深海底鉱物資源のいろいろ: 日本に希望をもたらす(総論)
日本の200排他的経済水域(EEZ)や、それ以遠の深海底に賦存する代表的な鉱物資源として、主に次の3つが注目されてきた: マンガン
団塊、熱水鉱床、及びコバルト・リッチ・クラストである。その成因、賦存の有望海域や状況、含有金属とその含有率、海洋学的
特性などが異なる。その他、レアアース泥(希土類泥)、エネルギー資源となりうるメタン・ハイドレートなども注目を集める。
1 マンガン団塊(マンガン・ノジュール)または多金属団塊 Manganese Nodules or Polymetallic
Nodules
マンガン団塊 |
マンガン | 28% | 40~50% |
銅 | 1% | 0.5~1% |
ニッケル | 1.3% | 0.4~1% |
コバルト | 0.3% | 0.1% |
その他レアメタル | | |
・ 分布: 水深4,000~6,000mの、比較的平坦な世界中の大洋底の表面に半埋没状態で賦存する。
特にハワイ諸島南東部の深海底区域が富鉱帯 (団塊が多量・濃密に賦存する) として、1960年代以来、最も注目をあびてきた。
なお、一般的に最有望の賦存海域は、おおむね各国200海里排他的経済水域(EEZ) 以遠の公海下の「国際海底区域」
(国際海底機構=ISAの管轄下)にある。
・ 形状: 直径2~15cm程度の球形あるいは楕円形をした鉄・マンガン酸化物の塊である。色は黒褐色。
・ 含有金属: 鉄、マンガンを主成分とする酸化物で、その他に、銅、ニッケル、コバルト、チタン、モリブデンなどの
有用金属を含有する。右表の最右コラムは陸上鉱石での金属含有率を示す (以下同じ)。
・ 成因: 諸説ある。岩片やサメの歯が核になり、年輪状に、長い年月をかけて、海水中の金属が沈着・凝集してきたものと
考えられている。
・ 一説には、100万年に厚さ1mm程度ほど増肥大化して行くといわれる。
2 コバルト・リッチ・クラスト Cobalt-rich Crusts
コバルト・リッチ・クラスト |
マンガン | 25% | 40~50% |
銅 | 1% | 0.5~1% |
ニッケル | 1.3% | 0.4~1% |
コバルト | 0.3% | 0.1% |
白金 | 0.5ppm | |
その他レアメタル、レアアース元素、希土類元素 |
・ 分布: 事例として、太平洋中西部熱帯海域での比較的浅い海底、特に海面下800~2400mほどにある海山の頂部から斜面にかけて
賦存する。日本のEEZと公海の境界域辺りに有望なクラストが賦存する海山が分布する。
・ 形状: 玄武岩などの基盤岩上を、厚さ数mm~数10cmでアスファルト状、あるいはクラスト(皮殻)状に覆っている。
・ 含有金属: マンガン団塊と類似する黒褐色の鉄・マンガン酸化物である。鉄、マンガンを主成分とし、コバルト、ニッケル、チタン、
白金、レアアースなどを含有する。一般的に、マンガン団塊に比べて、コバルトの含有率がかなり高く、それ故にコバルト・リッチ・クラストといわれる。
また、微量の白金をも含むことからその経済的価値が高いとされる。
・ 成因: 定説はない。
3 熱水鉱床または多金属硫化物 Hydrothermal Deposits or Polymetallic Sulphides
海底熱水鉱床 |
銅 | 1~3% | 1~2% |
鉛 | 0.1-0.3% | 1~2% |
亜鉛 | 30-55% | 3~7% |
金、銀、レアメタル | | |
・ 分布: 水深1000~3000mの海底に賦存する。事例として、東太平洋海膨、大西洋中央海嶺などの海底拡大軸、沖縄トラフなどの
背弧海盆、西部太平洋海域の海山・海丘などに賦存する。日本のEEZ内にも有望な鉱床が多く賦存するといわれる。
・ 成因・形状: 海底下へ浸み込んだ海水がマグマに熱せられて熱水となる。熱水はマグマや地殻に含まれている金属を
溶かし込みながら海底表面へと上昇してくる。
熱水が海底表面から海中へ噴出すると、低温の海水によって冷やされ、熱水中の金属成分が噴出孔周辺に沈殿する。その結果、
熱水鉱床(多金属硫化物鉱床)が煙突状(チムニー状)に、またはマウンド(丘)状の地形として形成される。
・ 含有金属: 熱水鉱床には、銅、鉛、亜鉛、金、銀などの有用金属が含まれ、またレアメタル (ゲルマニウム、ガリウムなど) も含まれる。
・ 再生可能な鉱物資源か?: 熱水鉱床は、地下からの熱水の噴出と金属成分の沈殿・沈積などの自然メカニズムをもって
形成され続けることから、いわば「再生可能な鉱物資源」といえる。特に、近年画期的な事実が確認された。
海洋資源調査船によって掘削された人工噴出孔の周辺に、例えば1年数ヶ月に高さ10m以上のチムニーが形成され、多金属硫化物が沈積した
ことが確認されたという。人工的に金属鉱床を形成・創出しながら、あるいは鉱物資源を「再生産」しながら、持続可能な開発を行える
ようになれば、人類史上画期的なことである。
4 レアアース泥 (希土類泥) Rare earth muds
・ 2011年7月新聞等で報道されたことから非常に注目された。過去に太平洋各地の深海底から採取された泥の分析結果として、
南東太平洋のタヒチ周辺、および中部太平洋のハワイ周辺の水深4000~6000mの深海底に高品位のレアアースを含有する、
莫大な量の泥が分布するというもの。
この「深海底レアアース泥 (希土類泥)」が賦存する有望海域、賦存量、レアアース含有量、採取法、環境保全の手法など、
今後の調査研究に関心が寄せられる。
5 メタン・ハイドレート Mathane hydrates
・ 水とメタンの分子が海底下の低温・高圧環境下で個体(氷)状になっているもので、「燃える氷」と呼ばれる。
メタンは天然ガスの一種で、都市ガスの主成分になっている。1m3のメタン・ハイドレートには約160m3のメタンが
封じ込められているという。
・ 日本近海にも分布するとされるが、特に東海、四国、九州沖などに有望な賦存海域が発見されている。日本周辺海域での
資源量は約10兆m3、国内天然ガス需要の100年分程度といわれる。
・ ハイドレートは、海底下100~300m前後の浅い地層に賦存する。水深1000mの海域において海底下100~300mの地層まで井戸を掘削し、
例えば水・泥などを抜くことによって圧力を低下させると、メタンが地層内部で解け始めるという。そのメタンガスを、天然ガスと
同様に、坑井を通して地上へと導き採取する。
・ 日本はメタンハイドレートの商業生産につき「X年度」を目指すと、時に報道されたりもしたが、その実現は先送りの状況にある。
ハイドレートの濃集帯の構造や規模の探査・試掘と経済的採算性などの見極め、ガス採取法の技術開発、環境影響評価・
暴噴事故などの防止手法の確立、開発のための関連法制整備や財政支援制度など、商業的開発に向けて
政府や関係企業などが取り組むべき課題は多い。
・ ハイドレートは日本のEEZ内にも賦存する。日本が排他的管轄権をもち、専権的に開発利用できる資源をもつことは悲願中の
悲願である。EEZ内の資源であれば、事実上純然たる「国内あるいは国産資源」である。
日本によるニューフロンティア・海洋への挑戦、特に深海底のこれらの資源の探査・開発への挑戦は、日本の将来的発展のために
さらに続けられよう。海洋のさまざまな資源や空間を開発あるいは利用することなくして、いずれの国家も民族も、海洋からの
恩恵を享受することはできない。昔も今も変わらない真実がそこにある。
* マンガン団塊などの金属含有率を示す上記3表の出典: 海洋技術
開発(株)のウェブサイト「深海底鉱物資源調査とは」など
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