一枚の特選フォト⌈海 & 船⌋


One Selected Photo "Oceans & Ships"

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海底熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラストなどを
探査する、最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」



最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」が2012年2月に就役した。所属は、独立行政法人 「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)である。その大きさは、全長118m、幅19m、6283トンである。水深2000m までの海域で、海底下400mまで掘削できる装置(リグ)を保有する。 先代の調査船「第2白嶺丸」では海底下10数mの掘削が限度とされた。

「白嶺」による海洋資源調査に対する期待はすこぶる大きい。我が国の近海を含む西太平洋海域における海底、その地下に賦存する いろいろな鉱物資源、あるいはメタン・ハイドレートのようなエネルギー資源について、「白嶺」はその最新鋭の器械による 海洋観測・科学的調査・試掘活動を先代の「第2白嶺丸」から継承した。「白嶺」は、それら資源の有望賦存海域の特定、 埋蔵量・性状などの評価調査をさらに前進させる。 また、将来の商業的採取・採鉱に備えての環境影響評価および環境保全手法の確立、開発上の法的・技術的基準の制定などに 向けた取り組みを続けることになる。
[2012.3.22 晴海埠頭にて][拡大画像: x24371.jpg & z18504.jpg]




海底に賦存する代表的な鉱物資源として、主に次の3つが注目されてきた: マンガン団塊、海底熱水鉱床、及びコバルト・ リッチ・クラストである。その成因、賦存の有望海域・状況、含有金属とその含有率などが異なる。
その他、深海底レアアース泥(希土類泥)、エネルギー資源としてのメタン・ハイドレートなども近年高い注目を集めている。

● マンガン団塊/マンガン・ノジュールまたは多金属団塊 Manganese Nodules or Polymetallic Nodules
マンガン団塊
マンガン28%40~50%
1%0.5~1%
ニッケル1.3%0.4~1%
コバルト0.3%0.1%
レアメタル

・ 分布: 水深4,000~6,000mの、比較的平坦な世界中の大洋底の表面に半埋没の状態で賦存する。
特にハワイ諸島南東部の広大な深海底域が富鉱帯 (団塊が多量・濃密に賦存する) として、1960年代以来、最も注目をあびてきた。
なお、一般的に最有望の分布海域は、おおむね各国200海里排他的経済水域(EEZ) 管轄外の公海、あるいは「国際海底区域」 (国際海底機構の管轄下)にある。
・ 形状: 直径2~15cm程度の球形あるいは楕円形をした鉄・マンガン酸化物の塊である。色は黒褐色。
・ 含有金属: 鉄、マンガンを主成分とする酸化物で、その他に、銅、ニッケル、コバルト、チタン、モリブデンなどの 有用金属を含有する。右表のうち、右端のコラムは陸上鉱石での金属含有率を示す(以下同じ)。
・ 成因: 諸説ある。岩片やサメの歯が核になり、年輪状に、長い年月をかけて、海水中の金属が沈着・凝集してきたものと 考えられている。
・ 一説には、100万年に厚さ1mm程度ほど肥大して行くといわれる。

● コバルト・リッチ・クラスト Cobalt-rich Crusts
コバルト・リッチ・クラスト
マンガン25%40~50%
1%0.5~1%
ニッケル1.3%0.4~1%
コバルト0.3%0.1%
白金0.5ppm
レアメタル、レアアース元素、希土類元素

・ 分布: 例えば、太平洋の中西部熱帯海域での比較的浅い海域、特に水深800~2400mにある海山の頂部から斜面にかけて賦存する。 日本のEEZと公海の境界域辺りに有望な海山が分布する。
・ 形状: 玄武岩などの基盤岩上を、厚さ数mm~数10cmでアスファルト状、あるいはクラスト(皮殻)状に覆っている。
・ 含有金属: マンガン団塊と類似する黒褐色の鉄・マンガン酸化物である。鉄、マンガンを主成分とし、コバルト、ニッケル、チタン、 白金、レアアースなどを含有する。一般的に、マンガン団塊に比べてコバルトの含有率がかなり高く、それ故コバルト・リッチといわれる。 また、微量の白金をも含むことからその経済的価値が高いとされる。
・ 成因: 定説はない。


● 海底熱水鉱床または多金属硫化物 Hydrothermal Deposits or Polymetallic Sulphides
海底熱水鉱床
1~3%1~2%
0.1-0.3%1~2%
亜鉛30-55%3~7%
金、銀、レアメタル

・ 分布: 水深1000m~3000mの海底に賦存する。例えば、東太平洋海膨、大西洋中央海嶺などの海底拡大軸、沖縄トラフなどの 背弧海盆、西部太平洋地域の海山・海丘などに賦存する。日本のEEZ内にも有望な鉱床が多く賦存するとされる。
・ 成因・形状: 海底下へ浸み込んだ海水がマグマに熱せられて熱水となる。熱水はマグマや地殻に含まれている金属を 溶かし込みながら海底表面へと上昇してくる。 熱水が海底表面から海中へ噴出すると、低温の海水によって冷やされ、熱水中の金属成分が噴出孔周辺に沈殿する。その結果、 熱水鉱床(多金属硫化物鉱床)が煙突状(チムニー状)に、またはマウンド(丘)状の地形として形成される。
・ 含有金属: 熱水鉱床には、銅、鉛、亜鉛、金、銀などの有用金属が含まれ、またレアメタル(ゲルマニウム、ガリウムなど) も含まれる。
・ 再生可能な鉱物資源か?: 熱水鉱床は、地下からの熱水の噴出と金属成分の沈殿・沈積などの自然メカニズムをもって 形成され続けることから、いわば「再生可能な鉱物資源」といえる。特に、近年画期的な事実が確認された。 海洋資源調査船によって掘削された人工噴出孔の周辺に、例えば1年数ヶ月に高さ10m以上のチムニーが形成され、多金属硫化物が沈積した ことが確認されたという。人工的に金属鉱床を「創り出し」ながら、あるいは鉱物資源を再生産しながら、持続可能な開発をなしえる ようになれば、人類史上画期的なことである。

● 深海底レアアース泥(希土類泥)
2011年7月新聞等で報道されたことから非常に注目された。過去に太平洋各地の深海底から採取された泥の分析結果として、 タヒチ周辺の南東太平洋およびハワイ周辺の中部太平洋の水深4000~6000mの深海底に高品位のレアアースを含有する、 莫大な量の泥が分布するというもの。 この「深海底レアアース泥(希土類泥)」が分布する有望海域、賦存量、レアアース含有量、採取法、環境保全の手法など、 今後の調査研究に関心が寄せられよう。

● メタン・ハイドレート
・ 水とメタンの分子が海底下の低温・高圧環境下で個体(氷)状になっているもので、「燃える氷」と呼ばれる。 メタンは天然ガスの一種で、都市ガスの主成分になっている。1m3のメタン・ハイドレートには約160m3のメタンが 封じ込められているという。
・ 日本近海にも分布するとされるが、特に東海、四国、九州沖などに有望な賦存海域が見出されている。日本周辺海域での 資源量は約10兆m3、国内天然ガス需要の100年分程度といわれる。
・ ハイドレートは、海底下100-300m前後の浅い地層に賦存する。水深1000m、その海底下100-300mの地層まで井戸を掘削し、 例えば水・泥などを抜くことによって圧力を低下させると、メタンが地層中で解け始めるという。そのメタンガスを天然ガスと 同様に坑井から地上へと導き採取する。
・ 日本政府は2018年度の商業生産を目指している。ハイドレートの濃集帯の探査、ガス採取法の技術開発、環境影響評価・ 暴噴事故防止手法の確立、経済的採算性の克服など、商業開発に向けての課題解決はこれからであるが、その取り組みに最も高い 関心が注がれる。
・ ハイドレートは日本のEEZ内にも賦存する。日本がその排他的開発利用権をもつエネルギー源を確保することは悲願中の 悲願である。EEZ内の資源であれば、事実上純然たる「国内・国産資源」である。





日本によるニューフロンティア・海洋への挑戦、これら海洋資源の探査・開発への挑戦は、日本の次世代のために、今世紀も さらに続けられよう。海洋の資源および空間を開発・利用することなくして、いずれの国家も民族も、それらの恩恵を享受 することはできない。昔も今も変わらない真実がそこにある。
[To be continued and revised. 今後に続く。また、適宜加筆修正される。]

* マンガン団塊などの金属含有率を示す上記3表の出典: 海洋技術 開発(株)ホームページ「深海底鉱物資源調査とは」

* 第2白嶺丸
本船は、マンガン・ノジュール(マンガン団塊)、コバルト・リッチ・クラスト、海底熱水鉱床などの深海底鉱物資源の探査を 目的とする専用船である。 三菱重工業(株)下関造船所において、1978年12月起工、1979年10月進水、1980年5月完工した。 海底下20mまで掘削可能な小型の有索式深海用ボーリングマシーン搭載。全長88.8m、幅13.8m、喫水5.2m、総トン数2,145.4トン、 国際トン数2,535トン、航海速力12㎞、航続距離12,500sea miles.


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