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    第16章 「自由の翼」を得て、海洋辞典の「中締めの〝未完の完"」をめざす
    第5節 理想と現実のはざまで「選択と集中」に取り組む(その3)/新しいビジョン&チャレンジ


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     第16章・目次
      第16章・目次
      第1節: 嘱託として「健康管理センター」に勤務する
      第2節: 東日本大震災、早期完全離職の決断を後押しする
      第3節: 理想と現実のはざまで「選択と集中」に取り組む(その1)/辞典たるゆえん
      第4節: 理想と現実のはざまで「選択と集中」に取り組む(その2)/データベース&フォトギャラリー
      第5節: 理想と現実のはざまで「選択と集中」に取り組む(その3)/新しいビジョン&チャレンジ
      第6節: 辞典づくり、「中締め(2020年)の〝未完の完″」をめざして
      第7節: 海洋辞典の承継編者探しを家族に口頭・書面で依願する



  2011年春の離職を機に、まず思い巡らせたのは、手を広げ過ぎた「ウェブ海洋辞典」のコンテンツについて、現実的視点をもって 包括的な見詰め直しをすることと、「選択と集中」に取り組むうえでの具体策のことであった。相当程度に、コンテンツを絞り込もうと 辞典づくりに向き合った。だがそれだけでなく、今一度初心に戻って、辞典づくりのビジョンや新しい目標についても思い巡らせた。 かくして、辞典のコンテンツの何をどこまで深掘りしていくのかを模索した。どんなビジョンであれ目標であれ、辞典づくりの未来を思い 巡らせることは楽しいことであった。

  辞典づくりを深化させるために思い描いた新ビジョンの一つは、1976年にJICAに入団して暫くした後、浅野長光先生と創始した 「海洋法研究所」の中核的事業と深く関わっていた。アルゼンチン勤務から帰国後の1980年代末期に、サイドワークとして再び本腰を入れて発刊したのが、 170ページほどのアナログ・英語版の「Japan's Ocean Affairs -Ocean Regime, Policy and Development-」(ジャパンズ・オーシャン・ アフェアーズ ~海洋レジーム、政策および開発~)という研究報告書であった。欧米諸国などの海洋行政・研究機関や大学などに配布したが、 その報告書の延長線上にあるビジョンであった。「Japan's Ocean Affairs」の内容としては、日本および周辺諸国の海洋政策や海洋開発の 取り組み動向、海を巡る諸課題などを論述するものであった。また、それは1、2年ごとに増補ないし更新がなされる予定のもので、 いわば日本の「海洋白書/年報」に類する報告書に重なり繋がって行くものであった。残念ながら、その編集・発刊のチャレンジは、 その数年後には休刊状態となり、忸怩たる思いを経験するにいたった。 世がインターネット時代に突入し、デジタル版海洋辞典づくりを手掛ける5,6年前のことであった。

  英語版ではなく日本語版にて、アナログの「海洋白書/年報)」の類いのものを発刊するアイデアがなかった訳ではない。 コンテンツは、日本の海洋政策や法制全般、海洋基本計画、漁業開発や管理、海洋鉱物資源開発、海洋エネルギー開発、海洋調査研究、 海運、造船、海上輸送現況、海洋安全保障などの最近の情勢や課題について、年ごとに取りまとめるというものであった。 だが、年1回ほどの発刊とは言え、一人で、しかも専業ではなくサイドワークとして、情報・資料収集、執筆・編纂から印刷・発送まで すべてを背負うことは、私的には随分の重荷であった。更に、それを印刷すれば、一回につき何十万円もの経費を要し、また郵送代も結構な負担と なった。浅野研究所長との共同事業として共同負担としつつも、その経済採算性は元々から度外視するものであった。だが、客観的に見れば、 当然事業の持続可能性が問われるものではあった。いずれにせよ、海洋法研究所の第一の中核事業として、英語版の研究報告書(アナログ版) の発刊、その後は適宜定期的な増補・更新版を発刊するとの野心的な取り組みに、生き甲斐と遣り甲斐を感じつつ、ボランティア 精神をもって自身のもてる力を傾注していた。

  話しは若干ずれるが、その当時笹川財団から支援を受けた海洋政策関連の研究所が、「海洋白書」なるものを発刊するにいたった。「海洋国家」 としての日本ではなくてはならない当然の出版物であると思っていたので、「ついに発刊されるに至ったか」という思いであった。「海洋白書/年報」の 発刊を着想したのは同時期だったかもしれないが、人材、財政、情報収集、編集、企画・実行のいずれの観点からも、同研究所のパワーは 我が方と比肩のしようもなく大きかった。だが、英語版については、我が方が先行して日本で初めてとなる「白書・年報」タイプの印刷物を 国内外に向け送り出した。

  休題閑話。「ウェブ海洋辞典」をさらに深化させるための着想とは、日本の海洋政策、海洋開発などの海での多様な営みの 動向、諸課題について取り纏めた、年一回のデジタル版「海洋白書/年報」を創り、ウェブ辞典の巻末に付属資料として添付するいうものである。 「白書/年報」は辞典とはかなり異質なものに違いない。だが、是非ともチャレンジしたいこととして、頭の片隅にずっと長く 持ち続けていたアイデアである。サイドワークのウェブ辞典づくりの傍らそれを温めていた訳であるが、何の形あるものにはできなかった。 とはいえ、完全離職して自由時間を得ることになって改めてそのことを思い起こすことになった。

  時を少し遡るが、1995年頃に日本でもインターネット時代が到来したことから、海洋辞典づくりの取り組みに革命的変革がもたらされた。 これまで語彙拾いをしながら溜め込んできた和英西語・海洋用語集を「海洋辞典」としてインターネット上にアップできるという、願ってもない ことにチャレンジできることになった。まさに情報通信技術の革命的進歩のお陰であった。後で振り返っての話であるが、かつて数版に渡って発刊していた英語版「Japan's Ocean Affairs - Ocean Regime, Policy and Development-」と同時に、その日本語訳化した版を、そのウェブ海洋辞典巻末に資料としてアップロードすることも できたはずであった。もっともそのアナログ版をデジタル化する必要性はあったが。

  1996年以降独学でホームページの作成法を学び、夢をもってウェブ海洋辞典づくりに取り組んだ。そして、4、5年掛かって「海洋総合辞典」 のウェブサイトの基礎を立ち上げ、世界に発信できた。だが、残念ながら、 ウェブ辞典巻末に「Japan's Ocean Affairs」を添付し、その後アップデートを続けるという余裕はなかった。それにチャレンジ する情熱や気概を持ち合わせていなかった。

  当時JICSへ出向していた身であったし、JICAに戻って暫くしてからは 「ブータン不正事件」に巻き込まれ、一年ほど頭が空転状態にあった。そのうち技協・無償協力プロジェクトのフォローアップ事業に 鞍替えとなった。そして、その半年ほど後の2000年春には、南米パラグアイへ赴任することになった。 1996年以降は、JICSとJICAに奉職するなか、余暇時間を捻出しながら、何とかウェブ辞典づくりに傾注するのが精一杯であった。 他方、英語版「Japan's Ocean Affairs」を数版発刊したものの、その増補・更新版の発刊は、以来何と10年近くも発刊休止(事実上廃刊)状態 を余儀なくされていた。

  2000年春から3年間勤務したパラグアイから帰国、だがその1年ほど後にはさらにサウジアラビア、ニカラグアへと約5年にわたり赴任した。 在外に居ながらも語彙拾いを続け辞典づくりをフォローし、コンテンツを半歩でも「進化」させるのに精一杯の努力を続けた。 既に述べたように、2009年秋にニカラグアから奇跡の生還を果たし、2011年春にはJICAから完全離職してようやく、デジタル・日本語版の「海洋白書/ 年報」のこと、さらにデジタル・英語版の「Japan's Ocean Affairs」づくりのことを思い起こし、回帰することができた。当初はシンプルなやり方として、 デジタルで日本語・英語版をウェブ海洋辞典巻末に添付することを描いた。だが、既にかなりの齢を重ねていて、余りにも重荷であること、また 能力もおぼつかず、現実的なチャレンジに立ち帰えることにした。

  さて、何時しか次善のアイデアが湧き上がって来た。日本語版「オーシャン・アフェアーズ・ジャパン」という新規タイトルの下で、 課題に沿って論点や視座をすこぶるコンパクトに論述したショートペーパーを順次ウェブ海洋辞典の巻末に収めるというアイデアである。 日本と周辺諸国の海にまつわるさまざまな政策、海洋開発の動向、諸課題を分析し、論点や視座を簡潔にまとめ、課題解決のための 提言を行なうことを主たるコンセプトにするものである。基本的には、アナログ・英語版研究報告書の「Japan's Ocean Affairs」と 同じようなコンセプトであるが、論究に際しての重点の置き方とスタイルを変えるものであった。 さらに、その英語の摘要版を「Japan's Ocean Affairs」という新タイトルの下で、ウェブ辞典に添付するという構想でもある。新規 ペーパーの作成の都度に、あるいは既述ペーパーのアップデートの都度に、日本語・英語版を添付したい。今のところ「オーシャン・アフェアーズ・ジャパン」などの具体的な進展はない。 だが、下準備を少しずつ進めてきた。

  下準備の一環として、部分的ではあるが、「一枚の特選フォト」コーナーにおいてその実践的チャレンジを続けてきた。 即ち、「一枚の特選フォト」には写真画像だけでなく、イラスト、図絵、地図、図式・模式などが貼付されているが、それらの画像などをベースあるいは コアに据えて、日本と周辺諸国に関連する海の諸課題について、その論点・視座その他の客観的事実、最近の情勢、提言などを論述することに 取り組んできた。

  幾つかの事例を列挙してみたい。
1) 東シナ海における大陸棚の日中韓の境界線の画定: 中国・韓国と日本の間で、その画定を巡る法理論はするどく対立している。 その論点と解決の視座を思い巡らせる。
2) 日本周辺海域における200海里以遠への大陸棚の延伸申請: 国連の大陸棚限界委員会に、離島周囲の200海里以遠の大陸棚への管轄権の延伸 を申請し、ほとんどは認められてきた。しかし保留となっている申請がある。それは沖ノ鳥島の「島か岩か」の問題とどう絡んでいるのか。

3) 沖ノ鳥島の現況と課題: 沖の鳥島が海洋法上の「島」でないとすれば、日本の領土面積(37万余平方㎞)に匹敵する海域での資源管轄権を失う。 島上にわずか数メートルだけ突き出る2つの岩の浸食を防止し、200海里管轄権の法的根拠を喪失しないよう、ブロックなどで保全してきた。 海洋法上、島なのか岩なのか、中国などは今後も執拗にチャレンジしてこよう。中国などのチャレンジを論破するための理論的武装と具体的 対策などが必要不可欠である。

4) 南シナ海での「九段線」によって囲まれた海域に対する中国の主権的権利の主張に関する国際司法判決: 国際判決は九段線による 主権的権利の主張には「根拠はなし」と明確に退けた。中国は判決を「紙屑」として完全無視を続ける。南シナ海においても、国際法で 認められる範囲を越えるような海洋権益の主張は拒絶され続けるべきである。

5) 北極海航路の開拓: 地球温暖化により氷海面積は減少しつつある。いずれ北極海を通年にわたり航行可能となろう。日本を初め中国・韓国 にとっても、航行ルールの有り様などは国益に深く関わり、その視座を見極めたい。
6) ニカラグア運河: 建設計画は頓挫してきた。真に人工湖の建設と水資源の確保は可能か見極める必要がある。国際政治、環境、パナマ 運河との競争と運河運営の経済採算性などについての論点と視座を探る。運河両岸の脆弱な土壌の浸食は重大な運営障壁になると思料される。 25万トンの船舶が通航可能と言う同運河の建設は、世界の二大スーパーパワーの軍事バランスにも影響を与え、ひいては日本などの立ち位置に どんなインパクトをもたらすか。

7) 波力・温度差発電などの再生可能な海洋エネルギー開発: 海洋エネルギー開発に関する現況と課題について。日本では未だ本格的な 商業規模のエネ開発が進まない。経済採算性の問題なのか。将来電源構成に大きな比重を占めることになるのは、海洋エネに準じられる 洋上風力発電のみであろうか。

8) 深海底資源開発と管理(マンガン団塊、熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラスト、レアアースなど): 団塊開発は日本でも1960年代に最も髙い 関心が注がれたが、以来60年を経ても商業的採鉱の実現は見えてこない。深海底資源の開発と管理の将来展望はどうか。論点と視座につき コメントを付し続けたい。

  繰り返しになるが、当座は「一枚の特選フォト」において、写真画像や図絵・図式などを論究論述のコアに置きながら、デジタル・日本語版 「オーシャン・アフェアーズ・ジャパン」のバックボーン作りの取り組みを続けたい。そして、いずれ それらが英語・摘要版「Japan's Ocean Affairs」の基点・起点になるようチャレンジしていきたい。先ずは出来ることから始めることとしたい。 「特選フォト」作りの延長線上にこのようなチャレンジに繋がり行くとは、正直思いもよらなかった。まさに「コロンブスの卵」と言える かもしれない。事は一挙にはなしえないが、作成できた部分から「オーシャン・アフェアーズ・ジャパン」の新タイトルの下で、順次辞典巻末に アップして行くこととしたい。先々ではそれらのアップデートすることも視野に入れたい。 かくして、離職後自由人となって辞典のコンテンツを真剣に見直し続けてきた結果、辞典にもう一つの大きなコンテンツを付加できそうであり、 大きな喜びとしたい。必ずやこの新グランドデザインを基にした辞典の原形を少しずつでも形づくっていけると思うと、身震いすると共に、また 改めて遣り甲斐を感じる。

  かくして、離職後「ウェブ海洋辞典」づくりに精を出し、順風満帆の日々を送っていたところ、果たして辞典の「完成の完」はあるのか、 辞典の何をもって仕上がりとするのか、何をもって辞典づくりを締めくくることができるのか、そんなことが脳裏をよぎるようになった。 辞典づくりをどこまで続けられるのか、どんな終わり方や締めくくり方をすべきか、真剣に思い悩むようになり出した。 その過程で、辞典づくりが未来の編者によって、そのバトンがしっかり受け継がれることによってのみ、次の「進歩」に繋がることを 認識するようになった。辞典づくりの承継こそが、今後の辞典進化の「要のなかの要」であると思うようになった。

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