海洋総合辞典 Comprehensive Ocean Dictionary, 特選フォト・ギャラリーPhoto Gallery, 海洋インバースダム発電, 夜間自然重力落下発電&昼間ポンプ排水方式free-fall hydroelectric power generation with a system of water-intake-to-barrage at daytime and water-drainage-from-barrage-by-pummp at night, marine dam (artificial pool) power generation called 'inverse type', 日本Japan

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海洋インバースダム発電について [読売新聞2013.11.10]

  

はじめに: 21世紀初頭の現在、日本の総発電量に占める「再生可能自然エネルギー発電量」 (太陽光・風力・海洋・バイオ・ 地熱など) の比率は、火力(石油、石炭、天然ガス・LNGなど)、水力、原子力 (2014年2月現在全ての原子力発電所は停止中ではある)  の発電量のそれと比べて、全く比較にならないくらい圧倒的に低い状況にある。 大量の化石燃料を海外に依存する日本にとって、その比率向上は、今後ずっと長期に取り組まねばならない、国家発展にかかわる 最重要課題となり続けるに違いない。 他方、波浪・潮汐・海流・温度差・洋上風力などの海がもつ、或いは海を場とする再生可能自然エネルギーを電気に変換して 利用する方法として数多くのアイデアが創案され試みられてきた。今後さらに新しいアイデアが生み出される一方、開発研究 途上にあるアイデアの深化や実験装置のさらなる実用化が図られることが期待される。


画像は平成25年 (2013年) 11月10日付けの読売新聞に掲載された「海洋インバースダム発電」と名付けられる海洋 発電に関する記事と模式図である。 記事は、「海でダム発電 野心的構想 京大や建設会社などで進む」と題される。端的に表現するとすれば、夜間重力落下式での 発電・昼間ポンプ排水式の海洋ダムといえよう。極めてユニークな創案ゆえ、敢えてここで取り上げたい。

「海洋インバースダム発電」は世界で見られる既存の潮汐・潮流利用発電とは全く異なる。例えば、周辺地形が漏斗状で干満差が 大きい河口域においてダム (堰・バラージなど) を建設したり、或いは特定の海域において四方をダムで囲い込んだりして、 巨大な貯水池 (人工海水プール) を造り、上げ潮時には海水を堰き止め、下げ潮時には海水を重力落下させて発電するという 「潮汐発電」とは異なる。また、潮の満ち干による海水の平行移動によって引き起こされる潮流そのものを利用して発電する「潮流発電」 とも異なる。

海洋インバースダム発電の場合、特定の海域をダムで囲い込んで巨大な貯水池 (人工海水プール) を造るのは前者の潮汐発電の場合 と同じであるが、利用されるエネルギーは潮汐の干満差ではなく、またその流れでもなく、「海水の位置エネルギー」の利用を基本 とする。発電初期段階で、その人工プール内の海水が外海に排出され空にされる。それによって人工的に作り出される海水の 位置エネルギーを上手く利用し続けて行くというアイデアである。「目からうろこが飛び出そうな」ユニークな方式での発電である。 また、揚水発電とは逆の発電原理を利用するところにもユニークさがある。



発電方式の概略は以下の通りである
水深200mの沖合海域に (注1)、縦横の長さが2,000m、海底からの高さが200mの長大な仕切り(ダム・堰・隔壁など)を立ち上げ、 四方の海水から遮断された巨大な人工海水プールを築造する。電気がより多く必要とされる昼間時に、ダムの上方部に設けた 取水口を開いて外海の海水を放水路へ流し込みプール内へ自然重力落下させる。その時の水流をもってタービン・発電機 (発電用 モーター) を回転させ発電するというものである。海水のもつ位置エネルギーを活用する。

電力消費のより少ない夜間では、その余剰電力をもって、ダムの下方部に設けた排水用 (充電用) モーターにてポンプ (揚水ポンプ) を稼働させ、プール内の海水を汲み上げ外海へ排出する。揚水発電とは全く逆の方式である(注2)。 そのことから、記事によれば「インバース式(inverse type)」と呼ばれている。 英語の「inverse」とは、「逆の、反対の、倒置の、転倒の」という意味である。 排水によって、再びプール内に海水を流し込んで発電するための空間を作りだす。排出されて確保される容積分だけ「海水の 位置エネルギーの形で電気をストック(蓄電)できる」ことになる。

海洋における再生可能エネルギー利用の場合には、波浪のパワーの程度、潮の干満差、潮流や海流の速さ、温度差の程度など、 経済的採算性や実現可能性に決定的に影響を及ぼす自然条件上のファクターが立ちはだかるが、海洋インバースダム発電において このような自然の決定的な制約を受けることがないとすれば、高い発展性が期待される。 また、無限的な海水を利用しての大容量の海中ダムを、季節的気象条件に影響されず、全天候を通じて、通年に渡り安定的に稼働 させることができるということになれば、さらに潜在的開発可能性(注3)への期待は高まろう。海洋インバースダム発電は 今後いろいろな視点・視座をもって注目されるに違いない。以上

    (注1) 一般的に、海底傾斜は大陸棚の外縁辺りで急に増していくが、その外縁の平均的水深が約200mである。 従って、水深200mの海域というのは、沿岸のすぐ地先というよりも、かなり沖合の海域が想定されているといえよう。
    (注2) 揚水発電の場合、昼間、沿岸陸地の高み (高台) に設けられた人工貯水池の水を重力自然落下させ発電し、夜間には 余剰電力でもって貯水池よりも低位置にある自然海の水を貯水池に汲み上げて (揚水して)、その容積分だけ海水の位置エネルギー の形で電気をストック(蓄電)するというものである。
    (注3) 記事には発電ポテンシャル算定の一例が示される。2平方kmの標準ダムでの最大備蓄量は2.2億kWhであり、 これは66万世帯に1ヶ月間電気を供給できる量に相当するものと見込まれている。建設費としては約2兆円との試算である。

* キーワード「海洋インバース発電」でネット検索を行なうと、関係組織・会社の関連記事が見られる。
[2014.2.16 記][拡大画像: x25824.jpg][拡大画像: x25823.jpg][拡大画像: x25825.jpg]



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