海洋総合辞典Japanese-English-Spanish-French Comprehensive Ocean Dictionary, オーシャン・アフェアーズ・ ジャパンOcean Affairs Japan, 海洋インバースダム発電について

Page Top




海洋インバースダム発電について

1 拡大画像  2 拡大画像


はじめに: 21世紀初頭の現在、日本の総発電量に占める「再生可能自然エネルギー発電量」 (太陽光・風力・海洋・バイオ・ 地熱など) の比率は、火力(石油、石炭、天然ガス・LNGなど)、水力、原子力(*)の発電量と比べて、比較にならないほど圧倒的に 少ない状況にある。化石燃料のほとんどを海外に依存する日本にとって、その比率向上は、今後も長期に取り組まねばならない、 国家発展のための最重要課題となり続ける。他方、波浪・潮汐・海流・温度差・洋上風力などの海がもつ、或いは海を場とする再生可能自然エネルギーを電気に変換して 利用する数多くのアイデアが創案され、実用化に向けた試みがさなれてきた。今後さらに新しいアイデアが生み出される一方、研究開発 と実用化のさらなる進展が期待される。
* 2011年3月に起こった「東日本大震災」の影響で、2014年2月現在全ての原子力発電所では発電停止中である。




  画像は平成25年 (2013年) 11月10日付けの読売新聞に掲載された「海洋インバースダム発電」と名付けられる海洋 発電に関する記事と模式図である。 記事は、「海でダム発電 野心的構想 京大や建設会社などで進む」と題される。昼間は重力落下式で発電し、夜間はポンプ排水式で 実質的に蓄水(蓄電)するという海洋ダムといえよう。極めてユニークな創案ゆえ、敢えてここで取り上げたい。

  「海洋インバースダム発電」は世界の幾つかの諸国で見られる既存の潮汐・潮流利用発電とは異なる。例えば、周辺地形が 漏斗状で干満差が大きい河口域において沖合両岸に渡すダム (堰・バラージなど) を建設し、もって巨大な人工貯水湖 を造り、 上げ潮時にはダム内に海水を流入させ堰き止め、下げ潮時にはダム内から外海へ海水を重力落下させて発電するという 「潮汐発電」とは異なる。また、潮の満ち干による海水の平行移動によって引き起こされる自然の潮流そのものを利用して 発電する「潮流発電」とも異なる。

  海洋インバースダム発電の場合、特定の海域をダムで囲い込んで巨大な人工貯水湖を造るのは前者の潮汐発電の場合 と同じであるが、利用されるエネルギーは潮汐の干満差のそれではなく、また干満による自然の流れのそれでもなく、「海水の位置 エネルギー」の利用を基本とする。電力消費量の多い昼間に外海の水を枡形の巨大人工プールに重力自然落下させ発電する。 消費量の少ない夜間には他の余剰電力を利用して、ポンプで人工プール内の海水を外海に排出させ、その水位を低下させておく。 プール内の水位の低下によって逆蓄水・蓄電効果が得られ、海水の位置エネルギーや発電ポテンシャルが高められることになる。 「目からうろこが飛び出そうな」ユニークな方式での発電である。 また、揚水発電とは逆の発電コンセプトであることにもユニークさがある。

  部分的に繰り返しにはなるが、発電システムの概略は以下の通りである。
水深200mの沖合海域に (注1)、縦横の長さが2,000m、海底からの高さが200mの長大な仕切り(ダム・堰堤など)を築造し、 四方の海水から遮断された巨大な人工海水貯水湖(プール)を建設する。電気がより多く必要とされる昼間に、堰堤の上方部に設けられた 取水口を開いて外海の海水を放水路へ流し込み湖内へ自然重力落下させる。放水路内を流れる水流をもって、水路内設置のタービン ・発電機 (発電用モーター) を回転させ発電するというものである。海水のもつ位置エネルギーを活用する。

  電力消費のより少ない夜間では、他の余剰電力をもって、堰堤の下方部に設けた排水用ポンプにて貯水湖内の海水を外海へ排出し、 湖内の水位を低下させる。揚水発電とは全く逆のシステムである(注2)。 そのことから、記事によれば「インバース式(inverse type)」と呼ばれている。 英語の「inverse」とは、「逆の、反対の、倒置の、転倒の」という意味である。 排水によって、貯水湖内に海水を流し込める空間を増大させることになる。排出された容積分だけ「海水の位置エネルギーの形で 電気をストック(蓄電)できる」ことになる。

  海洋における再生可能エネルギー利用の場合には、波浪の大きさ、潮の干満差、潮流や海流の速さ、温度差など、 経済的採算性や実現可能性に決定的な影響を及ぼす自然的ファクターが立ちはだかる。だが、海洋インバースダム発電において は、このような自然的ファクターはないように見受けられ、持続的発展の可能性が期待される。だが、建設費が極力低く抑えられ適地を見い出しうるか。最適地であっても 実際の建設費はいかなるものか。他の海洋利用との社会経済的利害調整が可能か、環境影響に関する評価としていかなる結果 が導き出されるか。実現可能性を探るためのスタディが待たれるところである。

  とはいえ、無限的な海水を利用しての大容量の「海中ダム」を、季節的気象条件に影響されず、全天候を通じて、通年に渡り安定的に稼働 させることができるということになれば、さらに潜在的開発可能性(注3)への期待は高まろう。海洋インバースダム発電は 今後いろいろな視点・視座をもって、その潜在的可能性が注目されるに違いない。

    (注1) 一般的に、海底傾斜は大陸棚の外縁辺りで急に増していくが、その外縁の平均的水深が約200mである。 従って、水深200mの海域というのは、沿岸のすぐ地先というよりも、かなり沖合の海域が想定されているといえよう。
    (注2) 揚水発電の場合、昼間、沿岸陸地の高み (高台) に設けられた人工貯水池の水を重力自然落下させ発電し、夜間には 余剰電力でもって貯水池よりも低位置にある自然海の水を貯水池に汲み上げて (揚水して)、その容積分だけ海水の位置エネルギー の形でストック(蓄電)するというものである。
    (注3) 記事には発電ポテンシャル算定の一例が示される。2平方kmの標準堰堤・ダムでの最大備蓄量は2.2億kWhであり、 これは66万世帯に1ヶ月間電気を供給できる量に相当するものと見込まれている。建設費としては約2兆円との試算である。



* 海洋インバースダム発電のいろいろな視点・視座/キーワード
  海洋エネルギー発電としての優位性・有利性などの長所・短所および経済的採算性 (建設コスト試算および発電効率性含む)や実現可能性の見極め、発電システムの要素および全体の技術開発、実証試験への ロードマップ、立地条件調査、環境影響評価・対策、海域の利害調整ルール、国家基本計画・政策・戦略での位置づけ、 国家の果たすべき役割、その他克服されるべき課題など。

* キーワード「海洋インバース発電」でネット検索を行なうと、関係組織・会社の関連記事が見られる。
[拡大画像: x25824.jpg][拡大画像: x25823.jpg][拡大画像: x25825.jpg]



* 辞典内関連サイト

英国の海洋エネルギーに関するパネル展示「英国の 海からのパワーとエネルギー」

1. ラ・ランス潮汐発電所(フランス)

4. バラージ築造 (築堰) 式潮汐発電について

5. 人工ラグーン (人工潟) 造成式とフェンス築造式に よる潮汐発電ついて

このページのトップに戻る /Back to the Pagetop