1. 太平洋と大西洋 (カリブ海) とをつなぐ中米ニカラグア運河ルートに関し、従前から6つのルート案が推奨されてきた。
そして、それらのいずれのルート案についても、リーバス地峡区間においては、一つの共通したルートが推奨されている (参照: 図C)。
また、いずれの6ルート案であっても、共通してニカラグア湖を横切る湖上ルートを含んでいる (図C)。
2. 大縮尺地図 (5万分の1図など) の上で同地峡ルートを検討し、かつ現地を踏査すれば、誰しもがそれしかないと思い描く
2,3のルート案にたどりつく。テーマは、その2、3のルート案のより具体的な道筋である。また、その開削方式、閘門システムの在り方と
地理的位置、人工湖の造作の在り方などがテーマとなる。
それらを模索するために、2007~2009年に5、6回リーバス地峡を踏査した。その結果、おぼろげながら幾つかの着想点が見えてきた。
5万分の1図*1(区分図「リーバス(Rivas)」) にそれらを記したのが、上記の図 A と B である。
画像そのものはやや不鮮明で残念であるが、着想点の大よそのポイントが図式化されている。
3. 図A・Bの最左下に太平洋があり、朱色でマークされているのがブリット岬 (プンタ・ブリット)、その東側の上部陸域に
ブリット川の河口域が広がる(下の写真画像1~5参照)。同岬から海岸沿いに南東方向へ数㎞たどると、サン・フアン・デル・
スール(San Juan del Sur)という、ニカラグアでは最大の漁港施設*2と海浜リゾートがある(スールの町は地図上にはない)。
4. 同図の左上にトーラ(Tola)という町(黄色ゾーンの中の上部)がある。図右側にはニカラグア湖がある。右端の朱色マークはビルヘン
(Virgen) という小さな集落で、その近傍にラス・ラハス(Las Lajas)という河川がニカラグア湖へ注ぎ込む。
右上の大きな市街地はリーバス (Rivas) である(リーバスを北西から南東に貫くのは国際幹線道路のパンアメリカン・ハイウェイである。
北西に行けば首都マナグア、南東に行けばコスタリカとの国境にいたる)。
5. 太平洋とニカラグア湖を結ぶルート案(青色で引かれた線)は、ブリット川とラス・ラハス川と部分的に一体化し、または、
特に河口近くではほぼ並行するものとなっている。
両河川の間には起伏の緩やかな分水嶺(距離にして数kmほど)が続く。太平洋とニカラグア湖の海抜差は約32メートルあり、
何処かに閘門システムを築造することが不可欠である。
スエズ運河のような海面式水路とした場合には、ニカラグア湖水が海へ流れ出て、かなり干し上がってしまうことになる。
6. 地図上には、2つの閘門システム (案) が記されている:
(1) 太平洋からたどって最初の閘門である第1閘門(所在: 村落ミラマール Miramar、ラ・フロール La Flor
辺り/堰堤1)に、3段連続式閘室 (3段連続式の水の階段) を設け、後はニカラグア湖まで水路をつなげるか、あるいは
(2) 第1閘門に2段連続式閘室+第2閘門(所在: 村落リオ・グランデ辺り/堰堤2)に1段式閘室を設け
(または第1閘門に1段式閘室+第2閘門に2段連続式閘室を設け)、32mを昇降させるという案である。
いずれの場合も、第1閘門上流部には何らかの人工湖 (黄色のゾーン; 等高線40m以下のエリア) が造られる案を示している。
7. 第1閘門に3段連続式閘室を造作する場合には、トーラの町に浸水の影響を及ぼす可能性がでてこよう。従って、町の保護のために、
総延長4~500mの堤の築造が必要となると予想される。また、黄色ゾーン周辺には10以上の大小集落があり、浸水する可能性がでてくる。
8. 地形・地質および工学的に問題なければ、また水理的観点からは、第1閘門のみにおいて3段連続式閘室を建設するのが良策かもしれない。
乾期・雨期での水量の増減が激しいニカラグア*3では、ニカラグア湖からの湖水を閘門で直接的に受け止めるよりも、
人工湖をもって受け止め、かつ極力安定的に水資源を保持できることの方が、閘門のオペレーションをより安定化しうるものと考えられる。
また、3段連続式閘室の方が、2段連続式閘室+1段閘室の場合よりも水の消費量は少なくてすむと考えられている。更に、3段連続閘室の
方が、海水がニカラグア湖側の淡水に浸入して来るのを減じることができるとも考えられる。
9. ニカラグア政府と運河建設のコンセッション契約を締結した「香港ニカラグア運河開発投資会社 (略称 HKND Group)」は、
2014年7月に運河ルートの選択を含む建設計画の概略を公表した。
(参照: 「ニカラグア大運河総合開発プロジェクトに関する設計計画
報告書」、および「ニカラグア大運河、2014年7月、HKND & ERM」。
尚、これらの報告書を見る限りは、F/S調査結果を示すものではなく、またいずれの詳細なデータは含まれていない )。
10. 同概略によれば、3段連続式閘室をもつ「ブリット閘門(la esclusa Brito)」の建設が想定されている。その建設地は、
同地峡中のリオ・グランデという集落辺り(図A・B上での第2閘門の位置、或いは堰堤2の辺り)が想定されている。
既述のように、第1閘門(特に3段連続式閘門)によってトーラの街を浸水させるとなれば、大きな社会的インパクトをもたらすことになろう。
リオ・グランデにおける3段連続式閘門の建設はそれを回避するためである、と理解する。
ブリット閘門によって造作されるのは小さな貯水池程度であろう。また、同閘門の奥地の数km先は分水嶺地域であり、その閘門と
ニカラグア湖との間に意義のある人工湖を造営する可能性はほとんどない。
ブリット閘門でできる極小の貯水池において直接的に湖水を受け止めることになるが、閘室操作のための大量の水資源としてニカラグア
湖水に全面的に依存することになろう。
*1 5万分の1のニカラグア全国地図は、日本政府によるODA技術協力として国際協力機構 (JICA) によって作成されたものである。
*2 漁港および魚市場施設も日本政府によるODAの無償資金協力として建設されたものである。
*3 熱帯・亜熱帯気候にあるニカラグアなどの中米地域では、雨期(約半年間)になれば、長雨になったり、集中豪雨にてごく
短時・短日間に水嵩が急上昇したり、また乾期での長期的干ばつなどで、河川の水位差は大きく変化する。
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