一枚の特選フォト「海 & 船」


One Selected Photo "Oceans & Ships"

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オルテリウスの世界図(1587年製作)

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15世紀末頃のルネサンス期の地理学者メルカトルが製作した世界図や、地図製作者オルテリウスが製作した世界地図帳「世界の舞台」によって、 全世界のおよその姿が知られるようになった。オルテリウスは、1570年に「世界の舞台」と題する地図帳を完成した。大航海時代の探検 によって得られた地理的情報と印刷技術の発達とが相俟って、初の本格的な近代的地図帳であった。 その1570年版地図帳の巻頭を飾る世界図には、北方上辺と南方下辺に仮想の大陸が大きく描かれている。それらの両大陸の正体が明らかにされた 新世界図が出現するまでには、更に多くの探検の成果を待たねばならなかった。

画像1は、オルテリウスが1587年に製作した「世界地図」(TYPVS ORBIS TETTARVM)の複製版である。 画像2はその地図の部分的拡大図である。アメリカ大陸と「南方大陸」がマゼラン海峡によって切り離されている。 海峡の南岸に「Tierra del Fuego(火の陸地)」と記される。現在の「フエゴ島」のことであろうが、地図では「南方大陸」の一部として描かれて いる。右上端には、マゼランが、探索の結果太平洋への水路ではなく川であることを確認した、その「Rio de la Plata(ラ・プラタ川)」が 記される。画像3は、博物館の展示意図として、オルテリウスの当初の地図ではアフリカ大陸南端やアメリカ大陸南端は「南方大陸」と繋がって 描かれていたことを示そうとしている。

実は、ギリシア人プトレマイオスによって紀元2世紀(150年頃)に製作された世界図が、15世紀から「大航海時代」が 始まっても、その一時期まで使われていた、という史実は驚嘆に値する。彼の世界図が1300年もの時を経て、ルネサンス期の15世紀になって蘇った のである(13世紀間、彼の世界図に代わるものがなかったのが事実とは信じられない)。 因みに、後世において再発見されたプトレマイオスの著作に基づいて、1482年に彼の地図がドイツで印刷された(確認された世界地理 と空想上の それとが混じり合っている)。
* 辞典内関連サイト: プトレマイオスが紀元2世紀に製作した世界図
* プトレマイオスの世界図では、ヨーロッパと中国との経度差を実際よりも大きく見積もっていた。因みに、カナリア諸島から中国までの距離を 経度幅180度にて描いており、50度ほど広く伸長したものとなっていた。

その後、ポルトガル人探検家バルトロメウ・ディアス(Bartholomeu Dias)にして、1487-88年の航海で初めてアフリカ南端を回航しアフリカ 大陸東岸に広がるインド洋へ航海できることを発見し、プトレマイオスの地理的世界観に画期的な変革をもたらした。 更にまた、バスコ・ダ・ガマのインド航路探検(1498年)、マゼランの世界周航(マゼラン海峡を発見し通過し、太平洋を横断航海後、 エルカーノ率いる一隻のみが1522年にスペインに帰還した)など、地理的情報を得るにつれ、プトレマイオスの地図は次々と修正されて行った。

既述の通り、15世紀後半のルネサンス期のメルカトルやオルテリウスは、それらの情報をもとに、当時新たに開発された印刷術をもって 新しい地図を出版したことから、プトレマイオスの地図はようやく使われなくなった。 1488年ディアスがアフリカ大陸南端喜望峰に達し、1520年マゼランが南米大陸南端のマゼラン海峡を通過すると、「南方大陸」はアフリカ・アメリカ両 大陸から切り離された。しかし、当時実際に南方を探検した者はいなかったため「南方大陸」の有無は立証されていなかった。 そのためオルテリウスの1570年製作の地図にはなおも「南方大陸」が大きく描かれていた。

15世紀末に蘇ったプトレマイオスの地図と、1587年製作のオルテリウス製作の「世界地図」を比較すると、地理的発見の時代を経て一世紀余の 間に明らかにされた世界地理の知識がどれほど多く世界地図に集積されたものかをよく理解できる。

[撮影年月日:2020.09.23/画像1~3の出典: 名古屋海洋博物館]

1. 「世界地図(複製) 1587年 オルテリウス製作」 [拡大画像: x28975.jpg]
2. 同上地図の部分拡大図(アメリカ大陸・マゼラン海峡・「南方大陸」)。 [拡大画像: x28971.jpg]
3. 博物館の展示意図として、オルテリウスの当初の地図では、アフリカ・アメリカ両大陸南端は「南方大陸」と繋がって 描かれていたことを示そうとしている。


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