれらの知識を死者に授ける。

者は冥界で最後に審判を受けるが、永遠の命を約束されて来世の楽園にたどり着くことができるのか、 それとも消滅する運命となるのかは、その審判の結果による。 「オシリス神」の審判に先立って、死者は42項目にわたり生前に罪を犯していないことを宣誓する。死者の心臓と「真実の女神」 とが天秤に掛けられる。釣り合うと、永遠の命が約束され楽園に入ることができる。釣り合わないと、心臓は怪物に食べられ 消滅する運命となる。 これが「オシリス神」の審判である。このように、生前の行為によって死者に対する審判がなされる。来世の楽園へは、審判をめでたく 通過した者だけが辿り着くことが許される。そして、死者は復活し永遠の命を授かると信じられていた。 そこでは生前と変わらぬ生活が約束されたとされる。

像に見る、帆を張る「船の模型」は木・漆喰造りである。紀元前1850年頃の古代エジプトの 美しい造形物がガラスケースの中に納められ展示された。約4000年前に造形された副葬品としての船模型、それは古代エジプト 人の死者が冥界での旅を全うするために「創造」され、棺に納められたものである。

殻は弓なり状で、中央部で大きく垂下し、船首・船尾の両部が反り上がる。船尾の反り上がりの 方が少し大きい。四角い横帆をもつ。 その上部はヤードに、下部はブームに繋がれて展帆されている。マストは1本で、マストヘッドから 船首端までステイが張られ、船尾端へはバックステイが張られて帆柱を維持しているように見える。 ヤードはいくつものロープでマストに吊り下げられ、大勢の乗り手が自身の手にロープを握り、皆してヤードを引き揚げ、 帆を張っているように見える。操舵用の大きなオール(櫂舵)が船尾両舷に一本ずつ、その支持用木柱に括り付けられている。

界での旅途上においてこの帆掛け船はどんな役割を担ったのであろうか。冥界での旅と船との 繋がりはいかに。ナイル川畔で暮らした人々には、冥界にも大河があると信じられていたようだ。死者が冥界の大河を無事に渡り 通れるようにとの想いからであろう。 「古代エジプト人が考える死後の世界には川が流れていて、そこを旅する死者には川を渡るための船も必要だと考えられていた」 ことから、死者のためにこの船模型がミイラとともに納められたのである。

[2012.8.3  東京・六本木森アーツセンターギャラリー探訪] [拡大画像x24684.jpg]


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