完全離職によって「自由の翼」を身にまとったことを機に、ウェブ海洋辞典とその辞典づくりについて振り返り、いろいろと包括的に見つめ直した。
そして、今後の辞典づくりについて自由にビジョンを描くことにした。
先ず思い巡らせたのは、「オンライン海洋総合辞典」の辞典たる所以は何か、海洋辞典の中核をなすものは何かということであった。
前節で綴ったように、第一に、その中核をなすものは、和英西仏葡の5か国語による、8つの「海洋辞典」であり、第二に、8つの「分野別海洋辞典」である。
それまではJICAに奉職しながら余暇時間をひねり出しての辞典づくりであった。だが、離職を機に、16の辞典こそが海洋辞典たる最たる
所以であること、そしてそれらを「進化」させることこそが、常に追い求めるべき目標であり、向かうべき針路であることを強く再認識した。
第三に、その中核と位置づけるコンテンツとしては、海にまつわるさまざまなデータベースである。
辞典づくりの過程において、いろいろな図書・資料やネット情報などを参照することが常であった。そして、派生的ながら、各種のテータを
蓄積することが容易となり、実際に作成したりもした。例えば、世界や日本には海洋博物館やその他船・港・漁業・捕鯨・自然史などに
関する博物館や歴史文化施設などが数多存在している。水族館もしかりである。さらに、海洋関連の行政・研究機関や公益法人・学会なども数多ある。
その他のデータベースとして位置づけられるものとして、世界や日本の海にまつわる出来事の略年史、海洋関連の英和略語集、魚貝類・
海洋性哺乳動物などの学名リスト、和英西仏葡語の8つの海洋生物辞典、海洋・航海・漁業・海洋生物などに関するアナログやデジタル
の辞典・事典・辞書のリスト、テーマ別の海洋関連文献リストなどである。過去に書き溜めていたいろいろなデータを取りまとめて、
テーマ別のデータベース(ポータルサイト)づくりをすることに前のめりになった結果である。いわば副産物としての、そんな「まとめ
サイト」作りも、それはそれで楽しいものであった。
コンテンツの見直しで気に掛かったのは、中途半端なコンテンツのままに留まり、その熟度が思うように進んでいないデータベースが多いと
いうことであった。「作成中(under construction)」とカテゴライズされているものが多く、忸怩たる思いがあった。思い起こせば、
1996年頃に「海洋用語集」のホームページづくりを開始してから、2011年に離職するまでのほぼ25年間、ウェブ「海洋辞典」のコンテンツ
としてのデータベースは拡大傾向をたどるばかりでありながら、そのコンテンツをまともに見直し取捨選択してこなかった。辞典づくりを前へ
前へと進め、データベースを増やすことに傾倒してきた。そして、2011年に至るまで、多くのデータベースに「作成中」の注釈を貼り付けた
ままであった。早く何とかせねばとの思いをもち続けていた。
何故「作成中」のものが多くなったのか。最たる理由は、海洋辞典づくりに圧倒的な比重を置いていたからである。
海洋辞典の語彙がどんどん増えるなかで、各データベースのデータをアップデートし蓄積を重ね、その完成度を向上させることを先送り
してきたからである。中核をなす8つの「海洋辞典」のアップデートに比して、データベースのそれはどうしても
後回しになる強い傾向があった。そのつけが回っていたのである。気が付けば多くのデータ
ベースは中途半端のままで、不完全性を示す「作成中」の注釈表示が目立っていた。余りにも見苦しいことから、何とかしなくては
という焦りに駆り立てられていた。
かくして、今後何をどう選択し何に集中して取り組むのか、離職を機に、徹底してデータベースを見直し「選択と集中」の策をもって、
その「断捨離」に取り組んだ。データベースとして今後もアップデートを続け、コンテンツを「成熟」させるものについては残し、他方熟度アップ
を目指さないものについては一旦中断し、データをローカルディレクトリーにしまい込み、いわばバックヤードで当分の間保管する
という措置を執ることにした。捨て去ることはせず、将来復活させる時のベースにすることにした。
取捨選択の結果、辞典の第三の中核としてのデータベースは、現行のウェブ海洋辞典トップページ(www.oceandictionary.jp)に
見られるようなスリムなものとなった。因みに、データベースは以下の通りである。
1) 世界と日本の「海洋博物館」、同じく「水族館」、および「海洋関連組織」のデータである。網羅される海洋組織としては、政府の行政・研究機関、
大学などの教育機関、学会、主要な公益法人などである。それらの海洋組織は、海にまつわる無限大の「知」へのゲートウェイである。それら
への髙いアクセスビリティをもつポータルサイトを目指したい。
2) 「海洋辞書・用語集リスト(オンラインおよび図書編)」: アナログの海洋関連辞書・事典・図鑑・百科全書などのデータ・ディレクトリである。
世界と日本のオンライン海洋辞書・用語集などに関連するポータルサイトとしての機能をも充実させたい。
3) 世界と日本の「海事に関する略年史」。
4) 中米ニカラグア国のこれまでの長年の「ニカラグア運河」建設の夢と現代の建設構想についての資料編。
5) 「海洋技術写真集」。故・前田弘教授(水産大学校)の長年の研究成果である世界と日本の漁業技術に関する資料。
6) 「英和・海洋関連略語集」。
7) 和英西仏葡語の8つの「海洋生物辞典」。
8) 海洋生物の学名(ラテン語)リスト。
なお、バックヤード送りとしたものとして、「海洋関連図書目録」、「海洋関連定期刊行物目録」、「日本の開示に関する外国語文献目録」、
「国際海洋法制に関する文献目録」、「季刊海洋時報収録論文目録」、「海洋法とその形成に関する出来事の略年史」などがある。
さて、ウェブ海洋辞典を最大限ビジュアル化したいというビジョンを持ち続けて来た。一枚の写真や図絵は例えば1,000文字の説明にすぐる
こともありえる。いくら言葉で説明しても説明し切れないこともある。過去約25年間に渡り、海外出張時や、10年以上の異国の地での
勤務時に、さらにはプライベートでの国内外の旅において、その地の美しい自然の海風景や船・港などの景色、その地のウォーターフロント
風景に出逢ったりして、いろいろな写真を撮ってきた。また、知の宝庫である海洋博物館、その他水族館、海に関わる歴史・文化や科学技術関連施設を
訪問し、沢山の展示品を巡覧し、時にデジタル画像として数多く撮り収めてきた。
画像はこれまで少なくとも60万枚以上切り撮り、溜りに溜まってきた。離職後は集中的に、これらの画像を加工処理して、辞典の見出し語などに
貼り付けたりして、辞典のビジュアル化にチャレンジしたい。
かくして、辞典の第四の中核として位置づけてきたのは、フォトギャラリーである写真館「世界の海&船のある風景」のコンテンツ
として、「一枚の特選フォト「海&船」(ランダム編・国別編・ジャンル別編)」というコーナーを設けてきた。
文字だけの辞典は何となく肩苦しいので、少しでもビジュアル化して楽しめるものにしたいという思いである。
ビジュアル化することは、私的にも大いに楽しいものである。また、辞典訪問者にとって、束の間であっても、癒しや目の保養、一服の清涼剤
になると信じてのことである。辞典・辞書において調べの用を足すだけの存在であるのは少し寂しいとの思いがある。また、イラストや写真
などで図解化されたアナログ版の事典や図鑑を開くが如く、このウェブ海洋辞典における検索そのものを楽しめるようにしたいとの思いである。
特に魚・貝などの海洋生物の語彙に画像を貼り付けるのは大いに意義のあることである。試行錯誤をたくさん続けてきた。ウェブの階層構造を
固めるのに随分の年月を要した。現在ウェブに貼付された画像は2万枚ほどであるが、それらの画像をレンタルサーバー(いわゆるリモートディ
レクトリ)の中で、また自身のパソコン(いわゆるローカルディレクトリ)内において、如何なる階層構造の下で収蔵するか、また今後
何十万枚もの画像を辞典に貼付するのに不都合が生じないような階層構造にしておけるか、いろいろ検証しながらの画像作成と貼り付けであった。ひとたび構造を変更すると数多の画像の
リンクを修正することになり、大変な手戻りを経験することもしばしばであった。
ところで、離職後においてようやく本格的な取り組みを始められたのは、二千余のファイル(1ファイル数ページ)に及ぶ「一枚の特選フォト海&船」
の作成であり、さらにその目次を作成し、アクセスの利便性を向上させることであった。それまでは、二千余のファイルの「特選フォト」は、
ほぼ時系列的に配されてはいるが、それ以外はランダムな配列である。従って、ランダム編の目次ページを最初から最後までめくったり、スクロール
しないと、見たい特選フォトにはたどり着けなかった。そこで、「選択と集中」の取り組みの一環として、
またギャラリーの「進化・深化」を図るための取り組みとして、更にアクセスや検索のしづらさを少しでも和らげるために、
国別の目次編とテーマ・ジャンル別の目次編を作成することにした。
例えば、世界や日本の海洋博物館、水族館、船舶模型、海洋の歴史文化、運河・海峡、岬・灯台、漁業、海洋法制・政策、海洋開発・
科学技術、海の生き物、地図、海のある自然風景などで分類化しテーマ別の目次を作成した。少しでもアクセスしやすくなった。また、全ての
目次編には、各「特選フォト」名のヘッドにサムネイル写真を貼りつけ視覚的に、「特選フォト」の選択をしやすくした。二千余の特選フォト
ファイルの国別・テーマ別目次編作りに何度かの試行錯誤を経ながら何カ月も掛かかってしまった。
本格的な画像の貼り付けやフォトギャラリーによる辞典のビジュアル化は完全離職後の2011年からであったが、今後さらにその「進化」
に向けたチャレンジを続けたい。振り返れば、ビジュアル化の原点と起点は、一挙に12,000枚以上の画像を切り撮った、一か月近くにおよぶ
米国東部海岸に沿っての海洋博物館・水族館巡りの旅であった。時間はかかるが、未処理の60万枚ほどの画像を見ながら加工処理し、海洋
辞典にアップするのが今後の課題専門的ある。このアップには恐らく十年以上は掛かかろう。だから、フォトギャラリーづくりによるビジュアル化は、
いわばもう一つの無限大の楽しみでもある。
見出し語やキーワードに添付する写真画像がない場合にはイラストをもってカバーしたい。例えば、船の喫水マークの写真がないとすれば、
イラストを作成してビジュアル化したい。これまでイラスト作成、図式・模式化はほとんど取り組むことができなかった。今後手書きのイラスト
だけでなく、イラスト作成用ソフトの習熟に再度チャレンジしたい。動画の作成による辞典への貼り付けもチャレンジの一つであるが、
現在レンタルサーバーの容量に一定の制限があり、動画をアップすると一挙に上限に達するので、それには二の足を踏んでいる。
例えば、ヨットや帆船の間切りなどの帆走法、ロープワークなどを動画をもって、用語解説ができれば大いに利便性は向上しよう。
現下では複数枚のイラスト静止画像をもって代替するしかないが、簡便にそんな動画を作成できるのであれば、動画は最も理解されやすく効果的
な手段である。
もう一つ海洋辞典を「進化」させる策として、辞典内の見出し語やその関連語に瞬時にアクセスするための工夫としては、「検索ボックス」の設置
がある。グーグルの検索ブラウザーのように、検索ボックスにサーチしたい語彙、キーワードなどを書き入れ(あるいは音声入力し)、瞬時に
その結果を得ることを思い描く。すこぶる便利で有用である。辞典編者一個人としては理想の達成目標である。論理的に考えれば、「見出し語
とその関連語・註釈・文例・画像など」を一つの塊りとしてワン・ボックス化した上で、検索ボックスにその見出し語を書き入れれば、パソコンにそれと
合致する見出し語を瞬時に探し出させ、その塊りを表示させられることは、プログラミング上不可能ではないと思われる。
だがしかし、辞典には見出し語だけでも何万もあり、全ての「見出し語とその関連語」を一つの塊りにして、プログラミングを続けるのは
大変な労力が求められよう。私の技術力などからすれば現実には難しいことである。費用対効果の観点からも如何なものか、課題がつきまとい
間違いなく尻込みをしてしまう。
「見出し語とその関連語」を一つ一つワン・ボックス化し、検索の結果としてそのワン・ボックスに記載される範囲でのみ表示させるとなると、
アナログ辞書でページをめくるようにはいかない。目当てとする語彙を検索しながら、その前後のページをめくる過程において(デジタル辞典では
スクロールしながら)、プラスアルファの「学び」をするという、いかにもアナログ的行為は期待できなくなろう。一つの見出し語に対して
一対訳(関連語などと共に)のみを瞬時に表示させるのもいいが、現下のデジタル海洋辞典のように、検索したい見出し語の前後にあるページ
をスクロールし寄り道をしながら、プラスアルファの「学び」をすることができるのは一つのメリットである。それは現代のアナログ辞典・辞書
と同じであるが、それも決して悪くはない。アナログやデジタルのいずれの方式であれ、長所も短所も同時に併せ持つことは確かである。
理想として、デジタル辞典においては、検索ボックス型とページめくり型の両方式が同時併用できればベストであるかもしれない。この海洋
辞典ではこの併用型検索方式を採用できる可能性が秘められているのかもしれない。
リンクについて触れておきたい。ウェブ海洋辞典内にある見出し語、関連語、資料ファイルなどとの間を行き来できるよう最大限相互に
リンクを貼ることで利便性が高まる。また、外部のウェブサイトや、そこにあるデータ・資料とリンクさせられれば、さらに利便性が増す。
その利便性向上をもって辞典の「進化」ともいえよう。このようなリンクはアナログ辞典では不可能なものであり、その限界はそこにある。
日常的にアップデートされることもない。ウェブ海洋辞典でも、辞典内のいずれの見出し語や関連資料ページなどとも、自在にリンクさせられる。
しかしながら、リンクを貼り過ぎるとページを複雑化させ閲覧に混乱を生じさせることに繋がりかねない。また非常に見にくくなるきらいがある。
外部サイトのアドレス(URL)は、時にあるいは頻繁に変更されたりする。リンクを施せば施すほど、アドレスの変更を追いかけて、
マニュアル的にアップデートするのはすこぶる難義となる。
リンクさせることには制限はないが、アドレスの頻繁なアップデート作業のことを思えば、余りにも過度なリンクの拡張には二の足を踏む。
休題閑話。さて、完全離職後のことであるが、画像を利活用した辞典づくりをさらに深化させるためのもう一つの取り組みを着想した。
過去から眠ってしまっていた、かつての取り組みを思い起こした結果である。海洋辞典の巻末の付属資料として、日本の海洋政策や、海洋開発などの海での
営みの動向や課題などについて、年度ごとに取りまとめるデジタル版「海洋白書/年報」を創るという、かつての「海洋法研究所」の事業と
絡んでいる。ビジョンはその延長上にあるものであるが、それについては次節で綴ることとしたい。
このページのトップに戻る
/Back to the Pagetop.