海洋総合辞典Japanese-English-Spanish-French Comprehensive Ocean Dictionary, オーシャン・アフェアーズ・ ジャパンOcean Affairs Japan, 日本と海洋法制、日本周辺海域における大陸棚の限界と延伸/模式図(堆積岩厚、距離限界など)

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日本と海洋法制: 日本周辺海域における大陸棚の限界と延伸

(1)国際海洋法上の大陸棚の限界と延伸条件に関する模式図(堆積岩厚、距離限界など)

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「船の科学館」(東京)で「わが国の海の現状」と題する特別パネル展示がなされた(2011年/平成23年)。 その主な内容は国際海洋法制、日本の海の管轄権がおよぶ海域の地理的範囲、近隣国との海の境界線などであった。 画像1・2は、1994年発効の国連海洋法条約上の大陸棚の地理的範囲の限界や延伸条件などを示す模式図である。


1. 国連海洋法条約上、沿岸国に認められる排他的経済水域 (200-mile exclusive economic zone; 200-mile EEZ) の地理的範囲は、 領海基線から沖合へ200海里(約370km)までである (ただし領海部分を除く)。そして、 EEZに対する沿岸国の排他的権利や管轄権は、EEZのうちの上部水域、海中、並びにその海底およびその下に及ぶ。 なお、当該海底およびその下は、法律的な意味での「大陸棚」と呼ばれる。

2. 因みに、同条約第76条によれば、沿岸国は領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部の外縁 (the outer edge of the continental margin) まで延びている海底およびその下に対して排他的権利を有する。 その外縁が領海基線から200海里未満である場合には、その基線から200海里までの海域(領海の除く)の海底およびその下まで 認められる。

3. 端的に言えば、法上の大陸棚の地理的範囲は、基本的に、200海里排他的経済水域のそれと同じである。だがしかし、 上記の大陸縁辺部の外縁が200海里を超えて延びている場合には、海底の地形・地質などに関する一定条件と、領海基線からの 距離的限界の下で、大陸棚の延伸が認められる。

4. 大陸縁辺部は沿岸国の陸塊の海面下の延長部分から成るものとし、棚、大陸斜面、およびコンチネンタル・ライズの海底およびその 下で構成される。そして、大陸棚は以下にいう限界をこえてはならない。 その具体的条件と距離的限界とは次のとおり(画像1・2参照)。

    (1) 堆積岩の厚さが、大陸斜面脚部 (the foot of the continental slope)(=傾斜の最大変化点) からの距離の少なくとも1% である最も沖合側にある地点まで延伸することができる(なお、それらの地点間を結ぶ直線は60海里を超えないものとする)、 若しくは大陸斜面脚部から60海里 (約111km) の地点まで延伸することができる。
    [参考] 「 Z (堆積岩の厚さ) ÷ Y (大陸斜面脚部からの距離) × 100 > または = 1%」となる地点を結ぶ線。ただし、 それぞれの直線は60海里を超えないこと。

    (2) 但し、その延伸は、領海基線から最大350海里 (約648km) まで、または2,500mの等深線から100海里 (約185km) の距離のいずれか 遠い方までとする。

6. 沿岸国が大陸棚の範囲につき200海里を超えて延伸するためには、国連の「大陸棚の限界に関する委員会」(the Commission on the Limits of the Continental Shelf; CLCS) に、その堆積岩の地質学的データなどの情報を提出し、「科学的・技術的 ガイドライン」に従って審査を受け、その勧告を得る必要がある。沿岸国がその勧告に基づき設定した大陸棚の限界は 最終的なものとし、かつ拘束力をもつ。

7. いずれの国の排他的経済水域、領海、内水、群島水域にも含まれないかのすべての部分は「公海」と位置づけられる。 他方、いずれの国の管轄権がおよばない海底およびその下は、「深海底」(the Area) と位置づけられる。 深海底とその資源は人類の共同遺産である。資源とは深海底とその下にある自然の状態のすべての固体、液体、気体上の 鉱物資源をいう。 深海底の資源に関するすべての権利は人類全体に付与され、国際海底機構 (the International Sea-Bed Authority; ISA) が その資源の探査および開発に関する管轄権を行使する。


[画像 1: 訪問・画像撮影 2011.2.27, 2100.4.28, 2011.8.31 「船の科学館」にて/「わが国の海の現状」と題する特別パネルより] [拡大画像: x23686.jpg]
[画像 2: 出典 "Japan's Ocean Affairs - Ocean Regime, Policy and Development -, 6th edition updated and revised on September 15, 1989, written by Kiyofumi Nakauchi, in cooperation with the Law of the Sea Institute, Japan] [拡大画像: x27484.jpg]









(2)日本周辺海域おける大陸棚の200海里以遠への延伸について (出典:下記新聞記事)

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画像 1 は、2014年 (平成26年) 10月5日付けの日本経済新聞記事である。見出しは、「海洋立国 大陸棚をのばせ、太平洋の2海域  日本の権利確定」。日本周辺の排他的経済水域の海底およびその下(大陸棚のこと)の200海里以遠への延伸について報じている。
画像 2 は、2012年 (平成24年) 4月28日付けの読売新聞に掲載された、「大陸棚31万平方キロ拡大」と題する記事 [拡大画像: x27485.jpg]に添えられた大陸棚延伸図である。

1994年発効の国連海洋法条約に基づけば、沿岸国は一定の条件と限界の下に、大陸棚を200海里以遠へ延伸することが認められる (200海里は約370km)。その国際海洋法制の概要および模式図については、既にこちらのページで紹介した。 日本が国連大陸棚限界委員会に申請し認められた延伸について、それらの記事等を参考に概略を紹介する。




1. 日本は、2008年 (平成20年) 11月に、大陸棚の200海里以遠への延伸に関し、日本周辺の太平洋7海域の海底およびその下 が、わが国の大陸棚に含まれることを勧告するよう、海底地形や地質情報をもって大陸棚限界委員会に申請していた。 申請した総海底面積は約74万平方㎞におよぶものであった(日本の国土面積は約38万平方㎞)。

2. その結果、2012年4月になって、画像2のとおり、同委員会は4海域、総面積31万平方㎞の延伸について勧告した。 海洋法条約上、日本がその勧告に基づき設定する大陸棚の限界は最終的なものとなり、かつ拘束力をもつ(委員会の勧告は 事実上の認定を意味する)。因みに、勧告によるお墨付きを得た総海底面積は日本の国土面積の約80%に相当する。

3. 延伸が勧告されたのは以下の4海域である。

    (1) 本州(西日本)、沖大東島、沖ノ鳥島、小笠原諸島などの200海里経済水域によって囲まれた海域には、 ドーナツの真ん中の空洞のように、公海部分が残されていた。この海域は「四国海盆海域」と称される。 勧告されたのは、延伸を申請した海域のすべてであり、その海底面積は17.4万平方km。

    (2) 勧告されたのは沖大東島南西の「沖大東海嶺南方海域」のうちの一部分。その海底面積は0.3万平方km。 当初延伸を申請した海底はほぼ半円形をしていたが、認められたのは小細い三ケ月形に縮小された。
    (1)+(2)=17.7万平方㎞。2014年10月1日に、当該延伸関係法令が施行された。

    (3) 勧告されたのは「小笠原海台海域」のうちの大部分。その海底面積は12.1万平方km。

    (4) 勧告されたのは「南硫黄島海域」のうちの一部分。その海底面積は1.0万平方km。延伸を申請した海底よりもかなり縮小された。
    (3)+(4)=13.1万平方kmについては、その境界画定に関し米国との調整がなされる必要がある。

4. 2008年に申請済みであった、沖ノ鳥島南方の「九州パラオ海嶺南部海域」の海底面積25.2平方㎞については、勧告は先送りとなった。

5. 下記2海域については、大陸棚の延伸を認めないとの勧告がなされた。
(1) 小笠原海台海域北方の「茂木海山海域」での延伸。
(2) 「南鳥島海域」での延伸。南鳥島西方において、同島の200海里水域外の海底へ延伸する部分。


6. 最大の関心は沖ノ鳥島周辺海域での延伸である。
沖ノ鳥島自体が、条約上、経済水域や大陸棚を設定できる「島」ではなく、それを設定できない「岩」であると定義される場合、 「四国海盆海域」や「九州パラオ海嶺南部海域」で大陸棚を延伸する根拠がなくなる。

中国と韓国は、同委員会に対し、沖ノ鳥島は「島」ではなく「岩」であるので、経済水域・大陸棚の設定は認められない、 との異議申し立てを行なった。台湾も同様の主張を表明している(台湾漁船が同島周辺水域を公海と見なし操業すること もあった)。また、将来、国際司法の場に訴える可能性もある。

翻って、大陸棚委員会が同島周辺での大陸棚延伸を認めるか否かが大きな注目点となっていた。 今回、沖ノ鳥島の南側の「九州パラオ海嶺南部海域」について見送りされているが、同島北側の「四国海盆海域」での北方への延伸が 認められたことから、沖ノ鳥島が「岩」でなく「島」であると見なされている証左と受け取られている。日本にとっては、その意義は 極めて大きいものがある。[To be continued]

このページのトップに戻る /Back to the Pagetop [2017.02.26 記]