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北極海を巡って(総覧: 視座、ガバナンス、課題など)

2014年 (平成26年) 1月4日付け産経新聞に、北極海周辺諸国による北極海を巡る政策、活動動向、課題などを包括的 に論じた特集記事が掲載された。画像は記事に添えられた北極海と沿岸諸国の概略図である。
図には「北極海航路」と称される「北東航路」、「北西航路」、および「中央航路」が記されている。また、 北極海に直接的に面する米国、カナダ、デンマーク(グリーンランド)、ノルウェー、ロシアの5ヶ国の200海里排他的経済 水域(EEZ: exclusive economic zone)や大陸棚の国家管轄権の範囲を図示している。[拡大画像: x25831.jpg][拡大画像: x25830.jpg]





地球温暖化の影響で、北極海の海氷が融解し、その面積は縮減し続けている。 昨今では、5ヶ国のみならず、日本、中国、韓国、その他アイスランドなどが、北極海域での活動や国益追求に強い関心を払い、積極的に 関与を強めようとしている。北極海の統治(ガバナンス)に関わる課題・テーマや視座について概観する。

    1. 北極海における国家管轄権の範囲、その境界画定、大陸棚の延伸など
    北極海沿岸諸国は、経済水域や大陸棚の国家管轄権の範囲について、国際海洋法 (国連海洋法条約などの成文法・国際慣習法・ 国際司法裁判所などの判例) などに基づき、平和裏に衡平な境界画定を決することができるか。 5ヶ国間での境界画定における深刻な外交問題は現在までのところ見当たらないように見える。 領海基線からの等距離線および中間線をベースに、何がしかの微調整を図りつつ合理的で互いに衡平・公正な線引きをすることに それほど困難はなさそうに思われる。

    因みに、ロシアなどは、200海里(約370km)の国家管轄権以遠にある海底・その地下を自国の大陸棚としてその延伸を求めて、国連の 「大陸棚委員会」に申請してきた。追加的な科学的資料の提出などを準備中であると、かつて報じられていたところである。

    同条約上沿岸諸国に認められる経済水域は、原則として離岸200海里までである。それ以遠の海域は公海と位置づけられる。 しかし、公海と位置づけられても、200海里以遠の海底とその地下 (大陸棚のこと)については別の制度に服する。即ち以遠の大陸棚 の延伸部分につき、一定の条件と限界の下に、国連の同委員会によって承認の勧告がなされた場合、それが最終画定となる。 翻れば、当該延伸部以遠の海底とその地下は「国際海底区域」と定義され、国連の「国際海底機構(ISA)」による資源管轄権に 服することになる。ISAが管轄するこの国際区域に賦存する鉱物・エネルギーの非生物資源は人類の共有財産と位置 づけられる。そして、ISAの管理の下、国際公益・共益の視点から、適正な利用・管理および収益配分に供されることになる。

    2. 地球温暖化と海氷融解について
    地球温暖化にともなう北極海の海氷面積が縮減し続けているが、海氷の融解がさらに進行すれば、東アジアと欧州を結ぶ 北極海航路 (北東航路や北西航路: 図参照)の利用が、将来飛躍的に拡大する可能性がある。 北極海の自然環境保全、船舶の設備・構造や通航などに関する合理的な国際的規制の制定と執行が求められよう。 ロシア、カナダなどの沿岸諸国は、通航する船舶の安全確保に資する特別サービスの提供(砕氷船による航路・シーレーン整備や誘導など)の観点から、 通航や環境保全に関する国内規制やその執行(enforcement)を強化するかもしれない。沿岸諸国と非沿岸諸国(特に海運諸国・通航 利用国)との間の通航制度や環境保全などを巡る利害調整が今後大きな課題となろう。

    国際海事機関(IMO)が通航に関する合理的な法規制(legal regime)と運用に大きな役割と指導力を担うことが期待される。 今後北極海航路の通航量の推移や、沿岸国による航行船舶への特別サービスの提供、海難救助などへの対価支払い、あるいは、 国内通航規則の一方的な強制的執行などの行方に注目が集まることになろう。

    3. 北極海における資源探査・開発
    北極海には膨大な量の海底石油・ガス資源が眠ると推定され、既にその旨が報じられている。 沿岸諸国の経済水域内での資源探査・開発などの活動は、各国の排他的管轄権下にある事項であるが、資源開発にともなう環境への負荷を どのように抑制し、環境汚染を防止するか。沿岸諸国による適正な国内規則の制定、事故防止策の実施、およびその執行(環境汚染に 対する厳しい罰則と執行)などが求められる。他方で、北極海全域で共通して適用されるべき特別の国際的な環境保全規則の制定と適用、 協力体制の構築などについても関係諸国で協議されることになろう。

    4. 北極海での水産資源の調査や商業的漁業開発
    海氷の融解の拡大につれ、北極海では漁業資源の調査や商業的漁業が盛んに行われる可能性がある。また、公海における 水産資源の探査開発も将来主要テーマになるかもしれない。海洋生物資源の持続可能な合理的で適切な利用・管理を図るためには 継続的な科学的調査が不可欠であり、そのための地域的国際協力の枠組みの構築が求められるかもしれない。


2014年 (平成26年) 1月4日付け産経新聞の北極海特集記事 [拡大画像: x25883.jpg]


北極海でのガバナンスの国際的枠組みはどうあるべきか、という視座
北極海沿岸諸国その他関係利害国は、1982年国連海洋法条約を基礎にしながらも、自らの国益の最大化を目指してそれを追求する一方で、 さまざまな対立を顕在化させていくかもしれない。北極海でのガバナンスの国際的枠組みはどうあるべきか、 北極海における国際社会の公益、国際益の観点から、どう管理利用されるべきか、その目指すべきレジームはどうあるべきか。 それらを北極海を巡る諸課題を注視する視座としたい。

北極海沿岸諸国間で、彼らのもつ地理的偶然という「定規」でもって北極海の相当部分を分割しようとしている。それは世界の他の 海洋の場合と全く同じである。国連海洋法条約が規定するように、北極海周辺EEZ以遠の公海における生物資源、さらに北極海中央部に ドーナツの空洞のように残された海底・その下の「国際海底区域」における非生物資源を、「国際共有財産」として、人類のモデル的 利用・管理レジームの下に置いてガバナンスできるか注目していきたい。

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