海洋総合辞典Japanese-English-Spanish-French Comprehensive Ocean Dictionary, オーシャン・アフェアーズ・ ジャパンOcean Affairs Japan, 北極海を巡って/北極海の海氷融解、北極海航路、ガバナンス

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    北極海を巡って/海氷融解、北極海航路、ガバナンスなどについて

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・ 画像1: 韓国・釜山の「国立海洋博物館」に展示される北極海航路と南回り航路のルート比較図 [拡大画像]
図絵によれば、北極海航路(欧州ロッテルダム~北極海ロシア沿い「北東航路」~ベーリング海峡経由~アジア・釜山)の航海距離は 12,700kmであり、南回り航路(欧州ロッテルダム~スエズ運河・シンガポール経由~アジア・釜山)のそれは21,000kmであると 示される。当然の帰結として、前者での航海日数は大幅に短縮され、また燃料コストも大幅に低減されることになる。  [画像撮影: 2016.9.15/韓国・釜山の国立海洋博物館にて][拡大画像: x27424.jpg]

・ 画像2: 2014年 (平成26年) 1月4日付け産経新聞に、北極海周辺諸国による北極海を巡る政策、活動動向、課題などを包括的 に論じた特集記事が掲載された。画像は記事に添えられた北極海と沿岸諸国の概略図である。
図には「北極海航路」と称される「北東航路」、「北西航路」、および「中央航路」が記されている。また、 北極海に直接的に面する米国、カナダ、デンマーク(グリーンランド)、ノルウェー、ロシアの5ヶ国の200海里排他的経済 水域(EEZ: exclusive economic zone)や大陸棚の国家管轄権の範囲を図示している。[拡大画像: x25831.jpg][拡大画像: x25830.jpg]

・ 画像3: 「国際海事機関(IMO)」が北極海航路における国際通航ルールの設定に積極的であることを報じる、 2014年(平成26年)11月4日付けの読売新聞記事である。 [画像: 2014年11月4日読売新聞][拡大画像: x27206.jpg]

・ 画像4: 2014年 (平成26年) 1月4日付け産経新聞の北極海特集記事 [拡大画像: x25883.jpg]




[論点1]地球温暖化などによる北極海の環境変化など(総論)
・  地球温暖化の影響で北極海の海氷も溶解しつつある。その海氷面積は縮小化の傾向をたどり、その最小傾向をさらに更新し続けている。 「国連気候変動に関する政府間パネル」(IPCC) や世界のさまざまな研究機関などがそれを報告し、警告を発出し続けてきた。
* ドイツなどの研究者が「CO2の排出量が現在の水準で続くと、北極海での夏の海氷は今世紀半ばに消滅する」との論文を、 まとめ米国科学誌「サイエンス」に2016年4月4日付で発表した (朝日新聞・朝刊2016年11月4日)。 北極海での通年航行が、海氷の全面的消滅よりもっと早い段階で確実に可能になると予測される。

・  北極海の海氷、南極大陸の氷床、グリーンランドなどの陸地氷河などは地球の気温を調節する機能を担っている。地球規模 での氷の融解は、大気や海洋での水蒸気、降水、海水などの循環に影響をもたらす。世界全体の平均気温の上昇が産業革命前に 比べて2度を超えると、河川洪水や大干ばつ、沿岸部の高潮・高波による浸水などの自然災害の発生、農作物への被害、病害虫の発生拡大、 動植物の生息・生育環境への影響、永久凍土の融解、海洋生態系や漁業生産への影響など計り知れない。いろいろな悪影響が予想 されるなか、今後ますます顕在化する可能性がある。人類は未来のある時点において不可逆的な深刻な環境インパクトを被るかもしれない。

・  北極海の海氷の完全融解は地球的規模で負の甚大な環境的影響をもたらす一方、世界の海運は50年100年前には予想だにしなかった 副次的インパクトを皮肉にも眼の当たりにしつつある。その経済的効果を享受し、内心では全面融解に対して「前向きの評価」を下す かもしれない。即ち、北極圏での「通年通航の実現化」である。航路の大幅短縮化によって大きな経済的実利や 恩恵を受けるとしても、真に喜び褒められ歓迎されるべき地球の姿なのか。産業革命前の地球の自然環境こそが守られるべきものでは ないのかと、人類は自問自答を続けることになろう。

・  最近、地球温暖化の影響で北極海の海氷の溶融による「面積縮小化」にまつわる象徴的出来事があった。即ち、2016年の夏、大型客船 が史上初めて北極海を航行した。米国クリスタル・クルーズ社所有の「クリスタル・セレニティ号」(68,870トン) が、同年8月、太平洋沿岸の港町アラスカ州シュワードを出港し、北米大陸北岸に沿って北極海「北西航路」を航行し、北大西洋へ抜け ニューヨークに至った。




[論点2]北極海航路について
1. 北極海では、その海氷の融解により、その面積がますます縮減傾向にあることが明白になりつつある。 国際社会の温暖化効果ガス削減対策が不十分な場合には、いかなるインパクトをもたらすのか。 21世紀半ばまでに、夏時の「多年海氷」の事実上の完全消滅となる可能性が高いと指摘されている。

2. 他方、北極海航路 (ロシア沿岸沿いの「北東航路」; ベーリング海峡~ロシア北部沿岸を経て欧州のロッテルダムなどへいたる)  の利用、北極海周辺域におけるエネルギー資源開発への関心は高まる趨勢にある。
・ 因みに、2010年には4隻、2013年には71隻が北極海を通過したと報じられた。

  今後、融解の面的拡張につれ、北極海航路の利用の増大、船舶の年間の実通航期間や通航量のさらなる拡大が進展するであろう。現在は 7月から4か月間の利用のみであるが、海氷融解の進展によって、通年通航が可能になるのは時間の 問題となるかもしれない。
[参考]北極海航路は、マラッカ海峡・スエズ運河を経る「南回り航路」に比較して、航海日数は40%短縮、燃費・人件費は大幅に 削減されるという。

3. スエズ運河経由の南廻り航路では、現在年間15,000隻であり、北極海航路の30~40隻程度とは全く比較にならない。 だが、安全にして通年通航が可能となり、船舶通航量の大幅増となって行けば、21世紀中に世界の海運・海上物流に大きな変革を もたらすことになる。

4. ロシアが独自の「国内通航ルール」を各国に適用している現状がある。現在は「北東航路」の大半がロシア国土沿いであり、 事故防止名目にてロシアの原子力砕氷船の先導による砕氷サービスを義務付けるなど、独自ルールがある。サービスに対する 課金を徴収している。沿岸諸国のさまざまなルールの強制的適用、通航に先だつ事前通告の義務など、国内規制の内容・適用は どこまで許されるのか、重要な課題である。

5. 翻って、「国際海事機関・IMO」は、北極海航路の国際ルール作りを積極的に進めようとしている、と報じられる。 IMOは、国際基準を満たした船舶は自由に航行できる「国際航路」にする考えである。 関連条約の改正によって強制力のある安全・環境基準の作成準備を進める。さらにまた、船員資格に関し極地航行の新資格を設定 する方針でもあるという。油・油分の排出禁止、船体安全基準の強化に向けた新たな環境基準も策定されよう。 関係諸国で調整された通航に関するルールづくり、国際規準化を図ることが国際共益に適う。国際協調・協力が期待される ところである。

6. 地球温暖化の結果、全く意図しなかった、「棚からぼた餅」のような「副産物」が浮上しつつある。世界はこれを「好機」 としてとらえ、北極海航路での輸送上のより高い安全性、世界的規模での物流効率化や経済効率性などを追い求め続けることに なるのであろう。新たな世界的物流ルートの開拓への挑戦は既に始まっており、その開拓を求める圧力はますます高まるものと 予想される。

7. ロシア、カナダ、米国、中国、EU、日本などは航路開拓や規制につき如何なる方向性や戦略をもつのか。近未来において、 中国は北極海航路に定期的に一般商船を通航させたり、時に軍艦を行き来させ示威行動を取るのであろうか。諸国の動向や戦略に つき注視していきたい。

    [参考] 地球温暖化にともなう北極海の海氷面積が縮減し続けているが、海氷の融解がさらに進行すれば、東アジアと欧州を結ぶ 北極海航路 (北東航路や北西航路: 図参照)の利用が、将来飛躍的に拡大する可能性がある。 北極海の自然環境保全、船舶の設備・構造や通航などに関する合理的な国際的規制の制定と執行が求められよう。 ロシア、カナダなどの沿岸諸国は、通航する船舶の安全確保に資する特別サービスの提供(砕氷船による航路・シーレーン整備や 誘導など)の観点から、通航や環境保全に関する国内規制やその執行(enforcement)を強化するかもしれない。沿岸諸国と 非沿岸諸国(特に海運諸国・通航利用国)との間の通航制度や環境保全などを巡る利害調整が今後大きな課題となろう。

      国際海事機関(IMO)が通航に関する合理的な法規制(legal regime)と運用に大きな役割と指導力を担うことが期待される。 今後北極海航路の通航量の推移や、沿岸国による航行船舶への特別サービスの提供、海難救助などへの対価支払い、あるいは、 国内通航規則の一方的な強制的執行などの行方に注目が集まることになろう。






[論点3]北極海における国家管轄権の範囲、その境界画定、大陸棚の延伸など

  地球温暖化の影響で、北極海の海氷が融解し、その面積は縮減し続けている。 昨今では、5ヶ国のみならず、日本、中国、韓国、その他アイスランドなどが、北極海域での活動や国益追求に強い関心を払い、積極的に 関与を強めようとしている。北極海の統治(ガバナンス)に関わる課題・テーマや視座について概観する。

  北極海沿岸諸国は、経済水域や大陸棚の国家管轄権の範囲について、国際海洋法 (国連海洋法条約などの成文法・国際慣習法・ 国際司法裁判所などの判例) などに基づき、平和裏に衡平な境界画定を決することができるか。 5ヶ国間での境界画定における深刻な外交問題は現在までのところ見当たらないように見える。 領海基線からの等距離線および中間線をベースに、何がしかの微調整を図りつつ合理的で互いに衡平・公正な線引きをすることに それほど困難はなさそうに思われる。

  因みに、ロシアなどは、200海里(約370km)の国家管轄権以遠にある海底・その地下を自国の大陸棚としてその延伸を求めて、国連の 「大陸棚委員会」に申請してきた。追加的な科学的資料の提出などを準備中であると、かつて報じられていたところである。

  同条約上沿岸諸国に認められる経済水域は、原則として離岸200海里までである。それ以遠の海域は公海と位置づけられる。 しかし、公海と位置づけられても、200海里以遠の海底とその地下 (大陸棚のこと)については別の制度に服する。即ち以遠の大陸棚 の延伸部分につき、一定の条件と限界の下に、国連の同委員会によって承認の勧告がなされた場合、それが最終画定となる。

  翻って、当該延伸部以遠の海底とその地下は「国際海底区域」と定義され、国連の「国際海底機構(ISA)」による資源管轄権に 服することになる。ISAが管轄するこの国際区域に賦存する鉱物・エネルギーの非生物資源は人類の共有財産と位置 づけられる。そして、ISAの管理の下、国際公益・共益の視点から、適正な利用・管理および収益配分に供されることになる。




[論点4]北極海における生物・非生物資源の探査・開発について
予見される将来、北極海における水産や鉱物資源の探査・開発のあり方について、沿岸諸国をはじめ中国などの非沿岸諸国は大きな関心を 寄せることになろう。

  北極海には膨大な量の海底石油・ガス資源が眠ると推定され、既にその旨が報じられている。 沿岸諸国の経済水域内での資源探査・開発などの活動は、各国の排他的管轄権下にある事項であるが、資源開発にともなう環境への負荷を どのように抑制し、環境汚染を防止するか。沿岸諸国による適正な国内規則の制定、事故防止策の実施、およびその執行(環境汚染に 対する厳しい罰則と執行)などが求められる。他方で、北極海全域で共通して適用されるべき特別の国際的な環境保全規則の制定と適用、 協力体制の構築などについても関係諸国で協議されることになろう。

  海氷の融解の拡大につれ、北極海の200海里排他的経済水域での漁業資源の調査や商業的漁業開発がテーマとなる可能性がある。 また、北極海中央部の公海における水産資源の探査・開発も将来主要テーマになるかもしれない。海洋生物資源の持続可能な 合理的で適切な利用・管理を図るためには継続的な科学的調査が不可欠であり、そのための地域的国際協力の枠組みの 構築が求められるに違いない。




[論点5]北極海におけるガバナンス/国際的枠組みはどうあるべきか、その視座はいかに
  北極海沿岸諸国その他関係利害国は、「1982年国連海洋法条約」を基礎にしながらも、自らの国益の最大化を目指してそれを 追求する一方で、さまざまな対立を顕在化させていくかもしれない。北極海でのガバナンスの国際的枠組みはどうあるべきか、 北極海における国際社会の公益、「国際益」の観点から、どう管理利用されるべきか、その目指すべきレジームはどうあるべきか。 それらを北極海を巡る諸課題を注視しながら、その視座を思索したい。

  北極海沿岸諸国間で、彼らのもつ地理的偶然という「定規」でもって北極海の相当部分を分割しようとしている。それは世界の他の 海洋の場合と全く同じである。「国連海洋法条約」が規定するように、北極海周辺EEZ以遠の公海における生物資源、さらに北極海中央部に ドーナツの空洞のように残された海底・その下の「国際海底区域」における非生物資源を、「国際共有財産」として、人類のモデル的 利用・管理レジームの下に置いてガバナンスできるか注目していきたい。


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