海洋総合辞典 Comprehensive Ocean Dictionary, 特選フォト・ギャラリーPhoto Gallery, セミクジラ骨格North Pacific right whale skeleton, 水産資料館・鯨ギャラリーwhale gallery, fisheries museum, 東京海洋大学海洋科学部University of Marine Science and Technology, Faculty of Marine Science

一枚の特選フォト⌈海 & 船⌋


One Selected Photo "Oceans & Ships"

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セミクジラの骨格標本 (その2:胸鰭・5列指)

東京海洋大学海洋科学部付属水産資料館「鯨ギャラリー」に セミクジラ (North Pacific right whale, Eubalaena japonica) の全身骨格が展示されている。 日本が行った科学研究目的の特別調査 (1956~1968年) 期間中の1961年8月に、米国アラスカ半島コディアック島南方60海里沖で 捕獲されたものである。画像は、骨格のうちの胸鰭 (pectoral fin) で、5列からなる巨大な指である。

この5列指の「手」を見ると、鯨は、陸上生息動物からどのような変化を遂げて海洋哺乳動物となったのかという生物進化史に 興味がそそられる。 地球上の最大動物である鯨の存在や生存、あるいはその絶滅は、人間にとって、また海洋生態系にとってどんな意味があるのか。 地球温暖化と海水温の上昇や極地氷河の融解、海水の酸性化などの地球規模の環境変化はクジラへいかなる影響を及ぼすことになるのか、 骨格標本を前にしてふと脳裏をよぎる。

展示では、鯨の進化につき「骨盤の痕跡」と題して、下記の興味ある説明書き(下記画像6)が付されている。

      「今の姿からは想像もできないが、鯨類の祖先は陸上を闊歩していた。最近の研究によると、暁新世 (ぎょうしんせい) から 始新世 (ししんせい) にかけて生息していたカバに近い原始偶蹄類 (ぐうているい) が鯨類の祖先とみられている。これら原始偶蹄類 のうち、海辺に棲むグループが次第に水中生活へ適応し、鯨類の祖先へと進化していったと考えられている。 原始偶蹄類から現在の鯨類へどのように進化したかについては十分に分かっていないが、新たな技術や化石の発見によって 徐々にその過程がわかりつつある。
      アンブロケトゥスやパキセタスは最古の鯨として知られ、原始偶蹄類と鯨類の中間的段階にある。アンブロケトゥスは 今から5000万年から4500万年前頃に出現した鯨類で、頭部の特徴は原始的なクジラ類に近かったが、陸上哺乳類のように 立派な足があった。それらの足を支えていた骨盤の痕跡が上の骨 (注:画像5の骨のこと) である。 徐々に退化してはいるが、鯨の祖先が陸上を闊歩していた名残を確実にとどめている。セミクジラの骨盤痕跡は他種に比べ 比較的大きく、他の多くの鯨種では既に消失しているか、かなり退縮している大腿骨 (太ももを支える骨) の痕跡も明確に残っている。
    図版: 進化が分かる動物図鑑 クジラ・イルカ.柴内俊次慣習.ほるぷ出帆.1998.」
[前のページ][2011.12.22.東京海洋大学・海洋科学部・付属水産資料館「鯨ギャラリー」にて]
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5. セミクジラの骨盤。 [拡大画像: x24849.jpg] 6.[拡大画像: x24840.jpg: 説明書き「骨盤の痕跡」(記述内容は上記の通り)]


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