海洋総合辞典 Comprehensive Ocean Dictionary, 特選フォト・ギャラリーPhoto Gallery, 中国有人深海潜水艇「蛟竜」Chinese manned deepsea submersible "Jiadong"

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中国郵便切手・有人深海潜水艇「蛟竜」
/[海洋雑論]中国の海洋科学技術開発の先にありうるもの


[拡大画像: x26082.jpg: 有人深海潜水艇「蛟竜」]

中国郵政は、2013年9月に「中国の夢、国家の富強」という、「宇宙と海洋」をテーマにした特別切手を発行した。 画像はそのワンセット4種からなる特別切手である。その内の一枚には、2012年に深度7,020mまで潜航することに成功した有人潜水艇 「蛟竜」(こうりゅう; Jiadong) が描かれている。

海洋雑論: 中国による、この大深度潜航及び海洋科学技術開発の先にありうるものは何であろうか。
人類にとって今もってフロンティアである海洋。中国による、海洋フロンティアを舞台にした近年の科学技術開発は驚異的な 大躍進を遂げている。 2011年7月、3人乗り有人深海潜水艇「蛟竜」は、マリアナ海溝で深度5,188mへの潜水に成功した。 今年の2012年6月15日には深度6,671mへの潜水に初めて成功し、日本の有人深海調査艇「しんかい6500」による潜水記録6,527m (1989年)を上回った。 さらに、同年6月24日には同海溝で深度7,020mの潜水に成功した。今後は深度10,000m以上への有人潜水を目指すべく、11,000m級の有人 超深海潜水艇の建造をも視野に入れて取り組むと報じられる。中国の数10年前の海洋科学技術開発レベルに照らすならば、 今回の7,000m級潜航はまさに歴史的な記録達成であろうし、その結果として国威を大いに発揚したに違いない。

近平政権がめざす「海洋強国」の建設という国家戦略はまさに現在進行形である。 中国は、その戦略の一環として、潜水艇の深海潜航能力だけでなく、深海底鉱物資源の探査・開発(採鉱)能力など、 海洋のさまざまな領域における能力開発に取り組んで来た。 特別の関心をもって注視したいのは、中国の今後における海洋科学技術開発の行方、その先にありうるもの、即ちその戦略的 活用についてである。

みに、中国は、南太平洋諸国自身の200海里排他的経済水域(EEZ)内の深海底に賦存しうる さまざまな鉱物資源(マンガン団塊、熱水鉱床、コバルトリッチ・クラスト、レア・アース泥など)の 探査・開発のために、単独あるいは共同事業投資計画に関する協定の締結を提案するかもしれない。 中国の躍進しつつある海洋科学技術力を最大限生かしてのこのような深海底鉱業に向けた投資計画は、自身の一つの重要な 「外交カード」になりうる。 「カード」の裏面には、中国艦船の寄港・補給を可能にする港湾整備あるいは基地化の提案が記載されているかもしれない。 あるいは、経済的な特典供与と共に、友好国・同盟国関係構築や強化への特別招待状が添えられているかもしれない。

行の国内統治体制が総じて安定的に混乱なく維持され、経済が総じて順調に発展し 続けるとすれば(中国は、2010年に世界第二位の経済力に到達し、日本のそれを上回った)、南シナ海・東シナ海のような 大陸周縁海域における海洋権益の極大化を指向するだけでは到底終わらないことは明白である。 世界の体制や枠組み・秩序を中国の主導、意向、そして国益に沿うように変革したいという、新興大国にありがちなチャレンジは続こう。 そして、「21世紀の海洋強国」としての中国が向かうところは、大陸周縁海域から太平洋前方、即ち日本列島を越えた西太平洋全域へ、 さらには太平洋全域である(究極的には中国の関与の下、ニカラグア運河を建設した暁には、中国太平洋艦隊の大西洋における遊弋と 欧米諸国への親善訪問とならないとも限らない)。行く行くは太平洋全域に自身の海洋支配力、プレゼンス、優位性、行動の自由、 そして覇権を投射・展開することをめざすのは疑いない。

か20、30年前に始まったばかりの中国の経済的大躍進(中国の経済超大国化)、 政治・軍事的な拡張、現在の超大国・米国との競い合いは、先々において究極的にいかなる帰着をもたらすことになるのか  (米国元国務長官キッシンジャーは「破滅への道」だと、最近の著書「中国」で説く)、それは世界安全保障に関わる今世紀の一大関心事 でもある。 究極的な帰着へのシナリオについて何の予測もしないが、米中間の競い合いの道のりは、第一に宇宙・海洋における戦略目標の 遂行を根底で支える中国自身の経済力の発展の行方によって、第二にそれ自身の国内統治体制の変移の行方によって、 大局的かつ決定的に影響を受けるに違いない。海洋科学技術開発においても高い潜在的発展性を内に秘める今日の中国、 自身の「海洋強国」に向けての戦略の行方を今後とも注視して行きたい。

[2014年7月13日/「蛟竜」の大深海潜航の先にありうるもの・インプリケーションについて読み解き記録に留める]

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1. 2013年9月発行の「中国の夢、国家の富強」という、「宇宙と海洋」をテーマにした特別切手(1セット4種)  [拡大画像: x26083.jpg]
2. 中国航空母艦「遼寧号」 [拡大画像: x26084.jpg]


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