奇跡の魚と称されるクニマス(国鱒)は、かつては世界で秋田県田沢湖にしか生息しなかった。そのクニマスが田沢湖で絶滅の道を
辿ってしまった。だがしかし、およそ70年後のこと、奇跡の発見がなされた。田沢湖で絶滅したそのクニマスが、2010年に富士
五湖の一である山梨県西湖で発見された。1935年に田沢湖から西湖(さいこ)に放流され移植されたクニマスがかろうじて命を繫いでいたのである。
1930年代のこと、米の大凶作、電力不足などの困難な状況に直面していた。農業灌漑用水と電力を確保しその窮状を乗り
越えようと、1940年に田沢湖を貯水湖として利用しようとした。即ち、同湖東側を流れ下る、酸性水の特性をもつ玉川の水を田沢湖
で希釈して灌漑用水として利用するという計画が策定され、同年に田沢湖に導入された。pH6.3~6.7
であった湖水は急速に酸性化が進んで行った。その結果、クニマスは絶滅へと追いやられ、いつしか忘れ去られてしまった。
時を少し遡るが、1935年に田沢湖からクニマスの卵10万粒が西湖に孵化放流されていた。
さらに時を遡った1918年に京都大学・川村多實二教授が「日本淡水生物学」を著わしたが、その関係で同教授は田沢湖産クニマスの
標本9個体を集め同大学にて保管していた。同大学名誉教授中坊徹次氏によれば、それらの標本が西湖でのクニマスの発見に結びついた
という。
中坊教授は、クニマスだけがもつ解剖学的特徴、即ち鰓耙(鰓の一部)と幽門垂(消化管の一部の突起)の「数値の組み合わせ」において、
クニマスだけのものがあることを解明した。そして、同定の対象となった西湖の「黒いマス」は田沢湖の標本9個体のそれと一致した。
また、遺伝子解析もなされ、結果クニマスであることが究明されるに至った。2010年のことである。以上
参照文献: 京都大学中坊徹次教授著の「奇跡の魚クニマスについて」と題名する小冊子(平成29年3月、富士河口湖町による発行)。
同冊子では、クニマスが田沢湖から西湖へ移植された歴史、西湖での発見の経緯などが分かりやすく纏められている。
なお、「西湖ネイチャーセンター管理事務所」に併設される「クニマス展示館」では、西湖で採取されたクニマスの標本や
人工孵化され成魚となった生きたクニマスなどが展示される。
[撮影年月日:2022.10.20/場所: 「西湖ネイチャーセンター管理事務所」(所在地: 山梨県南都留郡富士川口町西湖2068)に
併設される「クニマス展示館(KunimasuMuseum)」/電話0555-82-3111] [拡大画像: x29138.jpg]
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