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    第11章 改めて知る無償資金協力のダイナミズムと奥深さ
    第4節 世界の全発展途上国、JICAの全事業部と事業形態に向き合いフォローアップ 業務を担う


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     第11章・目次
      第1節 職務の醍醐味、それはトラブル・シューティングとの向き合い
      第2節 海を相手にする漁港建設の難しさ
      第3節 ブータン不正事件、天と地がひっくり返る
      第4節 世界の全発展途上国、JICAの全事業部・事業形態に向き合いフォローアップ業務を担う



  ブータン不正事件の最初のマスコミ報道から半年ほどが過ぎた。世間では遠い過去のこととしてすっかり忘れ去られていた 1998年11月のある日、外務省は、事件当初にマスコミに公約していた通り、その調査結果とコンサルタント・業者への行政的処分を公表した。 JICAにとっても、事件は同公表をもって一区切り付けられたということを意味した。もっとも、会計検査院は本件をどう取り扱うつもりなのか、 予測はつかないままであった。また、ブータンへのODA再開の見通しは全くつかないままであった。

  さて、無償資金協力業務部(無業部)で実施促進業務に携わっていた頃、JICA内部では、数10年に一度あるかないかの組織・業務体制の 見直しに向けた大改革のうねりが押し寄せていた。無償資金協力調査部(無調部)と無業部とが 合体・統合化され、新たに「無償資金協力部」が設置される方向であった。しかも、それさえも暫定的な措置であり、そう遠くない 将来には、その無償資金協力部さえも姿を消すことになるという、大胆な青写真が描かれていた。

  それまでのJICAの組織・業務体制のマトリックスと言えば、縦軸に分野別および事業形態別(スキーム別)の事業部が配されていた。 例えば、ボランティア派遣の海外青年協力隊(JOCV)、無償資金協力の基本設計調査や実施促進を担う二つの事業部、専門家派遣の事業部、 研修員の受入れを担う事業部の他に、農林水産、社会開発(職業訓練、教育、運輸関連など)、 鉱工業、医療などの各分野ごとに、開発調査もしくはプロジェクト方式技術協力(専門家派遣・研修員受け入れ・機材供与をワンセットに した協力事業)を担う事業部などが配されていた。その他人事・企画・経理・調達などの官房部門で構成されていた。 横軸としては、それらの事業部ごとにほとんどの場合地域・国別に担当者が配され、各プロジェクトを担うという構図であった。 途上国の現場では、プロジェクトは事業形態・分野別に形成される。JICA本部では、事業形態・分野別の事業部に執行が割り振られる。 そして、実際の執行は事業部内の地域・国別担当者が担っていくことになる。

  因みに、無償資金協力事業では、日本と被援助国の両政府間の援助実施に関する口上書(E/N)の交換以前になされる基本設計調査と、 その後の実施促進業務を担う2つの事業部門があった。前者は分野別に1、2課に分けられ、その下で地域・国担当者がプロジェクトを担った。 後者は第1-3課と単純に地域・国別に分けられていた。私が属していたのはこの内の第2課であった。専門家派遣事業部では、地域・国別に担当者を配し、あらゆる分野の専門家を派遣していた。 個別・集団研修コースを担う研修事業では、第1-3課と完全に省庁別に配され、その下で分野別に担当していた。

  組織・業務体制の大改革の基層にあったのは、政府開発援助(ODA)に大きなメスを入れ、その質的改善を図るという強い社会的 要請であった。ODA予算は、1997年に米国を追い抜き世界のトップドナーの地位にあった。だが、既に1990年代初めにバブル経済がはじけ、 日本全体が経済的低迷に陥っていた。日本社会全体がなおもダウン・サイジング(規模縮小化、縮み現象)の方向にあった。そして、 国家財政は厳しさを増していた。ODA予算は、1997年をピークにして削減される傾向が顕著になりつつあった。ODA予算が縮減される一方で、 その使い方において一層の効率・質的向上や目に見える成果が求められていた。被援助国の重点課題をより絞り込んで、効率化と質的改善を 徹底することが求められるようになっていた。他方で、途上国の求める援助ニーズはどんどん多様化していた。当時のODAを巡るキャッチフレーズは、 「援助の量より質」、そして「援助事案の選択と集中」が何かにつけて広く叫ばれていた。かくして、 JICAにおいては、職員一丸となって、技術協力の取り組み方、組織や業務体制の在り方を見直すことに真剣に向き合っていた。 組織・業務体制の改変はJICAだけの課題ではなかった。ODAの責任官庁の外務省におけるODAのあり方の見直しとも深く連環していた。

  時代の要請に応えるために、従前の体制の抜本的な改革プランとして、国別・課題別アプローチを一層強化する包括的改革 プランが模索されていた。地域・国ごとに解決すべき課題に対して重点的・効率的に人的資源・予算を投入すること、そして事業形態別・分野別事業 間でのベストな調整と組み合わせによる横断的取り組みが求められた。そして、地域・国別の総合調整を担う事業部としての「地域部」を 一段と強化するという改革プランでもあった。

  改革のベクトルとして、地域・国別の部課をJICAの援助事業のいわば「司令塔」に据えることを意味していた。ざっくりと言えば、 縦軸に地域・国を配し、横軸には途上国で解決されるべき課題別の事業部を配するという構図を基本とした。 そして、課題解決を担う各事業部門は、将来的にはあらゆる事業形態・スキームのベストミックスをもって援助に当たる。そして、 ベストミックスの相乗効果を確保し、最大限の成果を発現するというものである。従前の事業形態・スキーム別の援助体制を抜本的に改変すること になる。ごく一部の事業部門は従前のままであるが(因みにJOCV)、縦軸には地域・国別の四地域部(アフリカ・中近東、アジア(東南アジア・南西 アジアなど)、中南米)が配され、横軸には課題解決別の事業部(農村開発、自然環境保全、中小企業開発、人間の安全保障など)が 配されることになる。

  途上国の多様化したニーズに応えるため、また課題を解決するために、いかなる事業形態・スキームをもって援助事業を執行するか、その ベストな組み合わせを選択することが期待される。無償資金協力、開発調査、プロジェクト方式技術協力、投融資、単独の専門家派遣、 研修員受け入れ、機材の単独供与、JOCV隊員の派遣などのベストミックスをもって執行し、相乗効果を引き出しながら、成果を最大化する というものである。プロジェクトの成果を上げるには、ベストミックスだけでなく、それらの執行の時系列的な配慮も重要となる。

  一人の専門家の派遣だけでも一つのプロジェクト、研修員一人の個別研修あるいは集団研修コースへの組み入れであっても一プロジェクト、 特設コースでの複数人の研修でも一プロジェクト。無償資金協力やプロジェクト方式技術協力でも一つのプロジェクトと位置づけられる。 そして、ここに新たな援助概念が導入される。即ち、ある大きな課題解決のための取り組みを一つのプログラムと位置づけ、その下に複数の プロジェクトが投入されると言うものである。一つの課題解決プログラムの中に全ての関連プロジェクトが包摂される。プロジェクトの集合体 全体が一プログラムと位置づけられる。今後は、一つのプログラムが解決されるべき一課題とイコールとなり、 その下に複数のプロジェクトのベストミックスが配され執行される。

  援助事業の司令塔は、四つの地域部であり、その傘下に配される十余のサブリージョナル・セクションであり、国別の担当者である。 特に地域部の重要な役割は、課題別事業部門と密接に協働して、国別の援助方針・重点分野に沿って、年単位でのプロジェクトの採択と 予算配分を行なうことである。課題別事業部はベストな事業形態・スキームを有機的に組み合わせながら、当該国の重点課題を解決すべく プロジェクトを運営し、相乗効果の発現を目指す。当然のことながら、JICA在外事務所は、現地日本大使館の指導の下、当該国の重点解決課題 や日本の援助方針・重点援助分野に沿いつつ、プロジェクトの発掘・形成に取り組むことが従前以上に求められることになる。

  さて、無償資金協力の無調部と無業部の2事業部も改革対象の例外ではなかった。新設される「無償資金協力部」すらもいずれ廃止されると言う。 同部の廃部後は、無償資金協力事業は各課題解決部に移管され、そこで実施されると言う。今後は、無償資金協力と技術協力が組み合わされた プログラムが形成され、前者のプロジェクトもそのプログラムの一構成要素と位置づけられることになる。 そして、当座の改革として、無調部が実施してきた基本設計調査と、口上書(E/N)の交換以降における無業部による実促業務を統合化し、 調査と実促を一気通貫で行なうという構想の下に、「無償資金協力部」を創設する計画である(実は、JICAにはかつてそういう時期もあった)。 そして、ゆくゆくは同部自身をも解体して、当該事業を各課題解決事業部へ移管させると言うアイデアである。 かくして、無調部と無業部は統合されたが、過渡的措置として、現行プロジェクトはその進捗段階に応じて二つのグループに仕分けされた。

  既に援助の口上書を両国間で交換済みであるも施設建設施工業者や機材調達業者が未だ選定されていない案件については、過渡期対応として、 「無償資金協力部」内に設けられる「無償資金協力部準備室・業務特別グループ」というフォローアップ特別チームが全てを引き取り、同案件の 施工・調達業者を選定するための入札が完了し、かつ業者契約が被援助国政府と締結され、同契約に対する事前認証のための審査が終了する のを見届けるまでは、同特別チームが引き取ってその実務をこなすことになった。そして、審査が完了した暁には、無償資金協力部が当該案件を 引き取り、実促業務を担っていく手はずである。他方、現下では基本設計調査を実施中であるものの、未だ口上書の交換が完了していない 案件については、そのまま「無償資金協力部」に引き取られていく。今後要請されてくる新規案件については、課題解決事業部において、 地域・国別事業部とタグを組んで、案件採択の諾否検討段階からマネジメントされることになる。

  さて、無業部のしんがりを務めた「業務特別グループ」のフォローアップ特別チームは、1999年6月からの4か月間で、 その特別任務を終え全てのプロジェクトを「無償資金協力部」へ引き渡した。そして、同チームはその引き渡しと同時に廃止されると同時に、 「地域部準備室・フォローアップグループ」へと改組された。その後すぐさま、我々のフォローアップグループは、同年9月から技術協力 関連のフォローアップを担い、かつアジア部に属していた「フォローアップ室」と統合された。ここに、技術協力と無償資金協力の2つの フォローアップ事業が名実ともに統合化された。フォローアップグループの何名かは、私を含め、そのフォローアップ室へと人事異動した。

  かくして、JICAとしては初めて、全ての被援助国を対象に、ほとんど全ての事業部、事業形態・スキーム、そして分野・課題を対象とする フォローアップ事業が一本化されることになった。我々職員はそんなフォローアップ関連業務に矜持と遣り甲斐をもって向き合った。 無償資金協力だけでなしに、技術協力の過去10年ほどの全ての案件を対象にしたフォローアップを履行することになった。フォローアップ室の特に 若手職員にとっては、全事業部の多くの職員と仕事上の接点をもち、業務を通じて他部職員との人間関係や人脈づくりに大いに役立ち、人的財産と なることが期待された。

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私は、1999年6月(平成11年)から、無償資金協力部の「フォローアップ業務特別グループ長」という、暫定的なポストを与えられることになった。
1999.6-1999.8 平成11年6月-平成11年8月 無償資金協力業務部 フォローアップ業務課長 兼 無償資金協力部 準備室・業務特別グループ長
1999.9-1999.12 平成11年9月-平成11年12月 無償資金協力業務部 フォローアップ業務課長 兼 地域部準備室・ フォローアップグループ長

2000.1 平成12年1月 アジア第1部付
2000.2 平成12年2月 中南米部付


2000.3-2003.3 平成12年3月-平成15年3月 休職専門家:パラグアイ共和国大統領府企画庁 開発計画専門家
2000年4月にはパラグアイへ。

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  フォローアップ業務には事業形態に応じていろいろなフォローアップのやり方があるが、最も典型的なのが無償資金協力案件 (施設・構造物の建設、機材贈与)やプロジェクト方式技術協力案件、単独の機材供与案件などのフォローアップが中心であった。 フォローアップとは何をどうするのか。無償資金協力や技術協力において供与され何年も使われてきた機材は、経年劣化により機能が低下したり、 いろいろな不具合が発生したりする。自然災害で供与施設が損傷を受けることもある。被援助国は、基本的に自己財産として自前で修理し、 機能回復や再活用に務める。だが、国家財政の逼迫による修理費不足のため、維持管理が困難になったりもする。 また、機材の故障診断やパーツの特定そのものが困難であったりする。JICAは技術者を派遣し、機材の診断やパーツの特定などに側面 支援したり、修理そのものを支援したりする。また、損傷を受けた施設や構造物については、調査団を派遣し、損傷箇所の修復計画を立案し、 時改めて修復と機能の再生化を試みる。施設や機材が再び活用され、「国づくり人づくり」に生かされるよう側面支援するというものである。

  フォローアップには他の案件にない一つ大きな特徴がある。援助要請を受けてからの対応の迅速性である。通例援助の実施に当たっては、両政府間で 何らかの合意文書が取り交わされる。通例、要請から実施の運びとなるまで最低1年以上要するのがざらである。ところが、フォローアップの場合は、 改めて合意文書を取り交わす必要性は認められないというのが基本的スタンスである。過去にプロジェクト実施に際して、既に政府間で協力に関する 約束が文書で交わされているので、フォローアップ時に改めて合意文書を取り付けるのは不要というものである。 要請の審査も事実上フォローアップ室内でなされる。施設修復や入れ替え機材の金額が3千万円以下の場合ならば、外務省に事後の実施状況報告で 対応していた。金額がそれ以下であれば、本部でパーツなどを調達しすぐに購送できる。あるいは事務所へ資金の示達が可能である。フォローアップ 事業の迅速さからも被援助国や在外事務所にすこぶる感謝され、髙い評価を受けることが多い。

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  再合意が不要なのはフォローアップ事業の執行の迅速性を担保することに直結する。フォローアップは早ければ数ヶ月で実行に移せる。要請書受理後、フォローアップチーム内で検討し、 数ヶ月以内には資金が現地JICA事務所に送金され、現地で機材修理や施設修復のための予算執行がなされることも多い。あるいは、 フォローアップ調査団が組織・派遣され、施設の不具合の診断を行ない修復のための技術者の派遣など、また交換すべき機材部品の特定、 帰国後部品の購送、修理のための技術者の派遣など状況に則した迅速な対応が可能となる。 ....................................................

  案件は数多あった。フォローアップ室が全ての案件を集約してマネジメントし、迅速性・効率性が高い。だが、理念・理想的にはそれでよいのか 疑念なしとはしなかった。在外でのプロジェクトの発掘・形成→ 計画立案→ 実施 → 評価・フィードバック → フォローアップ (project formation, do, evaluation, and follow-up)というプロジェクト・サイクルの中にフォローアップをしっかりと位置づけ、かつ プロジェクトを計画し履行した課題解決事業部自身がフォローアップするのがベストであり、それが論理に最も適うことである。 そうすれば、プロジェクトの計画から実施、評価、フォローアップまで、一つの事業部が全責任をもって一気通貫で運営管理でき、 より効率的な支援となる。現下では、過渡期としてフォローアップ室で集中・効率的に履行するのも止む得ないが、 フォローアップ室の思いとしては、課題事業部における全プロジェクトサイクルの実践をベストな理念としていた。

  将来、いつの日かその理念が具現化されることを願い、事あるごとに訴え続けることになった。当時進行中の大改革も、そのサイクルを 確立することで初めて完結できることになると確信していた。当時はフォローアップ業務の統合化が緒に就いたばかりであったが、 時移り業務体制改革が組織内で定着化していく過程で、そのサイクルの具現化に向けたベクトルの動きを感得できなかった訳ではなかった。だがしかし、 サイクルの理念が当然の如く受け入れられ、フォローアップ事業が実際に各課題解決事業部に引き取られ、サイクルの一環として包摂される ようになったのはかなり先の事であった。

  余談であるが、フォローアップ室に在職中のある日、人事課長とトイレで会った時のこと、またしても独り言を発した。「アルゼンチン赴任から 帰国してもう13年になるが、ずっと新宿勤務で塩漬けの身である。そろそろ海外の協力最前線にまた赴任したい」と。 その一言が聞き入れられたのか、その後暫くして、南米パラグアイへの赴任の内々示があった。 人事部からすればフォローアップ室での在職が余りにショート過ぎるとの判断があったのか、3年後にパラグアイから帰国して配属された部署 が再びフォローアップ室という、出戻りパターンとなった。だが、そこにも長くは留まれなかった。というのは、再び海外赴任の命令を受けた からである。今度は、何と「アルコール、映画館、コンサートも〝ゼロ″」の究極の異形の国サウジアラビアへの赴任であった。若い時の アルゼンチン漁業学校プロジェクトへの赴任の「借り」をサウジ赴任によってようやく「全額」返すことになるという思いであった。


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