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東シナ海における日中韓の大陸棚境界線画定について


[論点1]現行の日韓大陸棚の境界線画定に関する協定について(総論)
  東シナ海における日韓および日中間の大陸棚境界線の画定に関し、どんな未来が描けるであろうか。韓国・中国との分界画定に関し、 今後日本はどう向き合うべきか。

  1978年に発効した日韓大陸棚の分界/境界線に関する二国間協定について、一つは対馬海峡とその隣接海域での大陸棚境界線画定に 関するもので、調整すべき若干の技術的課題が残されていると指摘されることもあるが、今後も「日韓大陸棚北部の境界画定に関する協定」を 引き続き踏襲を続けることには、基本的に問題がないように見受けられる。

  問題は、韓国本土・済州島のはるか南方海域の日韓「共同開発区域」について規定する「日韓大陸棚の南部 の共同開発区域に関する協定」である。協定の期限を迎えるに当たって、今後どう取り扱うべきかという基本的命題がある。

  両協定の期限は2028年である。期限を迎える年の3年前に当たる2025年に書面予告を行なえば、2028年の期限日をもって、または その後いつでも終了させられることになっている。


[論点2]日韓「共同開発区域」に関する協定は存続されるべきか、失効されるべきか
何故同協定を失効させるのが妥当であるか。継続は国益に適うのか。その存続はいかなる国益に資しうるのか。今日まで半世紀の間、 同区域では何の商業的石油も産出されてこなかった。

  同協定の失効を明示的に意思表示する外交文書をもって、「共同開発区域」を海図上から消し去っておくことが肝要と思われる。 期限の到来は「共同開発区域」を取り決める協定(南部協定とも言う)を解除・失効させる重要な機会となろう。一旦失効させることで、 南部協定を白紙化させるべきである。同協定の存続は「1982年国連海洋法条約」上の日本の権利を主張するうえでの法理論を 曖昧なものにさせる。日本の法的立場を弱めるこそすれ、強化することにはつながらず、日本を不利な立場に追いやることになろう。 また、実際上も海底石油開発の観点からして、日本の国益に何ら貢献してこなかった。

  同区域の設定を白紙化しておかなければ、韓国側が主張する半島陸地の自然延長論、即ち「韓国の大陸棚は沖縄舟状海盆(の中軸) まで伸びる」という主張を半ば明示的に、あるいは暗示的に今なお、また今後にあっても容認するものと受けとめられかねない。 あるいは、日本側が主張する中間・等距離線論の適用を躊躇するか、あるいは放棄するかの如く、誤ったメッセージを今後も 発信し続けることになりかねない。さらに、韓国と同様に、沖縄海盆中軸部まで主権的権利が伸長するとの立場をとる中国の 自然延長論に対しても、日本は自らの基本的立ち位置を改めて明示し、かつ法理論を再構築しておく必要がある。 中国にも誤ったメッセージを送り続けるべきではない。

  繰り返しになるが、日本にとって、中間・等距離線が真に妥当かつ正当な主張であることの法的論拠や立場を、中韓をはじめ 国際社会に改めてしっかりと主張する千載一遇のチャンスが到来することになる。協定を廃棄しても日本の国益を損なうような ことはなく、むしろ日本が主張する法的論拠の再検討・再構築を行ない、それをしっかり世界に公にし、大陸棚に関する国益を 復活させるチャンスとなりうる。日本の大陸棚に関する法理論の中核をなす中間・等距離論を復活させる好機となろう。 沖縄舟状海盆の中軸線論や自然延長論の理不尽性、不合理性を世界に問う好機であると捉えるべきである。東シナ海の中間線以南の 日本の200海里EEZ水域内に同区域が設定されているのは理不尽である。   前述の通り日本にとって、南部協定を失効させる重要な機会となるはずである。50年間の有効期間を過ぎてもこれまで どおり協定を継続させ、ついては同区域を日韓中間線以南の日本寄りの200海里EEZ水域内に設定しておくことは、 もはや日本には到底受け入れ難いはずの取極めである。日本にとっては、同区域設定を継続することは、自然延長論および海盆 中軸論を容認し続けることを意味する。対韓・対中のいずれの関係でも問題である。南部協定については、日本のイニシャチブを もって一旦失効させ白紙化すること、その後将来改めて時機を得て分界交渉をもつことに何の不都合もないはずであり、国益に 適うことである。2025年の失効予告と同時に、それに替わる大陸棚分界に関し交渉する用意があることを留保しておけばよい。

  日本にとって、中間・等距離線が真に妥当かつ正当であることの法的論拠や立場を、中韓両国をはじめ国際社会に再度しっかりと 公にしておくためには千載一遇のチャンスである。日韓協定締結以来半世紀を経てようやく巡ってくるチャンスである。再交渉において 韓国側に日本の主張の妥当性・正当性を改めてしっかりと展開すれば、中国との交渉に向けた力強い備えや押しにもなるはずである。先ずは、 2028年6月にきっぱりと失効させ、再度の線引き交渉に備えるべきである。特に「共同開発区域」については、一方で再交渉を留保しつつ、 他方で一旦完全に白紙に戻し化し仕切り直すのが至当である。

  日韓協定発効年の1978年以降における同区域での石油・ガス掘削の実績や経過を振り返れば、若干の単発的な試掘・探査のみで 、何の海底石油ガスの実質的な商業的生産にも至らなかったといえる。

  日韓協定の規定に従えば、両国の法的立場はもともと害されないことになっている。即ち、同協定の規定によれば、同区域に 対する日韓の主権的権利を決定するものとは見なされない。また、大陸棚境界画定に関するそれぞれの立場を害するのもでは ないと規定されている。日本は改めてこの原点に立ち返り、九州南西海域における200海里EEZと大陸棚の境界画定に対して改めて真剣に 向き合うべきである。

  現在では「1982年国連海洋法条約」が成立しており、同条約成立以降においても大陸棚画定に関わる国家慣行や国際司法上の判例が幾つも 積み重ねられてきた。それらの慣行や判例を精査しながら、日韓・日中間での境界画定に適用あるいは準用され得るルールを 見極め、法理論を再構築することが重要である。日韓協定締結時点では「1958年大陸棚条約」と「北海大陸棚事件」での国際司法裁判所 (ICJ) 判決が、国際ルールの主要部分を占めていた状況と現在のそれとは大違いである。



[論点3]東シナ海における日中韓の大陸棚を分界するための3つの方式について
日本の中間・等距離線論、中国・韓国の自然延長論・海盆中軸論、日中韓の主張が重複する大陸棚における共同開発(管轄)区域の 設定のいずれに妥協点を見い出せるのか。200海里EEZの分界と大陸棚のそれとの合一性についての扱いはどうあるべきか。さて、 東シナ海での大陸棚画定には大きく分けて三つの分界方式があると考えられる。

第1の方式。日韓・日中間ともに、日本が主張する中間・等距離線をベースにした線引きが正当であるというもの。
  世界の過去の国家慣行からして、基本的にそれをベースに線引きすることが最も妥当かつ正当性があることを説き、またその主張を貫く べきである。ただし、海岸形状、海底地形、地質構造などの自然条件との関連において、「衡平の原則」を担保するとの観点から、 その線に対する合理的な微調整を図ることは排除されない。

  自然条件の一つとしての「沖縄舟状海盆(トラフ)」を考慮すれば、両国間の合意によって、中間・等距離線は若干中国や韓国寄りに、 あるいは逆に日本寄りに微調整されることもありえよう。結局のところ、日本も中国・韓国も、互いに衡平性を担保するとの観点から、 最終的にほぼ中間・等距離線に収めることが期待される。

  なお、尖閣諸島は日本固有の領土であり、当然の帰結としてそれを基点に入れての中間・等距離線ということなる。しかし、 日中間の境界画定では、中国による尖閣諸島に対する領土主権の理不尽な主張が最も厄介であり、その最大の障害となることは 誰もが知るところであり、それへの配慮は避けて通れない。国連の委員会の一つである「エカフェ(ECAFE)」が尖閣諸島北東海域 に世界最大級の海底石油資源の賦存の可能性を謳う報告書を公表した後、暫くして中国はその領土主権の主張を始めた。

第2の方式。中国・韓国の主権的権利が及ぶ大陸棚は自国陸地の自然延長をたどって沖縄海盆まで伸びているという 見解に基づく線引きである。
その論理の帰結として、日本との線引きは、その海盆の中軸部をもって分界するのが妥当かつ正当であると いう主張に繋がる。その場合、中国が主張する海盆中軸線は、その中ほどにおいていきなり日本領土の尖閣諸島の北側へと大きく 回り込んで、中国本土と尖閣諸島との間の中間・等距離線へと繋がって行くことになる(地図参照)。

  ところで、2012年12月に、韓国は国連の「大陸棚限界委員会」に対し、自国の大陸棚は沖縄海盆まで延伸していると 申し立てた。同委員会は、向かい合っている(相対する)二国間に自らを置き、かつ両岸間の距離が400海里未満にある大陸棚 の境界線につき裁定を下すという任務を負う機関ではない。両国間で紛争を引き起こすことに繋がるような対応や立場をとる こともできない。だが、韓国はそれを百も承知で、自国の大陸棚の限界は海盆中軸部まで及ぶことを同委員会、並びに国際社会に 向けてアピールしたのである。日本は口上書で抗議した。

第3の方式。日中、日韓においてそれぞれの主張が重複する大陸棚全体を基本的に「共同開発区域」とするという妥協案 (一つの折衷案)である。即ち、中間・等距離と海盆中軸線との2分界線の間に横たわる大陸棚を「共同開発(管轄)区域」とする 方式である(地図参照)。
その場合のシェアリング方式は、コストの折半と利益の等分化が大原則となろう。日韓共同開発区域協定にその原形を 見ることができる。

  第1~3方式のいずれの場合であっても、大陸棚の上部水域である200海里EEZの境界線と、大陸棚自身の それとを合一化させるのか、あるいはさせないのかというもう一つの問題が惹起される。
・ 第1の方式では、合意の下に、EEZと大陸棚の2つの分界線を合一化させるのが最も妥当と思われる。基本的に中間・等距離線な ので合意も得やすい。
・ 第2の方式では、日本にとっては、EEZと大陸棚の境界線を海盆中軸線に重ね合わせることなどありえない。中間・等距離線以南の日本側 EEZ水域内の海底下に、中国や韓国の主権的権利の及ぶ大陸棚が存在することになる。理論的にはありえても、国益の観点からも 国家慣行上からもありえない理不尽な線引きである。

  第3の方式では、「共同開発区域」の大陸棚もEEZも同じ境界線で分界することになれば、無用の混乱やもめ事を生じさせないことに つながろう。同区域での石油ガス資源について、その開発コストと利益の等分化を基本ルールとする二国間協定を結ぶことになろう。 漁業資源については共通の操業ルールが合意されるのが好ましい。いずれにせよ、同区域内での海底石油開発や上部水域での 漁業活動の重要事項については、両国間で十分な調整が図られ共通規則が適用されることになろう。だが、規則の取り締まり・執行は、 それぞれの当事国が担う旗国主義が適用されよう。相互に監視員の派遣による監視や法執行の前例は殆ど見ない。

  第1~3の方式のいずれの場合であっても、日中韓3ヶ国の合意が必要となる地理上の点がある。即ち、少なくとも一ヶ所の 「三重合点」が生じる。日中韓3ヶ国が同一協定上で認め合わない場合には、それぞれ別個に二国間でその三重合点につき取極める ことになろう。それぞれの二国間協定において、もう一方の当事国による三重合点に関する同意が必要とされることを留保しながら、 事を進めることもできる。究極的には、3ヶ国が合意に至る必要があるが、合意に至らない場合、中間・等距離線ルールが強制・ 義務的に適用されることはないのが現行国際法上のルールである。



[論点4]日中・日韓は大陸棚の分界に妥協点を見い出せるか
いずれも二国間合意に至ることは容易ではない。余りにも分界に関する法的見解の隔たりが大き過ぎるからである。

  第1、2方式での分界に関し、日中・日韓のいずれも合意に漕ぎ着けることは簡単ではない。尖閣諸島の帰属問題を除いたとしても、 余りにも日中の見解の隔たりが大き過ぎる。自然延長論、即ち沖縄海盆中軸論を主張する韓国や中国にとっては、中間・等距離線での線引きは、 日本への極めて大きな譲歩に映るに違いない。翻って、日本からすれば、自然延長論での線引きは、これまた余りにも大きな譲歩と映る。 互いにトレードオフの関係に立たされる。日韓・日中の境界画定には妥協点を模索するにしても収斂しがたい隔たりが横たわると 言わざるをえない。

  第3方式による日韓間の分界は、現行の南部大陸棚協定での「共同開発区域」のそれと基本的に同じになる。日本が一旦破棄した後に 同じような共同区域の設定に合意するに至れば、実質的にそれを焼き直すことになる。日本にとって、再交渉に臨みながらも、 韓国側から何の譲歩も引き出せず、日本の法的論拠と国益に沿った分界線を得られない結果となるので、 日本政府は国会・国民からかなり大きな失望と批判を受けることになろう。

  日中間での線引きでは、中国としては、尖閣諸島を日本の固有領土であることを明示的にあるいは暗黙的に受け入れつつ、 日中中間・等距離線と海盆中軸線との間に横たわる重複の大陸棚を「共同開発区域」として受け入れるであろうか。 中国にとっては、尖閣諸島への領土主権を事実上放棄し(あるいは棚上げし)、なおかつ海盆中軸部までの大陸棚を「共同開発(管轄)区域」と することで日本側に譲歩することを意味しよう。

  さて、日本が選択するのは第1方式でしかありえない。中国や韓国の法理論への迎合的な譲歩は全く不要とすべきである。先ずは 二ヶ国間で外交協議を重ねつつ、線引きの合意を目指す他方途はない。日本はどんな論拠を展開するのか。1970年代における 日中韓のそれぞれの国内情勢や東アジア情勢、さらに世界情勢などは、その50年後の現在とは大きく異なる。韓国はもとより、 中国の政治・経済・軍事・科学技術力なども著しく伸長してきた。だとしても、理不尽な分界線主張には妥協すべきではない。 国家何百年にわたるような禍根を今後に残すようなことはあってはならない。そして、今後も、「力の行使」ではなく、国際法上の ルールの適用と外交交渉をもって平和裏に合意に達すべく、東シナ海におけるEEZと大陸棚の分界画定にしっかりと向き合わねばならない。

  さて、日韓、日中間の画定はどこまでも平行線を辿り、合意に至ることはなかなか展望し難いと見受けられる。日中韓が固執してきた 法理や立場では、政治的譲歩や妥協に漕ぎ着けるには余りにも隔たりが大きい。二者間でそれぞれの法理をもって、他方をねじ伏 せるかのような外交交渉は、いずれの交渉段階でデッドロックに乗り上げることになりかねない。とにかく、中韓から中間・等距離線 への譲歩や歩み寄りを引き出すことは至難のことと十分推察される。



[論点5]核心的利益とみなされる尖閣帰属問題が立ちはだかる日中間での境界画定について
  境界画定は百年論争となる可能性がある。尖閣帰属問題への対処が最優先され、大陸棚の分界画定が先行して論じられ解決されることはない ものと推察される。日中間に領土問題が横たわる限り(日本の立場としては問題が存在している訳ではなく、中国が問題を喚起している)、 画定論争は百年続く覚悟を求められるかもしれない。日中とも核心的利益が絡むので互いに大陸棚の画定においても妥協ができ難い状況に 置かれる。

  厄介なのは先ずもって尖閣諸島の領土帰属をめぐる対峙であり、東シナ海での大陸棚画定ではそれを避けて通れない。 尖閣諸島の帰属問題についても、大陸棚画定と相絡めて同時的に国際司法での判断を求め、その決着をみることができるであろうか。 大陸棚の線引きと併せて、帰属にケリをつけるべくその二事案の付託に合意できればよいが、日本・中国はそれを認めるであろうか。 日本が受け入れても、中国はなさそうである。線引きは、論争の入り口段階でやはりデッドロックに陥ることになりかねない。「100年論争」 ではなく、それ以上の争いになることが危惧される。尖閣問題に究極的な解を互いに見い出しえない限り、線引きの究極的解決 は無理となろう。

  一方で日本は尖閣諸島を大陸棚線引きの一起点とせず、他方で中国は尖閣諸島への領土主権を棚上げして、中間・等距離線と海盆 中軸線との間に横たわる大陸棚(尖閣諸島周辺のそれを含めて)を共同開発区域とすることに納得するであろうか。

  今日まで固有の領土として実効支配し、かつ中国公船による執拗な示威的危険・挑発行動から死守してきた日本にとって、 尖閣諸島への領土主権を放棄することなど絶対的にありえない。中国がその核心的利益として、その主権主張を絶対的に放棄しないことに固執 するのであれば、平和的に大陸棚分界につき協議して究極的な満足解を見い出すことは半永久的に期待できない。

  また、領土主権を巡る対峙をそのままにしつつ、第1、2方式に言う大陸棚の線引きにおいて、それぞれに大きな政治的譲歩を 決断しうるであろうか。大陸棚の線引きのためだけに、領土主権の主張を棚上げしたり、尖閣諸島を線引きの起点の一つとはしない と言った妥協なども、日中双方にとってありうることであろうか。両国が共に最優先したいことは何か。尖閣諸島を巡る対峙 において自らの領土主権を貫くことであろう。領土主権よりも大陸棚の線引きを優先させて事に当たることはありようがない。

  尖閣帰属問題こそが優先して決着を見るべき課題であり、大陸棚画定が先行することはない。故に線引きは百年論争となりうる。 妥協を難しくさせるのは当該帰属問題だけでなく、中国の国家戦略そのものが根深く立ちはだかる。厄介なことに、中国の海洋覇権拡張 戦略やその野望をはじめ、東シナ海・南シナ海での「力の支配」による示威活動や国際法秩序を巡る軽視と密接に絡み合っていると 見受けられる。



拡大画像(中) 拡大画像(大)
[図の左中央の黄色部が「日韓共同開発区域」]

[論点6]「自然延長論」は「中間・等距離論」よりも優先されるべきものなのか。
国際社会における中間・等距離論の国家慣行の普遍化、それによる同論の一層の成熟化、国際慣習法化などが今後期待される。

  自然延長論による分界は、日本にとっては甚だしく不衡平を押しつけられるものとなる。世界を見渡して、そのような不衡平を一方の 当事国に押し付けるような事例は見あたらないといえよう。「北海大陸棚事件」判決は一つの重要事例である。北海をはさんで 英国やノルウェーなどが相対あるいは隣接し、またノルウェー西岸沖合には海盆がある。だが、基本的には中間・等距離をベースに しつつ若干の修正を加えた線引きが裁決された。

大陸棚の分界について
・ 大陸棚が、相対国もなく離岸200海里以遠まで延びる場合、自然延長論には有意性があろう。
・ 東シナ海大陸棚は、南西諸島東部のコンティネンタル・マージまで伸びるものであり、かつ東シナ海の大陸棚は3ヶ国に共通する、 全体として一つの大陸棚であるとみなされるべきものである。しかも、日中・日韓・中韓間の隔たりはいずれも400海里未満である。
・ 画定に当たり自然延長論が中間・等距離線よりも優先的に適用されるべきものでない。そのような事例はないとみる。
・ 相対国間の離岸距離が400海里未満の場合では、先ず海図上に中間・等距離線を実務的に引き、その後衡平性をより一層担保するため に必要な調整を施すのが最も多く見られる実際的な国家慣行である。

  自然延長論は、沿岸国陸地の自然の延長が、向かい合う相対国がなく離岸200海里以遠にまで延伸している場合、それを越えて主権の及ぶ 海底と「国際海底区域」との境界について論じクレームする上では有意性があり、有効である。だがしかし、 相対国が400海里未満の離岸距離で向かい合う場合、自然延長論が他の法理よりも優先して適用されるものではない。更に、 「衡平の原則」が何一つ顧みられることなく、中間・等距離線をはるかに越えて大陸棚を自国の主権的権利下に置くために適用される べきものではない。

  また、自然延長論は、相対国間の線引きにおいて衡平な分界を具現化する上で中間・等距離線論よりも 優先して適用されるべき基本原則でも法理でもない。自然延長論をもって不衡平をもたらす結果こそ、「衡平の原則」に反する ものである。また、陸地の自然延長には、その沿岸国の「近接性」が求められるものであり、同延長論をもって沖縄海盆中軸部 までとすることは、大陸棚の近接性の原則からも大幅に逸脱するものである。中間線から中軸部までの大陸棚は中国や韓国の陸地 から全く近接していない。

  中国や韓国が主張する自然延長論をもって大陸棚を沖縄海盆中軸部まで延伸するというのは妥当ではない。 自然延長論を主張するのであれば、アジア・ユーラシア大陸からの中国陸地の自然延長の限界は、沖縄舟状海盆までではない。 南西諸島を越えて、その南側に横たわる「南西諸島(琉球)海溝」への沈み込み部手前のコンチネンタル・マージン(大陸縁辺部) までと考えるべきあろう。

  沖縄海盆中軸部まで伸びると主張する中韓両国の自然延長論に関し、日中や日韓の両岸間の距離が400海里 未満で向かい合う同一かつ共通する大陸棚に適用される場合、いずれの境界線がより衡平性を実現しうることになるかという点に十分 配慮されるべきである。沖縄舟状海盆は、太平洋側プレート(フィリピンプレート)がアジア側 プレート(ユーラシアプレート)へ沈み込むことによって、東シナ海の大陸棚上に形成された窪み(背弧海盆)であると 地質構造上みなしうる。東シナ海の海底に多少の窪みが存在しても、日中韓3ヶ国は同一の共通する大陸棚に面していることは明白であり、 それが正当に考慮されるべきである。そして、中間・等距離線をベースにしながら、「衡平の原則」を具現化するためにいかなる調整が 施されるべきかが希求されるべきである。

  また、1970年年代当時とは異なり、現在では「1982年国連海洋法条約」が締結され、それが世界共通の統一的ルール を規定している。もっとも、同条約に規定される境界画定に関する成文規定は、相対国あるいは隣接国間での大陸棚分界につき、 中間・等距離線を強制・義務的に適用すべきであるとは定めていないことは事実である。即ち、現行条約では、 合意がない場合、他の線引きが正当化されない限り中間・等距離線によって合意したものとみなすというような強制・義務的な 規定とはなっていない。これはかつての「1958年大陸棚条約」の場合と基本的に同じ規定が同条約でも踏襲されている。

     国際社会では、過去30年にわたり現在まで、現行の「1982年国連海洋法条約」の下で、大陸棚の線引きに関する国家慣行が累積され、 また国際司法裁判所(ICJ)などでの国際判例が積み重ねられてきた。そして、画定に関する国際慣習法的ルールが 漸次形成途上にある。そこでは、日本の中間・等距離線論を補強しうる有用なルールが形成されつつあるとみる。 予見しうる将来において日本は、中国・韓国に理不尽な譲歩をなす必要はないし、またすべきではない。また、中韓両国との線引きを 性急に希求する必要もない。

  相対する沿岸国間での線引きでは、その実務的観点から、先ず中間・等距離線が当事国間で海図上に線引きされ、それをベース にしながら、自然条件などを考慮に入れ、もって「衡平の原則」を具現化することを目指して、同線からの多少の「逸脱」や 「修正」を容認しつつ、必要な調整をなすことに努め最終合意を得るとの慣行が多く見受けられる。もっとも、いかなる自然条件 をどう考慮に入れ、どう調整を図ることが「衡平の原則」を具現化することになるのか、その点に関しての国家慣行や慣習法上の 明解な統一的ルールは今もって見られないといえよう。

  日本にとって有意性がありる中間・等距離線の採用が国家慣行としてさらに多く積み上げられ、国際慣習法的ルールの形成が さらに漸進し、国際社会で受認され、明示的な国際慣習法への形成に向けてその熟度を増すものと期待したい。日中・日韓の二国間 同士で合意できる見込みが殆ど閉ざされるに至れば、日本としては、中国、韓国と国際司法の場で陳述し合い、その時の国際慣習法と 成文国際法に基づく中立・公正な司法判断を仰ぎ、もって究極的な平和的解決への道が拓かれることを期待したい。中韓両国が それに応じなければ、さらなる「不毛の100年論争」を覚悟せねばならないかもしれない。いずれにせよ、国際司法の場での解決の道を 選択するよう両国に訴え続けることが、日本にとっては一つの重要な戦略的選択であるに違いない。



[論点7]究極的な解決に向けた日本の戦略と展望について
国際社会での国家慣行や国際司法の判例を踏まえつつ法理論を構築し、かつそれを強固な「盾」に仕立てて行くことが肝要である。 基本は外交にあり、先ずはその交渉をもって合意に至るべきである。法理論の隔たりが大きく合意が困難となれば、領土帰属問題を含めて、 国際司法に付託することも、国家100年の戦略的基本方針の一とすべきである。他方で、世界での境界画定の国家慣行を研究し尽くし、 法的論争の「盾」の構築強化に努めることを提言したい。

  日本はICJや海洋法裁判所への付託を主張し続けることも基本原則とする。時を経るごとに国家慣行・判例は日本の有利有意に積み 上げられ、それも中間・等距離線の実務的線引きとその微調整が基本となって行くであろう。しっかりと理論武装を続けるべきである。 また、領土帰属問題のみならず中国の海洋覇権の拡張戦略が、大陸棚境界線の線引きのハードルをさらに上げることになりそうである。

  日中・日韓の二国間同士で合意できる見込みが殆どほとんどなければ、その次善の策は二者間で直接交渉や論争をするのではなく、 ICJの法廷などで双方が喧々諤々の見解をもって論争することである。国際司法的解決の手続きに訴えることが、究極的にベストな 戦略的選択であると思われる。公正・中立的で妥当な判断が下され、不毛な論争に終止符が打たれ、平和的解決と地域の平和や安定に つながろう。

  繰り返しになるが、日韓・日中の二国間交渉に備えるという本来の意味もあるが、国際司法の場での論争にも備える必要がある。 今後も積み上って行くはずの国家慣行、また国際司法の判例を分析・研究し続け、日本の法理論的武装を絶えず強固にしておくことが 肝要である。それこそが日本が行使できる最重要な平和的手段であり、かつ国益確保のための最強の「盾」となろう。中国・韓国は ICJなどに付託することに恐らく同意しないであろう。中韓が国際司法での解決への道を避け、自然延長論と海盆中軸線論に固執すること の理不尽さ、不合理性を世界に問い続けることにも重要な戦略的意味があろう。他方で、中韓が国際司法の場での平和的で公正な 解決への道を歩むよう、国際世論の支持や後押しを得ることも重要かつ強力な「盾」となるに違いない。

  かくして、日本が長期の国家基本戦略あるいは行動指針として実践し続けるべき幾つかの事項がある。
その一、尖閣諸島への他国人による上陸を断固阻止・排除すること。占拠されぬようスキを与えず死守すること。
その二、中韓・等距離線以南における東シナ海大陸棚での中国・韓国による海底資源などの一方的な探査・開発活動を座視しないこと。 適切かつ厳格に外交的抗議をなし続け、それを阻止・中止させること。
その三、大陸棚境界画定などの問題につき、国際司法の場での解決の用意があることを中韓および国際社会に絶えず訴え続けること。
その四、繰り返しになるが、外交パワーの強化は言うに及ばず、国際司法の場での論争のための法理論の構築を怠らず、法的及び 外交的「盾」の強化に努めること。



[論点8]大陸棚の境界画定問題は、尖閣帰属問題だけでなく中国の海洋覇権への戦略と野望が絡み合っている
  事は大陸棚の境界画定は尖閣諸島の帰属を巡る対峙と絡み合うだけではない。中国による海洋軍事強国への野望、さらには 東シナ海、南シナ海、そして西太平洋での海洋権益や覇権を追求する戦略が深く絡み合っている。中国にとって、東シナ海や西太平洋 での海洋覇権や「力の支配」を希求する上で、尖閣諸島を自国主権下に置き留めるというのはまさに核心的利益に違いない。 そうであれば、機を見て尖閣諸島を実効支配下に置くためにいつしか実力行使に及ぶかもしれない。その可能性が全くないとは 言い切れない。

  中国が満足できる尖閣を巡る決着とは、領土主権を自らの物にすることである。故に、日本がその固有の領土として実効支配 する現状下では、中国は大陸棚の線引きなどの協議に応じるつもりは毛頭ないと思われる。それ故に、論争は100年というより 無期限的に続くリスクもある。また、米中間の世界覇権を巡る対峙、レジーム・チェンジを巡るそれは始まったばかりである。 21世紀におけるパックスアメリカーナとパックスチャイナを巡るパワーゲームでもある。米中の世紀にわたる世界覇権と支配を争う限り、 東シナ海も南シナ海での力の対立も、大陸棚の画定問題も、尖閣帰属問題も、大きくは米中のグローバルなパワーゲームの中で 捉えられることになり、尖閣も大陸棚分界も日中当事者間のみで究極的な解決を見るのは難しいかも知れない。だから、「100年の戦い」 となることを覚悟せねばならないかも知れない。

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