ニカラグア政府は、2006年8月に、⌈ニカラグア大運河計画概要書⌋ (略称:GCIN) なるものを発表した。
同概要書は、ニカラグア政府によって組織された委員会が行なったニカラグア運河建設に関するいわばプレ・フィージビリティ調査
(実現可能性に関する事前調査、プレF/S調査、pre-feasibility study) の結果を取り纏めたものである。
建設に関する技術・工学、法律、環境、財務的分析などを扱っている。
⌈ニカラグア大運河計画概要書⌋ (略称:GCIN)/スペイン語公式サイト
同上の概要書/部分的和訳
同報告書では、最大25万重量トン級船舶の通航が想定され、6つの運河ルートが比較検討された。そして、最有望候補ルートとして、
いわゆるルート3、即ち太平洋側のリーバス地峡(太平洋に注ぐブリット川→ ニカラグア湖に注ぐラス・ラハス川)→ ニカラグア湖→
同湖東岸に注ぐオヤテ川→ エル・ラマ川上流部→ カリブ海に注ぐククラ川を結ぶ、総延長距離 286km (パナマ運河の3倍以上。
ニカラグア湖を通過する区間を含む) を推奨してきた。
その後、ニカラグア政府ダニエル・オルテガ大統領は、2013年6月14日に、香港系企業の⌈香港ニカラグア運河開発投資会社⌋
(HK Nicaragua Canal Development Investment Co. Limited; 略称HKND Group)
の Chairman Wang Jing 会長との間で、運河建設プロジェクトおよびその他のサブプロジェクト
(⌈ニカラグア運河&開発プロジェクト⌋と称される)
に関する計画立案・設計・資金調達・建設・オペレーション・維持管理などの事業権 (コンセッション) を取り決めた排他的商業協定
を締結した。
事業権の付与期間は50年間であり、その後50年間延長も可能とされ、最大100年間である。ニカラグア議会は、調印の前日(2013年6月13日)に、
同協定の締結について承認したという。
2014年7月7日、HKNDワークショップが首都マナグアで開催され、⌈ニカラグア大運河総合開発プロジェクト
に関する設計計画報告書⌋:(西語: Informe de Plan de Diseño, Proyecto de Desarrollo Integral del Gran
Canal de Nicaragua」、⌈ニカラグア大運河、2014年7月、HKND & ERM⌋ (
西語: Gran Canal de Nicaragua, Julio de 2014, HKND Group/ERM) などが公表された。以下は、同報告書の運河構想部分のうちの
重要ポイントである。
* ERM: Environmental Resources Management.
先の概要書(GCIN)において6つの候補ルートが選定されていたが、今回HKNDはそのうちのルート4を選定した。その選定理由は、
ルート3については水資源の観点や投資額が少なくて済むことなどの観点からルート4よりも優位ではあるが、環境・社会的インパクト
への配慮からルート4としたもの。
ルート4は、太平洋側のリーバス地峡→ ニカラグア湖→ 同湖東岸テューレ川→ カリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川である。
総延長距離は278km(ニカラグア湖を通過する区間の105kmを含む)。
運河の計画幅員は230~520m(船舶待避用の側湾部は幅員520m)、計画水深は27.6m~30mである。25,000TEU積載コンテナ船、
40万トンのばら積み船、32万トンの石油タンカーの通航を可能とする。年間通航可能量は、5,100隻を計画する。船舶の運河通過の
所要時間は、30時間を予定する。
運河には2つの閘門が建設される計画である。太平洋側では、ブリット閘門(la esclusa Brito)(リーバス県内の村落リオ・
グランデ近くに建設される)。カリブ海側では、カルニロ閘門(la esclusa Carnilo)(カーニョ・エロイサ(Caño Eloisa)
およびリオ・プンタ・ゴルダの合流地点近くに建設予定)。
閘門は一つのレーンからなり、船は3つの連続した閘室(3 escaleras continuas)、即ち3つの連続した水の階段を昇ることになる。
閘門での水消費量 (閘門操作に伴う排水量) を減じるため、各閘室につき3つの節水槽(3 estanques de ahorro de agua para cada escalera)
が設けられる。
カリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川を堰き止めて、パナマ運河のガトゥン湖と同じような人工湖(湖水面積は395平方km。約20×20㎞の広さ。
アトランタ湖と称される)を造り、運河のオペレーションにその水を利用する。その水量はオペレーションに十分である。
人工湖の水位はニカラグア湖とそれと同じに維持される。運河のオペレーションによってニカラグア湖の水位に実質的な変位をもたらす
ことはない。また、ニカラグア湖流域の住民らの生産活動、家庭への水供給においても影響をもたらさすことはない。
2
1=両洋間運河ルート図、アトランタ人工貯水湖、その他空港、港湾、自由貿易区、観光コンプレックスなどの主要サブプロジェクトを示す。
3
3=閘門(水の階段)は、3つの連続した閘室(チャンバー)、および閘門での水消費量 (閘門操作に伴う排水量) を減じるため、
各閘室につき3つの節水槽からなる。
4
4=従来からの6つの候補ルートと自然保護区などとの位置関係を示す。
* 画像の出典:1=下記参考資料の(1)の⌈ラ・プレンサ⌋ネット記事。2~4=(2)の付属資料
[参考資料]
(1) ニカラグアの新聞社⌈La Prensa⌋のネット記事、
⌈HKND presenta ruta del Gran
Canal de Nicaragua⌋, 7 julio, 2014.
執筆者 Leonor Álvarez.
http://www.laprensa.com.ni/2014/07/07/ambito/202195-hknd-presenta-ruta-gran
(2) ⌈Confidencial⌋社のネット記事、
⌈Aunque aún no tienen estudios
de viabilidad técnica, económica o ambiental Gobierno da OK a ruta del Canal⌋, 7/7/2014.
執筆者 Wilfredo Miranda Aburto、
http://www.confidencial.com.ni/articula/18340/hknd-le-da-ok-a-ruta-del-canal
中米ニカラグア運河ルートNo.4(カリブ海側プンタ・ゴルダ~
ニカラグア湖の区間)、閘門、人工湖を思い描くための3枚の地図
[ニカラグア]
(1) 太平洋と大西洋(カリブ海)とをつなぐ中米ニカラグア運河ルートに関し、2006年8月ニカラグア政府は6つのルート案を公表した。
うち、ルートNo.4とは、カリブ海沿岸の集落プンタ・ゴルダ~ニカラグア湖東岸トゥーレ川~ニカラグア湖~リーバス地峡~
太平洋を結ぶものである。その後、運河建設のコンセッション契約をニカラグア政府との間で締結した⌈香港ニカラグア運河
開発投資会社 (略称 HKND Group)⌋ は、2014年7月に、運河ルートの選定を含む計画の概要(因みに運河のルート・計画規模・
環境影響配慮など)を、 ① ⌈ニカラグア大運河総合開発プロジェクト
に関する設計計画報告書⌋、および ②⌈ニカラグア大運河、
2014年7月、HKND & ERM ⌋ をもって公表した。
(2) ニカラグア政府・HKNDが選定したのはルートNo.4であった。2006年時に最も有望視されたルートNo.3(ブルーフィールズ湾・
ククラ川~エル・ラマ川上流~オヤテ川~ニカラグア湖~リバス地峡~太平洋) は退けられた。その最大の理由は、カリブ海沿岸
都市ブルーフィールズ及び周辺住民とそのコミュニティー、同市近傍の島ラマ・キー (Rama Cay) などに居住するラマ族先住民への
大きな社会的影響と、ラムサール条約登録湿地帯のもつ生物多様性などの自然環境への影響配慮であった。
(3) 2006年時の推奨ルートNo.4から若干修正された上で2014年に選定されたそのルートNo.4は、下記のルート4概略図に示される
通りである。ルートはカリブ海に注ぐプンタ・ゴルダ川(Río Punta Gorda)本流に沿って遡る。同河川とカーニョ・エロイサ
(Caño Eloisa)という川との合流点 (confluencia) 近くにカルニーロ閘門(la esclusa Carnilo)が建設されるという。
その上流部には、パナマ運河のガトゥン湖のような人工湖が造られることになっている(最下図5参照)。
同湖はアトランタ湖 (Lago Atlanta) と称され、湖水面積は 395平方km (縦20km×横20㎞ほどの大きさ) である。
そして、アトランタ(Atlanta)という集落は浸水するものと思料される。
アトランタ湖の水位はニカラグア湖のそれと同じ標高に維持される(閘門システムによって32mほど水位が上げられる)。
運河は主に人工湖に堰き止められる水資源が利用され、その水量は運河のオペレーションには十分である、と報告書は述べる。
(4) また、同報告書によれば、カルニーロ閘門は1レーン式で、3段連続式の閘室(3 escaleras continuas)をもつ。即ち、3段連続する
水の階段によって標高差32mを昇降する。閘門操作による水の消費量 (閘門操作に伴う排水量) を節減するために、各閘室には3つの
節水槽(3 estanques de ahorro de agua para cada escalera)が付設される (現在パナマ運河では第3の3段連続式閘門を建設中であるが、
その新設閘門の各閘室 (チャンバー) にはそれぞれ3つの節水槽が付設される。カルニーロ閘門もそれと同じ構造と見受けられる)。
(5) ルート4は、人工湖を経て、さらにプンタ・ゴルダ川本流沿いにほぼ西方へとたどり、最奥の源流にいたる。図A・B・Cは、ニカラグア
南部のニカラグア湖東側セクションの3枚の地図である。それらの地図では、ルート4の何の道筋も大まかにしろ敢えて描かれていない。
最下部に掲載するルート図1~5(出典: 同報告書①・②)を参考に、地形を与件なく見つめながら、自由な発想で、3枚の"ルート
の白地図"をベースにルートをたどることを暫しお楽しみいただきたい。5万分の1の地図であれば、想像力を最高に発揮して
いただけるのであろうが、、、。
地図1~4は、2014年7月にHKNDが公表した図である。直線的な粗いルート図のように見えれるが、運河ルートがどのような河川筋と谷筋を通り、
開削労力を最小限にしつつ、最短距離・最低高度の分水嶺を通り、また人工湖をもってどのように水資源を確保しようとしているか、
大まかにしろ運河建設構想を理解することができよう。 [2014.9.5 初記/To be continued and revised]
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アトランタ人工湖を含む運河ルートNo.4の概略図 [出典:上記HKNDの報告書①]
地図A 
地図Aは、ニカラグア首都マナグア近郊のマサヤ火山国立公園ビジターセンターで展示されている、ニカラグア南部域の立体的地形図である
(撮影:2009.6.7)。
図の最下部(白地部分)は隣国のコスタリカであり、サン・フアン川(図上の9)の南側の岸が国境となっている(上流部では一部例外がある。
即ち、ニカラグア領土が対岸から少し食い込んでいる)。縮尺5万分の1の地図をベースにする立体図であれば、
ルートを克明にたどることができる。翻ってこの立体図は非常に粗いものであるが、最下部のルート図1~4を参照にしながらた
どっていただきたい。
図のピンク色のゾーン1はインディオ・マイス自然保護区、ゾーン8はロス・グアツソス自然保護区、ゾーン12は通称エル・
カスティーリョ(El Castillo)と呼ばれる要塞がある歴史的地区である。図の右上方において東西方向に深い谷筋を流れる川
(青色の線)がプンタ・ゴルダ川である。西方へ向かい、二股に分岐する支流の上方側*をたどり、相対的に海抜が低い
分水嶺を越えてさらに西に進むと、すぐにトゥーレ川の源流・上流部に取りつくことになる。
ルートを思い描くことは、この図では全く容易ではないが、その探索を暫し楽しんでいただきたい。
* 二股に分岐する支流の下方側を進み、サン・フアン川に注ぐロス・サバロス (Los Sabalos) 川の源流にとりつくというルート
No.5も候補に挙げられてきた。
だが、コスタリカとの国境をなすサン・フアン川が間接的にもせよ絡むこともあってか、早々と退けられている。
* 地図A(ニカラグア保護区図 Nicaragua's Protected Areas) [拡大画像: x26158.jpg][拡大画像: x26159.jpg]
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地図Bはニカラグア国土地理院(Instituto Nicaraguense de Estudios Territoriales)発行の縮尺100万分の1の地図である。
下図Bの右上にカリブ海沿岸の集落プンタ・ゴルダ(Punta Gorda)がある。そこからプンタ・ゴルダ川に沿って西方へ遡ると、
本流は大きく曲がり北西方向に向かう。図上では本流とカーニョ・エロイサ(Caño Eloisa)という川との合流点がいずれに存するか判明しない。
本流が北西から再び西方へ大きく曲がるが、それら2つの大曲がりの間のいずれかにある(図1では、カミーノ閘門 Camino Lockと
記されている辺りであろう)。
そこに報告書のいうカルニーロ閘門(esclusa Carnilo)が造作され、そこから北方および西方に大きな人工湖(アトランタ湖)
が広がることになる(図5参照)。同閘門から少し上流に集落アトランタがあり(第2の大曲がり辺りである)、その人工湖によって
浸水することになろう。
地図では標高のゾーニングがなされており、かなり道筋を理解しやすい。地図では、最初の薄緑色のゾーンは海抜0~100mであり、
次の濃緑色ゾーンが海抜100~200mの標高ゾーンである。
次の茶色 (右図) またはピンク色 (左図) ゾーンは200~600mの標高ゾーンである。
プンタ・ゴルダ川沿いに西方に最奥まで進むと、地図Aと同じく、上方と下方へ分岐する。下方をたどって源流にいたり200~600mゾーン
の分水嶺を越えると、すぐにニカラグア湖に注ぐトゥーレ川支流の源流がある(同川の支流として5、6本描かれているが、この地図で
見る限りでは、両河川の支流が最も接近しているところが、いわば最短距離の分水嶺越えに見える)。
しかし、地図1~5を参照すると、ルートは、上方・下方に二股に分岐する辺りから二等分する方向へと向かい、
細長い谷筋を経て、最もくびれた高度200~600m分水嶺を越え、図上記載文字の「RIO SAN JUAN」の最後の文字「AN」辺りを右上から
斜めに横切り、そのままトゥーレ川の本流に直行するように見受けられる。
図Bにおいては、標高が100mから200mあり、幅数十kmの山地を開削し、かつ法面を維持管理していくのは相当のコスト、労力が不可欠で
あると見受けられる。だが、ルート図2ではその分水嶺越えが最短距離のルートと見なしているようである。
[拡大画像: x26160.jpg][拡大画像: x26161.jpg][拡大画像: x26162.jpg][拡大画像: x26163.jpg: 地図凡例など]
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地図-B (下の地図)
530, 400

地図Cはニカラグアの国土地理院(Instituto Nicaraguense de Estudios Territoriales)の発行の縮尺52.5万分の1の地図である。
図右上のカリブ海沿岸にプンタ・ゴルダがある。ルートはそこからプンタ・ゴルダ川本流沿いに西方へ遡り、分岐点で大きく曲がり北西方向へ
集落アトランタに向けて遡る。
図上では本流とカーニョ・エロイサ(Caño Eloisa)という川との合流点がいずれかに存するのか判明しないが、最初の大曲がりと、
本流が北西から西方へ再び大きく曲がる地点との間のいずれかにある。そこにアトランタ閘門が造作され、アトランタ周辺において
人工湖が大きく広がることになろう。湖岸線はリアス式海岸のように多くの大小湾入が造作されるように見て取れる。
プンタ・ゴルダ川本流沿いに更に西方に細長い谷筋に沿って最奥の源流へとたどる。図1~4で示されるルートはからすれば、その最奥源流辺り
から一気に標高100~200mの分水嶺を越えてトゥーレ川の本流の中流部をめがけて突き進むことになっている。しかし、地図Cでは
そのルートをたどるのは極めて困難である。
総じて標高100mから200m、時にそれ以上の標高があり、幅数十kmに及びそうな山地を開削することになることが理解されよう。
また、特に図B・Cではゴルダ川最奥辺りで上下方に分岐する支流のいずれの源流をたどるかによって、トゥーレ川源流への取り方や道筋
がかなり異なって来よう。また、標高100-200m以上の分水嶺における開削距離はかなり異なろう。機会があれば、現地踏査を行ない、
少なくとも5万分の1地図でルートをたどり、また人工湖の建設がどのように可能なのか描いてみたい。
[拡大画像: x26164.jpg][拡大画像: x26165.jpg][拡大画像: x26166.jpg][拡大画像: x26167.jpg:地図凡例]
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地図C (下の地図)
HKNDが2014年7月にマナグアでの意見交換会で公表したルート図1~5
1
● ルート図1: カリブ海側の入り口/本図上にはカミーノ閘門(Camino Lock)とエル・ナランホ閘門(El Naranjo Lock)が記
されている。報告書本文に記載されたエル・カルニーロ閘門との関係は不明である。ここでは本文で言及される閘門を公式の計画とした。
[拡大画像: x26152.jpg]
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2 | 3
| -200
● ルート図2・3: アトランタ~トゥーレ/ゴルダ川本流が分水嶺に向けて西方へ遡る途中で流れが途切れるように表示されているが、
3本線のうちの中央線(運河ルートを示す)をたどると、ルートは谷筋を最奥部へと進み、最短距離の分水嶺を通過するようだ。
ルートはそのまま直進し、トゥーレ川の本流の中流部へと取りつく計画である。
[拡大画像: x26154.jpg][拡大画像: x26153.jpg]
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4
● ルート図4: ニカラグア湖/淡水湖に浮かぶ島としては世界最大といわれるオメテペ島の南側を横断し、リーバス地峡へと繋がる。
[拡大画像: x26155.jpg]
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ルート図5: [拡大画像: x26127.jpg]/出典: ルート図1~5はいずれも報告書②による。
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