一枚の特選フォト⌈海 & 船⌋
深海底鉱物資源「コバルトリッチ・クラスト」
- 国際海底機構(ISA) 、西太平洋・南鳥島南東600km沖の
公海下の鉱区での日本の探査権を承認(2013年) -
画像:コバルトリッチ・クラストのサンプル(出典: 富山県射水市海王町・
の日本海交流センター内の展示場2012.7)
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日本は、公海下にある深海底鉱物資源(コバルトリッチ・クラスト=上画像)の探査鉱区の取得を目指して、国連の国際海底
機構 (International Seabed Authority=ISA) に申請していたが、今般2013年7月合計3000平方㎞におよぶ6つの鉱区を取得できる
運びとなった。かくして、日本は公海でのコバルトリッチ・クラスト探査史の序章第一ページを開くことになり、その先駆的な挑戦は
人類の探査史に刻まれることであろう。
世界のいずれの国家管轄権も及ばない⌈公海⌋とは、原則論的に鑑みれば、沿岸国のもつ200海里 (約370km) 排他的経済水域 (EEZ) より以遠にある海域である。公海の下にある深海底は1982年国連海洋法条約によっていわば⌈ 国際海底区域⌋と位置づけられる。 国際海底区域の海底及び地下に賦存する個体・液体・気体状のいずれの資源も⌈人類の共同財産⌋とされる。 それら資源の探査・開発には、その一元的管理を担う機関である「国際海底機構」(国連の機関; International Seabed Authority=ISA)の承認が必要となる。 日本は、事業主体の「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)を通じて、西部 太平洋・南鳥島(画像2・3)の南東600kmほどの公海上にある、3000km2におよぶ6つの鉱区(画像4)での探査権(15年間)を、 2012年にISAに申請していた。 今般2013年7月それが認められる運びとなった。探査対象鉱物はコバルトリッチ・クラストである。 クラストの富鉱海域としては、中~西部太平洋の水深800m~2400mの海山頂部やその付近の斜面である。玄武岩等から成る 基盤岩表面に沈殿し、数㎝~数10㎝の厚さでアスファルト状又は皮殻状に被覆する形で賦存する。 クラストの主成分はマンガン、鉄であり、希少金属のニッケル、コバルト、白金、チタンの他にレアアース (希土類) 元素 をも含有する(コバルトの含有率が相対的に高い)。探査権を取得した公海上の鉱区内には多くの有望な海山があることが知られる。 また、同鉱区の水深5000mほどの深海底にはレアアース泥 (希土類泥) も賦存すると見込まれるという。 日本はISAと探査権に関する正式契約を今年度内に結ぶ予定である。日本はハワイ南東の公海下の国際海底区域にマンガン団塊を 対象とする探査鉱区をもつ。2001年からISAと契約(15年間)を結び、2001年から探査中である。今回はそれに次ぐ鉱区取得であるが、 探査対象はコバルトリッチ・クラストであり、その本格的な調査・試掘活動が公海下で始動する。日本のもう一つのパイオニア的挑戦の 始まりであり、世界探査史上における序章第一ページを開くものである。 今後乗り越えねばならない技術・環境上の事項・課題が多く横たわる。資源賦存量・状況の詳細調査の実施、経済的開発可能性 の見極め、効率的で採算の取れる採鉱技術の開発とその実証、精錬技術の開発、環境影響評価の実施、環境保全 (汚濁極小化など) 手法の 確立とISAの認知などである。何十年後に商業化が実現しうるのか、見通しは立ち難いが、資源小国の日本にとって果敢に チャレンジし未来を切り拓くことの意義は大きい。
⌈海は利用する者にのみ恩恵をもたらす⌋(海洋立国・日本に当てはまる)という古くからの経験則は今もって不変である。
だが、開発により受益するのは日本だけではない。マンガン団塊採鉱と同じく、クラスト採鉱は国際社会に経済的な恩恵を
もたらす可能性を秘めている。
公海下の「人類共同財産」の開発による収益は、ISAの適当な制度を通じて国際社会に還元され、衡平な配分に服することになっている。
開発収益の還元・配分のルールおよびモデルの実際的創出への道のりはまだまだ遠い。だとしても、⌈史上初の
収益還元・配分の実例第一号は、日本によるこの公海鉱区でのクラスト探査が起点となった⌋、と後世の人々をして
語らしめるかもしれない。
世界の人々も探査の先にあるものに大きな期待を寄せるに違いない。 [2013.9.4 First Editing]
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