一枚の特選フォト⌈海 ＆ 船⌋

棒材&貝殻でつくられた海図　[マーシャル諸島]

古代の人々は、いつ頃、どういう経路を辿って、広大な太平洋に散らばる何千という島嶼に 移り住んで行ったのであろうか。 紀元前6万年頃、最後の氷河期に海面が下がった頃のこと、アジア大陸の南東周縁部に位置するマレー半島と、オーストラリア 大陸あるいはニューギニア島との間にある大小の島嶼間を繫いでいた陸橋を渡り、あるいはそれほど隔てていなかった海峡を 原始的な筏・舟で渡海し、オーストラリア大陸やニューギニア島へと移り住んで行ったとされる。 その後、紀元前のいつの頃からか、何千年もの歳月をかけ、古代の人々はミクロネシア (カロリン諸島、マーシャル諸島など)、 メラネシア (ソロモン諸島、フィジー諸島、トンガ諸島、サモア諸島、バヌアツ、ツバルなど) へ、さらに東方海域の南北に広く 散らばるポリネシア (タヒチ島、ハワイ諸島など) へと航海し、島嶼を発見し、定住して行った、と説かれる。 ノルウェーの考古学者・探検家のトール・ヘイエルダールが主張したように、南洋の島嶼に定住して行ったのは南米の古代の人々であり、 彼らが南米大陸から風に乗って西へと渡って行ったのであろうか。ヘイエルダールはバルサ材の⌈コン・ティキ号⌋と ネーミングした筏舟を造り、1947年にペルーからポリネシアまでの8000kmを航海した。だが、民俗学・考古学的な証拠からは、 古代の人々は西から東方へ移住して行ったことを示している、といわれる。 古代において南洋を航海した船乗りたちは、自然界のさまざまな現象や動きを観測し、その知識をこのような造形の海図に結晶させ、 彼らの航海の道しるべとして生かしたのである。例えば、星の動きや星座に関する知識は針路を定め、保持するのに役立った。 鳥の飛び方、魚の動き、風や潮の流れ、うねりや雲の形などは、海における道しるべとして役立った、といわれる。 画像は西太平洋の赤道直下に近いマーシャル諸島 (ミクロネシア地域;　首都マジュロ) に住む友人が送ってくれた、棒材と貝殻から なる海図である。友人がその地の観光局を訪ねた時にこの不思議な造形を見つけた。 マーシャル諸島は、太平洋の真珠列島などといわれ、大きくは南北にのびる二つの列島に分かれる。 西側のそれを⌈ラリック列島 (Ralik) ⌋、東側のそれを⌈ラトック列島 (Ratak) ⌋という。画像でいえば、 向かって左側にラリック、右側にラトックが配されているようである。友人が住むマジュロ (Majuro) 環礁は右側のラトック列島 にある (マーシャル諸島には、米国の核実験などで世に知られた島嶼のビキニ (Bikini Atoll)、エニウェトク (Eniwetok) などがある)。 マーシャル諸島では数千年にわたってこうした伝統的な海図が用いられてきたという。海図であり、領土ならぬ海の領域を示す 版図でもあろう。小さくてよく見えないが、タカラガイであろうか、幾何学的に組まれた棒の交点などに取り付けられた貝殻は、島や礁 (islands, atolls) を表している。凸状に曲った棒は、海流や海のうねりを示しているのであろうか。 文字がよく判読できないが、最下左端はビキニ島、その少し右上の交点にはクワジェリン礁 (Kwajalein Atoll) が見える。 最左上端には "Mejit Island" と記されている (それ以外の島嶼名はほとんど判読困難なので、残念ながら、海図が示す地理的範囲は 不詳である)。 アジア大陸南東周縁部から次々と大洋に乗り出し、 そこに散らばる何千という島嶼を発見しては定住して行った、というのが現在の 通説であるが、いずれにせよ人類史上最初にして最も偉業といえる海洋探検を成し遂げて行ったのはそんな古代の人々であり、 正真正銘の海洋民族であったといえよう。 [マーシャル諸島の友人からの⌈マーシャル通信⌋ (2012.11.25) に添付された画像][拡大画像: x24891.jpg] [拡大画像: x24892.jpg＋その小画像: z18984.jpg]